前編
昔々、戦争が絶えまず続く二つの大国が存在しました。
お互いにお互いの国を牽制し合い、100年以上も続いた戦争により両国は疲弊しきってしまいました。そんな大国同士の争いをなんとか食い止めようと、お互いの勢力が及ばない中立国の司教達が手を取り合い動き出したのです。
そして、唯一の解決方法として両国が承諾した事が、お互いの国の子供達が代表となり婚姻を結ぶことでした。しかし、生まれも育ちの王宮という筋金入りのボンボン息子と根っからの世間知らずな箱入り娘だった二人は、お互いに強気な性格を曲げずぶつかり合ってばかりです。しかも、政略結婚という課程に納得していなかった両国の子供達は、予想通りに毎日ケンカばかりの日々を送っていました。
「あんた、また私の茶葉使ったでしょ!」
「しょうがねえだろ。隣国の王子が遊びに来てたんだから、まずい茶を出すわけにはいかないんだよ!」
「だからって私のお気に入りの茶葉を開封するバカが何処にいるのよ!」
「ちょっと借りただけだろ、ドケチお嬢が!」
「なにがちょっとよ!一度開封したら香りが落ちるから、一番大事な時に飲もうと思ってとっておいたのよ!このボンクラ!唐変木!!
どうせあんた達なんてバカ舌なんだから、どのお茶飲んだって違いなんてわからないんだから、その辺の市場で売ってる適当なモン飲んどけばいいのよ!」
「まぁまぁお二人とも、夫婦ケンカは犬も食わぬと言いますし。その辺にしておきませんか。」
「「うるさい!!」」
「仲が良いんだか悪いんだか」
ここは、大国同士が重なり合う領地に終戦の証として建てられた城のダイニング。そして、使用人や兵士達としてはいつもの何気ない日常の風景となった夫婦喧嘩が繰り広げられていました。こうして、毎日のように些細なケンカが絶えない二人の生活が続いていますが、そのおかげあって両国の平和は保たれていました。
「全く、今日という今日は許さないんだから!
なんであんな奴と結婚なんてしなくちゃいけなかったのかしら。」
「お妃様、来客がいらっしゃっています。」
「誰?」
「はい。中立国の一つであるディヴィス国の王子がお妃様にと。」
「え!ロレンス王子が!?
ちょっと待って。こんなドレスじゃ会えないわ。一昨日仕立ててもらった蒼い薔薇の刺繍が入ったドレスを用意してくれるかしら。」
「はい。かしこまりました。」
「ロレンス王子は優しくて立派でかっこよくって、あんなボンクラと同じ王子とは思えない程誠実で紳士的な方なの。私も結婚するなら、あんな方とが良かった。」
ディヴィス国とは、大国同士の戦争を止めるべく動いた中立国の一つで、姫に会いに来たというロレンス王子はその国の第三皇子である。そして、そのロレンス皇子が二人の結婚の仲を取り持った人物であり、近隣周辺国の間でも大きな功績を残した人物として知られている。
「姫、本日も変わらず美しいですね。折角持ってきた花も、姫の美しさには敵いません。」
「まぁ、お世辞でもうれしいですわ。」
「お世辞なんて、本心ですよ。ところで、本日はまだお時間ありますか?
お二人のご様子を確認がてら、もし良ければお茶でもと思いまして寄らせてもらいました。」
「そうでしたの。とても嬉しいですわ。是非ご一緒願いたいです。」
終始和やかな表情を浮かべながら姫はロレンス王子に手を引かれながら、城内にある姫お気に入りの庭園へと向かって行った。
ロレンス王子は戦争を起こさないよう中立の立場から、こうして時折二人の様子を確認する為に訪問している。そして、再び戦争が起きないか、もし戦争が起こっても近隣の国々に被害が飛び火しないよう見守る責務を担っている。
お互い恋人のように見つめ合う二人の穏やかな時間が流れる中、そんな二人を邪魔するように王子が間に割って入ってきた。
「おう、ロレンス。今日は何しに来た。」
「これはご挨拶だね王子。今日も近況の確認だよ。
君の妃に見惚れていなかったといえば嘘になるが。」
「そうか。用が済んだならさっさと帰れ。」
「なんてこと言うの!あんたなんかよりロレンス王子の方がよっぽど紳士的よ!」
「いやいや。僕はお邪魔だったようだ。
王子もまた近いうちに、色々とお話が聞けるか楽しみにしていますよ。
では姫。今日はこの辺で失礼致します。」
「はい。またいつでも遊びにいらっしゃってください。」
「けっ!なんだあいつ。格好つけやがって。」
ロレンス王子は、王子に言われるまま城を去って行ったが、その背中では相変わらずな夫婦喧嘩が繰り広げられている。
いつもの変わらぬ夜になるはずだったその晩、王子は何かを感じ取っていたのか、遅くまで眠れずにいた。
「なんか今日はやけに寝付きが悪い。きっとロレンスのヤツの顔を見たからだ。
あいつの顔は気に食わん!いつも格好つけて何考えてるかわかったモンじゃない。あんな3番目の王子が仲介役なんて認めねぇ。俺は・・・」
寝付けないままだった王子は、ワインを飲みながら窓の外を眺めていた。すると、突然城内が騒がしくなり辺りの兵がざわめき始めた。あからさまに物々しい雰囲気になっている兵士達に異変を感じた王子が部屋から兵士達の元へ向かう途中、突然大きな声が城内に響き渡った。
「火事だ!
