剣の少年と愉快な冒険者たち(前編)②
「なんども言うが、やりたい事が出来たんだ!」
「あんたは、そう言っていつも誤魔化すが、いったい何がやりたい事なんだよ」
「聞きたいか?」
「別にいいけど……」
はっきり言って、人がどうなろうが、どんな事がしたいのか、興味が無かった。
しかし、完全に興味が無い訳では無い。
「そう、言うから答えないんだ」
それに損な性分な為、素直に頼む事が出来ない。
それは、自分の首をよく絞める行動である。
「じゃあ、知りたい」
ここは仕方なしに、本音を聞いた。
「なら、教えてやる。それは、冒険だ。血湧き、肉踊る大冒険……。まだ見ぬお宝を手に入れるため、仲間を引き連れて旅をする……。どうだ。興奮するだろう!」
ルミアの方が素直な性格で、曲がることなく、しっかり自分の目的を伝えた。
「別に」
店のジュースをずるずる、音を立てて飲んだ。
「もっと、現実見ろよ。森や山奥へ行けば魔物が蔓延っているんだ。それを退治していった方がいいだろう。普通!」
ザグルは立ち上がり、テーブルを叩いた。
「お前も少しは夢を見ろよ!」
ルミアもザグルと同じ事をした。
「夢見過ぎなんだ! だいたい、夢ならある!」
あまりにも二人がうるさいから、他の客や店員の冷たい視線が集中した。
気まずくなり、二人は同時に座り込み、深呼吸をして落ち着いた。
「分かっているよ。強くなりたいんだろ?」
修練をしていた時から何度も聞いた。
ザグルの『夢』である。
勿論『力』による強さだ。
昔、魔法が使えない為にバカにされた。
それを見返し為に、そして自分のこれからの為に、その『力』が必要だった。
同時に剣の力を認めて貰いたかった。
「そうだ。分かってんなら聞くなよ」
ザグルはぷいっと、そっぽを向いた。
だから、心配でしょうがないのだ。
強くなり過ぎると何もかも無くしてしまう。
それを分かっていて、心配しているルミアはザグルの事を師匠の次に気にしていた。
その為、会おうとするし、ご飯を奢ったりもしていた。
「分かっているさ。だけど、良いじゃん今回くらい」
「断る」
「お前も、頑固だな」
「あんたに言われたくない」
「それもそーだ。でも、内容くらい聞けよ。悪いようにはしないからさ」
「んじゃ、内容だけなら」
ルミアが真剣に頼むから、断るのも悪いと思った。
「そうこなくっちゃ、まあ、地図を見てくれ」
足元に置いてあった大きなリュックから、あまり新しくない、少し茶色がかった一枚の紙を取り出した。
「宝探しに行きたいんだ」
「行けば?」
地図を見たけど、やはり冒険には興味がわかず、目を逸らした。
「人数が必要なんだよ」
「あんたの仲間じゃ足りないのか?」
「まあ、足りるはずだなんだ。数はね。だけど、力が足りないんだ?」
「力?」
「メンバーの専門分野知っているだろう?」
「まあ」
昔、嫌々紹介されたのだ。
ザグルはジュースのお代わりを頼んで、再び飲んでいる。
これも人のお金だから出来る事だ。
ルミアは一瞬睨んだが、話を続けた。
「俺は盗賊だろ? 他には僧侶に魔法使い、戦士と一人ずついるだろう? でも、どう考えても力に乏しい連中だ」
この場合の『力』は、力仕事の方の『力』である。
魔法中心の世界では戦士と言っても魔法戦士で、魔法と剣術を兼用していた。
剣は錆びた世界な為、その戦士もあまり剣は使わず、事実上は魔法使いとなるが、戦士は攻撃魔法を専門にし、魔法使いは補助魔法を専門としていた。
ちなみに僧侶は回復魔法が専門分野である。
「そうだけど、だったら、あんたが職業を変えれば? あんただって魔法を使うことも剣術を使う事も出来るだろう?」
師匠の所にいた時よく剣の相手をしていし、魔法の修行も見ている。
ルミアの力は充分に知っていた。
