ACT219 『五つの死体』
「……そうさ。私には、義務がいくつもあるんだよ。ヒトとして、パイロットとして、軍人として……そして……シドニーを、生き残ってしまった者としての義務ってやつもさ」
ジュナ・バシュタ少尉もまた、リタ・ベルナルのコロニー落としの予言のおかげで命を救われた者の一人なのだから。ならば、もしもリタが行った破壊と殺戮を、生き延びた者がいるとすれば。そんな人物たちを助けなければならない義務を、彼女は感じているのだ。
各種のセンサーを起動して、ナラティブに情報収集をさせていく。高度なセンサーと電算装置が、生命の痕跡をピックアップしていく。まずは、救難タグのついている5人の遺体の回収だ。
「……見つけた。5人分ある……正規の乗組員たちの死体だな。おい、バカ・ツインズ!」
『なんですかー、バシュタ少尉ー?』
『ちゃんとついて行ってますよ?ジェスタも、それなりに速いんだよ』
「それはいいわ。ミノフスキー粒子も薄い。私のナラティブガンダムさまのアンテナが拾った、乗組員の死体の情報を共有するわよ」
『了解っすー』
『データ……おー、来た来た。さすが、オーストラリアで海難救助していただけはあるもんですね。分かりやすくて、正確なデータ収集ですよ』
「オーストラリアじゃなくて、その隣の国なんだけどね」
『似たようなもんでしょー』
『そうだよな。どっちも同じようなもんだろ』
「……ヨソサマからすれば、まあ、そんなものよね……オーストリアもニュージーランドもどっちも同じようなものか……まあ、似てるけどね」
ラグビーが盛んだ。他には何もない。まあ、ニュージーランドには温泉が幾つもあるから、ニュージーランドの方が、コロニー落としによる汚染が進んでいるオーストラリアよりも、かなりマシなのかもしれない。
放射性物質を浴びて、以上に巨大化したマッコウクジラだとかは、見かけることがあるけれど……12メートルまで大きくなる、遺伝子がぶっ壊されたイリエワニの群れがいるような国なんて、笑えない。
「……遺体の位置は確認したわね」
『奇跡的にー、そこまで飛んじゃいませんねー』
『肉片ぐちゃぐちゃってワケでもないみたいですね。コイツらの死因ってのは……?』
「爆風でしょうね。フェネクスが高速で接近して、エンジン部分を切り裂いたのよ。爆発が大きかった。ヘリウム3は臨界しなかったかもしれないけれど……狭い容器に高圧で押し込まれているのよ?……それらが大量に切り裂かれたら、エンジンの爆風と重なりながら、バカみたいな威力の衝撃波になって、輸送機を中から潰しちゃうわよ」
『……衝撃波と、圧力の差で死んだんすかねー』
『そういう死体って、中身がスクランブルエッグみたいになってさ、色々な穴からあふれちゃっている場合があるよな』
「でしょうね。ヒトなんて、工業的なレベルの圧力に耐えられるほど、頑丈な体はしていない」
『生存者がいるんすかねー』
『難民だか密航者だかしらないけどよ、そんな威力に晒されたら、死んでるんじゃないのか?』
「……何かしら頑丈そうな容器にでも身を隠してくれていたら、圧力の攻撃から助かるかも知れないでしょう?……密航者って、意外なものに隠れているものよ」
『なるほどー。ジュナ・バシュタ少尉は、いいキャリアを過ごしてますねー』
『オレたちなんて、殺したり、殺されそうになったり……あとは軍事物資を横流しするような悪党にコキ使われてばかりいただけだ。何も、人生にとってプラスになることを学んじゃいない気がする』
「大尉殿に怒られるわよ。さあ……動きなさい。遺体をモビルスーツの手でキャッチするのよ」
『中身、さらに潰れちゃうんじゃないのー?』
『問題ねえさ。どうせ、死んじまっているんだから、文句は言わん』
「そうね。でも、一応、バイタルは確認しなさい。救難タグが壊れて、生きているのに死亡しているって伝えている可能性だって、ゼロじゃない。ゼロに等しいだけでね」
『了解っすー』
『いい任務だ。グロくなければ、なおよかったんだがな』
「……遺体を回収する任務で善行をつんで、少しはマシな地獄に落ちなさい」
『そんなー。オレたち地獄行き決定なのかよー!?』
『まあ、ろくでもないことしかしてないからな。モビルスーツでゴルフとか、モビルスーツでヒト殺すとかな』
「いい機会に恵まれたじゃない。罪滅ぼしに動きなさい…………ん?」
『どうしたんすかー、少尉?』
『敵をニュータイプの能力で見つけたんだったら、さっさと言ってくれよ?』
「敵じゃない。微弱な信号がある……なんだろう、このノイズ……壊れかけの機械か、あるいは……生存者かもしれないわね……」
『生存者!?マジに、この状況を生き残ったヤツがいるってんすかー!?』
『そいつは幸運だな。とにかくよ、そっちを先に探そうぜ?ぐちゃぐちゃになった死体を見るよりは、元気に生きている方を連れ帰る方がマシだ』
「……そうね。死んじゃったヒトは助けてやれることは出来ないけれど……生きているヤツなら、救えることだってあるものね」
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