3話
「ヒカルくん。囲碁対局のオファー来ちゃったんだけど、どうする?あのアホとの動画が至る所で拡散されてて、「見てみたい!」って世論になってる。アホがこの件で干されたのは一目瞭然だし、受けないとヒカル君にブラックなイメージが付きそうなんだよ。」
「条件は?」
社長に紙を詳細の渡される。
「ふむふむ。日程は主演ドラマのクランクアップ後だから問題なし。ギャラは生放送6時間、テレビ特別ルールで、コミ6目黒持ちの三面打ちで500万・・・消耗考えたら割に合わないけど、賞金が全勝で1億・・・デカイな。」
「そりゃあヒカル君がプロに勝てるなんてスポンサーは思ってないからね。私は貴方との付き合いが長いから貴方の発言を信じてるけど・・・正直、どのくらい勝てそう?」
「八百長や対局妨害とかされなければ、確実に全勝できますよ。対局相手は塔矢アキラ七段、倉田厚七段、緒方清次九段。緒方九段と倉田七段はあかりを必要以上に批判した棋士達ですから、手加減なしで潰せばいいだけですので、罰ゲーム対策で、必要以上に勝ちすぎないよう配慮するのは塔矢七段に対してだけですし。(佐為、お前緒方さん相手な。俺は塔矢と倉田さんをやる。引き分けはちょい問題になりそうだから、塔矢には1目勝ちするか。)(分かりました。罪なきあかりちゃんを傷つけるなど言語道断!圧倒してやりましょう!)」
「囲碁のプロって・・・あまり強くないの?」
「う〜ん・・・塔矢行洋四冠(今回はまだ現役)はかなり強いですけど・・・。残念ながら日本の棋士のレベルは年々落ちてますからね〜。まあそれでも、プロ棋士相手の三面打ちとか、普通の人間相手なら嫌がらせ以外の何物でもないですけど。棋院は何としてでも今回のダメージを払拭したいんでしょうね〜。しかし・・・「敗者は勝者の言う事を、どんな事でも石の差の数だけ聞く」って罰ゲームか〜。囲碁知ってる人間の常識で考えたら、俺が何十目差で3敗するのが当たり前だし、思いっきり喧嘩売られてるよな、コレww」
「受けて大丈夫なのね?」
「次の日完全オフか、身内での会議だけにしてくれるならいいですよ。俺にタチ悪い喧嘩売ったこと、後悔させてやりますよ。」
「(この子がこの目をする時は絶対の自信がある時。問題ないわね。)了解よ。次の日は久しぶりにオフになるように、調節しておきましょう。」
社長は囲碁の知識がなかったため、ヒカルの目を見て安心しオファーを受けた。まあ問題ない。今のヒカルと佐為なら、相手が塔矢行洋であっても軽々勝てる位の実力があるのだから。
「それでは明日の特番を前に、天才子役進藤ヒカル君に肩慣らしをしてもらいましょう!果たして天才子役は、囲碁でも天才なのか!?」
仕事のオファーを受けたところ、前座番組まで付いてくることになった。相手はプロ低段者で、互いに自分の手や相手の手を自由に解説しながら打っていくというもの。
特に賞金や罰ゲームはないが、プロにとっては負けるだけでこれ以上ない程の恥だし、俺が前座で負けたら、明日の3人相手に勝てるわけないから、明日の特番視聴率がヤバくなり俺の評価も地に落ちるだろう。
「へぇ・・・相手、伊角プロなんだ。よろしくお願いします。」
「ご存知だとは思いませんでした。こちらこそ、宜しくお願いします。」
伊角は2年前のプロ試験で初段となった若手プロであり、若手プロの中ではルックスが良く打ち筋も正統派であり、礼節も弁えているという理由で選ばれていた。
伊角はあかりとの付き合いが長く、あかりを可愛がっている棋士の一人なので、進藤ヒカルの囲碁の腕がたつという、あかりの話を信じてはいるが、同時に失言をしたタレントを干したと言うような、不穏な噂も出ている進藤を警戒もしていた。
パチパチと2人が石を打ち合う。
