三十七章 迫る危機、絶体絶命?
マリアンヌに意見する権利はない。
彼女はこういうことはしっかりと踏まえられる女性だからだ。
彼女はふたりが出した結論に従うつもりでいた。
すると、誰かがまっすぐこちらに向かって走ってくる。
手には狙撃用の銃、小柄で遠めにはまだ子供にか見えないといってもいいだろう。
「ああ、もう! 待ち合わせ場所に現れないとおもったら、なにやってんの、こんなところでさ!」
と息なりの叱責から始まる。
彼の視線はまっすぐタリアに向けられていた。
「ああ、俺っち、狙撃要員ね。こんなナリだけど腕だけはあるから安心して。船の準備はできている、とにかく停泊しているところまで行ってください。振り返らず、ただまっすぐに。背後は俺っちが守ります」
そういった少年はジッとマリアンヌを見る。
「へえ、俺っちはじじやばばの持っていた肖像画の写ししかしらないけど、あんま変わってないね。ずっと眠っていたみたいだ」
「こら、失礼ですわ」
タリアが叱るが、確かにマリアンヌの外見は昔とさほど変わっていない。
彼女だけ二十年間、時が止まっているようにもみえる。
「ま、そんなことはいいか。とにかく、なんだかごったがえしている今がチャンスっす!」
タリアたち三人と助けにきたひとりが乗船する船が停泊しているところまで向かっていた頃、クラウディアたちは……
まだ人ではなく荷物扱いを受けていた。
「すまないね、領海でるまでだから」
あたりを警戒している船員が気にかけながら声をかけていた。
やれ気分はどうだとか、やれ喉は乾いていないかとか。
すると、
「ばかやろう。そんな荷物ばっか気にしてたら怪しまれちまうだろうが! とっとと散れ」
と、檄を飛ばす年長者が現れる。
そんなやりとりが数回行われると、
「よし、もういいだろう」
と、閉ざされていた蓋があけられる。
ダジュールは自身に染み着いた荷の臭いにうんざりし、湯浴みを希望するという図太い神経を早速披露する。
クラウディアはといえば、目の前にある大きな船にみとれていた。
「これに乗り換えるのですか?」
「ん、そうだ。あの方が待っておられる。あなたに会いたがっているから、早く行くといい」
先に乗り移るのはクラウディアであるといい、大きい船の船員となにやらやりとりをしてから縄ばしごをおろしてもらい、それを使うようにといわれる。
クラウディアは言われたように縄ばしごを使い大きい船に乗り移ると、そこには軍隊並な整列をして彼女を迎える船員の姿があった。
彼らは各々反応に差はあれど、共通してクラウディアの生存と再会を喜ぶ。
そんな彼らをかき分けひとり前に出てきた人物の顔を見たクラウディアは……
「養父さん!」
人目を気にすることなく、養父であるケイモスにダイブするように抱きついた。
「これこれ、はしたない。おまえはもうレイバラルの妃なのだから、そのあたりは踏まえなさい」
「わかっているわ。でも養父さん。なんで養父さんがここに?」
「なぜ? 愚問だな、クラウディア。父が娘を迎えにくるのがおかしいか? 危機だとわかればどんなことをしてでも助けにいくのが父親というものだ」
「だとしても、この船、ただの船じゃないわよね?」
「ああ、これはな、散り散りになった仲間のもので……」
とケイモスが経緯を説明しようとした時だった。
「大変です! カーラの軍船が一隻、こっちに向かっています!」
再会ムードがいっきに緊迫した空気へと変わる。
「この船は領海外にある。攻撃は停戦条例に反する。攻撃はされん。だが、まだあちらの船から乗り移れていないものは急がせろ。最悪、飛び込み、領海外まで泳がせたのちに回収すると伝えろ。今はクラウディア様をお守りするのが最優先だ」
船の持ち主なのか、それとも今回の指揮系統の権利を持っている者なのか、ひとりがテキパキと指示を出す。
遅れてこちらがわに乗船できたダジュールは、ケイモスがいることにも驚いたが、乗船した船が軍船にも近い装備を調えていたことにも驚いた。
「これ、海賊船か?」
「海賊とは違いますが、国を持たぬ者たちがさすらうために手に入れた住まいですよ、レイバラル王」
「ケイモス……はあ、もうどうなってんだ?」
「まだ頭数が揃っていませんので詳しくは。しかし、しっかりとお話させていただきます。あなたのお父上のこと、そして裏切り者のこと……」
「裏切り者……やはりアーノルドが」
「そう結論を急いでしまうのはよろしくないですな。すべてを知るものがどこまで話してくれるかはわかりませんが、今のところこちら側と利害の一致がありますので、王がお知りになりたいことも教えてくださると思いますよ。では、それまで用意しました部屋でお待ちください。湯浴みは難しいですが、綺麗な服の用意はしてあります」
「……感謝する」
「クラウディア、おまえも用意した部屋にいなさい。この船には男しかいないが、おまえに対しては敬意を示せる者ばかりだ。困ったことがあれば頼るといい」
「養父さんは?」
「私は待ち人を待たなくてはならない。ひとり過酷なことを強いてしまった者を」
クラウディアはなんとなくそれがタリアであるのだと悟った。
だとすれば、ここに合流するのはタリアである。
そもそも、合流を誓っての別れなのだから、タリアなら生きているという母を連れ戻るだろう。
