ACT025 『意思表明』
「……消えるはずがない。失せるわけがないだろ!!……リタに、会えるんだ!!私が一番会いたかった子に……会って、謝らなければならない子に!!」
心からの本心だった。ジュナは今、どこまでも喜んでいる。この十年のあいだ、行方も生死も不明だった、リタ・ベルナルの行方を知った。いや……かなり、怪しげな情報ではあるが、リタの搭乗しているはずの『フェネクス』は、地球の近くに戻って来た。
……私に、会いに来てくれたのか?
ナラティブの届く範囲に。
そうなのかな、リタ……?
分からない。リタに問いかけても、答えは戻っては来ない。この十年間と同じだ。もしも、自分が、本物のニュータイプならば、アムロ・レイだったとするのなら、この問いかけはリタへと届くのだろうか?
……そして、リタも自分に答えてくれるのだろうか?……戻って来たよ、とか。迎えに来て、とか。あるいは……全く違う、拒絶の言葉を使われるのだろうか?
……分からない。
分からないけど、それでも、いい。
宙づり状態のナラティブを見つめる。ジュナの瞳に映る、その痩せたガンダムは、頼りはないが……自分がリタのいる場所へと向かうためには、必要不可欠な翼に見えた。
そうだ。
これは『不死鳥狩り』のための専用機体。リタの乗る暴走状態の『フェネクス』を捕らえて、リタを回収するための機体だ―――ミシェルが欲しいのは、リタではなくて『フェネクス』の方かも知れないが……。
連邦とジオンが組んでまで、封印を決定した、サイコフレームの集合体。
フル・サイコフレーム・モビルスーツ、ユニコーンガンダム3号機、『フェネクス』。それには、どれだけの価値があり、その価値に目が眩んだミシェル・ルオのヤツは、私やナラティブを利用することを考えついたのかもしれない。
たしかに、最高の人選かもな。
私は……リタに会うためになら、命を燃やし尽くしたって、『フェネクス』を追いかけるだろう。ナラティブを駆り、どんな兵装だって使いこなして……暴走しているフル・サイコフレーム・モビルスーツを停止させてやるよ。
「……サイコスーツの冷却は、まだなのか!!」
ジュナ・バシュタ少尉はそう叫んでいた。目の端には涙が粒となって浮かび上がっているが、そんなことはどうでもいいのだ。
今は、目標が出来た。
サイコスーツも、ナラティブの兵装も使いこなす必要がある。リタを……っ。『強化人間』として改造された、リタ・ベルナルと『フェネクスガンダム』のコンビに、勝たなければならない。
あっちは、『本物の奇跡の子供』と、フル・サイコフレーム製の最新鋭のガンダム。
こちらは、『偽物の奇跡の子供』と、旧式フレームの型遅れのガンダム。
……戦力差は、明確だ。特殊部隊が助っ人として参加してくれたとしても、それがどれほどの手助けになるというのだろうか?『フェネクス』は、光速に近い速度で動くと言った。
特殊部隊のパイロットと言えども、別にニュータイプでもないのだろう。頼りにはなるし、頼らなければ、こちらとあちらの圧倒的な実力差は埋まらない。
それでも、やはり……サイコフレームだ。強化人間とサイコフレームの組み合わせなら、ここにもいる。
「サイコスーツの冷却が完了したら、すぐにデータの採取を再開するぞ!!ブリック・テクラート、スケジュールをより密に設定していいぞ!!私は、抗G訓練では、とても優秀な結果を出している。筋繊維の質も、若干は変質させられている。現役の強化人間ってほどではないが……それでも、耐えてやるさ」
「……いいのですね?あまり、根を詰められると、今後の人生においても後遺症が生じる可能性が増えますが―――」
「―――問題ない。罪を、贖うためなら、そんなことは……当然の代償だ。いいか?理解しろよ、ブリック・テクラート」
「……なにを、でしょうか?」
「私は、この『不死鳥狩り』に、全てを捧げてやるってことをだ。私は、そのためだけに生きて来た。私は……リタ・ベルナルを取り戻す。取り戻して……あやまって……」
「……許してもらうつもりですか?」
「……いいや。許されなくたっていいから。とにかく、もう一度……リタに会うんだ。そのためには……例え、死んでしまったとしても……まったく、何一つの問題も、そこには存在しない。そう認識して、スケジュールを組め」
「……貴方を死なせたくもないのですが?」
「死なないさ。『不死鳥狩り』を全うするまでは、死んでも死ねるかよ……いいな、ブリック。私を、シミュレーターに繋ぎ止めろ。私のデータを回収して、ナラティブに叩き込め。偽物でも、本物に勝たなくてはならない」
「……分かりました。スケジュールをあらためます。そして、こちらが知り得る限りの情報を、ジュナ・バシュタ少尉に解禁いたします」
……その言葉を素直に信じてやるつもりには、ジュナ・バシュタにはとうていなることは出来なかった。それは、おそらくこの眼鏡の美青年にも伝わっていることに違いない。イヤな女の相手は、慣れているはずだからな。
それに、私がミシェル・ルオを好きではない理由も、コイツは知っているのだろう。
「……いいな。裏切るなよ。今度は、私も騙されんからな」
「……信頼してください。私は、ミシェルさまとジュナ・バシュタ少尉のために、自分の役目を果たすまでですから」
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