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ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
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敗北という名の勝利

「そうですか。そういう狡噛さんをね……だんだんと見えてきましたよ。これはかなり大がかりなことをやっていますね、東金美沙子は。残っている狡噛さんを早くこちらに連れ帰らないと危ないかもしれません」
「どういうことかな?」
「実はあちらで、諸々黙認してもらう代わりに狡噛慎也の確保が提示されました。聞くところによると、見つけ次第射殺してもいいという命が下ったこともあったとか。今はホロで誤魔化していますが、狡噛と知れてしまった場合、頼みの綱がこちらに来てしまっているので、どうなるか……」
「もしかして、狡噛くんは公安局にいるのかな?」
「灯台もと暗しでいい案だと私も思ったのですがね。こちらの方が想定外に厄介になっているので。とりあえず、一度向こうに行き、情報交換もしたいところです」
「その口振りだと、向こうに潜伏している東金の回し者のあてもできたってことかな?」
「確証はないですが。そのため、こちらでの捜査も少ししたいところです。とくに、縢家に関して」
「縢家?」
「一般的には、東金と対立関係にありますが、それじたいがデマの可能性があるかもしれません。仮にデマと仮定した場合、以外と見えなかったものが見えてくるところもあるんですよ。……と、そろそろかもしれませんね」

 チェ・グソンが何かを感じた頃、朱たちは……

※※※

「常守さん。チェ・グソンの動きをトレースしていくと、ここからこの奥に行っていますが」
 いくつかの隠し扉を通り奥へと突き進んでいた朱たちだが、最後のひとつかもしれない場所で行き詰まってしまっていた。
「発信器の動きはスムーズで、そこで何かをしていたという動きはなかったけど」
「だとすれば、もともとそういうものを持っていたのではないでしょうか? 強引に突き進みますか?」
 ここではドミネーターは役にたたず、征陸からもし何かあったらと護身用程度の拳銃を渡されていた。
 朱は武器を手にして自分の意思で引き金を引くことに戸惑いがある。
 それを察した須郷が、そういったことは自分がしますので……と、預かった拳銃は一丁のみ。
 威力のほどはわからない。
「征陸さんが突入してくるのを待ちましょうか?」
 考えても答えが出ないのか、黙ってしまった朱の心境を代弁するように須郷がいう。
「いいえ、それでは中の人たちがどうなるか心配です。どちらにしろなにかあれば征陸さんが突入してくるでしょうから、強引に突き破りましょう」
「わかりました。では、少し離れてください」
 銃弾は六発、ひとつも無駄にはできない。
 壁にあるわずかな隙間に狙いを定めて引き金を引く。
 肩が外れそうな衝撃だが、鍛えた須郷の体は、その衝撃に耐えた。
 その甲斐あってか、わずかな綻びができる。
「これだけでは……」
 しかし、それだけではどうにもならない程度の綻びだった。
 発砲音を聞きつけ警備員が駆けつける。
 さらに警報が鳴り響き、警備員と言うよりは傭兵といった方がいいような男たちが数人、朱たちを囲むように立ちはだかる。
 それらの人垣をかきわけるようにして、ひとりの女がふたりの前に現れた。

「東金美沙子……」

 朱は、彼女を見てポツリとそう呟いた。

「あら、私のことをご存じとは……まあ、それもそうかもしれないわね。あちらの私はあなたと会っているようだったし。それよりもどういうカラクリかしら? あなた、拉致されていたのでは? それに、そちらの執行官は拉致された監視官の捜査中なのでは? どちらが本物の須郷執行官?」
 美沙子の言葉に須郷が眉を潜める。
 資料で読み知ってはいるが、会ってはいないだろう。
 この女はなにを言っているのか……
 さらに、なぜ朱を見てあちらの人間だとすぐにわかったのだろうか。
 しかし、朱は美沙子の言葉をスルーする。
「会っているとか、そういうのはどうでもいい。狡噛さんを解放しなさい!」
「狡噛慎也がここにいると、なぜ知って……まさか!」
「今さら気づいてももう遅い。それに、私やチェ・グソンに何かあったら警察がここに突入することになっているの。だから、こちらの指示に従いなさい!」
「……っち、ここはシビュラの保護下ではないのよ。ドミネーターのないあなたたちになにができるかしら?」
 挑発する美沙子に、須郷が銃口を向ける。
「執行官を甘くみないことだ、東金美沙子。潜在犯認定の自分たちに、引き金を引き殺すことを躊躇したりはしない」
「……っくう……!」
 美沙子は悔しそうに唇を噛みしめた。
「わかったなら、早く案内しなさい」
 朱の厳しい口調が響いた。
 そこに、いくつもの足音が近づいてくる。
「大丈夫か、嬢ちゃん!」
 征陸が何人かの警官を連れ走ってくる。
「東金美沙子を確保しろ」
 征陸の指示で連れてきた警官が確保しようとしたが、美沙子を庇い逃がすように立ち振る舞う男たちに阻まれ取り逃がしてしまう。
「ああ、なにやっているんだ。おまえたち、絶対に逃がすな」
 征陸が追跡を命じると、その場に残ったのは朱と須郷と征陸だけになった。
「あいつらは?」
「たぶん、この先です。でも、この先に進めなくて」
「そんな時のために、これを持ってきた」
 と、小型爆弾をポケットから取り出す。
「こういうのは、ちょっとしたもので作れたりするもんなんだよ。威力はわからんがね」
 とかいいながらも、実際の威力はそれなりにあった。
 壁に大きく穴が開き、その先へと進むと、さらに扉かある。
 それは何か打ち込むことで開くようになっているらしい。
「こういうものは面倒でしょうがない」
 とボヤいた征陸は、さらにもうひとつあるんだよといいながら、爆弾で強引に扉を開いた。

「豪快ですね」
 三人の顔を見たチェ・グソンは軽く呟いた。
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