尋問の作戦
続けて、
「それを軟弱と避難する者もいるだろうが、それが普通だと俺は思った。躊躇せず敵意を振り下ろせる者は少ない。ここの者たちは軍人ではないし、そういった者の訓練を受けたわけでもない。そうだな。俺たちの世界で言うなら、レジスタンス。それも素人ばかりが集まった。だが、思いだけあっても行動に出なければ意味がない。それを突き動かすのは覚悟と、それをしてでもという強い意志だ。そうなれない者を動かすとしたら、ひとつしかない」
「……そうですね。恐怖。しかも、逃げることのできないほどの恐怖と支配。そういった環境下にいる者は、簡単に情報を明かさない。厄介ですな」
「ああ。だが、こちらにも引き下がれない理由がある」
「もちろんです。では……」
「わかってはいるが、俺も拷問系は苦手でな。あまりいいアシストができるとは思えん」
「でも、我々がするしかないでしょうな」
「……そうだな」
ふたりは揃ってシャールを見た。
もし、ライザを連れ戻せなければ、彼女は自分を責めるかもしれない。
「あの子を悲しませるわけにはいきませんからな」
※※※
マックス(仮名)が自分たちの世界、種族の掟や性質などからオーレン(仮名)を追い込む。
もともと諭すつもりはなかった。
次の段階に進むための布石的な役割をしていたのだが、今のオーレン(仮名)にそこまで勘ぐれるゆとりはない。
生まれ育った場所に居場所はない。
往きながらして殺され続けるようなものとなる。
「最期くらい、誰かのための行動をとるっていうのも、悪くないんじゃないか?」
マックス(仮名)は最後、こうやって締めくくった。
「てなかんじで、どうだろう?」
マックス(仮名)はすれ違うわずかな間に、そうハンクに耳打ちをした。
ハンクは軽く鼻で笑う。
それは十分だという意味にもとれる笑いだった。
「さて。今度は俺たちの番だ」
ハンクはオーレン(仮名)を真上から見下ろし、ドスのきいた声色で言う。
オーレン(仮名)はハンクを見ない。
そして真向かいに座ったジェラルド軍曹も、みない。
自分の足下をただひたすら見つめ、体を震わせている。
「きみは、少佐の部下だった、マックスだね?」
人間を一族の世界に連れ介入させてまで追いつめるつもりなのだと思っていたオーレン(仮名)は、ジェラルド軍曹の開口一番の言葉に耳を疑った。
目的は軍に潜り込んだことの追求。
一族の世界に居場所がないのなら……
そんな考えが過ぎる。
人間界にいれば、一族の追っ手を振り切れる可能性が出てくる。
なぜなら、人間の世界で吸血行為等をしててしまえば、たちまち知れ渡り居場所を教えるようなもの。
だが、吸血行為をしないまま生きながらえることができるかは不明である。
基本、しなくても生きていける体質の者が増えているし、薬などを使い衝動を抑えることもできる。
しかし、その薬を手にするには、定期的にこちらに戻らなくてはならない。
それでも、薬以外に方法がないわけではない。
もしかしたら、人間の方が強い協力者になるかもしれない。
オーレン(仮名)は思う。
軍のことだけなら構わないだろう。
どうやってクロードに接触するかまでの指示は受けていない。
話してはダメなことはわかっている。
それ以外で好感よく接すれば……
だが、もともと器用なタイプではないし、人付き合いも下手で親しい間柄の者はいない。
うまくやれる自身はないが、この調子で二日半、尋問を受けるのは正直きつい。
それに、いつどのタイミングで拷問にかわるか……考えただけでもゾッとするオーレン(仮名)だった。
「あ、はい。自分です」
ボソッとした声がかすかに聞こえたような?
その程度だが、ふたりはしっかりと聞き取っていた。
「そうですか。作戦中に不明となっていたので、案じていましたが、こうして生きて再会できたことを嬉しく思いますよ」
「……はあ……」
潜り込んでいたことを責めにきたわけではない?
