雪の古城に佇む最強
アインツベルン、バーサーカー陣営の話だ。
元はドイツで栄える魔術師の一家であった。聖杯戦争に挑む為に、大規模な魔術を用いて拠点を形成していた。
人の住まわぬ森に現れし雪降る古城は、隔絶した神秘を感じさせた。
事実、並大抵の魔術師では此処にたどり着けない。
幾重にも重ねられた結界が侵入者を阻み。超えた先には最強の英霊が守護している。
此処を襲撃するとすれば、最早それは決戦である。並外れた強者だけが、アインツベルンに挑む資格を得られるのだ。
雪積もる古城にて、バーサーカー陣営が居を構えていた。
イリヤは自室でバーカーカーと会話をしている。
狂化のランクも低く。様々な縁から気が合うおかげで、この時間に今では愛おしさすら感じている。
ベッドに寝転がるイリヤに膝枕をして、静かにバーサーカーがいてくれる。姿形はセイバーとそっくりだ。金髪青目の麗しい美少女である。
正確に言うならば、バーサーカーにセイバーがそっくりなのかもしれない。
「ねえバーサーカー」
眠たそうなイリヤの言葉へ穏やかに返す。
「どうしました?」
やはり、狂化の影響は感じられない。
元よりランクが低く、枷の外しも弱いんだ。基礎ステータスが強く、万能型だったからこそ。反則染みた性能を発揮しているのだ。
「バーサーカーが願いを叶えたら、守護者になっちゃうんだよね?」
守護者。世界の敵を殲滅する掃除屋の名称であった。座に登録された英雄と同じく。世界に刻み込まれた存在であり。純粋な英霊と違って、世界の奴隷として動かされる駒である。
「ええ」
短な返答は、バーサーカーの深い諦観を感じさせた。
彼女は生前に世界と契約をし、この聖杯戦争へと参加している。死後の全てを売り渡すことで、願望機を求めたのだ。
それはつまり、存在が消滅するという事だ。彼女が掲げる願いは、己以上に適した者が騎士王へと至る事である。
自身の消滅を願っている。何の迷いも見せず、バーサーカーは戦い続けるだろう。
そうして聖杯を得てしまったのならば、世界の奴隷として働き続ける。永劫のその次の日まで、彼女は戦い続ける存在へと堕とされる。
「そっか。それなら、私を知っている人はいなくなっちゃうんだ」
もう父も母も残っていない。皆死んでしまった。残された少女の心を知るのは、目の前の英霊だけである。
「イリヤ…」
「うん。分かってる」
寂しげな声色だが迷いはなかった。日常を望むも出来たけれど、聖杯に至ることこそ、今の彼女の目標であった。
「私は聖杯だから。役目を果たさないとね」
文字通りの意味合いとして、彼女は聖杯としてありつづける。英霊が消滅する度に、魂が彼女の心臓へと注がれていくんだ。徐々に人としての機能をなくして、願望機として変化していく。
そこに憎しみはなく。天の杯として至るだけ。
「でも、真実を教えてくれてありがとうセイバー」前回の聖杯戦争に参加した時の呼び名。
バーサーカーが――アーサー王がセイバーとして呼ばれた時の話だ。聖杯戦争の勝者は、他ならぬ士郎の師。衛宮 切嗣であり。彼はアイツベルンに雇われた傭兵だった。
「切嗣が私を愛してくれて良かった…」
イリヤは、そんな彼の一人娘だったんだ。…見捨てられたと思っていた。憎悪を宿し、残し子の士郎も殺そうと思っていたけれど。
「貴女以外だったら、真実に気づけなかったわ」
バーサーカーが真実を暴いたおかげで、憎悪はとうに消え去っている。
本来ならばありえなかった話だ。切嗣が、彼女を取り戻すために足掻いた事実を、知ることなんて出来たはずがない。
人並み外れた直感と、与えられたピースから推測したに過ぎない。
切嗣が泥に汚染されたのを、彼女は知っていたのだ。そうして疲弊したとしても、あの男が娘を諦める筈がないと確信していた。だから、翁に問いかけてたのだ。
結果として、イリヤを残し他の家の者達は死に絶えた。狂戦士が暴れたのである。
それでも、天の杯に至る願いは消えず。
かつて切嗣が抱いた、世界平和だとかの想いは残っていない。
それでも、かつてアーサー王が呼び出された時に、結局救えなかった女が居た。その者が残した命の果てが、愛を見失っているなんて。
「私はすべき事を終えただけです」
狂気に堕ちた彼女でも許せなかった。結果として戦いは止まらず。
小さな悲しみと共に、士郎を殺す覚悟を決めていた。
「だから、貴女の願いを私が叶えてあげる」
それが消滅を約束するであろうと知っていても、イリヤは迷いなく実行するだろう。それだけの想いを貰った。
「この世総ての悪だろうと、私が使えば聖杯に至れるから」
汚染された事実を知っていても、膨大な魔力量に変わりはなく。願望機として生まれた彼女は、願いを叶えられると確信している。
「だから貴女の勝利を私に捧げて」
「御意。この身この剣は主の為に、如何なる障害も切り捨てて見せましょう」
誓いはここに果てなく重く。固く結ばれた主従の絆は、易々と壊せない。心身共に最強のコンビであった。
