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ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
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兵器

 槙島の話で朱と征陸はある答えにたどり着く。
 しかし、それは人道的にどうだろろうか。
 神への冒涜ともいえるだろう。
「それな、もし成功例がここにいる東金朔夜だっていうなら、もうそれは人間じゃない。兵器だ」
 そう言ったのは征陸だった。
 兵器、いい表現ですね……と納得したのは、チェ・グソン。
 彼もまた、答えにたどり着いていたのだった。
「秀星の父親に、東金朔夜の人格を植え付けた……なぜ?」
 自問する朱。
「決まっている。イカレた縢家嫡男をまともにするためだ。イカレた性格は別の人格のもので、本人は悪くないのだと思いこませれば、もしかしたらイカレた部分が押さえられていたのかもしれない。だが、東金朔夜もおとなしくしていられる人格ではなかった。表に出たい、その欲が叶うと姿も変わってしまう。人は性格など顔や姿にでるというだろう」
 朱に考えさせてはいけない、狡噛は即座に推理を完結させ、代弁した。
 朱も感じていたが、そんなことが実際にできるのだろうかという疑問が拭えないでいた。
 しかし、執行官や槙島たちはそれ以外ないだろうと考えていたため、狡噛の見解に納得の表情を見せる。
「監視官……!」
 狡噛のその口調は、彼が執行官であった頃の口調と雰囲気を思い出させるもので、朱はわずかだがドキリとした。
「無理を承知で言うが、俺に尋問をさせろ。聞き出すのは無理でも尻尾の先くらいは掴ませる」
 かわいい女の子のホロをまとい、声も女の子だったはずが、いつのまにかホロが外れ狡噛慎也そのものの姿があった。
 気づいていながらホロが外れているとは言わない。
 おそらく、わずかな尻尾を掴ませるくらいの自白まで追い込めるのは、彼しかいないと思っているからだった。
「たしかに、無理な相談ね。だって狡噛さん、ホロの人物になりきってくれないから。それでも可能性があり、わずかな供述を聞き出せるというなら……」
 朱がそこまでいうと、宜野座が反対の声をあげる。
「常守! それで得られたとして、バレたらクビどころじゃすまないぞ」
「本当に、そうね。でもね、私たちはこの件に関わりすぎていて、別の見方ができないでいるでしょう? 狡噛さんなら客観的に見ていられるのかもって期待してしまう」
「気持ちはわかるが」
「宜野座さん」
「……なんだ?」
「狡噛さんが、宜野座さんのホロをまとい尋問するのを承諾してください」
「……! ひと言、命令だといえばいいだろう。どのみち執行官は監視官の出したことに異論したところで却下されるのがオチだ。俺だったらそうする」
「それは違うかな。命令は仲間の命をまもるために振りかざすものかなって。犠牲になっていい命なんて、ないでしょう? それで残った者は感謝できるかな。むしろ悲しみと後悔。宜野座さんなら……」
「俺なら、わかるだろう? といいたいのか? まったく……好きにしろ。ただし、その尋問はここにいる面々も観察する。それが条件だ。それともうひとつ、俺の品位を落とすようなことはするな、いいな、狡噛」
「……努力する」
「ふざけるな。努力するじゃない、努力してもらわなければ困る!」

※※※

 狭い取り調べ室には、朱と狡噛(宜野座のホロを使用中)、記録係として須郷が同席した。
 またカメラで撮影、会話もすべて録音、その様子を分析室で残りの面々が観察することになった。
 巻き込まれたくないと言っていた霜月美佳の姿もある。
 彼女にとっては、東金朔夜がなにを語るのか、気が気ではないのだろう。

「では取り調べをはじめます。あなたの名前を教えてください」
「……東金朔夜」
「東金朔夜、あなたはなぜここにいるのですか?」
「あ?」
「私たち知る限り、東金朔夜はドミネーターによって処理されています。彼に子がいた、または兄弟がいたというデータはありません。となれば、東金朔夜を語る別人とも考えられます」
「……おいおい、もう知っているんだろう? 俺はここの世界の東金朔夜ではない。どこら来たのかって聞くのが正しい質問の仕方だ。まあ、ここではない別の世界としかいいようがないがな」
「……そうですか。別世界からきたことは認めるのですね。わかりました。では質問を変えます。どうしてこちらの世界に来たのですか?」
「それな、気づいたらいたんだよ。そして母さんがいて、俺に使命を与えた」
「母さん、とは、東金美沙子ですね。こちらの世界で会ったのですか?」
「だから、そうだといっただろう」
「それは、本当に東金美沙子でしたか?」
「あ? どういう意味だ?」
「そのままの意味です」
「……? 母さんは母さんだ。俺の前からいなくなった母さん。だけど戻ってきてくれた。俺は母さんに誉められるのが好きで、母さんが喜んでくれることはなんでもしたくて。なのに、あいつが邪魔ばかりする」
「あいつ?」
 朱が聞き返す。
 さらに朱がなにかを言おうとしたが、宜野座(ホロなので中身は狡噛)に阻まれる。
「ここからは俺が。監視官が相手の心理に深く入り込むのは控えた方がいい」
「……わかりました」
「……ということで、交代だ。俺は常守監視官のように甘くはない。ニヘラニヘラとしていられるのも今のうちだ。はじめようか。そのあいつというのは、縢家の者だな?」
 宜野座……いや、ここは狡噛で統一して話をすすめることにする。
 狡噛は縢家現在当主に別の人格を植え付けたという設定で詰め寄るつもりのようだ。
「縢? ああ、あのガキ。あれはなんていうか、まあ、嫌いじゃない」
「秀星のことを言っているのか? 俺はその父親、今の当主の話をしている。知らない間柄ではないだろう? 表向きは対立であると装い、実は深い関係であった。縢家を自分の代で終わらせないためにも、前当主夫妻は多額の資金援助をする見返りとして、東金の持つ医療技術を求めたはずだ」
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