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ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
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来訪者

「本来なら、下調べしてじっくり練ってから入り込む。じつのところ、こっちの世界にも何度か潜り込んだことはあるが、こっちの俺とは出会わないようにするのは鉄則で、またこっちの俺と関係深い人との接触も避けるのも一般的だ。ここにくる予定もなかったから、予防線も張らなかった。飛ばされた先がシビュラに管理されている鎖国日本とは思いもしなかったってのが本音だ」
 狡噛の話が本当なら、彼らは幾度となくこちらに来ていた可能性がある。
 彼ら本人ではなくとも、調査されていたことには代わりはない。
 彼らの世界の人たちは、こうも簡単に時代を行き来できるものなのだろうか。
「監視官、あんた、わかりやすいな。だいたいなにを考えているか、おおよその見当ができる」
 この言葉に朱はドキリとした。
 監視官としてまだ新米だった頃、まだ執行官だった狡噛に言われた言葉と似ていたからだ。
「見当はできるが、それが正解とは限らない。聞きたいことは言葉にして聞いてくれ」
「では、単刀直入に聞きます。あなたがたは、時代を自由に行き来できるのでしょうか?」
「行き来はできるんじゃないか。まあ、誰でもってわけじゃないが。だが、時代を行き来しているわけじゃない。タイムスリップでもしたと思っているのか? そんなもの、創作の中だけの出来事だ。まあ、わずかに未来を行くってことはできるらしいが、未来の世界をみるや体験するってのは夢物語だな。俺の知る限り、それを成功させた世界はない。が、警察ならなにか掴んでいるかもしれないが」
「バカをいうな、コウ。だとしても、簡単に情報を流すものか。だがな嬢ちゃん、コウの言っていることは本当だ。時代を自由に行き来するってのは自然の理に反することだ。神の作った世界に人間が関わるっていうのはな。まあ、俺たちのしていることも自然の理に反しているんだろうが」
「どういうことですか?」
「嬢ちゃんたちがどこまで理解してくれるかわからないが……」
「尽力します」
「そうしてくれると助かる。そっちの執行官はどうだ? 融通が利かなさそうだが」
 などと、実父ではないが実父と同じ姿、声、口調で言われるとイラッとしてしまう。
 宜野座はギロッと目の前に征陸を睨みつけた。
「お~怖っ。ま、こちらでは監視官の方が権限あるようだし、そっちの嬢ちゃんが理解してくれればいいということにしておくか。俺とコウは別の時代からきたわけじゃない。何度も別の世界という言い方をしているのに気付いていなかったか? 世界っていうのは並行線状にいくつも存在し、それぞれの世界に自分が存在する。しかし、世界の成り立ちはそれぞれ違い、長生きしている者もいればそうでない者いる。こっちの俺が殉職したが、俺がもともといた世界ではこうして刑事を続け生きている。同じ生物データを持ちながら別の人生を歩んでいる。俺たちの世界にも常守朱という女性が存在する。あんたと同じ姿形で生物的データも同じだが、こちの世界にはシビュラシステムは存在せず、また監視官という職業もない。別の仕事をしているか、似たような刑事をしているかもしれないが、俺の知る限り閲覧できる警察データにあんたの情報はない。ということは警察関係の仕事はしていないってことだ。もしかしたら死んでいるかもしれない。世界は無数にあり、それぞれの世界に存在しているので置かれている環境下は違う。俺とコウは……ああ、俺は仕事としてその並行線状に存在する無数の世界を行き来することが許されている。コウの場合は違法でな、警察としては黙認できず、行動がわかりしだい追いかけて捕獲してというのを繰り返しているってわけだ」

 征陸の話を聞き、まっさきに理解したのは唐之杜だった。
 征陸が話し終わると
「ああ、そういうこと。納得。それならすべてに説明がつくわ」
 と、すっきりした表情を見せた。
 しかし、ほかの面々は眉間にしわを寄せ必死に理解しようとする者、理解そのものを拒絶する者と様々で、対面しながら聞いていた朱と宜野座も必死に理解しようと脳内をフル回転させていた。
 そのままオーバーヒートしてしまうかもしれないほどのフル回転で、朱が導き出した理解とは、
「同じ時刻で、シビュラの監視下にない世界が同一に存在している、ということですか?」
「そういうことだ」
「それがひとつではなく無数に」
「そうだ。どれだけの世界が存在しているかは把握していない。たぶん、それを把握するのは人間業では無理だろうな」
「無数に存在するのに、なぜこちらの世界だったんですか? 短期間に三人も」
「だから言っているだろう監視官。想定外だって」
「コウの言っていることは本当だ。俺も飛ばされることは想定していなかった。そもそも、世界を飛び越えるにはそれなりの準備が必要でな。行ったはいいが元の世界に戻れないんじゃ意味がない。また無数にある世界のどこに行くかを決める必要がある。どこでもいいやでは戻りたいときに戻れなくなる」
「あなたがたの意思を無視したということですね。つまり、第三者の思惑が関係している……」
「そういうことだ。理解が早いな監視官」
 で、そっちの執行官は? という目で見られた宜野座は露骨に迷惑だという目で狡噛をみた。
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