第18話
……もっとも、それは妄想力を使える人間がこの女に協力することが前提だけど。
「どう? 不可能な話ではないでしょう?」
「…………」
それは、認めるしかない。
この島さえ、支配すれば。
世界を、支配できるかもしれない。
「それに、今のわたくしたちには、もう一つ、大きな力がある」
「大きな力?」
「神、ですわ」
『神……じゃと?』
尋ねるシャル。
「ええ。絶対神とやらに反乱を起こした神と、取引するのです。この世界を支配するのに協力すれば、絶対神を倒すのに力を貸す、と」
『っ! そんなのに協力する者などおらぬ!』
「そうかしら? 実際、何人かの神はわたくしに協力してくれていますわよ?」
『な……っ!?』
「この前貴女方の前に現れたアダム……あれに宿っていた神は、元々わたくしに協力を誓った神。それを、わたくしがアダムに宿らせたのですから」
『うむむ……』
「さて。いかがですか? わたくしに協力する気はありますかしら? 椎名飛鳥さん」
「……なんで、あたしの名前を?」
「調べましたわ。その程度、わたくしにしたら、造作もないことですので」
「…………」
コイツ、やっぱり世界を支配するとか言っているだけあって、そこそこの力は持っているらしい。
「で? どういたします?」
『そんなの、断るのじゃ!』
「貴女ではなく、飛鳥さんに聞いているのです。少し黙っていてくださいな」
『ぬう……飛鳥、どうするのじゃ?』
「…………」
選択肢は二つ。
協力するか、否か。
ここで、コイツに協力するって言えば、翔平太を治してくれる上に、支配した世界の少しくらい貰えるかもしれない。
なんて魅力的な提案なんだろう。
あたしは、綾瀬川奈々子に――
「クソ喰らえ、バーカ」
――協力なんて、するわけがない。
「……残念ですわ。それならば仕方ありません。わたくしの邪魔をする者は、全て排除して差し上げます」
不敵な笑みを浮かべる綾瀬川奈々子。
「そうですわね……今度は貴女の学友たちにでも、犠牲になってもらいましょうか」
「っ!? ま、待て――」
「それでは、また。椎名飛鳥さん」
あたしの静止を無視し、踵を返して立ち去る綾瀬川奈々子。
「っ!?」
一陣の風が吹いた後、そこには誰もいなかった。
◆
綾瀬川奈々子があたしの前に現れてから、数日が経った。
『学友たちに犠牲になってもらう』。
綾瀬川奈々子のその言葉が気にかかっていたが、今のところうちの学校に異常は起こっていない。
まあ、エロマンガ島内にある学校は、どこもセキュリティーが厳しいから、簡単には手が出せないんだろうな。
そう安心して学校に登校していた今朝が、今は懐かしい。
「きゃぁあ――――っ!?」
「いやっ! 離して!」
「でゅふふ……きゃわいいなぁ」
「ペロペロしたいお」
「小生、もう我慢できないでござる」
「いやぁ! キモい―――ッ!」
「おうふっ! もっと罵ってくだされ!」
教室が、阿鼻叫喚と化していた。
「ど、どうしたんだ!?」
教室の外に避難していた女子生徒に尋ねる。
この状況は、普通じゃない。
「わ、わからないの……突然、男子がおかしくなって、女子に襲いかかってきたのよ」
「……っ!」
教室内の様子を、もう一度見る。
男子生徒は虚ろな目をしながら、逃げ惑う女子を追いかけていた。
まるで、いつぞやの翔平太のように。
『これは、あの娘の仕業じゃろうな』
あたしにしか聞こえないくらいの小さな声で、シャルがそう言った。
綾瀬川奈々子。
あいつの仕業……。
「どうするか……」
今のところ、捕えられた女子は、腕や足をぺろぺろされているだけ。
犯される、なんて事態は起きていない。
それは不幸中の幸いだけど、いつ最悪の事態が起きるか、予断を許さない状況だ。
「うおう!? なんだこれ!?」
横から聞きなれた声。
「涼太?」
「おう」
宮島涼太。
手に鞄を持っているということは、今登校してきたようだ。
いつもの間抜け面でそこに立つ涼太は、教室内の男子生徒たちのように、虚ろな目をしていなかった。
ウイルスに感染していないのだろうか?
