剣の少年と愉快な山の住人たち(後編)⑨
心臓部を出ると、一つの道があった。
今までにない道だ。
すぐ先まで見ることの出来る道だった。
「この道、今までありませんでしたよね?」
「そうだな」
ザグルは道を睨むように見ていた。
「この道を辿ったら、師匠の元に着きますかね」
「……どうだろう。分からないな」
「じゃあ、通ってみます?」
「うん。そうだな」
考えても目指す物が見つからないため、とりあえず、進むことにしたのだ。
「所で、僕は山を降りるのですかね」
「さあ、今のところはなんの変化も……。待て? アルバーノ、戻るぞ」
「えっ?」
「考えてもみろ。この森は関係のない人は自動で元に戻れるようプログラムされているのだろう。このまま進めば、麓に戻るぞ!」
ザグルは今までこんな体験をしたことがなかったから、分からなかったのだ。
「じゃあ、やっぱり、僕は……」
「アホ。諦めてどーする。夢っつーのは強ければ叶うんだ。あんたが弱気になってどーする」
ザグルはライトの腕を握り走り始めた。
「でも……」
「要は師匠の元に着けばいいんだろう? 師匠はオレを連れて行かせたのも、そう言った意味も踏まえていたんだよ。やっていけるかどうかな」
「じゃあ……」
「一応、オレは夢を実現させていいと思っているんだ。あんた、頑張っていたもん」
「ザグルさん?」
「だから、無事に連れて行ってやるよ。但し、弱気になるなよ」
「はっ、はい」
ライトは自分の足で走り始めた。
ザグルはそれとなく手を離した。
「はあはあ……」
川まで走った。
沢山、走った。
……息が切れた。
しかし、ライトは楽しかった。
「ザグルさん。ありがとうございます」
「別に」
ザグルは川の水を飲んでいた。
やっぱり美味しかった。
「さて、帰るか」
「はい!」
歩き始めようとしたとき、時空が歪んだ。
そこから、人が現れた。
ハンクだ。
後ろにはミーファもいる。
「どうやら、関門は突破したようじゃな」
「師匠、なんで? ミーファまで」
「テストは合格じゃよ」
「テスト……ですか?」
ライトは驚いていた。
ザグルは面白くないのか、地べたに座った。
「そうじゃよ」
「やっぱそれかよ。あんたみたいな天才魔道師が、半永久的に力を供給する術を知らない訳はないからな」
「いつごろから分かっていた?」
「若かりし時のあんたが出た時から可笑しいとは思っていたよ。実は弱くなっていないだろ?」
「ああ、弱くなっていないとも。なる程、かなり前からだな。流石我が弟子だ」
ハンクは満足げに笑った。
「じゃあ、ミーファも?」
「ああ、どんな夢かは分からないが、大きかったのだろうな。多分、ライト並にな。そうだろ?」
「えっ、ええ。夢はありましたから……」
ミーファの頬が赤く染まっていた。
それに気がついたのはハンクだけだった。
勿論、年の功と言う物だった。
きっと、ザグルは気付かないだろう。
「それで、僕は……」
「いいよ。説得してやる。その代わり、お主も頑張るのだぞ」
「はい!」
「ミーファもいいよな?」
「ええ。私はライト様が家に戻って頂ければ……」
「決まりだな。さあ、帰るぞ」
ハンクが再び、時空を歪ませ、山へつながる道を作った。
ハンクを先頭に、順々と中に入り、ザグルが最後に入り、その直後に時空は消滅した。
時空を通ると、あんなに長かった道のりがウソのようだ。
それだけ、一瞬にしてキャロの山に着いた。
「さて、ライト、食事の支度を」
「えっ、はい!」
「あっ、私も手伝います」
「お願いします」
ミーファと、ライトは小屋へと入った。
ザグルは剣を下ろし、ハンクは切り株に座り、煙りを吸った。
「人が多いと楽しいなぁ~、年を取ると、しみじみに思うよ」
