外と中
「いい案だが、それでは凍るまでの時間がかかりすぎる。雪が降るほどの寒さにはならない」
と、その時!
「ハンク! シャール! いる? 無事?」
聞き覚えのある声が響き、濃霧の中に明かりのような点が浮かびあがった。
明かりのような点は汽車を囲むように出現していく。
「この声、ライザさん!」
シャールは無事であることを伝えたい気持ちと、ライザの姿を確認したい気持ちがはやり、窓へと近づこうとした。
それをハンクが止める。
「ハンクさん?」
「無闇に近づくな。蔦は生きている。いつ向かってくるかわからないぞ」
「でも、あの声はライザさんですよ? きっと軍を連れてきてくれたんです。ここにいるって知らせないと」
「大丈夫だ。どうせこちらの内部を確認するために人がやってくる」
ハンクがそう判断してすぐに、いくつかの明かりが近づいていた。
「生存者はいますか? ケガ人は?」
そう声をあげて軍人らしき人が窓に近づきのぞき込んだ。
だが……
「う、うわっ! なんだ、これは! 生きているのか?」
蔦が軍人にまとわりつき、そしてメキメキに体内の骨が砕けていくような音を響かせた。
しばらくして音が止むと、蔦はゴミを放るように、肉の塊となった軍人を投げた。
「……っう」
シャールは息を殺す。
それでも嗚咽がこみ上げてくる。
手で口を塞ぎ、ギュッと唇を一文字にした。
「よく耐えたな、シャール」
ハンクは彼女の肩を抱き寄せた。
「ハンクさん……」
「あれは見えているわけではなく、なにかに反応するのだろう。たとえば悲鳴、声のトーン、息づかいなど」
「そんな……でも、私やハンクさんは直接襲われてはいませんよ?」
「偶然運がよかっただけなのか。それとも俺たちがたまたま敵を刺激しないよう行動していたのか」
とはいえ、今はその原因を探るゆとりはない。
「シャール、その火をこちらに」
じっと何かを考えていたハンクは、シャールが持っていた松明でなにかを閃く。
彼はそれを手にして、燃える炎の前に手をおき、炎を隠したり見せたりを繰り返した。
それはなにかのリズムをとっているようなもので、それで相手に伝えることができるのだと悟ったのは、向こう側の明かりのひとつが、こちらの点滅に答えるように点滅をしたからだった。
「クロードがきているらしい。対擬神兵用の装備でこちらにくるらしい。生存者を安全な場所にまとめてほしいと言っている」
「安全な場所って……」
改めて周りを見渡しても、安全といいきれる場所などない。
生存している者は怯え、移動するといっても従ってくれるかわからない。
またケガをした人を残していくのは気がかりではある。
「客室の車両に移動しよう」
ハンクがそういうのには理由があった。
「ここよりは頑丈になっているはずだ。五両目まで移動する。俺がしんがりを勤める。シャール、先頭をいけるな?」
「……はい。わかりました」
シャールは自力で動けそうな人に声をかける。
とはいっても、大声で話すと蔦を刺激してしまう。
声をださず、唇だけを動かし、そして移動する方向をジェスチャーで伝えた。
だがほとんどの人は怯え、首を横に振る。
いつもなら説得をしているところだが、無闇に動き回れないことから、賛同した者たちだけで五両目に移動することになった。
しんがりを勤めるハンクが最後の説得をしてくれると信じて。
※※※
「無事だったか……」
「少佐! それにライザさん!」
「シャール、こうして自分の目で確認できるまで気が気ではなかったわ」
ライザがギュッとシャールを抱きしめると、シャールの顔は彼女の巨乳に埋まっていく。
それをいつもなら赤面顔で見ているクロードだが、今は違う。
咳払いをし、厳しい顔つきを崩さない。
「生存者はこれだけか?」
「いいえ。まだ。ハンクさんがまだ来ていないので説得をしているのだと思います」
「……わかった。数人、向かわせる。それで?」
「それで……とは?」
「なにがあった?」
「ああ……なにがあったか、ですよね。実は私もハンクさんもすべてを理解しているわけではないんです」
シャールが見てきたことを語り始めると、続々と軍人が車内に入って生存者を車外へと連れ出していた。
すべてを説明し終えた時、シャールはクロードにこう訪ねた。
「あの、ここには問題なく入ることができたんですね」と。
「どういうことだ?」
「どうとは? 言葉そのままの意味です」
「つまり、ここ以外は侵入不可だということか」
「はい。安否確認をしてくださった軍人さんは蔦に巻き付かれて亡くなってしまいました。この汽車は蔦に覆われているのです」
「覆われているだと? それは聞き捨てならないな」
「え?」
「覆われているのは前方の車両だけだ。この辺りには巻き付いていなかったからな。それで侵入口に決めた」
「そうだったんですか。そうだとすれば、ハンクさんの見解や判断は凄いですね」
「ん?」
「ハンクさんは、客室車両の方が防御率が高いのではと言って、移動するように指示をしたんです」
「外の確認はしていないのだな?」
と、その時!
