第21話
複雑で素早い。けど、カヤには理解できた。
カヤは言葉を投げかけた。あの挨拶のときの言葉のような複雑な言葉だ。
先頭に立つ二人はカヤを見た。
カヤは素早く手を動かした。
先頭の二人は、しばらく黙っていたが頷いた。
カヤは正面を見据えたまま、しっかりした足取りで一歩一歩前に進んだ。
ルグウの数は二人。
もし挟撃されたら、アンネローゼとヒルデを敵に回したような調子にはいかない。しかもルグウは力の流れが見えるのか、《風(ヴィント)》をかわすこともできる。
ルグウが怒鳴った。顔面全体に赤い荒々しい模様を描いた方だ。
もう一人のルグウは怒鳴りもせず、新手のカヤの背後を取ろうとしている。スーラ族は誰もそのルグウ族を牽制したりしない。カヤの素性を確かめるためにも、ここが臨時の試験会場になったらしい。背後に回り込もうとするルグウは黒い荒々しい模様を顔面に描いていた。
カヤは三人のスーラ族――アンネローゼ、ヒルデ、シャルロットを見つめて、背後のスーラ族を軽く見た。それで三人には通じた。アンネローゼはシャルロットを抱えるようにしてスーラ族の集団の中に走った。ヒルデも走る。
カヤは舌打ちしたくなった。スーラ族は例え頭上から岩石が落ちてきても無様に走ったりはしない。そういう部族なのだ。背中に視線が突き刺さった。見るまでもなく、さきほどまで一緒にいたスーラ族だ。
敵はルグウだけではない。ここで下手なことをすればスーラ族にも襲われかねない。それもシャルロットたちを守りながら。
カヤはルグウの言葉で、謝罪を述べ、引いてもらえないかと訊ねた。
赤い顔のルグウは馬鹿にしたように吠えた。
背後の黒いルグウも威嚇するように小刻みに喉を震わせて吠えた。
キ、キキキ、キ、キキ、キィ、キキキキキ……。
不思議なリズミカルな声。
歌か踊りの一部かと思える程だ。
この陽気な歌声のような声が、離れたルグウ族への合図であることを、カヤは知っていた。そしてまた前後から挟撃をしかけるときなどに互いの呼吸を合わせるための方法だということも。正面の赤い顔のルグウも歌い出していた。
ルグウは毛皮のパンツをはいている。頭には動物の頭で作った帽子を被っている。クマやトラといった強い生き物の皮だ。帽子の下からルグウの特徴である赤毛がのぞいていた。
ゆっくりとルグウは前傾姿勢になる。そうすると本物の獣のように見えた。
カヤはもう一度言った。
謝罪と金品を少しは出せるということと、せっかく王都に入れるチャンスなのに無駄に時間を潰そうとしていることについて。
ルグウはもう答えない。
さらにルグウが二人寄ってきた。
ルグウに四方を囲まれた。
カヤは慌てそうになるのを必死でこらえた。
スーラ族ならどんな状況でも慌てたりしないだろう。それにとりあえず口で説得しようとするはずだ。いますぐ《風(ヴィント)》を使いたかった。けど、タイミングを誤れば、カヤは一瞬後には全身を四つのかぎ爪と四つの口で引き裂かれることになる。文字通りの八つ裂きにされる。
カヤは《霧(ネーベル)》をじょじょに使っていた。新たに来た二人は力を見て、ほんの少し怯んだようだったが、赤と黒のルグウは全く怯まなかった。赤い顔の正面のルグウに至っては鼻で笑った。《霧(ネーベル)》ごときでどうするつもりだとでも言うように。
「《稲妻(ブリツツ)》」
カヤの最速の技。カヤの叫びが稲妻に代わり、音速さえも超える最速の一撃が命中する!
ルグウは一瞬のけぞると、そのままゆっくりと倒れ始めた……。
カヤは《稲妻(ブリツツ)》を放った時点で、次の行動に移っていた。
倒れる赤いルグウに目もくれず、次の技を放つ。
最速の技の次は、敵の弱点を突いた大技。
「《吹雪(シユネーシユトゥルム)》」
《稲妻(ブリツツ)》さえも囮――。ルグウ四人相手で、まともに戦えばカヤの命は数瞬ももたない。
ほとんど素肌に毛皮のパンツを身につけただけのルグウ。もともと暑さに強いが寒さには弱い部族。その弱点を突いた。それに頭を冷やす効果もあるだろう。
突如、浅瀬に吹き荒れる吹雪。
凄まじい吹雪だった。
カヤは全力で《吹雪(シユネーシユトゥルム)》を展開させた。筒袖の中に自分の両手を隠す。急激な気温の低下で霜焼けができそうだった。
ルグウのうち、あとで駆けつけた二人は、吹雪の中、自分の肩を抱き、呪いの言葉を吐きながら、両膝を浅瀬につけた。気が遠くなったのだろう。
浅瀬は薄い氷が張り始めていた。
赤い顔のルグウは不意打ちの《稲妻(ブリツツ)》に加え、《吹雪(シユネーシユトゥルム)》の猛攻にさらされたので、ほとんど意識を失いかけている。
そんな中、カヤの背後に回っていた黒い顔のルグウが、薄氷を踏み砕いて突進してきた。
その動きは、ダメージと寒さによってかなり鈍くなっていたが、《吹雪(シユネーシユトゥルム)》を展開しているカヤも動きが鈍くなっていた。
