序章
カルミラ王国の国宝は珍しい黒のダイヤモンドだった。
鉱山に囲まれた島国で宝石の原石を堀だし加工して輸出することで国益を保っていた。
そのため、国民のほとんどが職人であり、それぞれが腕を磨きアイデアを屈指して国の反映を担っていたといってもいい。
カルミラ王国の職人は他国からも認められ、技術を欲しがる国も少なくはなかった。
カルミラ王国が存在する世界にはいくつかの国が存在していたが、基本はふたつの国が勢力を二分し、それぞれの国の傘下になっている。
カルミラ王国は世界一と言われるカーラ帝国の傘下国。
カーラ帝国の国力の恩恵の下で長い平和が続いていたのだが……
その平和はある日予兆もなく終わりを迎える。
カルミラ王国の国王は、臣下の者たちにすぐ国外に避難するよう諭される。
カーラ帝国の傘下にある国であるなら、快く聞き入れてもらえるはずだからだった。
またこの危機はすぐカーラ帝国にも伝わり、在住しているカーラ帝国の軍勢が来てくれる約束にもなっていた。
長年に渡る信頼関係があるのなら逃げる必要はない、また国民より先に逃げるわけには……と、国王は避難を拒みます。
しかし、国王さえ生き延びればまた国は建て直すことができると説得を試みるも、国王は聞き入れることはなかった。
代わりに、妃と姫を無事に国外へと連れだしてほしいと、信頼できる臣下に託す。
「わかりました。国王がそうまで仰るのでしたら。仰せのままに従いましょう。それで、どう妃と姫を?」
島国であるカルミラ王国からの出るのは簡単なことではない。
普段ならいい、しかし今は危機が迫り、敵はもう目の前に迫っていた。
すでに港は押さえられているという情報もある。
「空を使おう」
「空、ですか? 船と違い、我々には空を自由に飛び回れるほどの技術はありません」
周りを海で囲まれたカルミラ王国は宝石加工に加え造船の技術も他国より秀でていた。
カーラ帝国がカルミラ王国の技術を使い戦艦を開発したくらいなのに対し、空を飛ぶ飛行艇の開発はほとんど発展しなかった。
「わかっている。だから、空から逃げたと思わせておいて、陸路で逃げてもらう」
「陸路ですか? ということは、この国に隠れると?」
「そうだ。身分を捨て一庶民としてなら命まではとられないだろう。いずれ時がくれば国外に出ることもできよう」
「しかし、危険な賭けです」
「だから、わたしが囮になるのだよ」
「こ、国王! それはなりません」
「では、わたし以上に敵の目を引きつけられる者がいるか?」
「それでしたら、わたくしが」
玉座の間に鳥のさえずりのような声が響く。
国王の歳が三十半ば、妃はまだ十八歳と少女といってもいい。
「妃、なにを仰せです?」
臣下が驚きを露わにする。
「もともとわたくしはカーラの出です。カルミラに手を出せてもカーラに手を出すほど大それたことはしないでしょう。わたくしが囮となり姫を逃がします」
「妃、そなた……わたしはそなたにそのようなことをさせるために、カーラから嫁がせたわけではない」
「存じております。わたくしは、国同士の政略結婚とは思っておりません。ずっと王のことをお慕いしていましたの。ですから、カルミラに嫁ぐよう言われたときは、運命なのだと思いましたわ。ですから、王。愛するあなたの子をわたくしに守らせてください。わたくしはずっと王と共に。心はずっと王と姫の傍におりますから」
命は平等とはいうものの、やはり優劣はできてしまう。
カルミラ王国で一番大切な命は国王、そして次は世継ぎとなる。
第一子が姫であったため、国王の命はもっとも守らなければならないものとなっていた。
王さえ生き残れば妃の代わりはまだいる。
その妃が世継ぎである王子を産みさえすれば国は安泰なのだ。
冷酷のようだが、それが国を支える、滅亡させないための選択になる。
「妃、ご立派です。本当に申し訳ない。ですが、王、今は妃のお言葉に従うのが最善ではないでしょうか」
王は顔を歪め、頷くのを拒むが、妃はそんな王にほほえみかける。
「そんな顔をなさらないでください。どうか姫をお願いいたします」
すると妃は王の決断を聞くこともなく、数人の護衛兵を従え玉座の間を去る。
残された王は、膝から崩れ落ちた。
「なんと情けない王であろうか、わたしは」
爪が手のひらに食い込み、皮膚を破り血がにじむ。
傍にいる臣下も、唇を噛みしめていた。
彼らもできることならまだ幼さの残る妃を犠牲にはしたくない。
残される姫は産まれてまだ日が浅く、これから母の愛情を欲するのがわかっているだけに、できれば姫ともども逃がしたがった。
せめて世継ぎの王子さえいてくれたら……
「行ってください、王。ここは我々が」
臣下は時間稼ぎのために王の身代わりとなるという。
その間に城に出入りしている職人になりすまし城下町に出るように勧める。
姫は城の隠れ通路から城下町の外へと逃げ、ほとぼりがさめた頃、ともに国外に出ようと計画を告げた。
そして二十年の月日が経つ。