火事だーーーー!」
火事の叫び声を聞いた王子が行動を開始した時には、すでに城外から城内に火が回り始めていた。城の外で何が起きているのかわからなかった王子は、近くにいた兵士を集め火事の起こっているとされる場所へ急ぎ向かった。
「火事だ!!
俺は見た!カルディナ国の残党が、こんな結婚は認めないと言いながら城外で火を放っていった。王子、カルディナの奴らは元々あんたの国の民じゃないのか!あんたの国は、まだ戦争を起こしたいのか!」
城内に広まるほど大きな声で叫んでいる兵士の声は、近くにいた兵士はもちろん城内の使用人にまで聞き広がり、火の勢いと共に城内にいる人間の動揺の色も濃くなっていった。
騒ぎを聞きつけ到着した王子に、火事で燃え広がる炎よりも視線が集まった。罵声とも言える自分への誹謗中傷となる声を聞いた王子は、怒り狂い騒ぎを広めている兵士目がけて飛びかかった。
「誰だそんな事を言っているヤツは!おまえ、本当にそんなヤツを見たのか!」
「俺はそいつを止めにかかったが、あっという間に逃げられちまった。あんたのせいでまた戦争が起こるんだ!」
「んな訳あるか!俺は、国民を守る為の結婚で両国の平和を手に入れたんだ!
俺が信じる国民が、俺の意に反する行いをするわけがないだろ!」
王子が飛びかかった勢いで倒れ込んだその兵士の鉄仮面が外れ飛んでいった。鉄仮面の中に隠れていた男の顔が現れたが、その男は王子の知らぬ男だった。
「おまえ誰だ!」
そして、その鉄仮面の兵士が持っていた剣には、ディヴィス国の紋章が刻まれていた。嫌な予感を察した王子は鉄仮面の兵士を投げ捨て、一目散に飛び出した。城を囲むように辺り一面火の海になり始めていた状況の中、王子は迷う事なく一つの部屋に向けて全力で走って行った。
お互いにお互いの国を牽制し合い、100年以上も続いた戦争により両国は疲弊しきってしまいました。そんな大国同士の争いをなんとか食い止めようと、お互いの勢力が及ばない中立国の司教達が手を取り合い動き出したのです。
そして、唯一の解決方法として両国が承諾した事が、お互いの国の子供達が代表となり婚姻を結ぶことでした。しかし、生まれも育ちの王宮という筋金入りのボンボン息子と根っからの世間知らずな箱入り娘だった二人は、お互いに強気な性格を曲げずぶつかり合ってばかりです。しかも、政略結婚という課程に納得していなかった両国の子供達は、予想通りに毎日ケンカばかりの日々を送っていました。
「あんた、また私の茶葉使ったでしょ!」
「しょうがねえだろ。隣国の王子が遊びに来てたんだから、まずい茶を出すわけにはいかないんだよ!」
「だからって私のお気に入りの茶葉を開封するバカが何処にいるのよ!」
「ちょっと借りただけだろ、ドケチお嬢が!」
「なにがちょっとよ!一度開封したら香りが落ちるから、一番大事な時に飲もうと思ってとっておいたのよ!このボンクラ!唐変木!!
どうせあんた達なんてバカ舌なんだから、どのお茶飲んだって違いなんてわからないんだから、その辺の市場で売ってる適当なモン飲んどけばいいのよ!」
「まぁまぁお二人とも、夫婦ケンカは犬も食わぬと言いますし。その辺にしておきませんか。」
「「うるさい!!」」
「仲が良いんだか悪いんだか」
ここは、大国同士が重なり合う領地に終戦の証として建てられた城のダイニング。そして、使用人や兵士達としてはいつもの何気ない日常の風景となった夫婦喧嘩が繰り広げられていました。こうして、毎日のように些細なケンカが絶えない二人の生活が続いていますが、そのおかげあって両国の平和は保たれていました。
「全く、今日という今日は許さないんだから!
なんであんな奴と結婚なんてしなくちゃいけなかったのかしら。」
「お妃様、来客がいらっしゃっています。」
「誰?」
「はい。中立国の一つであるディヴィス国の王子がお妃様にと。」
「え!ロレンス王子が!?