元はドイツで栄える魔術師の一家であった。聖杯戦争に挑む為に、大規模な魔術を用いて拠点を形成していた。
人の住まわぬ森に現れし雪降る古城は、隔絶した神秘を感じさせた。
事実、並大抵の魔術師では此処にたどり着けない。
幾重にも重ねられた結界が侵入者を阻み。超えた先には最強の英霊が守護している。
此処を襲撃するとすれば、最早それは決戦である。並外れた強者だけが、アインツベルンに挑む資格を得られるのだ。
雪積もる古城にて、バーサーカー陣営が居を構えていた。
イリヤは自室でバーカーカーと会話をしている。
狂化のランクも低く。様々な縁から気が合うおかげで、この時間に今では愛おしさすら感じている。
ベッドに寝転がるイリヤに膝枕をして、静かにバーサーカーがいてくれる。姿形はセイバーとそっくりだ。金髪青目の麗しい美少女である。
正確に言うならば、バーサーカーにセイバーがそっくりなのかもしれない。
「ねえバーサーカー」
眠たそうなイリヤの言葉へ穏やかに返す。
「どうしました?」
やはり、狂化の影響は感じられない。
元よりランクが低く、枷の外しも弱いんだ。基礎ステータスが強く、万能型だったからこそ。反則染みた性能を発揮しているのだ。
「バーサーカーが願いを叶えたら、守護者になっちゃうんだよね?」
守護者。世界の敵を殲滅する掃除屋の名称であった。座に登録された英雄と同じく。世界に刻み込まれた存在であり。純粋な英霊と違って、世界の奴隷として動かされる駒である。
「ええ」
短な返答は、バーサーカーの深い諦観を感じさせた。
彼女は生前に世界と契約をし、この聖杯戦争へと参加している。死後の全てを売り渡すことで、願望機を求めたのだ。
それはつまり、存在が消滅するという事だ。彼女が掲げる願いは、己以上に適した者が騎士王へと至る事である。
自身の消滅を願っている。何の迷いも見せず、バーサーカーは戦い続けるだろう。
そうして聖杯を得てしまったのならば、世界の奴隷として働き続ける。永劫のその次の日まで、彼女は戦い続ける存在へと堕とされる。
「そっか。それなら、私を知っている人はいなくなっちゃうんだ」
もう父も母も残っていない。皆死んでしまった。残された少女の心を知るのは、目の前の英霊だけである。
「イリヤ…」
「うん。分かってる」
寂しげな声色だが迷いはなかった。日常を望むも出来たけれど、聖杯に至ることこそ、今の彼女の目標であった。
「私は聖杯だから。役目を果たさないとね」
文字通りの意味合いとして、彼女は聖杯としてありつづける。英霊が消滅する度に、魂が彼女の心臓へと注がれていくんだ。徐々に人としての機能をなくして、願望機として変化していく。
そこに憎しみはなく。天の杯として至るだけ。
「でも、真実を教えてくれてありがとうセイバー」前回の聖杯戦争に参加した時の呼び名。
バーサーカーが――アーサー王がセイバーとして呼ばれた時の話だ。聖杯戦争の勝者は、他ならぬ士郎の師。衛宮 切嗣であり。彼はアイツベルンに雇われた傭兵だった。
「切嗣が私を愛してくれて良かった…」
イリヤは、そんな彼の一人娘だったんだ。…見捨てられたと思っていた。憎悪を宿し、残し子の士郎も殺そうと思っていたけれど。
「貴女以外だったら、真実に気づけなかったわ」
バーサーカーが真実を暴いたおかげで、憎悪はとうに消え去っている。
本来ならばありえなかった話だ。切嗣が、彼女を取り戻すために足掻いた事実を、知ることなんて出来たはずがない。
人並み外れた直感と、与えられたピースから推測したに過ぎない。
切嗣が泥に汚染されたのを、彼女は知っていたのだ。そうして疲弊したとしても、あの男が娘を諦める筈がないと確信していた。だから、翁に問いかけてたのだ。
結果として、イリヤを残し他の家の者達は死に絶えた。狂戦士が暴れたのである。
それでも、天の杯に至る願いは消えず。
かつて切嗣が抱いた、世界平和だとかの想いは残っていない。
それでも、かつてアーサー王が呼び出された時に、結局救えなかった女が居た。その者が残した命の果てが、愛を見失っているなんて。
「私はすべき事を終えただけです」
狂気に堕ちた彼女でも許せなかった。結果として戦いは止まらず。
小さな悲しみと共に、士郎を殺す覚悟を決めていた。
「だから、貴女の願いを私が叶えてあげる」
それが消滅を約束するであろうと知っていても、イリヤは迷いなく実行するだろう。それだけの想いを貰った。
「この世総ての悪だろうと、私が使えば聖杯に至れるから」
汚染された事実を知っていても、膨大な魔力量に変わりはなく。願望機として生まれた彼女は、願いを叶えられると確信している。
「だから貴女の勝利を私に捧げて」
「御意。この身この剣は主の為に、如何なる障害も切り捨てて見せましょう」
誓いはここに果てなく重く。固く結ばれた主従の絆は、易々と壊せない。心身共に最強のコンビであった。
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