ACT146 『最後の休息』
「……情報は、こんなところね。パイロットではない私には、よく分からない数字の列とかも見えたけれど。貴方たちパイロットには、あの数字の意味も、モビルスーツの動きとして捉えることが出来ているワケね……?」
「もちのろーん!!」
「そういうことだ!!」
「……へへへ。本当かよ、双子のバカども」
そうだとすれば、大した成長なんだがな……コイツらは、腕もあるし、才能もあるんだが……座学の成績が、かなり悪いからな。
習うよりも慣れて覚えるタイプだ。秀才とかよりも、ちょっと物覚えのいい利口なワンちゃんぐらいの頭しかないんだがな……。
かなり失礼な考えを大尉は双子のパイロットどもにしていたが、その認識は、あながち間違いでもない。彼らは、宇宙戦闘用のデータ描写の幾つかを、理解してはいなかった。それでも、動きだけで状況を把握するほどには、動物的才能が優れてもいるのだ。
「……さて。このデータは、超がつくほどの機密情報だけど。貴方たちの連邦軍御用達のパーソナル端末に送信しておいてあげるわ。ヨソに送らないこと。情報漏えいしたヤツには、ニューホンコンの冬の海が、どれだけ冷たいかを教えてあげることになるわ」
「……本気のマフィア発言だぜー!!クールだなー、ミシェル・ルオさん」
「……マジで、ファンになりそう!!オレ、そういうセリフを言いたい願望って、あるんだよなあ!!……雇ってもらいたいぜ、ルオ商会にっ!!」
マフィアに憧れる不良少年の心を持つ、バカな双子のことを大尉は困った顔で見つめていた。
ヤツらの母親は、このバカどもが、そこまで堕落することを望んではいないだろうが…………いや、双子の証言を鵜呑みすれば、そんなことも気にしないタイプか。
まったく、どいつもこいつも。地球には、ろくなヤツがいなくなっちまっている気がするぜ……だから、火星なんぞに……ちょっとした憧れを抱いているのだろうか?……地球に対する絶望が由来の?
……そうだとするのなら、オレも、少しシャア・アズナブルっぽい性格があるのかもしれない。年を取り過ぎちまったということかもしれんなァ。自分の命の、有意義な消費先を探し出しているような気がするぜ。それは……ちょっと死に近づくような気配があるな。
「じゃあ。皆、今日はゆっくりと休みなさい。休息をしっかりと取った後で、明日の朝にはシャトルで宇宙に向かうわよ?……『不死鳥狩り』の本番が始まる。拒否権は、ないからね?」
「……拒否などしないさ」
「軍人として、責務は果たすことにしている」
「お金もらえるみたいすからー、やる!!」
「兄弟と同じ!!……大金稼いで、今後の人生を楽に過ごしてやるんだよ」
「……オレは……そうだな。金のためなら……って、ことで」
「素直なパイロットさんたちで、助かるわ。女でも男でも、酒でも何でも、欲しいものがあるのなら、そこらにいるスタッフに言いなさいな。およその快楽を、叶えてくれるはずだからね」
「マジかー!!」
「ルオ商会、最高だぜ!!ああ、ここの子になりてえ!!」
「……呑気なもんだぜ」
「アンタは、そういうのは嫌いなのか?」
「普段は大好きなんだが―――ユニコーンガンダム3号機、『フェネクス』に……『袖付き』っぽい連中の『エース』……そいつらを目の当たりにしちまうとな。今夜は、フランソンくんと、アンタの2番機がどう動くべきかを語らってくるとするよ」
「……そいつは、色気がないが。オレも付き合おう。酒は、持ち込むことにするがな」
「いいねえ。東アジアの酒にも、興味がある。せっかく、酒好きとして生まれて来たんだからな。この世の酒の全てを、口に含んだ後に死にたいもんだぜ」
「フフフ。なかなか、いい哲学をしているじゃないか。世界の酒を、全て呑むか……」
「そうだろう?……こういう渋さを、オレの双子のバカどもでは、理解しちゃくれなくてなァ……まあ、いい。オッサン同士で、作戦会議と行こうや」
「……おい。それなら私も混ぜろ」
特訓の日々の結果、向上心が強まっているジュナ・バシュタ少尉は、ベテラン・パイロットたちの語らいを聞き、少しでも戦い方を磨きたいと考えていた。
そのマジメさを、イアゴ・ハーカナ少佐は評価してやりたい気持ちにもなるが、そういうワケにもいかない。
「却下だ。お前は、輸送機でオーストラリアからここに飛ぶ間もシミュレーターで訓練漬けになっていた。肉体を休めるべきだ」
「そうだぜ、ジュナ・バシュタ少尉サンよ……オッサンたちは、連携しなくちゃ戦えないが、少尉のやることは、オレたちと少し違うだろう?」
「……接近し、サイコ・キャプチャーで『フェネクス』を捕らえる。それがお前の役目だ。オレたちの役目は……そっちじゃない。分かるな?」
「……ああ。私が、失敗した後のフォローか」
「そうだ。幼なじみの乗る機体を、破壊されたくなければ……体を休めて、ワンチャンスに賭けろ。フォローは、オレたちがしてやる。それが……かつて、お前たちが子供だったときに、何もしてやれなかった大人の……罪滅ぼしだ」
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