シャールの見る幻影
さらにライザはクロードを畳みかける。
「そもそも、なぜ少佐は無線をお持ちでないのでしょうか? 撤去作業をしていたのであれば、内部と外部とで連絡を取り合いますよね? それに、ジェラルド軍曹との連絡も。少佐の無線はどちらでしょう?」
自分の失態を棚に上げ、幻影に翻弄されていたのを救ってくれた恩人に対して責める無能っぷり。
シャールたちにとっては、頼りにしていたのに……と、落胆の部分が大きい。
「振り出しだな」
ハンクは無線で外部と連絡をとり助けを求める手だては断たれたと決定した。
※※※
その夜。
四人は森の中の館で夜を越すことにした。
なにかがあるかもしれないと、男女で分かれ、そして決してひとりで行動はしないという決まり事をつくった。
「物語の中に入ってみたいとか、主人公になってみたい~とか思ったこともあったけれど、実際に経験してみると、あまりいいものじゃないわね」
ライザが窓から夜の空を見ながら言う。
「そうかもしれません。でも、戦争の余波を受け続けていくのを経験していると、物語中が平和であればあるほど、憧れました。だけど、今はちょっと困りますよね」
シャールは子供の頃であれば手放しで喜んでいたかもしれないと思いつつも、今はこんなところでのんびりと体験している場合ではないと思う気持ちを全面にだした。
「シャールは無理しなくていいのよ」
「え?」
「だって~、ハンクは密林、少佐は荒野の激戦でしょう? どちらとも共有はしたくないじゃない? シャールが童話と連結してくれて助かっているのよ」
たしかに、密林の中をさまよったり、荒野で銃撃戦を繰り返すのは、いくら幻影であっても体験したくはない。
「ライザさんにそう言っていただけると助かります」
「どういたしまして。でも、この物語の結末は頂けないものだから、そうならないようにしないといけないわね」
「そうですね。子供の頃はあんな結末でも、今よりはいいって思っていたんですよ」
「戦争中だもの。誰だって現実よりマシと思っても不思議じゃないわ。とくに、飢えを経験してしまうとね……」
「飢えは本当に……できれば二度と体験したくはないです。物語の通りに展開するなら、起きたら朝食が用意されているはずですよね」
「そう、それよ。あるかないかで、またなにか発見ができると思わない?」
「私たちはここから出たい、元に戻りたいと思っている。でも、誰かがそれを拒みこの物語の中に居続けたいと思ってしまったら……」
「閉じこめられてしまうかもしれない」
ふたりの言葉が重なった。
ハンクとクロードは……
女性陣たちとは真逆で、奈落の底に落とされ絶望しかない、最悪の状態だと思わずにはいられない、そんな状況だった。
とくにクロードは「なぜ私が?」と繰り返し、ブツブツと声になってしまっている。
ハンクは元々クロードほど相手を敵視してはいない。
必要であれば対応するし、必要がなければ無視する、そんなスタンスでいる。
だから余計、クロードの目には勝手な奴にしか見えない。
それは今も目の前で行われていた。
「おい。上官より先に休むやつがあるか!」
ひと通り館の中の確認はし終え、出入り口になりそうなところの戸締まりは念入りにした。
敵が忍び込んできそうな部屋に男性陣が、比較的回避されやすいだろう部屋に女性陣がいる。
危険があればまず自分たちが対処する。
それさえわかっていれば横になっても熟睡はしない。
逆に言えば、休める時に休んでおくのも生き残れる確率をあげる作戦といってもいいだろう。
使えるものは使う、それがたとえ上官であっても。
いや、そもそもクロードはハンクの上官ではないのだから、気を遣う必要はないに等しい。
「俺はあんたの部下じゃない。こういう状況の中、上下関係を主張すると思いもしない失敗をするぞ。俺は先に休む。一時間経ったら知らせてくれ」
「きさま、私に番をしろと?」
「民間人を守るのは軍人の役割、なんじゃなかったか?」
誰もそんなことは言っていないが、民間人の縦となり戦い守るのが、それなりに訓練を受けたものの立場であるとクロードは思っている。
ハンクのいう民間人とはシャールのことを言っているのだろう。
彼女にはライザがついている。
情報部とはいえ軍人であり、それなりの訓練も受けている。
多少のことでは簡単に苦戦することはないだろうが、確かに守りながら戦うというのは手練れの戦士でも難しい。
だから、ひとりよりふたり、ふたりより三人と同志が多い方が守りやすくなる。
「ふん。たしかに彼女は民間人だ。理由はどうであれ軍人ではない。彼女が矢面になって戦うことは不本意だ。彼女の危機には対応する。が、きさまは知らん」
「それでいい。その方が俺も戦いやすい」
「夜はおまえの本分ではないのか?」
「擬神兵になれば……の話だ」
「ならないのか?」
「必要であればなる。が、なんとなくだがこの幻影の中ではなれない気がしてな」
「どういうことだ?」
「元々この幻影を見ているのはシャールだ。俺たちはシャールが見ている幻影を共有しているにすぎない。つまり、彼女の幻影を疑似体験しているようなものだ」
