第8話
「……忘れてたの?」
「そ、そそそ、そんなわけないじゃろうっ! し、しゃ、しゃるは、かみさまじゃぞ!」
この反応。忘れていたらしい。
コホン、と一つ咳払いして、
「しゃるはな、せんそうこじ、というやつなのじゃ」
中々にヘビーな物語を、ゆっくりと話し始めた。
◆
「戦災孤児?」
「うむ」
学力が赤点を回避できるギリギリのラインを低空飛行しているあたしにだって、戦災孤児という言葉の意味くらいわかる。
戦争によって、保護者を失った子供。
シャルが、そうだというのか。
「《楽園》は、ひとむかしまえまでずっとせんそうをしていたのじゃ」
楽園。神様たちの住む世界。
そんなところでも、戦争などという愚かな行為が行われるのか。
「といっても、そのほとんど――いや、しゃるのしるかぎり、すべてが《反乱》によるものだったのじゃが」
「今回みたいなやつか?」
「そうじゃ。はんらんのきぼは、こんかいとくらべてかなりちいさいがな」
「…………」
反乱。それは、現在自分たちを支配している者にたいして背くこと。
楽園を治めている絶対神とやらは、それほどまでに無茶な政治をしいているのか?
「いいや、《絶対神》は、むちゃなせいじはしいておらん。むだがなく、すべてのこくみんがへいわであかるくくらせるくにをつくっておる」
「なら、なんで反乱なんて」
「どこのせかいにも、じぶんよりゆうしゅうなにんげんに、けんおかんをいだくことがあるじゃろう? かみさまというしゅぞくは、そのきもちがひときわつよいのじゃよ」
「かみさまもばんのうではないんじゃ」と続けるシャル。
なんとなく、そう言ったシャルの横顔がさみしく見えた気がして、あたしは少し戸惑った。
「はなしをもどすがの、しゃるはせんそうこじだったのじゃ。そんなしゃるをひろってそだててくれたのが、いまの《絶対神》なのじゃよ。じゃから、しゃるはどんなことがあっても《絶対神》にしたがうのじゃ」
「…………」
「? なんじゃ、そのようにまじまじとしゃるをみつめて」
「いや……」
「わふっ!? な、なぜきゅうにあたまをナデナデするのじゃ!?」
「なんとなく」
シャルの綺麗な銀髪を、傷めないように優しくすいていく。
なめらかな感触が、あたしの指を通して伝わってくる。
「……頑張らないとな」
「? なんじゃ? なにかいうたか?」
「なんでもないさ」
シャルに協力する理由が、また一つできたって、それだけのことだから。
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