「だったら、山を降りればいいだろう?」
「まあ、そうだなぁ~、たまには降りてみるかね」
「そう言って、何回降りたよ。あんた」
「あのな~、年を取ると、身体が動かなくなるの」
「はいはい。分かっていますよ」
いつも言っているのだ。
ザグルは草場に座った。
見た目以上に身体が疲れていた。
「そうだ。明日、久しぶりに剣の稽古をしてやろうか?」
「えっ? いいの?」
「今回のご褒美だ」
「ありがとうございます」
ザグルは喜んでいた。
「まあ、お主も頑張ったからな。それに上達しているか見たいしな」
「よっしゃぁ。腰を抜かすなよ」
ザグルは剣を持ち、磨き始めた。
ハンクはそれを温かい眼差しで見ていた。
「ところで、怪しい雰囲気も演出だよな~、霧とか出すのとか?」
「まあな」
苦笑いをした。
図星だったのだ。
ザグルは舌打ちを一度した。全部がムカついたからだ。
「じゃあ、最初の日に深い霧の中から現れた大きい影二つも師匠の演出か?」
未だに解けていない謎だ。
「はあ? なんだそれ? そんなことしていないよ?」
言われていることの意味が分からないようだ。
「えっ?」
「幻でも見たんじゃやないのか?」
「えっ、でっ、でも、近づいてきたし、大きかったし、あとで考えたけど殺気は無かったけど、人の気配が……」
動揺をしていた。
「知らないな。夢だよ夢」
煙を吐き出した。
「ええ!」
ザグルが大声を上げた。
カラン
火を焚こうと木を取りに行っていたライトもその話しを聞いていて、思わず薪を落としてしまった。
「それってまさか……」
ザグルとライトは声と目を合わせていた。
それは初春のような冷たくもあり、温かい風が吹いた気候だった。
ザグルはまた一つ、夢へのステップを踏んだような気がした。
そして、『迷宮』の謎も一つ増えた瞬間だった……。
今までにない道だ。
すぐ先まで見ることの出来る道だった。
「この道、今までありませんでしたよね?」
「そうだな」
ザグルは道を睨むように見ていた。
「この道を辿ったら、師匠の元に着きますかね」
「……どうだろう。分からないな」
「じゃあ、通ってみます?」
「うん。そうだな」
考えても目指す物が見つからないため、とりあえず、進むことにしたのだ。
「所で、僕は山を降りるのですかね」
「さあ、今のところはなんの変化も……。待て? アルバーノ、戻るぞ」
「えっ?」
「考えてもみろ。この森は関係のない人は自動で元に戻れるようプログラムされているのだろう。このまま進めば、麓に戻るぞ!」
ザグルは今までこんな体験をしたことがなかったから、分からなかったのだ。
「じゃあ、やっぱり、僕は……」
「アホ。諦めてどーする。夢っつーのは強ければ叶うんだ。あんたが弱気になってどーする」
ザグルはライトの腕を握り走り始めた。
「でも……」
「要は師匠の元に着けばいいんだろう? 師匠はオレを連れて行かせたのも、そう言った意味も踏まえていたんだよ。やっていけるかどうかな」
「じゃあ……」
「一応、オレは夢を実現させていいと思っているんだ。あんた、頑張っていたもん」
「ザグルさん?」
「だから、無事に連れて行ってやるよ。但し、弱気になるなよ」
「はっ、はい」
ライトは自分の足で走り始めた。
ザグルはそれとなく手を離した。
「はあはあ……」
川まで走った。
沢山、走った。
……息が切れた。
しかし、ライトは楽しかった。
「ザグルさん。ありがとうございます」
「別に」
ザグルは川の水を飲んでいた。
やっぱり美味しかった。
「さて、帰るか」
「はい!」
歩き始めようとしたとき、時空が歪んだ。
そこから、人が現れた。
ハンクだ。
後ろにはミーファもいる。
「どうやら、関門は突破したようじゃな」