「ハンク! シャール! いる? 無事?」
聞き覚えのある声が響き、濃霧の中に明かりのような点が浮かびあがった。
明かりのような点は汽車を囲むように出現していく。
「この声、ライザさん!」
シャールは無事であることを伝えたい気持ちと、ライザの姿を確認したい気持ちがはやり、窓へと近づこうとした。
それをハンクが止める。
「ハンクさん?」
「無闇に近づくな。蔦は生きている。いつ向かってくるかわからないぞ」
「でも、あの声はライザさんですよ? きっと軍を連れてきてくれたんです。ここにいるって知らせないと」
「大丈夫だ。どうせこちらの内部を確認するために人がやってくる」
ハンクがそう判断してすぐに、いくつかの明かりが近づいていた。
「生存者はいますか? ケガ人は?」
そう声をあげて軍人らしき人が窓に近づきのぞき込んだ。
だが……
「う、うわっ! なんだ、これは! 生きているのか?」
蔦が軍人にまとわりつき、そしてメキメキに体内の骨が砕けていくような音を響かせた。
しばらくして音が止むと、蔦はゴミを放るように、肉の塊となった軍人を投げた。
「……っう」
シャールは息を殺す。
それでも嗚咽がこみ上げてくる。
手で口を塞ぎ、ギュッと唇を一文字にした。
「よく耐えたな、シャール」
ハンクは彼女の肩を抱き寄せた。
「ハンクさん……」
「あれは見えているわけではなく、なにかに反応するのだろう。たとえば悲鳴、声のトーン、息づかいなど」
「そんな……でも、私やハンクさんは直接襲われてはいませんよ?」
「偶然運がよかっただけなのか。それとも俺たちがたまたま敵を刺激しないよう行動していたのか」
とはいえ、今はその原因を探るゆとりはない。
「シャール、その火をこちらに」
じっと何かを考えていたハンクは、シャールが持っていた松明でなにかを閃く。
彼はそれを手にして、燃える炎の前に手をおき、炎を隠したり見せたりを繰り返した。
それはなにかのリズムをとっているようなもので、それで相手に伝えることができるのだと悟ったのは、向こう側の明かりのひとつが、こちらの点滅に答えるように点滅をしたからだった。
「クロードがきているらしい。対擬神兵用の装備でこちらにくるらしい。生存者を安全な場所にまとめてほしいと言っている」
「安全な場所って……」
改めて周りを見渡しても、安全といいきれる場所などない。
生存している者は怯え、移動するといっても従ってくれるかわからない。
またケガをした人を残していくのは気がかりではある。
「客室の車両に移動しよう」
ハンクがそういうのには理由があった。
「ここよりは頑丈になっているはずだ。五両目まで移動する。俺がしんがりを勤める。シャール、先頭をいけるな?」
「……はい。わかりました」
シャールは自力で動けそうな人に声をかける。
とはいっても、大声で話すと蔦を刺激してしまう。
声をださず、唇だけを動かし、そして移動する方向をジェスチャーで伝えた。
だがほとんどの人は怯え、首を横に振る。
いつもなら説得をしているところだが、無闇に動き回れないことから、賛同した者たちだけで五両目に移動することになった。
しんがりを勤めるハンクが最後の説得をしてくれると信じて。
※※※
「無事だったか……」
「少佐! それにライザさん!」
「シャール、こうして自分の目で確認できるまで気が気ではなかったわ」
ライザがギュッとシャールを抱きしめると、シャールの顔は彼女の巨乳に埋まっていく。
それをいつもなら赤面顔で見ているクロードだが、今は違う。
咳払いをし、厳しい顔つきを崩さない。
「生存者はこれだけか?」
「いいえ。まだ。ハンクさんがまだ来ていないので説得をしているのだと思います」
「……わかった。数人、向かわせる。それで?」
「それで……とは?」
「なにがあった?」
「ああ……なにがあったか、ですよね。実は私もハンクさんもすべてを理解しているわけではないんです」
シャールが見てきたことを語り始めると、続々と軍人が車内に入って生存者を車外へと連れ出していた。
すべてを説明し終えた時、シャールはクロードにこう訪ねた。
「あの、ここには問題なく入ることができたんですね」と。
「どういうことだ?」
「どうとは? 言葉そのままの意味です」
「つまり、ここ以外は侵入不可だということか」
「はい。安否確認をしてくださった軍人さんは蔦に巻き付かれて亡くなってしまいました。この汽車は蔦に覆われているのです」
「覆われているだと? それは聞き捨てならないな」
「え?」
「覆われているのは前方の車両だけだ。この辺りには巻き付いていなかったからな。それで侵入口に決めた」
「そうだったんですか。そうだとすれば、ハンクさんの見解や判断は凄いですね」
「ん?」
「ハンクさんは、客室車両の方が防御率が高いのではと言って、移動するように指示をしたんです」
「外の確認はしていないのだな?」
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