「ごめんヒカル君、今どういう状況?」
司会を務める大物タレントが聞いてくる。たしかに囲碁のルールなんて知らない彼からしたら、状況なんて分かるわけないだろう。
「定石・・・沢山の人が勝負で使ってきて、その中で最善と言われるようになった打ち方の部分が、そろそろ終わる感じです。あと数手以内にどちらかが勝負を仕掛けますね。」
「今の所どっちが勝ってるの?」
「盤上の形勢は互角ですよ。ただ伊角プロはテレビ対局に慣れていないのか、少し持ち時間をゆっくり使っているので、今の所俺の満足出来る展開ですかね。」
「そうなんですか、伊角プロ?」
「ええ。藤崎あかりプロから聞いていましたが、進藤さんの打ち手が正確で早いので、1手1手間違えず慎重に対応するようにしてます。」
「囲碁は強い人同士の対局だと、1手間違うだけで勝負が決まっちゃいますもんね。」
そう言いつつ、ヒカルは仕掛けた。前世でヒカルは伊角を兄貴分のように慕っていたし、今世でもあかりが世話になっていることは聞いているため、伊角の実力を存分に引き出した上で、勝ちに行くことにした。
ビリビリ
「っつ!?何か・・・空気が変わったような?」
「(ああ。進藤の空気が明らかに変わった。タイトル戦でトッププロの記録係りをしたときより、遥かに空気が張り詰めている。)」
「あかりと本気で戦う時は毎回こんな感じで威圧してビビらせてます。高段者になればなるほどこういう気配を纏った棋士が多くなるでしょうし、あかりが本番の対局で萎縮したらいけませんからね。伊角さんは流石に若手の有望株だけあって、威圧してもしっかり手を返してきますよ。まあ・・・最善手とまではいかないけどね。」
「・・・。」
〜数十分後〜
「今の状況はヒカル君の方が優勢なの?」
「ええ。進藤さんの勝ちがほぼ決まったところです。必死に逆転の芽を探してるんですが・・・無さそうですね。参りました。」
潔く頭を下げる伊角に、客席のヒカルファンが沸く。
「伊角プロ。一般の視聴者さんにも分かりやすくしたいので、終局までお付き合いいただけますか?」
「ええ。その方がいいでしょうね。」
「えっと・・・ヒカル君の勝ちで良いんですよね?「「はい。」」囲碁の勝ち負けって、こんな石少ない状態で決まるんですか?」
「強い人同士の対局だと、このくらいで勝敗が決まることも多いですよ。終盤は手順が決まっているので、両方が正しく打てると仮定すると、このくらいで勝敗は決まります。実戦だと相手が1手間違えたら逆転勝ち出来る位の差なら、最後まで打ち続けるプロが殆どでしょうが、1手じゃ差が埋まらない程に優劣がついていたり、相手がまず手を間違えない強者だった場合は、途中で敗者が負けを宣言して、勝負が終わります。途中で負けを認められるのは、その時既に終局時の盤面が見えているからなので、早い段階で負けを認められるのも、また強い人の証ではあるんですよ。」
「今回の場合は、大差がついていたんですか?」
「いえ・・・今回は、石の差こそそこまで大きくはないですが、進藤さんの打ち方から察するに、私のレベルに合わせて手加減をしてくれていたようなので・・・。悔しいですけど、終盤で進藤さんが応手を失敗するとは思えず、投了しました。」
「伊角プロは打ち筋が綺麗で、安定してる印象だったので、それに合わせて打ってみました(サイが指導碁をな)。初心者や子供がお手本にするプロとして、伊角プロは良いと思いますよ。俺が、伊角プロが嫌がる・・・かつ読めてなかったであろう所に打った時も、悪手は指さなかったし、打ってて楽しかったです。」
最後まで打ち終え整地を行うと、込み6目ルールでヒカルの7目勝ちだった。芸能人に負けて悔しがるかと思われた伊角だったが、満足したような嬉し気な笑みを浮かべてヒカルと話しており、現場スタップやスポンサーを驚かせた。