「師匠、なんで? ミーファまで」
「テストは合格じゃよ」
「テスト……ですか?」
ライトは驚いていた。
ザグルは面白くないのか、地べたに座った。
「そうじゃよ」
「やっぱそれかよ。あんたみたいな天才魔道師が、半永久的に力を供給する術を知らない訳はないからな」
「いつごろから分かっていた?」
「若かりし時のあんたが出た時から可笑しいとは思っていたよ。実は弱くなっていないだろ?」
「ああ、弱くなっていないとも。なる程、かなり前からだな。流石我が弟子だ」
ハンクは満足げに笑った。
「じゃあ、ミーファも?」
「ああ、どんな夢かは分からないが、大きかったのだろうな。多分、ライト並にな。そうだろ?」
「えっ、ええ。夢はありましたから……」
ミーファの頬が赤く染まっていた。
それに気がついたのはハンクだけだった。
勿論、年の功と言う物だった。
きっと、ザグルは気付かないだろう。
「それで、僕は……」
「いいよ。説得してやる。その代わり、お主も頑張るのだぞ」
「はい!」
「ミーファもいいよな?」
「ええ。私はライト様が家に戻って頂ければ……」
「決まりだな。さあ、帰るぞ」
ハンクが再び、時空を歪ませ、山へつながる道を作った。
ハンクを先頭に、順々と中に入り、ザグルが最後に入り、その直後に時空は消滅した。
時空を通ると、あんなに長かった道のりがウソのようだ。
それだけ、一瞬にしてキャロの山に着いた。
「さて、ライト、食事の支度を」
「えっ、はい!」
「あっ、私も手伝います」
「お願いします」
ミーファと、ライトは小屋へと入った。
ザグルは剣を下ろし、ハンクは切り株に座り、煙りを吸った。
「人が多いと楽しいなぁ~、年を取ると、しみじみに思うよ」
「だったら、山を降りればいいだろう?」
「まあ、そうだなぁ~、たまには降りてみるかね」
「そう言って、何回降りたよ。あんた」
「あのな~、年を取ると、身体が動かなくなるの」
「はいはい。分かっていますよ」
いつも言っているのだ。
ザグルは草場に座った。
見た目以上に身体が疲れていた。
「そうだ。明日、久しぶりに剣の稽古をしてやろうか?」
「えっ? いいの?」
「今回のご褒美だ」
「ありがとうございます」
ザグルは喜んでいた。
「まあ、お主も頑張ったからな。それに上達しているか見たいしな」
「よっしゃぁ。腰を抜かすなよ」
ザグルは剣を持ち、磨き始めた。
ハンクはそれを温かい眼差しで見ていた。
「ところで、怪しい雰囲気も演出だよな~、霧とか出すのとか?」
「まあな」
苦笑いをした。
図星だったのだ。
ザグルは舌打ちを一度した。全部がムカついたからだ。
「じゃあ、最初の日に深い霧の中から現れた大きい影二つも師匠の演出か?」
未だに解けていない謎だ。
「はあ? なんだそれ? そんなことしていないよ?」
言われていることの意味が分からないようだ。
「えっ?」
「幻でも見たんじゃやないのか?」
「えっ、でっ、でも、近づいてきたし、大きかったし、あとで考えたけど殺気は無かったけど、人の気配が……」
動揺をしていた。
「知らないな。夢だよ夢」
煙を吐き出した。
「ええ!」
ザグルが大声を上げた。
カラン
火を焚こうと木を取りに行っていたライトもその話しを聞いていて、思わず薪を落としてしまった。
「それってまさか……」
ザグルとライトは声と目を合わせていた。
それは初春のような冷たくもあり、温かい風が吹いた気候だった。
ザグルはまた一つ、夢へのステップを踏んだような気がした。
そして、『迷宮』の謎も一つ増えた瞬間だった……。
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