「そもそも、なぜ少佐は無線をお持ちでないのでしょうか? 撤去作業をしていたのであれば、内部と外部とで連絡を取り合いますよね? それに、ジェラルド軍曹との連絡も。少佐の無線はどちらでしょう?」
自分の失態を棚に上げ、幻影に翻弄されていたのを救ってくれた恩人に対して責める無能っぷり。
シャールたちにとっては、頼りにしていたのに……と、落胆の部分が大きい。
「振り出しだな」
ハンクは無線で外部と連絡をとり助けを求める手だては断たれたと決定した。
※※※
その夜。
四人は森の中の館で夜を越すことにした。
なにかがあるかもしれないと、男女で分かれ、そして決してひとりで行動はしないという決まり事をつくった。
「物語の中に入ってみたいとか、主人公になってみたい~とか思ったこともあったけれど、実際に経験してみると、あまりいいものじゃないわね」
ライザが窓から夜の空を見ながら言う。
「そうかもしれません。でも、戦争の余波を受け続けていくのを経験していると、物語中が平和であればあるほど、憧れました。だけど、今はちょっと困りますよね」
シャールは子供の頃であれば手放しで喜んでいたかもしれないと思いつつも、今はこんなところでのんびりと体験している場合ではないと思う気持ちを全面にだした。
「シャールは無理しなくていいのよ」
「え?」
「だって~、ハンクは密林、少佐は荒野の激戦でしょう? どちらとも共有はしたくないじゃない? シャールが童話と連結してくれて助かっているのよ」
たしかに、密林の中をさまよったり、荒野で銃撃戦を繰り返すのは、いくら幻影であっても体験したくはない。
「ライザさんにそう言っていただけると助かります」
「どういたしまして。でも、この物語の結末は頂けないものだから、そうならないようにしないといけないわね」
「そうですね。子供の頃はあんな結末でも、今よりはいいって思っていたんですよ」
「戦争中だもの。誰だって現実よりマシと思っても不思議じゃないわ。とくに、飢えを経験してしまうとね……」
「飢えは本当に……できれば二度と体験したくはないです。物語の通りに展開するなら、起きたら朝食が用意されているはずですよね」
「そう、それよ。あるかないかで、またなにか発見ができると思わない?」
「私たちはここから出たい、元に戻りたいと思っている。でも、誰かがそれを拒みこの物語の中に居続けたいと思ってしまったら……」
「閉じこめられてしまうかもしれない」
ふたりの言葉が重なった。
ハンクとクロードは……
女性陣たちとは真逆で、奈落の底に落とされ絶望しかない、最悪の状態だと思わずにはいられない、そんな状況だった。
とくにクロードは「なぜ私が?」と繰り返し、ブツブツと声になってしまっている。
ハンクは元々クロードほど相手を敵視してはいない。
必要であれば対応するし、必要がなければ無視する、そんなスタンスでいる。
だから余計、クロードの目には勝手な奴にしか見えない。
それは今も目の前で行われていた。
「おい。上官より先に休むやつがあるか!」
ひと通り館の中の確認はし終え、出入り口になりそうなところの戸締まりは念入りにした。
敵が忍び込んできそうな部屋に男性陣が、比較的回避されやすいだろう部屋に女性陣がいる。
危険があればまず自分たちが対処する。
それさえわかっていれば横になっても熟睡はしない。
逆に言えば、休める時に休んでおくのも生き残れる確率をあげる作戦といってもいいだろう。
使えるものは使う、それがたとえ上官であっても。
いや、そもそもクロードはハンクの上官ではないのだから、気を遣う必要はないに等しい。
「俺はあんたの部下じゃない。こういう状況の中、上下関係を主張すると思いもしない失敗をするぞ。俺は先に休む。一時間経ったら知らせてくれ」
「きさま、私に番をしろと?」
「民間人を守るのは軍人の役割、なんじゃなかったか?」
誰もそんなことは言っていないが、民間人の縦となり戦い守るのが、それなりに訓練を受けたものの立場であるとクロードは思っている。
ハンクのいう民間人とはシャールのことを言っているのだろう。
彼女にはライザがついている。
情報部とはいえ軍人であり、それなりの訓練も受けている。
多少のことでは簡単に苦戦することはないだろうが、確かに守りながら戦うというのは手練れの戦士でも難しい。
だから、ひとりよりふたり、ふたりより三人と同志が多い方が守りやすくなる。
「ふん。たしかに彼女は民間人だ。理由はどうであれ軍人ではない。彼女が矢面になって戦うことは不本意だ。彼女の危機には対応する。が、きさまは知らん」
「それでいい。その方が俺も戦いやすい」
「夜はおまえの本分ではないのか?」
「擬神兵になれば……の話だ」
「ならないのか?」
「必要であればなる。が、なんとなくだがこの幻影の中ではなれない気がしてな」
「どういうことだ?」
「元々この幻影を見ているのはシャールだ。俺たちはシャールが見ている幻影を共有しているにすぎない。つまり、彼女の幻影を疑似体験しているようなものだ」
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