「条件は?」
社長に紙を詳細の渡される。
「ふむふむ。日程は主演ドラマのクランクアップ後だから問題なし。ギャラは生放送6時間、テレビ特別ルールで、コミ6目黒持ちの三面打ちで500万・・・消耗考えたら割に合わないけど、賞金が全勝で1億・・・デカイな。」
「そりゃあヒカル君がプロに勝てるなんてスポンサーは思ってないからね。私は貴方との付き合いが長いから貴方の発言を信じてるけど・・・正直、どのくらい勝てそう?」
「八百長や対局妨害とかされなければ、確実に全勝できますよ。対局相手は塔矢アキラ七段、倉田厚七段、緒方清次九段。緒方九段と倉田七段はあかりを必要以上に批判した棋士達ですから、手加減なしで潰せばいいだけですので、罰ゲーム対策で、必要以上に勝ちすぎないよう配慮するのは塔矢七段に対してだけですし。(佐為、お前緒方さん相手な。俺は塔矢と倉田さんをやる。引き分けはちょい問題になりそうだから、塔矢には1目勝ちするか。)(分かりました。罪なきあかりちゃんを傷つけるなど言語道断!圧倒してやりましょう!)」
「囲碁のプロって・・・あまり強くないの?」
「う〜ん・・・塔矢行洋四冠(今回はまだ現役)はかなり強いですけど・・・。残念ながら日本の棋士のレベルは年々落ちてますからね〜。まあそれでも、プロ棋士相手の三面打ちとか、普通の人間相手なら嫌がらせ以外の何物でもないですけど。棋院は何としてでも今回のダメージを払拭したいんでしょうね〜。しかし・・・「敗者は勝者の言う事を、どんな事でも石の差の数だけ聞く」って罰ゲームか〜。囲碁知ってる人間の常識で考えたら、俺が何十目差で3敗するのが当たり前だし、思いっきり喧嘩売られてるよな、コレww」
「受けて大丈夫なのね?」
「次の日完全オフか、身内での会議だけにしてくれるならいいですよ。俺にタチ悪い喧嘩売ったこと、後悔させてやりますよ。」
「(この子がこの目をする時は絶対の自信がある時。問題ないわね。)了解よ。次の日は久しぶりにオフになるように、調節しておきましょう。」
社長は囲碁の知識がなかったため、ヒカルの目を見て安心しオファーを受けた。まあ問題ない。今のヒカルと佐為なら、相手が塔矢行洋であっても軽々勝てる位の実力があるのだから。
「それでは明日の特番を前に、天才子役進藤ヒカル君に肩慣らしをしてもらいましょう!果たして天才子役は、囲碁でも天才なのか!?」
仕事のオファーを受けたところ、前座番組まで付いてくることになった。相手はプロ低段者で、互いに自分の手や相手の手を自由に解説しながら打っていくというもの。
特に賞金や罰ゲームはないが、プロにとっては負けるだけでこれ以上ない程の恥だし、俺が前座で負けたら、明日の3人相手に勝てるわけないから、明日の特番視聴率がヤバくなり俺の評価も地に落ちるだろう。
「へぇ・・・相手、伊角プロなんだ。よろしくお願いします。」
「ご存知だとは思いませんでした。こちらこそ、宜しくお願いします。」
伊角は2年前のプロ試験で初段となった若手プロであり、若手プロの中ではルックスが良く打ち筋も正統派であり、礼節も弁えているという理由で選ばれていた。
伊角はあかりとの付き合いが長く、あかりを可愛がっている棋士の一人なので、進藤ヒカルの囲碁の腕がたつという、あかりの話を信じてはいるが、同時に失言をしたタレントを干したと言うような、不穏な噂も出ている進藤を警戒もしていた。
パチパチと2人が石を打ち合う。
「ごめんヒカル君、今どういう状況?」
司会を務める大物タレントが聞いてくる。たしかに囲碁のルールなんて知らない彼からしたら、状況なんて分かるわけないだろう。