オーレン(仮名)はジェラルド軍曹の言葉の真意を読みとろうと、ゆっくりと顔をあげた。
声のトーン、語尾、口調などからでも相手の真意を感じ取ることはできるが、目は口ほどにものを言うとも言われているように、判断材料としてかなり大きな役割をしてくれる。
だからこそ、オーレン(仮名)は誰の顔も見ず、俯き、そして見せなかった。
無言でいることは苦ではない。
だが、わずかな気の緩みで見透かされてしまうかもしれない。
失敗は許されない。
そう言われて起こした事件だが、失敗してしまっている。
その時点で、もうオーレン(仮名)には居場所がないことくらい、わかっていた。
だからといって、易々と情報を漏らすつもりもない。
情報を漏らすということは、命の安全を確実に保証してくれる時のカードに使いたかった。
「ひとつ、誤解のないように言っておきますが。あなたの失態を責めるつもりはありません。あの作戦では、多くの負傷兵、そして今も不明の者もいます。ただ、なぜ偽りの書類で入隊をしたのか。なにかあればすぐに調べられてしまうリスクがあると、わからなかったわけではありませんよね?」
「それを軟弱と避難する者もいるだろうが、それが普通だと俺は思った。躊躇せず敵意を振り下ろせる者は少ない。ここの者たちは軍人ではないし、そういった者の訓練を受けたわけでもない。そうだな。俺たちの世界で言うなら、レジスタンス。それも素人ばかりが集まった。だが、思いだけあっても行動に出なければ意味がない。それを突き動かすのは覚悟と、それをしてでもという強い意志だ。そうなれない者を動かすとしたら、ひとつしかない」
「……そうですね。恐怖。しかも、逃げることのできないほどの恐怖と支配。そういった環境下にいる者は、簡単に情報を明かさない。厄介ですな」
「ああ。だが、こちらにも引き下がれない理由がある」
「もちろんです。では……」
「わかってはいるが、俺も拷問系は苦手でな。あまりいいアシストができるとは思えん」
「でも、我々がするしかないでしょうな」
「……そうだな」
ふたりは揃ってシャールを見た。
もし、ライザを連れ戻せなければ、彼女は自分を責めるかもしれない。
「あの子を悲しませるわけにはいきませんからな」
※※※
マックス(仮名)が自分たちの世界、種族の掟や性質などからオーレン(仮名)を追い込む。
もともと諭すつもりはなかった。
次の段階に進むための布石的な役割をしていたのだが、今のオーレン(仮名)にそこまで勘ぐれるゆとりはない。
生まれ育った場所に居場所はない。
往きながらして殺され続けるようなものとなる。
「最期くらい、誰かのための行動をとるっていうのも、悪くないんじゃないか?」
マックス(仮名)は最後、こうやって締めくくった。
「てなかんじで、どうだろう?」
マックス(仮名)はすれ違うわずかな間に、そうハンクに耳打ちをした。
ハンクは軽く鼻で笑う。
それは十分だという意味にもとれる笑いだった。
「さて。今度は俺たちの番だ」
ハンクはオーレン(仮名)を真上から見下ろし、ドスのきいた声色で言う。
オーレン(仮名)はハンクを見ない。
そして真向かいに座ったジェラルド軍曹も、みない。
自分の足下をただひたすら見つめ、体を震わせている。
「きみは、少佐の部下だった、マックスだね?」
人間を一族の世界に連れ介入させてまで追いつめるつもりなのだと思っていたオーレン(仮名)は、ジェラルド軍曹の開口一番の言葉に耳を疑った。
目的は軍に潜り込んだことの追求。
一族の世界に居場所がないのなら……
そんな考えが過ぎる。
人間界にいれば、一族の追っ手を振り切れる可能性が出てくる。
なぜなら、人間の世界で吸血行為等をしててしまえば、たちまち知れ渡り居場所を教えるようなもの。
だが、吸血行為をしないまま生きながらえることができるかは不明である。
基本、しなくても生きていける体質の者が増えているし、薬などを使い衝動を抑えることもできる。
しかし、その薬を手にするには、定期的にこちらに戻らなくてはならない。
それでも、薬以外に方法がないわけではない。
もしかしたら、人間の方が強い協力者になるかもしれない。
オーレン(仮名)は思う。
軍のことだけなら構わないだろう。
どうやってクロードに接触するかまでの指示は受けていない。
話してはダメなことはわかっている。
それ以外で好感よく接すれば……
だが、もともと器用なタイプではないし、人付き合いも下手で親しい間柄の者はいない。
うまくやれる自身はないが、この調子で二日半、尋問を受けるのは正直きつい。
それに、いつどのタイミングで拷問にかわるか……考えただけでもゾッとするオーレン(仮名)だった。
「あ、はい。自分です」
ボソッとした声がかすかに聞こえたような?
その程度だが、ふたりはしっかりと聞き取っていた。
「そうですか。作戦中に不明となっていたので、案じていましたが、こうして生きて再会できたことを嬉しく思いますよ」
「……はあ……」
潜り込んでいたことを責めにきたわけではない?
オーレン(仮名)はジェラルド軍曹の言葉の真意を読みとろうと、ゆっくりと顔をあげた。
声のトーン、語尾、口調などからでも相手の真意を感じ取ることはできるが、目は口ほどにものを言うとも言われているように、判断材料としてかなり大きな役割をしてくれる。
だからこそ、オーレン(仮名)は誰の顔も見ず、俯き、そして見せなかった。
無言でいることは苦ではない。
だが、わずかな気の緩みで見透かされてしまうかもしれない。
失敗は許されない。
そう言われて起こした事件だが、失敗してしまっている。
その時点で、もうオーレン(仮名)には居場所がないことくらい、わかっていた。
だからといって、易々と情報を漏らすつもりもない。
情報を漏らすということは、命の安全を確実に保証してくれる時のカードに使いたかった。
「ひとつ、誤解のないように言っておきますが。あなたの失態を責めるつもりはありません。あの作戦では、多くの負傷兵、そして今も不明の者もいます。ただ、なぜ偽りの書類で入隊をしたのか。なにかあればすぐに調べられてしまうリスクがあると、わからなかったわけではありませんよね?」
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