「それは俺のポリシーが許さん!」
盗賊である事に高いプライドを持っていた。
だから、なるべく魔法は使いたくなかった。
「どんなポリシーだよ」
誇りを持っているのに、よそ者のザグルに声をかけるのも、鬱陶(うっとう)しい話である。
「なあ、金出すし、やらないか?」
「金を出すのは当たり前だろう」
二杯目のジュースも飲み終えた。
名物ジュースだけあって、なかなか美味しいのだ。
ピンクの色をした甘いジュース。
この街の名産品で奇麗なピンク色の味はリンゴに近い果物だ。
もう一杯飲みたいため、空のコップをじっと見ていたら、今度はルミアが気を利かせ頼んだ。
「まあ、そうだけど、どうしてもダメ?」
「ダメ」
「どうして頑ななんだ? ……分かった傭兵として雇う。だから、魔物を退治するだけでいいんだ。だったらいいだろう?」
彼はここまで本気だった。
そこまで頼まれると断る事が出来ない。
「……まあ、それならいいか……。だけど、今回だけな」
「よっしゃ決まりだ。それでさっそくだが話しを聞いてくれ」
ルミアとザグルは地図に目を向けた。
「まあ、ここに呼んだのはこの為だったんだ。俺達はこの近くにある遺跡を探索したいんだ」
目的地を指した。
そこは、ジャガから五キロほど離れた森だった。
そこに遺跡があるのだ。
「あのなー、辺境の地ならともかく、こんな都会の遺跡なんて、ほとんど荒らされてんだろ? 何もない事なんて素人のオレでも分かるぞ」
お代わりのジュースがやってきて、飲み始めた。
「それなら、俺にだって分かる。だけど最近妙なんだ」
「妙?」
「ああ、なんか、魔物がよく出入りするんだ」
「魔物ね~」
冒険には興味無かったが、魔物と聞いて少しは興味が出てきた。
ただ、ほんの少しだったが……。
「その魔物が夜な夜な宝を運んでいるとか、トラップを仕掛けているとかで、怖くてその森に近づけなくなっているんだ。あそこには恵みが多いから、そこは必要な場所なんだ」
「だったら、騎士団とか、自警団とか動かせばいいじゃないか?」
「それが、魔物の規模が分からないんだ。どの位いて、どんな魔物か、そんな中で動くのは自殺行為だろ? 平和な街でも、いつ壊滅するか分からないんだから」
騎士団、自警団は国の治安を一番としているのだ。
ルミアは人の歩いている姿を見た。
平和そのものだけど、いつ、この街が無くなるか分からない。
そんな街をザグルとルミアはいくつも見てきた。
しかし、懸命に生きている人間。
だから、滅びる事が無いのだ。
「だいたい、向こうも危機を感じていないし、戦力を割く事ができないんだ」
「それで、冒険者の出番って訳か……。でも、もう、解決しているんじゃないの?」
「それが、俺たちが一番乗りさ……。俺が徹夜して手に入れたクエストだからな」
ルミアは嬉しそうに話していた。
冒険者が冒険し易いように、冒険者ギルドが国のいたるところにある。
そのギルドで主に冒険を手に入れるのだ。
勿論、早い者勝ちで、一度手に入れた冒険を横取りするのは、反則とされていなかった。
だが、冒険者たちの暗黙の了解で横取りしてはいけない事になっている。
もし、横取りした場合、冒険者の間でも、はじき者になるのは必至だった。
それでも、横取りする冒険者は後を絶たなかったが……。
「あっそう」
「さあ、明日からだ。今日はよく休めよ」
ルミアは立ち上がり、大きなリュックを持った。
「休めよって、オレの止まる場所はあるよな~」
「勿論」
「馬小屋でも豚小屋でもないよな」
昔、お金がなく、困った挙句ルミアに頼ったら牛小屋に入れられた事があるのだ。
「そこの所は大丈夫だ。今回は正式に雇ったんだから」
「やったね」
ザグルは喜び、ジュースを一気飲みして、店を出た。
