第五十八話 ナポリタンな朝?
モルガナの尻尾を追いかけた城ヶ崎シャーロットがリビングにたどり着いた頃には、蓮は鍋にパスタを入れる頃だった。
「おはよー、レンレン!」
「……ああ。お早う、城ヶ崎」
『む。パスタを茹でるのか?……トーストかと思ったが……』
「すぐに出来るからな。朝はナポリタンでいいな?」
「ナポリタン・スパゲティ?……やったー。そういうの、大好きなんだー。レンレン、私の心を読むの?寝言で言ったかな?」
『寝言で言ったとしても、蓮には聞こえないだろうに』
「テーブルで待っていろ。すぐに出来る」
「ラジャー。でも、何か手伝うけど?」
「……そうか。それなら、コーヒーとカフェオレが出来ている。それをテーブルに持って行ってくれるか?」
「うん。えへへ。なんか、あれだねー……ど、同棲とかしちゃっているカップルみたいだよねー…………っ」
自分で口走ったセリフに、城ヶ崎シャーロットは顔を赤らめてしまう。
「い、今のナシね!!ナシ、無かったことにするのがいい発言ですから、議長!!ほら、議長も挙手をもって、そうだぞーって言ってますし!!」
少女に抱きかかえられた猫は、右前脚を持ち上げられて、強制的な挙手のポーズをすることになる。不満げな声で、猫の議長は文句を垂れた。
『誰が議長だ』
「……どうでもいいから働け」
「は、はーい!!」
城ヶ崎シャーロットはパタパタと走り、蓮の命令に従ってコーヒーとカフェオーレを運んでいった。
蓮はタイマーでパスタの茹で時間を計り、最適のタイミングでザルへと取り上げていく。湯切りをしたパスタを、前もってフライパンの上で炒めていたソースの上に投入するのだ。
塩コショウを振った玉ねぎとピーマン、スライスしたウインナーとベーコン、そして香りの良いニンニク。それらを水を足したケチャップで炒めて作っていたソースだ。
それにパスタを投入して、豪快にかき混ぜていく。シンプルだが、ベーコンやウインナーの脂からは、たっぷりと旨味が出ていて具材とパスタに絡んでいくのだ。
パスタとソースをかき混ぜながら炒めていき、すぐに完成した。
蓮はそれを三人分に分けていく。蓮と城ヶ崎シャーロットの分は普通の深皿に盛ったが、モルガナの分は少し気配りをする。薄いサンドイッチ用のパンで挟むことで、猫の姿でも食べやすい形にしてやるのだ。
『……ふむ。スパゲティ・サンドか……っ!それならば、我が輩にも食べやすいな!』
「レンレン、アイデア主婦だよねー。さすがは喫茶店で住み込みの修業をしたようなカンジの人だよね!」
「まあな。じゃあ、メシにしよう」
「うん!」
『賛成だ。我が輩も、腹が減ってきてしまったぞ』
三人はテーブルに着いた。モルガナはテーブルの上に乗り、豪快にスパゲティ・サンドに噛みついていく。
「モルガナって、器用だねー」
フォークを器用に操りながら、城ヶ崎シャーロットはナポリタン・スパゲティをそれに絡ませる。大きめのパスタのカタマリを、朝の飢えた胃袋を持つ少女の口が、大きく開かれてパクリと一口で放り込む。
「もぐもぐもぐ!……美味しい。お店に出せちゃう味だよねー。レンレン、マジ・スゲー……っ」
『まったくだ。本気で喫茶店という進路も考えていいかもしれないぞ。蓮は器用だから、数年後には更に料理のレパートリーを増やしているだろうしな……』
「……考えておく」
我ながら会心作だったな。蓮はナポリタン・スパゲティを食べながら、そんな評価をつけていた。基本に忠実だが、具材の火の通り方も良くなっているような気がする……。
……満足していい出来だった。
ナポリタン・スパゲティを食べ終わった三人は、コーヒーとカフェオーレを飲んだ。モルガナが世界情勢を気にして、テレビのリモコンを操りニュース番組をつける。
『……ふむ。今日は一日、晴れているみたいだな』
「よいことだね」
「そうだな」
『……ニュースは……政治家の汚職に、スポーツ選手の結婚……身近な場所に事件は起きていないか』
「身近な場所ー?」
『ああ。あの七不思議の影響が出ていたのが、我が輩たちだけとは限らない。もしかすると、他にも影響が出ていたのかもしれない……そう思ってな』
「なるほどねー……それで、どんなカンジ?」
『今言っただろ?……とくにニュースはないみたいだ。ローカルのチャンネルだから、人が死ぬような大事件でもあれば、ノーリアクションってことはないだろうよ』
「人が、死ぬ……そ、そうだよね。あの子……私のコト、屋上から引きずり落とそうとしていたんだ……っ」
城ヶ崎シャーロットは身震いをした。恐怖を思い出しているのだろう。
『……蓮。スマホで調べて見てくれないか?』
「ああ………………大丈夫そうだ。近所では、ニュースになるような事件は起きていないようだ。今のところはだが」
『……ああ。彼女は、殺意のカタマリだった。放っておけば、その内、人を殺すかもしれない……何とか、我々で事件を解決してやろうぜ』
「そうだね!……探偵団な気分だ!」
『怪盗団なんだがな……』
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