「お前はなんともないのか?」
「何が?」
「……なんともないみたいだな」
『……どういうことじゃ』
「? 何が?」
『いや……このウイルスとやら、誰しもに感染するわけではないのか……他の教室ではウイルス感染はみられないとなると、拡散しない? ならば感染者はどうやって……アトランダム? 何か共通点が? いや、それとも――』
シャルは、ぶつぶつと呟きながら、何かを考え始めた。
お願いだから、声を出さないでほしい。
「あいつのおっぱい、喋るんだぜ」みたいな噂が流れたらどうする。
「おい飛鳥」
「なに?」
「これ、一体どういう状況なんだ?」
教室の惨状を確認したのだろうか、涼太がそう尋ねてきた。
「どう? 不可能な話ではないでしょう?」
「…………」
それは、認めるしかない。
この島さえ、支配すれば。
世界を、支配できるかもしれない。
「それに、今のわたくしたちには、もう一つ、大きな力がある」
「大きな力?」
「神、ですわ」
『神……じゃと?』
尋ねるシャル。
「ええ。絶対神とやらに反乱を起こした神と、取引するのです。この世界を支配するのに協力すれば、絶対神を倒すのに力を貸す、と」
『っ! そんなのに協力する者などおらぬ!』
「そうかしら? 実際、何人かの神はわたくしに協力してくれていますわよ?」
『な……っ!?』
「この前貴女方の前に現れたアダム……あれに宿っていた神は、元々わたくしに協力を誓った神。それを、わたくしがアダムに宿らせたのですから」
『うむむ……』
「さて。いかがですか? わたくしに協力する気はありますかしら? 椎名飛鳥さん」
「……なんで、あたしの名前を?」
「調べましたわ。その程度、わたくしにしたら、造作もないことですので」
「…………」
コイツ、やっぱり世界を支配するとか言っているだけあって、そこそこの力は持っているらしい。
「で? どういたします?」
『そんなの、断るのじゃ!』
「貴女ではなく、飛鳥さんに聞いているのです。少し黙っていてくださいな」
『ぬう……飛鳥、どうするのじゃ?』
「…………」
選択肢は二つ。
協力するか、否か。
ここで、コイツに協力するって言えば、翔平太を治してくれる上に、支配した世界の少しくらい貰えるかもしれない。
なんて魅力的な提案なんだろう。
あたしは、綾瀬川奈々子に――
「クソ喰らえ、バーカ」
――協力なんて、するわけがない。
「……残念ですわ。それならば仕方ありません。わたくしの邪魔をする者は、全て排除して差し上げます」
不敵な笑みを浮かべる綾瀬川奈々子。
「そうですわね……今度は貴女の学友たちにでも、犠牲になってもらいましょうか」
「っ!? ま、待て――」
「それでは、また。椎名飛鳥さん」
あたしの静止を無視し、踵を返して立ち去る綾瀬川奈々子。
「っ!?」
一陣の風が吹いた後、そこには誰もいなかった。
◆
綾瀬川奈々子があたしの前に現れてから、数日が経った。
『学友たちに犠牲になってもらう』。
綾瀬川奈々子のその言葉が気にかかっていたが、今のところうちの学校に異常は起こっていない。
まあ、エロマンガ島内にある学校は、どこもセキュリティーが厳しいから、簡単には手が出せないんだろうな。
そう安心して学校に登校していた今朝が、今は懐かしい。
「きゃぁあ――――っ!?」
「いやっ! 離して!」
「でゅふふ……きゃわいいなぁ」
「ペロペロしたいお」
「小生、もう我慢できないでござる」
「いやぁ! キモい―――ッ!」
「おうふっ! もっと罵ってくだされ!」
教室が、阿鼻叫喚と化していた。
「ど、どうしたんだ!?」
教室の外に避難していた女子生徒に尋ねる。
この状況は、普通じゃない。
「わ、わからないの……突然、男子がおかしくなって、女子に襲いかかってきたのよ」
「……っ!」
教室内の様子を、もう一度見る。
男子生徒は虚ろな目をしながら、逃げ惑う女子を追いかけていた。
まるで、いつぞやの翔平太のように。
『これは、あの娘の仕業じゃろうな』
あたしにしか聞こえないくらいの小さな声で、シャルがそう言った。
綾瀬川奈々子。
あいつの仕業……。
「どうするか……」
今のところ、捕えられた女子は、腕や足をぺろぺろされているだけ。
犯される、なんて事態は起きていない。
それは不幸中の幸いだけど、いつ最悪の事態が起きるか、予断を許さない状況だ。
「うおう!? なんだこれ!?」
横から聞きなれた声。
「涼太?」
「おう」
宮島涼太。
手に鞄を持っているということは、今登校してきたようだ。
いつもの間抜け面でそこに立つ涼太は、教室内の男子生徒たちのように、虚ろな目をしていなかった。
ウイルスに感染していないのだろうか?
「お前はなんともないのか?」
「何が?」
「……なんともないみたいだな」
『……どういうことじゃ』
「? 何が?」
『いや……このウイルスとやら、誰しもに感染するわけではないのか……他の教室ではウイルス感染はみられないとなると、拡散しない? ならば感染者はどうやって……アトランダム? 何か共通点が? いや、それとも――』
シャルは、ぶつぶつと呟きながら、何かを考え始めた。
お願いだから、声を出さないでほしい。
「あいつのおっぱい、喋るんだぜ」みたいな噂が流れたらどうする。
「おい飛鳥」
「なに?」
「これ、一体どういう状況なんだ?」
教室の惨状を確認したのだろうか、涼太がそう尋ねてきた。
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