「あんたは、そう言っていつも誤魔化すが、いったい何がやりたい事なんだよ」
「聞きたいか?」
「別にいいけど……」
はっきり言って、人がどうなろうが、どんな事がしたいのか、興味が無かった。
しかし、完全に興味が無い訳では無い。
「そう、言うから答えないんだ」
それに損な性分な為、素直に頼む事が出来ない。
それは、自分の首をよく絞める行動である。
「じゃあ、知りたい」
ここは仕方なしに、本音を聞いた。
「なら、教えてやる。それは、冒険だ。血湧き、肉踊る大冒険……。まだ見ぬお宝を手に入れるため、仲間を引き連れて旅をする……。どうだ。興奮するだろう!」
ルミアの方が素直な性格で、曲がることなく、しっかり自分の目的を伝えた。
「別に」
店のジュースをずるずる、音を立てて飲んだ。
「もっと、現実見ろよ。森や山奥へ行けば魔物が蔓延っているんだ。それを退治していった方がいいだろう。普通!」
ザグルは立ち上がり、テーブルを叩いた。
「お前も少しは夢を見ろよ!」
ルミアもザグルと同じ事をした。
「夢見過ぎなんだ! だいたい、夢ならある!」
あまりにも二人がうるさいから、他の客や店員の冷たい視線が集中した。
気まずくなり、二人は同時に座り込み、深呼吸をして落ち着いた。
「分かっているよ。強くなりたいんだろ?」
修練をしていた時から何度も聞いた。
ザグルの『夢』である。
勿論『力』による強さだ。
昔、魔法が使えない為にバカにされた。
それを見返し為に、そして自分のこれからの為に、その『力』が必要だった。
同時に剣の力を認めて貰いたかった。
「そうだ。分かってんなら聞くなよ」
ザグルはぷいっと、そっぽを向いた。
だから、心配でしょうがないのだ。
強くなり過ぎると何もかも無くしてしまう。
それを分かっていて、心配しているルミアはザグルの事を師匠の次に気にしていた。
その為、会おうとするし、ご飯を奢ったりもしていた。
「分かっているさ。だけど、良いじゃん今回くらい」
「断る」
「お前も、頑固だな」
「あんたに言われたくない」
「それもそーだ。でも、内容くらい聞けよ。悪いようにはしないからさ」
「んじゃ、内容だけなら」
ルミアが真剣に頼むから、断るのも悪いと思った。
「そうこなくっちゃ、まあ、地図を見てくれ」
足元に置いてあった大きなリュックから、あまり新しくない、少し茶色がかった一枚の紙を取り出した。
「宝探しに行きたいんだ」
「行けば?」
地図を見たけど、やはり冒険には興味がわかず、目を逸らした。
「人数が必要なんだよ」
「あんたの仲間じゃ足りないのか?」
「まあ、足りるはずだなんだ。数はね。だけど、力が足りないんだ?」
「力?」
「メンバーの専門分野知っているだろう?」
「まあ」
昔、嫌々紹介されたのだ。
ザグルはジュースのお代わりを頼んで、再び飲んでいる。
これも人のお金だから出来る事だ。
ルミアは一瞬睨んだが、話を続けた。
「俺は盗賊だろ? 他には僧侶に魔法使い、戦士と一人ずついるだろう? でも、どう考えても力に乏しい連中だ」
この場合の『力』は、力仕事の方の『力』である。
魔法中心の世界では戦士と言っても魔法戦士で、魔法と剣術を兼用していた。
剣は錆びた世界な為、その戦士もあまり剣は使わず、事実上は魔法使いとなるが、戦士は攻撃魔法を専門にし、魔法使いは補助魔法を専門としていた。
ちなみに僧侶は回復魔法が専門分野である。
「そうだけど、だったら、あんたが職業を変えれば? あんただって魔法を使うことも剣術を使う事も出来るだろう?」
師匠の所にいた時よく剣の相手をしていし、魔法の修行も見ている。
ルミアの力は充分に知っていた。
「それは俺のポリシーが許さん!」
盗賊である事に高いプライドを持っていた。
