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ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
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偽りの敗北 その三

「なんにせよ、俺は突然目の前が暗くなり、光の方に向かったら目の前におまえがいた。そしてわけもわからず拘束、さらにクローンだバラレルワールドだと聞かされ、受け入れろという方が無理だ。だいたい、そういったものは想像の中だけのことだ。それを受け入れろだと? 理解しろだと? イカレているやつの言っていることにしか聞こえないな」
「そうでしょうね。クローンは気にならないんですか?」
「気にならないわけじゃないが、パラレルワールドよりは現実味がある。医学の発展で可能になる率は高い。さっきからしきりに出てくる東金は東金財団のことだな? あそこは特許もいくつか持つくらい、医療に特化した財団だ」
「……東金財団の事件を扱ったのはあなたが逃亡してからだと思いますが?」
「その前に、俺は執行官で、その前は監視官だ。東金財団くらいの大きな組織になれば、知らない方がどうかしているだろう」
「まあ、そういうものかもしれませんね」
「それで、全部おまえが言っていることが真実だと仮定して、脱出の見込みはあるのか? あの様子では、俺たちの体力消耗を期待しているようだったが?」
「そうですね。まさか、その策にでてくるとは……ですが、ないわけでもないので、ここは耐える時、とだけ言っておきます」
 もしチェ・グソンが戻ってきていたら気づくはずだ。
 槙島は彼に賭けていた。

 ふたりがこんなことになっている頃、チェ・グソンが朱を連れ、自分が元々いた世界に戻ってきたのだった。

※※※

「さて……と、こういう場合はどう入り込んだ方が得策でしょうかね」
 と、チェ・グソンはふたりの意見を聞くために問いかける。
 とりあえず、財団のビルを目視できる場所まで近づいたところで車を停め、様子をうかがうというところまでは意見が一致していた。
「陽動でいいのでは?」と須郷。
「この人数で二手は危険では?」と朱。
「かといって固まって行動するのもね……」とチェ・グソン。
 意見を聞いたところで並行線をたどることになってしまう。
「なにを優先するかで自ずと決まると思う。人命優先、でいいのでは?」
 朱が目的をはっきりさせようと言い始める。
 元々は槙島救出で動いているのだ、改めていうことでもないと、誰も口にしなかっただけだが、あえて口に出してくれたことで、四人の気持ちが合わさっていく。
「確かに、人命優先です。槙島さんはもとより、別世界の狡噛さんも。とくに狡噛さんは絶対に元の世界に戻さなくてはなりません。そうであければ、あちらに残り捜査してくれている狡噛さんに申し訳ないですし、私としてもその狡噛さんでないと困ります」
「それは私もです。狡噛さんはあの世界にいるから狡噛さんらしさがあるのだと思います」
「では、ふたりの救助でいいですね、監視官」
「そうね。それだと、どう動くのがいいと思うの、チェ・グソンは」
「私ですか? それだと、やはり……囮ではないでしょうか?」
「陽動ではなく囮?」
「私が正面から入り、わざと捕まります。当然、先に捕まえている槙島さんに会わせるでしょう。私を人質に脅すということができます。私が彼らが捕らわれている場所を教えますので、ふたりは見つからないようそこに来てください。小型の発信器を飲み込めば……」
 身につけていくより見つかりにくいと彼はいう。
 偽の通行証を使い、堂々と正面から入ればたしかに騒ぎは最小限だ。
 ただ、作戦が知れてしまえばチェ・グソンにも危険が迫り、人命優先で救わなければならない人物が増えてしまう。
 しかし、それでもそれが一番有効であることを彼らは知っている。
 四人と限られた人数で行動するのだから。
「わかりました。チェ・グソンの作戦で行きましょう」
「ありがとうございます、常守監視官。それともうひとつお願いがあります」
「なんでしょう?」
「もしバレた時は私を含め三人の救出は諦めてください」
「それはできません」
「いえ、無理をさせるわけにはいきません。あなたはなにが何でも元の世界に帰らなくてはなりません。待っている人がいるのですから。そこで保険をかけます」
「保険?」
「さきほどからずっと黙っていますが、征陸刑事もそのつもりで意見しなかったのではないですか?」
「ああ。陽動でも囮でも好きに動けばいい。俺は刑事として正攻法で動く。あんたまいう保険ってやつだな」
「どういうことですか、征陸さん」
「チェ・グソンは危険が迫ればこういうだろう。自分になにかあれば警察が動くことになっていると。それはもし嬢ちゃんたちに危険が及んでも同じだろう。その人が無事に戻らなければ警察が乗り込んでくると。その時のために、俺は時間差で正面から警察手帳を見せて入り込む」
「うまく行くでしょうか」
 朱が不安そうに訊ねる。
「いかなくて困ります。ですが、東金美沙子には確証があるのだと思います。常守監視官は拉致されたまま、須郷執行官は捜査中。まさかそのふたりがこちらに来ているとは思ってもいないでしょう。だから、大胆な行動ができるのです。あちらの狡噛さんを拘束するという……」
 朱の心配を払拭するように、チェ・グソンは語った。
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