ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT162    『月面の工場へ』




「いい?これから私たちが向かうのは、月面にあるアナハイム・エレクトロニクス社のモビルスーツ開発工場があるフォン・ブラウン市よ。世界で最も有名な月面都市の一つね。ここで、ナラティブガンダムのためのオプション装備を受け取るのよ」

「その後、アバーエフ大佐が率いる、クラップ級宇宙巡洋艦『ダマスカス』と合流し、本格的な『不死鳥狩り』を行うことになる……それでいいんだな、ミシェル・ルオ?」

 イアゴ・ハーカナ少佐は指揮官としての主導権を、ミシェル・ルオから奪っておきたいのだろう。

 リーダーシップを見せつけようとしているなと、ブリック・テクラートは感じた。ミシェル・ルオは不敵な微笑みを浮かばせながら、イアゴ・ハーカナ少佐に語る。

「ええ。その通りよ。少佐の方が、具体的なプランは頭に浮かぶのでしょうね。私たちのようなコンサルタントではなく、百戦錬磨のスペシャリストだもの」

「その認識をしておいてくれ。宇宙では、オレの方がプロフェッショナルだ。ミシェル・ルオ、アンタは戦場ではシロウトだろう?」

「多少は、強化人間として体を弄られているし、実戦経験も見学させてもらってはいる。度胸は人一倍だし、ビビることはないでしょうね。たとえ、死に瀕したその瞬間でさえも、私の頭脳は冷静に稼働しているでしょう―――」

 ―――氷のように冷たい視線を、イアゴ・ハーカナ少佐は浴びてしまう。ここまでの自信を放つ根拠は分からない。

 ある意味で、ジュナ・バシュタ少尉よりも戦場に慣れているような気配をミシェル・ルオからは感じる。ルオ商会の『裏のカリスマ』……なかなか、常人離れはしているのだろう。

 ミシェル・ルオは微笑みを見せる。作られたビジネス用の、社交辞令そのもの笑みではあるが、蛇のような気配を上手に隠しているなと少佐は感心した。

 本気で嘘をつかれたら、見破ることは自分のような愚直なパイロットには難しい気がする。

「……いいですか、イアゴ・ハーカナ少佐?……この作戦の現場指揮官は貴方です。その領分を私は侵すようなマネはしないわ。でも、必ず、役に立ってね?」

「ユニコーンガンダム3号機は、連邦軍が作った。オレは、連邦軍のモビルスーツ・パイロットとして、それの暴走をいつまでも許しておく気はない。全力を尽くす。アンタの考えや企みのためではなく、ただの職業倫理による同機でな。ガンダムの名を冠するモビルスーツが、暴走状態であったいいわけがない」

「……ええ。当然のことね。でも、もちろん捕獲を優先するように」

「分かっている。そういうコトに口を出そうとするな。現場での指揮権は、オレにあるんだからな」

「……壊す気?」

「……連邦軍の少尉を見殺しにしようとは思わん。だが、状況次第では、破壊もやむなしなのは、アンタも分かっているだろう。そこは譲ることは出できない」

「そうね。でも、尽力して下さい。あの『フェネクス』は……『シンギュラリティ・ワン』は、人類にとって大きな財産なのよ。科学を100年は進歩させるかもしれない。いえ、もっと偉大な価値を秘めている……」

「……制御不能の力に、過大な期待はするものじゃないと思うがな」

「サイコフレームを用いた、ヒトの魂の保存。そういう力があれば……人類は銀河の果てにだって自分を送ることが出来る。死も怖くなくなるかもしれない。死から、解放されることだって、言えなくもないことよ?……それは、あまりにも貴重なことだわ」

「オレは部下の命を危険に晒してまで、そんな手に入らないかもしれない力を得ようとすることはしない。それだけは理解してもらおう」

「……ガンコね。その性格を考慮しての人選でもあったのだけれど。ジュナ、私たちのリタを殺さないように、ちゃんと回収してあげなさい」

「……分かっている。私は、ナラティブに乗り込み、シミュレーターと接続する。この本物の宇宙を体感しながら、体も心もあのガンダムに捧げてみせる。リタに届くほどの翼にしなくてはならない。壊すにしても、リタと『フェネクス』を回収するも、私とナラティブの出来が悪ければ、成功するハズもないからな……」

「そうよ。頼んだわ、ジュナ。けっきょくのところ。私たちが何を手にすることが出来るのかは、貴方にかかっているのだから……」

「……了解だ。パイロットとして、最善を尽くす」

 誓いの言葉を口にして、ジュナ・バシュタ少尉は床を蹴る。無重力での動きは、慣れないものではあるが……すぐにでも慣れてやる。リタ、ようやく、お前がいる宇宙まで来たんだからな。

「……さーて。フォン・ブラウン市にたどり着くまで、オレちゃんたちもヒマじゃある。少尉ちゃんに付き合って、シミュレーター漬けになるとするぜ、来いや、双子のアホども!!シゴキ抜いてやる!!」

「せっかくの宇宙なのにー?」

「このフワフワする感覚を、もっと味わいたいのにな。サッカーとかしてえ」

「バカ言え。そんな高度な遊びを、一朝一夕でマスター出来るか。それに、そんなことをするよりも先に、シェザール隊のサポートがやれるぐらいにはしておくぞ。地上では勝てたからといって、宇宙では勝てると思うな。足手まといにはならんようにしておけ」


目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。