第二十三 『見守る視線』
微笑む雨宮蓮を見つめながら、城ヶ崎シャーロットもまた笑顔を深くする。サンドイッチを口に運びながらも、うむうむ、とうなずいていた。
「もぐもぐ。いい笑顔だよー、レンレン。あー……レンレンの部屋に行ってみたーい」
「この部屋は、東京にある」
「うん。そーだよねー。私にワープ機能が搭載されていたら。一瞬で移動しちゃったりするんだけどなー……私、そういうタイプのサイボーグとかじゃないし。残念ながら、生身系の女子高生だしなー」
『生身系?……変な言葉だ。城ヶ崎は、やっぱり、どこか変わっているな……』
「レンレン・ルームに行きたーい。あー……レンレンは、ワープの魔法とか使えるタイプの、魔法使いさんとかじゃないよね?」
「そういう魔法は使えないな」
使えるのは、ペルソナを呼ぶことぐらいか……。
「猫さんとお話し出来るわけだから、実は、ひょっとして……って、考えていたんだけどさー……秘密にしとくから、実は、魔法の国からやって来た魔法少年だったりしたら、コッソリと教えて?」
『魔法少年?……魔法少女に比べて、ずいぶんと可愛げの無い響きがするな……』
「魔法の国の出身じゃない。残念ながら、ただの日本出身の高校生だ」
怪盗団のリーダー、『ジョーカー』であるわけだから、ただの高校生というわけでもないのは確かだが……魔法の国の出身者ではない。
「そっかー。でも、残念じゃないよ。レンレンが魔法の国出身者だったら、魔法の国にいつか帰らないといけないわけで……もしも、それだと、このシャーさんこと、城ヶ崎シャーロットさんは、とっても悲しくなっちゃうところだったのだー!」
城ヶ崎シャーロットは蓮が魔法の国の国民でないことに安心したらしく、ニコニコしながらサンドイッチを食べるのだ……もぐもぐもぐもぐ。
『……可愛らしいケド。いい食いっぷり過ぎるな。見ていて、何だかお腹がいっぱいになって来てしまうぞ……可愛い雰囲気に、釘刺すように残念なトコロが出てくるなぁ』
「ねえ。なんだか、モルガナが、私を褒めてる気がするーっ!……当たり?」
「ああ。半分ぐらいな」
「そっかー……じゃあ、そのうち、私もモルガナの声が聞こえるようになるかな?」
「そういう認識を深めて行けば、そのうちなるかもしれない」
『……ホント。そうなると、我が輩としても面白いんだがな。こっちじゃ、話せるヤツが蓮しかいない。通訳なしで、城ヶ崎とも話してみたいもんだ。からかい甲斐がありそーなヤツだもんな!』
ニヤリとしながら、モルガナは猫フェイスを少女に向ける。最後のサンドイッチをもぐもぐしながら、少女は首を傾げるのだ。
「モルガナ……こっちをじーっと見てる……もぐもぐ……どーかしたの?……もぐもぐ……ハッ!?ま、まさか、このサンドイッチを、狙っているのかな!?」
サンドイッチを強奪されるとでも思ったのか、城ヶ崎シャーロットはそのサンドイッチを勢いよく食べていった……。
「……またノドに詰まらせるなよ?」
「うん。おっけー……今回は、小さなカタマリだったものですから。ぜんぜん、まったくの余裕っす…………っ!?」
豊かな感情表現能力を誇る、城ヶ崎シャーロットの顔が、『驚愕』という名の感情を伝えてくるのだ。その表情に、モルガナはビックリしてしまう。
『な、なんだ、どうした!?』
「や、や、や、やっちゃった……」
『え?』
「何をしでかしたんだ、城ヶ崎?」
うなだれた少女は反省する犬みたいに、しょんぼりとうなだれて、涙目に潤む顔を蓮へと向けてくる。
「……あ、あのねー。レンレン。ごめんね!!」
「どうした?」
「さ、サンドイッチ」
「ああ、サンドイッチがどうした?」
「ほとんど、私が食べちゃった」
蓮とモルガナが弁当箱に視線を移すと、そこにはもうサンドイッチの姿は消え去っていた。
『いつの間に……いい食いっぷり過ぎて、どれだけ食べられちまっているか、気がつかなかったな』
「ごめんね。また、やっちゃった……レンレン、成長期の男の子だもん。それだけじゃ、お腹、空いちゃうよね?」
「いや。まだ正午前だから、そんなでもなかった。十分だよ」
「ふえええ!!レンレン、やさしい!!サンドイッチ作るのも上手だし、さっきのコーヒーもなんだか美味しかったし……あー。レンレンが、お家に一人欲しいよ、シャーさんは……」
『えらく評価されているな……しかし、『また、やっちゃった』……か。こんな感じで、自分だけパクパクと食べちゃった日は、一度や二度じゃなさそうだ。ほんと……面白いようにガッカリ要素が顔を出してくる子だな、城ヶ崎は……』
「モルガナにも、呆れられてるっぽい……レンレンも、実は、怒ってる?」
「いや。美味しく食べてくれたから、オレはうれしいぞ。惣治郎も、自分のレシピを城ヶ崎に気に入ってもらえて、よろこんでいるはずだ」
「そうかあ。うん、前向きに事態をとらえる。それが、レンレンの強さなんだね?」
『……そうかもしれないケド。なんか、このタイミングで言うことなのかな……?』
城ヶ崎シャーロットは、指を組み合わせて祈りの構えを取る。そして、青く晴れた空を見つめながら祈りを捧げるのだ……。
「ソージロウさん。レンレンは、あなたのサンドイッチを継いで、今日も元気に前向きな日々を過ごしています。安心して、空からお見守りください」
『おい!?マスターは生きているぞ!?それじゃ、まるで死んでるみたいじゃないか!?』
「惣治郎は東京で元気に生きているぞ」
「え。そ、そーだったんだ!?……なんか、私、誤解しちゃってたよう。では、あらためまして。ソージロウさん、東京から空を経由して……なんかこう、くにゃっと空に反射するような感じで、レンレンのことをお見守り下さい」
『くにゃっと空に反射って……蓮を見守るマスターのやさしい視線がかよ?……何か、イヤな視線だよな……』
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