だから、なるべく魔法は使いたくなかった。
「どんなポリシーだよ」
誇りを持っているのに、よそ者のザグルに声をかけるのも、鬱陶(うっとう)しい話である。
「なあ、金出すし、やらないか?」
「金を出すのは当たり前だろう」
二杯目のジュースも飲み終えた。
名物ジュースだけあって、なかなか美味しいのだ。
ピンクの色をした甘いジュース。
この街の名産品で奇麗なピンク色の味はリンゴに近い果物だ。
もう一杯飲みたいため、空のコップをじっと見ていたら、今度はルミアが気を利かせ頼んだ。
「まあ、そうだけど、どうしてもダメ?」
「ダメ」
「どうして頑ななんだ? ……分かった傭兵として雇う。だから、魔物を退治するだけでいいんだ。だったらいいだろう?」
彼はここまで本気だった。
そこまで頼まれると断る事が出来ない。
「……まあ、それならいいか……。だけど、今回だけな」
「よっしゃ決まりだ。それでさっそくだが話しを聞いてくれ」
ルミアとザグルは地図に目を向けた。
「まあ、ここに呼んだのはこの為だったんだ。俺達はこの近くにある遺跡を探索したいんだ」
目的地を指した。
そこは、ジャガから五キロほど離れた森だった。
そこに遺跡があるのだ。
「あのなー、辺境の地ならともかく、こんな都会の遺跡なんて、ほとんど荒らされてんだろ? 何もない事なんて素人のオレでも分かるぞ」
お代わりのジュースがやってきて、飲み始めた。
「それなら、俺にだって分かる。だけど最近妙なんだ」
「妙?」
「ああ、なんか、魔物がよく出入りするんだ」
「魔物ね~」
冒険には興味無かったが、魔物と聞いて少しは興味が出てきた。
ただ、ほんの少しだったが……。
「その魔物が夜な夜な宝を運んでいるとか、トラップを仕掛けているとかで、怖くてその森に近づけなくなっているんだ。あそこには恵みが多いから、そこは必要な場所なんだ」
「だったら、騎士団とか、自警団とか動かせばいいじゃないか?」
「それが、魔物の規模が分からないんだ。どの位いて、どんな魔物か、そんな中で動くのは自殺行為だろ? 平和な街でも、いつ壊滅するか分からないんだから」
騎士団、自警団は国の治安を一番としているのだ。
ルミアは人の歩いている姿を見た。
平和そのものだけど、いつ、この街が無くなるか分からない。
そんな街をザグルとルミアはいくつも見てきた。
しかし、懸命に生きている人間。
だから、滅びる事が無いのだ。
「だいたい、向こうも危機を感じていないし、戦力を割く事ができないんだ」
「それで、冒険者の出番って訳か……。でも、もう、解決しているんじゃないの?」
「それが、俺たちが一番乗りさ……。俺が徹夜して手に入れたクエストだからな」
ルミアは嬉しそうに話していた。
冒険者が冒険し易いように、冒険者ギルドが国のいたるところにある。
そのギルドで主に冒険を手に入れるのだ。
勿論、早い者勝ちで、一度手に入れた冒険を横取りするのは、反則とされていなかった。
だが、冒険者たちの暗黙の了解で横取りしてはいけない事になっている。
もし、横取りした場合、冒険者の間でも、はじき者になるのは必至だった。
それでも、横取りする冒険者は後を絶たなかったが……。
「あっそう」
「さあ、明日からだ。今日はよく休めよ」
ルミアは立ち上がり、大きなリュックを持った。
「休めよって、オレの止まる場所はあるよな~」
「勿論」
「馬小屋でも豚小屋でもないよな」
昔、お金がなく、困った挙句ルミアに頼ったら牛小屋に入れられた事があるのだ。
「そこの所は大丈夫だ。今回は正式に雇ったんだから」
「やったね」
ザグルは喜び、ジュースを一気飲みして、店を出た。
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