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ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
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 朱たちを見送った直後、霜月美佳は禾生局長に呼ばれ、局長室にいた。

「犯人との接触がなかったようだが?」
「はい……」
「それをどう思うかね?」
「わかりません」
「わからないって……捜査の指揮をとっているのだろう? それとも、まだ言えないような段階なのかね」
「いえ、そういうわけでは」
「……そう。しかし、常守監視官不在の戦力低下は否めないようだが」
「……それは……」
「別に責めているわけではないよ。実は、有力な情報を得てね。現地に行って確認してきてもらいたい。ごうがみ慎也の居場所がわかった」
「……はあ……」
「幾度となく取り逃がしているようだが、今回は常守監視官の危機と言うことで説得、同行を強要しここに連れてくることが任務だ。同行には宜野座と須郷は必須だ。宜野座はかつての同期、狡噛の思考や動向を早急に分析して先回りができるだろう。行きたまえ」

※※※

 霜月監視官からの説明を聞いた宜野座が声をあげる。
「狡噛が見つかっただと? いままで尻尾すら掴めていなかったのにか? その情報の信憑性を疑わなかったのか、監視官は!」
「……っう、執行官ごときが私に意見しないでください。局長のお言葉は絶対です!」
「だからって……常守の捜査はどうするつもりだ? 演技とはいえ、しないわけにはいかないだろう。監視官が拉致されているんだ、公安としても無視はできない」
「……わかっています! 六合塚さん、雛河、情報収集をしているフリをして。犯人からの連絡待ちということで時間稼ぎをします。宜野座と須郷は私とともに狡噛が見つかったという国に行きます。須郷……あなたは黙っているだけでいいです。絶対に、なにもしないで!」
 ヒステリックになっていく霜月監視官はいつものことだが、今回は様子が違っていた。
 局長の言っていることは絶対といいながらも、不自然さは感じているのだろう。
 さらに、局長も宜野座を特別視しているようなところが勘に触るのだ。
 そこまで汲み取れというのは、宜野座にはやや酷なことだろう。

※※※

 狡噛の目撃情報があった国は、紛争地帯で、近年はますます激化しているところだった。
「なるほど。たしかに狡噛なら、こういう場所にいても不思議ではないな」
 降り立った宜野座は、現地の協力者から話を聞き、もっともらしいと感じるのだった。
「なぜ、そう思うのか、説明しなさい」
 霜月はぶっきらぼうに言う。
 禾生局長の命でもなければ、執行官ごときの話など聞く必要はない。
 だが、こんな危険地帯から早く帰りたいという気持ちも増し、執行官への嫌悪が低下する。
「珍しいな、あんたが俺の話を聞きたがるなんて」
「別に、私が聞きたいわけじゃないから。局長があなたの意見を参考に、早急に狡噛を連れ帰れと」
「……局長が? 早急に? なぜ今になって?」
「さあ? 潜在犯から犯罪者に成り下がったのだし、元々は公安の人間だし、いつまでも野放しにはできないと思ったんじゃないですか?」
「……まあ、そういう考えもあるか」
 無理矢理納得させ、宜野座は彼自身が知る狡噛という男を語り教えた。
 表向けの情報は、公安にある情報で閲覧ができる。
 霜月美佳も狡噛慎也という人物は、それで見知っている程度である。
「あいつは優秀な刑事だったが、あいつの正義と俺たちの正義が違っていた。自分を落としてでも正義を貫くのか、それとも踏みとどまって法の秩序の中でなんとかしようとするのか。法で裁けないとわかった時、どうするのが正しいのかはわからない。俺は直面しても答えは出せないだろうが、あいつは迷うことなく出した。自分の手を汚してでも自分の正義を貫く。そういう男だ。それを俺はなかなか受け入れられずにいる……」
「宜野座執行官の感情はどうでもいいですが、法で裁けない事案を目の前にした場合、その時になってみないとわからないものなんじゃないですか? それで、そんな人物ならこの地でどう動くと思いますか?」
「自らこの地に来たのか、誰かに誘われたのかで違ってくるが、最終的には弱い者の味方になっていると思う」
「そうですか……」
 美佳は短く返答すると、地元の人に訊ねる、情勢はどうなっているのかと。
 政府軍の方が圧倒的に強く、制圧されるのも時間の問題と思っていたところ、反政府側が外部から用心を雇ったようで、そこから情勢が変わりだしたのだという。
「そう。じゃあ、反政府側と接触しましょう。誰か、話を聞かせてくれそうな人はいませんか?」
「それでしたら、時々姿を見せる女の子がいます。彼女に聞いてみてはどうでしょう」
「女の子?」
「反政府のリーダーを勤めている男の娘です」
「そう……見かけたら、連れてきて」

 美佳がその女の子と接触すると、すぐに狡噛の情報を得ることができた。
 出会いは偶然、行き倒れになっているところを見つけて介護したことだった。
 その間に情勢が悪化、リーダーがケガをしたことで、狡噛が頼まれ指揮をとることになったのだという。
 その狡噛に会いたいと言うと、疑われることなく案内をされた。

「ギノ……?」
 宜野座を筆頭に、言われた場所へと行くと、見張り中だった狡噛は宜野座を見て驚いた。
 が、それは一瞬のことで、すぐに懐かしそうな眼差しで宜野座をみる。
 しかし、宜野座は……
「ああ、会いたくはなかったって顔をしているな、ギノ。仕事、意思とは無関係でここにいると言っているような顔だ」
「当然だ。二度と俺の目の前に現れるなと言った俺が、おまえのケツを追いかけなくてはならないのだからな」
「……追いかける? 逃亡犯を追いかけるのは刑事の職務だろう? それがイヤだなんて、どういう意味だ?」
「それはな、こっちにもいろいろあるんだよ」
 と宜野座が言うと、美佳が前に一歩でる。
「公安局刑事課一係、監視官の霜月美佳です。狡噛慎也、あなたに出頭命令がでています。同行してください」
「出頭命令? 逮捕、ではなく?」
「局長の命令です。確保して連行せよ」
「確保って、逮捕と似たようなものだろう」
「いいえ。逮捕状は出ていません。局長は生きたまま連れてくるようにと」
「禾生局長が。俺を生きたままね……なあ、ギノ、これはなんの冗談だ? それともドッキリがなにかか? 戻った途端、射殺とかじゃないだろうな?」
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