カヤは言葉を投げかけた。あの挨拶のときの言葉のような複雑な言葉だ。
先頭に立つ二人はカヤを見た。
カヤは素早く手を動かした。
先頭の二人は、しばらく黙っていたが頷いた。
カヤは正面を見据えたまま、しっかりした足取りで一歩一歩前に進んだ。
ルグウの数は二人。
もし挟撃されたら、アンネローゼとヒルデを敵に回したような調子にはいかない。しかもルグウは力の流れが見えるのか、《風(ヴィント)》をかわすこともできる。
ルグウが怒鳴った。顔面全体に赤い荒々しい模様を描いた方だ。
もう一人のルグウは怒鳴りもせず、新手のカヤの背後を取ろうとしている。スーラ族は誰もそのルグウ族を牽制したりしない。カヤの素性を確かめるためにも、ここが臨時の試験会場になったらしい。背後に回り込もうとするルグウは黒い荒々しい模様を顔面に描いていた。
カヤは三人のスーラ族――アンネローゼ、ヒルデ、シャルロットを見つめて、背後のスーラ族を軽く見た。それで三人には通じた。アンネローゼはシャルロットを抱えるようにしてスーラ族の集団の中に走った。ヒルデも走る。
カヤは舌打ちしたくなった。スーラ族は例え頭上から岩石が落ちてきても無様に走ったりはしない。そういう部族なのだ。背中に視線が突き刺さった。見るまでもなく、さきほどまで一緒にいたスーラ族だ。
敵はルグウだけではない。ここで下手なことをすればスーラ族にも襲われかねない。それもシャルロットたちを守りながら。
カヤはルグウの言葉で、謝罪を述べ、引いてもらえないかと訊ねた。
赤い顔のルグウは馬鹿にしたように吠えた。
背後の黒いルグウも威嚇するように小刻みに喉を震わせて吠えた。
キ、キキキ、キ、キキ、キィ、キキキキキ……。
不思議なリズミカルな声。
歌か踊りの一部かと思える程だ。
この陽気な歌声のような声が、離れたルグウ族への合図であることを、カヤは知っていた。そしてまた前後から挟撃をしかけるときなどに互いの呼吸を合わせるための方法だということも。正面の赤い顔のルグウも歌い出していた。
ルグウは毛皮のパンツをはいている。頭には動物の頭で作った帽子を被っている。クマやトラといった強い生き物の皮だ。帽子の下からルグウの特徴である赤毛がのぞいていた。
ゆっくりとルグウは前傾姿勢になる。そうすると本物の獣のように見えた。
カヤはもう一度言った。
謝罪と金品を少しは出せるということと、せっかく王都に入れるチャンスなのに無駄に時間を潰そうとしていることについて。
ルグウはもう答えない。
さらにルグウが二人寄ってきた。
ルグウに四方を囲まれた。
カヤは慌てそうになるのを必死でこらえた。
スーラ族ならどんな状況でも慌てたりしないだろう。それにとりあえず口で説得しようとするはずだ。いますぐ《風(ヴィント)》を使いたかった。けど、タイミングを誤れば、カヤは一瞬後には全身を四つのかぎ爪と四つの口で引き裂かれることになる。文字通りの八つ裂きにされる。
カヤは《霧(ネーベル)》をじょじょに使っていた。新たに来た二人は力を見て、ほんの少し怯んだようだったが、赤と黒のルグウは全く怯まなかった。赤い顔の正面のルグウに至っては鼻で笑った。《霧(ネーベル)》ごときでどうするつもりだとでも言うように。
「《稲妻(ブリツツ)》」
カヤの最速の技。カヤの叫びが稲妻に代わり、音速さえも超える最速の一撃が命中する!
ルグウは一瞬のけぞると、そのままゆっくりと倒れ始めた……。
カヤは《稲妻(ブリツツ)》を放った時点で、次の行動に移っていた。
倒れる赤いルグウに目もくれず、次の技を放つ。
最速の技の次は、敵の弱点を突いた大技。
「《吹雪(シユネーシユトゥルム)》」
《稲妻(ブリツツ)》さえも囮――。ルグウ四人相手で、まともに戦えばカヤの命は数瞬ももたない。
ほとんど素肌に毛皮のパンツを身につけただけのルグウ。もともと暑さに強いが寒さには弱い部族。その弱点を突いた。それに頭を冷やす効果もあるだろう。
突如、浅瀬に吹き荒れる吹雪。
凄まじい吹雪だった。
カヤは全力で《吹雪(シユネーシユトゥルム)》を展開させた。筒袖の中に自分の両手を隠す。急激な気温の低下で霜焼けができそうだった。
ルグウのうち、あとで駆けつけた二人は、吹雪の中、自分の肩を抱き、呪いの言葉を吐きながら、両膝を浅瀬につけた。気が遠くなったのだろう。
浅瀬は薄い氷が張り始めていた。
赤い顔のルグウは不意打ちの《稲妻(ブリツツ)》に加え、《吹雪(シユネーシユトゥルム)》の猛攻にさらされたので、ほとんど意識を失いかけている。
そんな中、カヤの背後に回っていた黒い顔のルグウが、薄氷を踏み砕いて突進してきた。
その動きは、ダメージと寒さによってかなり鈍くなっていたが、《吹雪(シユネーシユトゥルム)》を展開しているカヤも動きが鈍くなっていた。
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