彼女はこういうことはしっかりと踏まえられる女性だからだ。
彼女はふたりが出した結論に従うつもりでいた。
すると、誰かがまっすぐこちらに向かって走ってくる。
手には狙撃用の銃、小柄で遠めにはまだ子供にか見えないといってもいいだろう。
「ああ、もう! 待ち合わせ場所に現れないとおもったら、なにやってんの、こんなところでさ!」
と息なりの叱責から始まる。
彼の視線はまっすぐタリアに向けられていた。
「ああ、俺っち、狙撃要員ね。こんなナリだけど腕だけはあるから安心して。船の準備はできている、とにかく停泊しているところまで行ってください。振り返らず、ただまっすぐに。背後は俺っちが守ります」
そういった少年はジッとマリアンヌを見る。
「へえ、俺っちはじじやばばの持っていた肖像画の写ししかしらないけど、あんま変わってないね。ずっと眠っていたみたいだ」
「こら、失礼ですわ」
タリアが叱るが、確かにマリアンヌの外見は昔とさほど変わっていない。
彼女だけ二十年間、時が止まっているようにもみえる。
「ま、そんなことはいいか。とにかく、なんだかごったがえしている今がチャンスっす!」
タリアたち三人と助けにきたひとりが乗船する船が停泊しているところまで向かっていた頃、クラウディアたちは……
まだ人ではなく荷物扱いを受けていた。
「すまないね、領海でるまでだから」
あたりを警戒している船員が気にかけながら声をかけていた。
やれ気分はどうだとか、やれ喉は乾いていないかとか。
すると、
「ばかやろう。そんな荷物ばっか気にしてたら怪しまれちまうだろうが! とっとと散れ」
と、檄を飛ばす年長者が現れる。
そんなやりとりが数回行われると、
「よし、もういいだろう」
と、閉ざされていた蓋があけられる。
ダジュールは自身に染み着いた荷の臭いにうんざりし、湯浴みを希望するという図太い神経を早速披露する。
クラウディアはといえば、目の前にある大きな船にみとれていた。
「これに乗り換えるのですか?」
「ん、そうだ。あの方が待っておられる。あなたに会いたがっているから、早く行くといい」
先に乗り移るのはクラウディアであるといい、大きい船の船員となにやらやりとりをしてから縄ばしごをおろしてもらい、それを使うようにといわれる。
クラウディアは言われたように縄ばしごを使い大きい船に乗り移ると、そこには軍隊並な整列をして彼女を迎える船員の姿があった。
彼らは各々反応に差はあれど、共通してクラウディアの生存と再会を喜ぶ。
そんな彼らをかき分けひとり前に出てきた人物の顔を見たクラウディアは……
「養父さん!」
人目を気にすることなく、養父であるケイモスにダイブするように抱きついた。
「これこれ、はしたない。おまえはもうレイバラルの妃なのだから、そのあたりは踏まえなさい」
「わかっているわ。でも養父さん。なんで養父さんがここに?」
「なぜ? 愚問だな、クラウディア。父が娘を迎えにくるのがおかしいか? 危機だとわかればどんなことをしてでも助けにいくのが父親というものだ」
「だとしても、この船、ただの船じゃないわよね?」
「ああ、これはな、散り散りになった仲間のもので……」
とケイモスが経緯を説明しようとした時だった。
「大変です! カーラの軍船が一隻、こっちに向かっています!」
再会ムードがいっきに緊迫した空気へと変わる。
「この船は領海外にある。攻撃は停戦条例に反する。攻撃はされん。だが、まだあちらの船から乗り移れていないものは急がせろ。最悪、飛び込み、領海外まで泳がせたのちに回収すると伝えろ。今はクラウディア様をお守りするのが最優先だ」
船の持ち主なのか、それとも今回の指揮系統の権利を持っている者なのか、ひとりがテキパキと指示を出す。
遅れてこちらがわに乗船できたダジュールは、ケイモスがいることにも驚いたが、乗船した船が軍船にも近い装備を調えていたことにも驚いた。
「これ、海賊船か?」
「海賊とは違いますが、国を持たぬ者たちがさすらうために手に入れた住まいですよ、レイバラル王」
「ケイモス……はあ、もうどうなってんだ?」
「まだ頭数が揃っていませんので詳しくは。しかし、しっかりとお話させていただきます。あなたのお父上のこと、そして裏切り者のこと……」
「裏切り者……やはりアーノルドが」
「そう結論を急いでしまうのはよろしくないですな。すべてを知るものがどこまで話してくれるかはわかりませんが、今のところこちら側と利害の一致がありますので、王がお知りになりたいことも教えてくださると思いますよ。では、それまで用意しました部屋でお待ちください。湯浴みは難しいですが、綺麗な服の用意はしてあります」
「……感謝する」
「クラウディア、おまえも用意した部屋にいなさい。この船には男しかいないが、おまえに対しては敬意を示せる者ばかりだ。困ったことがあれば頼るといい」
「養父さんは?」
「私は待ち人を待たなくてはならない。ひとり過酷なことを強いてしまった者を」
クラウディアはなんとなくそれがタリアであるのだと悟った。
だとすれば、ここに合流するのはタリアである。
そもそも、合流を誓っての別れなのだから、タリアなら生きているという母を連れ戻るだろう。
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