「定石・・・沢山の人が勝負で使ってきて、その中で最善と言われるようになった打ち方の部分が、そろそろ終わる感じです。あと数手以内にどちらかが勝負を仕掛けますね。」
「今の所どっちが勝ってるの?」
「盤上の形勢は互角ですよ。ただ伊角プロはテレビ対局に慣れていないのか、少し持ち時間をゆっくり使っているので、今の所俺の満足出来る展開ですかね。」
「そうなんですか、伊角プロ?」
「ええ。藤崎あかりプロから聞いていましたが、進藤さんの打ち手が正確で早いので、1手1手間違えず慎重に対応するようにしてます。」
「囲碁は強い人同士の対局だと、1手間違うだけで勝負が決まっちゃいますもんね。」
そう言いつつ、ヒカルは仕掛けた。前世でヒカルは伊角を兄貴分のように慕っていたし、今世でもあかりが世話になっていることは聞いているため、伊角の実力を存分に引き出した上で、勝ちに行くことにした。
ビリビリ
「っつ!?何か・・・空気が変わったような?」
「(ああ。進藤の空気が明らかに変わった。タイトル戦でトッププロの記録係りをしたときより、遥かに空気が張り詰めている。)」
「あかりと本気で戦う時は毎回こんな感じで威圧してビビらせてます。高段者になればなるほどこういう気配を纏った棋士が多くなるでしょうし、あかりが本番の対局で萎縮したらいけませんからね。伊角さんは流石に若手の有望株だけあって、威圧してもしっかり手を返してきますよ。まあ・・・最善手とまではいかないけどね。」
「・・・。」
〜数十分後〜
「今の状況はヒカル君の方が優勢なの?」
「ええ。進藤さんの勝ちがほぼ決まったところです。必死に逆転の芽を探してるんですが・・・無さそうですね。参りました。」
潔く頭を下げる伊角に、客席のヒカルファンが沸く。
「伊角プロ。一般の視聴者さんにも分かりやすくしたいので、終局までお付き合いいただけますか?」
「ええ。その方がいいでしょうね。」
「えっと・・・ヒカル君の勝ちで良いんですよね?「「はい。」」囲碁の勝ち負けって、こんな石少ない状態で決まるんですか?」
「強い人同士の対局だと、このくらいで勝敗が決まることも多いですよ。終盤は手順が決まっているので、両方が正しく打てると仮定すると、このくらいで勝敗は決まります。実戦だと相手が1手間違えたら逆転勝ち出来る位の差なら、最後まで打ち続けるプロが殆どでしょうが、1手じゃ差が埋まらない程に優劣がついていたり、相手がまず手を間違えない強者だった場合は、途中で敗者が負けを宣言して、勝負が終わります。途中で負けを認められるのは、その時既に終局時の盤面が見えているからなので、早い段階で負けを認められるのも、また強い人の証ではあるんですよ。」
「今回の場合は、大差がついていたんですか?」
「いえ・・・今回は、石の差こそそこまで大きくはないですが、進藤さんの打ち方から察するに、私のレベルに合わせて手加減をしてくれていたようなので・・・。悔しいですけど、終盤で進藤さんが応手を失敗するとは思えず、投了しました。」
「伊角プロは打ち筋が綺麗で、安定してる印象だったので、それに合わせて打ってみました(サイが指導碁をな)。初心者や子供がお手本にするプロとして、伊角プロは良いと思いますよ。俺が、伊角プロが嫌がる・・・かつ読めてなかったであろう所に打った時も、悪手は指さなかったし、打ってて楽しかったです。」
最後まで打ち終え整地を行うと、込み6目ルールでヒカルの7目勝ちだった。芸能人に負けて悔しがるかと思われた伊角だったが、満足したような嬉し気な笑みを浮かべてヒカルと話しており、現場スタップやスポンサーを驚かせた。
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