ちょっと待って。こんなドレスじゃ会えないわ。一昨日仕立ててもらった蒼い薔薇の刺繍が入ったドレスを用意してくれるかしら。」
「はい。かしこまりました。」
「ロレンス王子は優しくて立派でかっこよくって、あんなボンクラと同じ王子とは思えない程誠実で紳士的な方なの。私も結婚するなら、あんな方とが良かった。」
ディヴィス国とは、大国同士の戦争を止めるべく動いた中立国の一つで、姫に会いに来たというロレンス王子はその国の第三皇子である。そして、そのロレンス皇子が二人の結婚の仲を取り持った人物であり、近隣周辺国の間でも大きな功績を残した人物として知られている。
「姫、本日も変わらず美しいですね。折角持ってきた花も、姫の美しさには敵いません。」
「まぁ、お世辞でもうれしいですわ。」
「お世辞なんて、本心ですよ。ところで、本日はまだお時間ありますか?
お二人のご様子を確認がてら、もし良ければお茶でもと思いまして寄らせてもらいました。」
「そうでしたの。とても嬉しいですわ。是非ご一緒願いたいです。」
終始和やかな表情を浮かべながら姫はロレンス王子に手を引かれながら、城内にある姫お気に入りの庭園へと向かって行った。
ロレンス王子は戦争を起こさないよう中立の立場から、こうして時折二人の様子を確認する為に訪問している。そして、再び戦争が起きないか、もし戦争が起こっても近隣の国々に被害が飛び火しないよう見守る責務を担っている。
お互い恋人のように見つめ合う二人の穏やかな時間が流れる中、そんな二人を邪魔するように王子が間に割って入ってきた。
「おう、ロレンス。今日は何しに来た。」
「これはご挨拶だね王子。今日も近況の確認だよ。
君の妃に見惚れていなかったといえば嘘になるが。」
「そうか。用が済んだならさっさと帰れ。」
「なんてこと言うの!あんたなんかよりロレンス王子の方がよっぽど紳士的よ!」
「いやいや。僕はお邪魔だったようだ。
王子もまた近いうちに、色々とお話が聞けるか楽しみにしていますよ。
では姫。今日はこの辺で失礼致します。」
「はい。またいつでも遊びにいらっしゃってください。」
「けっ!なんだあいつ。格好つけやがって。」
ロレンス王子は、王子に言われるまま城を去って行ったが、その背中では相変わらずな夫婦喧嘩が繰り広げられている。
いつもの変わらぬ夜になるはずだったその晩、王子は何かを感じ取っていたのか、遅くまで眠れずにいた。
「なんか今日はやけに寝付きが悪い。きっとロレンスのヤツの顔を見たからだ。
あいつの顔は気に食わん!いつも格好つけて何考えてるかわかったモンじゃない。あんな3番目の王子が仲介役なんて認めねぇ。俺は・・・」
寝付けないままだった王子は、ワインを飲みながら窓の外を眺めていた。すると、突然城内が騒がしくなり辺りの兵がざわめき始めた。あからさまに物々しい雰囲気になっている兵士達に異変を感じた王子が部屋から兵士達の元へ向かう途中、突然大きな声が城内に響き渡った。
「火事だ!
火事だーーーー!」
火事の叫び声を聞いた王子が行動を開始した時には、すでに城外から城内に火が回り始めていた。城の外で何が起きているのかわからなかった王子は、近くにいた兵士を集め火事の起こっているとされる場所へ急ぎ向かった。
「火事だ!!
俺は見た!カルディナ国の残党が、こんな結婚は認めないと言いながら城外で火を放っていった。王子、カルディナの奴らは元々あんたの国の民じゃないのか!あんたの国は、まだ戦争を起こしたいのか!」
城内に広まるほど大きな声で叫んでいる兵士の声は、近くにいた兵士はもちろん城内の使用人にまで聞き広がり、火の勢いと共に城内にいる人間の動揺の色も濃くなっていった。
騒ぎを聞きつけ到着した王子に、火事で燃え広がる炎よりも視線が集まった。罵声とも言える自分への誹謗中傷となる声を聞いた王子は、怒り狂い騒ぎを広めている兵士目がけて飛びかかった。
「誰だそんな事を言っているヤツは!おまえ、本当にそんなヤツを見たのか!」
「俺はそいつを止めにかかったが、あっという間に逃げられちまった。あんたのせいでまた戦争が起こるんだ!」
「んな訳あるか!俺は、国民を守る為の結婚で両国の平和を手に入れたんだ!
俺が信じる国民が、俺の意に反する行いをするわけがないだろ!」
王子が飛びかかった勢いで倒れ込んだその兵士の鉄仮面が外れ飛んでいった。鉄仮面の中に隠れていた男の顔が現れたが、その男は王子の知らぬ男だった。
「おまえ誰だ!」
そして、その鉄仮面の兵士が持っていた剣には、ディヴィス国の紋章が刻まれていた。嫌な予感を察した王子は鉄仮面の兵士を投げ捨て、一目散に飛び出した。城を囲むように辺り一面火の海になり始めていた状況の中、王子は迷う事なく一つの部屋に向けて全力で走って行った。
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