17話
「ぶっえくしゅいん!」
あ、どうも。こんにちは、サラ子兼花子です。
今ですか?せっかくのお休みだというのに、万事屋さんにここで待っていろと言われ、寒空の中ひとり徳川家康公の像の前で待ちぼうけしています。待ち合わせは20分前で、ここに一人。そうそれが答えです。
すっぽかされたようです。
そろそろ身体が冷えてきましたし、帰りましょうかね。
そう思い徳川家康公の像から離れようとした時でした。
向こうの方から男女の声が聞こえ、そちらに視線を向けると、何という事でしょう。
増毛というか、パーマを当てたというか、とにかく毛量がいつもの倍以上になりながら女性に引きずられてくる万事屋さんがいらっしゃいました。匠の遊び心でしょうか。どちらにせよ、関わりたくないですよね。武術とか護身術をやって来たわけじゃないので戦えませんし。普通あんな感じに絡まれている知人?を見て、某ジャ〇プアニメの勇敢な方々のように「ちょっと待ちなさい」なんて人いませんから。「その人を離しなさい!」なんて、実際に言ってしまう人がいるのであればぜひお会いしたいという訳で、というか今すぐにここに連れてきてほしいというか。その方にお任せしておきたいと言いましょうか。とにかくですよ、どうやら万事屋さんとも親し気なので最悪なことは起きなそうな感じに見えますし、放っておいても大丈夫かと思います。
静かに踵を返して、助走をつけて走り出した私に後ろから万事屋さんの悲痛な叫び声が聞こえてきた。
それに私は耳を両手でふさいで、逃げ出した。ごめんなさい万事屋さん。きっと成仏してください。
「待ってェェェェ!お前サラ子ォォォ!いやァァァ!」
「どうして逃げたんですか、サラ子さん…」
「いやはや、足が勝手にランニングを始めてしまいまして。ダメだぞコイツぅ」
「サラ子さん。キャラ、キャラだけは保ちましょう」
新八君には申し訳ないのですが、大の男の人を片腕にひとりずつ持ち上げる女性を初めて見たものですから。
見た感じほっそりとしていて非力な感じなのに、人は見かけによりませんね。
「ごめんなさいね、「会わせたい人がいる」とか言われたら待ち合わせに遅れてきてあの人。ついでに茂みの奥から嫌な視線を感じたからそっちに投げたらゴリラまで出てきちゃって。やあね」
うふふ、なんて口元に手を添える大和美人なのに、先程の奇行を見てしまったから、思わず苦笑いしか出なかった。この人はきっと敵に回しちゃいけない人間だ。女でも容赦なく拳を向けてきそうだし、きっと殴られでもしたら、鍛えている万事屋さんと近藤さんとは違って吹き飛んでしまいそう。
「はじめまして、新ちゃんから話は聞いているのよ。よろしくね、えーっと…ジェシファーちゃんだったかしら?」
「すみません、見た目通りの日本生まれですので」
「あら、ごめんなさいね。そうそう、チ〇ちゃんね」
「ボーっと生きてんじゃねぇよ。残念ながら永遠の5歳児ではないですね。」
何故か用意されていたおかっぱのカツラを被って答えると、満足そうに微笑まれる女性。
完全に遊んでらっしゃる。
サ〇エさん方式のここでは「永遠の〇歳」というのはあながち間違いではないけれど。
「あら、そう?…ヴェルデ〇ート卿?」
「アバダケダブラ。爬虫類は残念ながら連れてないですね」
「無理に姉上のボケにノラなくていいですよ、サラ子さん…姉上も遊ばないでくださいよ、サラ子さんです」
「(そもそもそのサラ子って名前でもないけれど)好きなように呼んでもらって構いません。」
「ふふ、ごめんなさいね。新ちゃんから聞いていたけどどんな子なのかちょっと気になって。私は志村妙、新ちゃんとは姉弟なの。よろしくね、サラ子ちゃん」
ファミレスで新八さんとお妙さんと一緒にお茶を飲みながら、外を見ると、近くの公園のゴミ箱に犬〇家の一族が2人見える。パフォーマンスだと思われているのかちびっこが集まってきては、大人たちが彼らの手を引きながら去っていく。「ママー、あそこのお兄さん達なにしてるのー?「見ちゃいけません、あれはゴミ箱の妖精さんなのよ」なんて言っているのだろうか。
「ごめんなさいね、きっとサラ子ちゃんのことも待たせてしまったでしょう。寒くなかった?」
ぼんやりと万事屋さん達を見ていると、申し訳なさそうに眉を下げているお妙さんが視界に入った。
第一印象はあまりよくなかったが、根は良い人なのかもしれない。
「いえ、お気になさらず。」
「そう?…あら、でもこんなに手が冷えてるわ。温かいものでも飲みましょうか、風邪ひいちゃうわね」
数十分前までは怖い印象しかなかったというのに、気遣ってくれる様子に根は優しい方なのかなと思いつつある。
人をからかうのが好きみたいで、Sっ気は強いなとは思うけれど。
一緒に注文してもらったホットココアを口に運びながら、少しだけ、この街に馴染んでみてもいいかもしれないと思った。
「今度は神楽ちゃんと3人で女子会しましょうね?」
「そう言えば神楽さんは今日いらっしゃらないのですね」
「ああ、神楽ちゃんはお友達と出掛けるって朝早くに出掛けちゃったんです。出掛けちゃったというか…銀さんが伝えなかっただけなので、後々知ったら怒ると思うけど…」
「うふふ、いいんじゃないかしら?か弱い乙女にちょっと叩かれたくらいじゃ、何ともないわよ」
「「(か弱い、乙女…?)」」
か弱い乙女とは一体だれを指示した言葉なのか。
そんな事聞けるはずもなく、2人は静かに手元のコップを口にした。
※会員登録するとコメントが書き込める様になります。