鉱山に囲まれた島国で宝石の原石を堀だし加工して輸出することで国益を保っていた。
そのため、国民のほとんどが職人であり、それぞれが腕を磨きアイデアを屈指して国の反映を担っていたといってもいい。
カルミラ王国の職人は他国からも認められ、技術を欲しがる国も少なくはなかった。
カルミラ王国が存在する世界にはいくつかの国が存在していたが、基本はふたつの国が勢力を二分し、それぞれの国の傘下になっている。
カルミラ王国は世界一と言われるカーラ帝国の傘下国。
カーラ帝国の国力の恩恵の下で長い平和が続いていたのだが……
その平和はある日予兆もなく終わりを迎える。
カルミラ王国の国王は、臣下の者たちにすぐ国外に避難するよう諭される。
カーラ帝国の傘下にある国であるなら、快く聞き入れてもらえるはずだからだった。
またこの危機はすぐカーラ帝国にも伝わり、在住しているカーラ帝国の軍勢が来てくれる約束にもなっていた。
長年に渡る信頼関係があるのなら逃げる必要はない、また国民より先に逃げるわけには……と、国王は避難を拒みます。
しかし、国王さえ生き延びればまた国は建て直すことができると説得を試みるも、国王は聞き入れることはなかった。
代わりに、妃と姫を無事に国外へと連れだしてほしいと、信頼できる臣下に託す。
「わかりました。国王がそうまで仰るのでしたら。仰せのままに従いましょう。それで、どう妃と姫を?」
島国であるカルミラ王国からの出るのは簡単なことではない。
普段ならいい、しかし今は危機が迫り、敵はもう目の前に迫っていた。
すでに港は押さえられているという情報もある。
「空を使おう」
「空、ですか? 船と違い、我々には空を自由に飛び回れるほどの技術はありません」
周りを海で囲まれたカルミラ王国は宝石加工に加え造船の技術も他国より秀でていた。
カーラ帝国がカルミラ王国の技術を使い戦艦を開発したくらいなのに対し、空を飛ぶ飛行艇の開発はほとんど発展しなかった。
「わかっている。だから、空から逃げたと思わせておいて、陸路で逃げてもらう」
「陸路ですか? ということは、この国に隠れると?」
「そうだ。身分を捨て一庶民としてなら命まではとられないだろう。いずれ時がくれば国外に出ることもできよう」
「しかし、危険な賭けです」
「だから、わたしが囮になるのだよ」
「こ、国王! それはなりません」
「では、わたし以上に敵の目を引きつけられる者がいるか?」
「それでしたら、わたくしが」
玉座の間に鳥のさえずりのような声が響く。
国王の歳が三十半ば、妃はまだ十八歳と少女といってもいい。
「妃、なにを仰せです?」
臣下が驚きを露わにする。
「もともとわたくしはカーラの出です。カルミラに手を出せてもカーラに手を出すほど大それたことはしないでしょう。わたくしが囮となり姫を逃がします」
「妃、そなた……わたしはそなたにそのようなことをさせるために、カーラから嫁がせたわけではない」
「存じております。わたくしは、国同士の政略結婚とは思っておりません。ずっと王のことをお慕いしていましたの。ですから、カルミラに嫁ぐよう言われたときは、運命なのだと思いましたわ。ですから、王。愛するあなたの子をわたくしに守らせてください。わたくしはずっと王と共に。心はずっと王と姫の傍におりますから」
命は平等とはいうものの、やはり優劣はできてしまう。
カルミラ王国で一番大切な命は国王、そして次は世継ぎとなる。
第一子が姫であったため、国王の命はもっとも守らなければならないものとなっていた。
王さえ生き残れば妃の代わりはまだいる。
その妃が世継ぎである王子を産みさえすれば国は安泰なのだ。
冷酷のようだが、それが国を支える、滅亡させないための選択になる。
「妃、ご立派です。本当に申し訳ない。ですが、王、今は妃のお言葉に従うのが最善ではないでしょうか」
王は顔を歪め、頷くのを拒むが、妃はそんな王にほほえみかける。
「そんな顔をなさらないでください。どうか姫をお願いいたします」
すると妃は王の決断を聞くこともなく、数人の護衛兵を従え玉座の間を去る。
残された王は、膝から崩れ落ちた。
「なんと情けない王であろうか、わたしは」
爪が手のひらに食い込み、皮膚を破り血がにじむ。
傍にいる臣下も、唇を噛みしめていた。
彼らもできることならまだ幼さの残る妃を犠牲にはしたくない。
残される姫は産まれてまだ日が浅く、これから母の愛情を欲するのがわかっているだけに、できれば姫ともども逃がしたがった。
せめて世継ぎの王子さえいてくれたら……
「行ってください、王。ここは我々が」
臣下は時間稼ぎのために王の身代わりとなるという。
その間に城に出入りしている職人になりすまし城下町に出るように勧める。
姫は城の隠れ通路から城下町の外へと逃げ、ほとぼりがさめた頃、ともに国外に出ようと計画を告げた。
そして二十年の月日が経つ。
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