第六十一話 情報
「いい心がけだ」
『たしかにな。城ヶ崎は本能というか、趣味の趣くままに生きて行きたいだろうから、フィーリングが合うヤツを恋人に選ぶべきかもしれん。オタクのカップルになればいい』
「レンレンは、オタクかい?」
「どうだろうな」
「ふむ。今のネタを拾えないとは軽めのゲーム・オタクだぞ、スネーク」
『どういう意味だよ?』
「レトロゲームのマスターだし、オタクっぽい気配はするんだがなー」
「そこそこだろうな」
「さすがはレンレン。そこそこモテモテ、そこそこオタクで、頭良くて料理上手だし、やさしいし…………あれ?」
「どうした?」
「い、いえ……なんだか、とっても私にとって好都合な男性じゃなくないですか、レンレンってば?」
『言い方が悪いぜ。『好都合』ってのは、露骨過ぎて城ヶ崎残念成分がにじみ出ているぞ』
「マジですか!?」
「モルガナの言うとおりだ」
「ふ、不覚っ。シャーさん、朝から不覚だよ」
『たしかにそうだな。好都合って単語じゃなくて、理想的ってコトバを選べよな……』
「なるほど。理想的……キレイな響きのコトバで、邪悪さがありませんね」
「勉強になったな」
「うん。私、ちょっと賢くなった。恋愛マスターへの道を、2、3歩は進んだような気がいたします」
『千里の道じゃ、2、3歩は焼け石に水過ぎるんだぞ』
「千里の道……遠いなぁ……私、結婚とか出来るのかしら……っ」
「大丈夫だ。マヌケなところも含めて、城ヶ崎を好きになる男もいる」
「ホント!?」
『喜ぶなよ、マヌケって言われてるんだぞ』
「あ。ほ、ホントだ。そこそこモテモテのレンレンに、また、私の感情が弄ばれているよう……」
「マヌケは言いすぎたな、あやまる」
「うん。女の子にマヌケはダメだよ」
「許してくれるか?」
「うん。許してあげまーす」
「それは良かった」
「あはは」
「どうした?」
「レンレンとお話しするの、楽しいや。男の子とこんなにしっかりとお話しするのはお久しぶりです」
「そうか」
「ていうか、初めてかもしれない。どこか残念な私が出て来ると、男の子は引いちゃうっぽいですし」
『……まあ、城ヶ崎そのものに好きな男子とかがいなかったからだろう』
「ふぇ!?……な、なんで、モルガナ、知ってるの?……い、いや、ていうか、私もちゃんと好きな男の子とかいたっちゃいましたけど?」
『マンガのなかの男キャラとかだろ』
「はぐっ!?……ど、どーして、それを……っ!?」
『城ヶ崎は残念だからだ』
「残念というコトバと、私の存在がしっかりと固結びで連結されているっぽく言われちゃったよう……」
『フィクションの男ばかり求めていると、現実の男子高校生には惚れることが出来んかもしれないな。フィクションの世界のヒーローみたいなヤツは、フツーいない』
「う、うん……でも、まあ……レンレンは、ヒーローみたいかも、私にとってはね」
「捻挫の治療が上手いからか?」
「い、いや、そうじゃなくて……」
『怪盗団ってことは口外するなよ』
「そ、そうだね、分かってるけど。そうでもなくてね……屋上から落ちそうになっても、危ないのに、離さなかったから…………アレは、アレはね……ヒーロー・ポイントが高い行いデスにゃーっ」
顔を赤らめながらそう言い、城ヶ崎シャーロットは身悶えしつつ通学バッグを抱きしめるように引き寄せながら、顔面をそれに埋めていた。
『今のは男心にグッと来なくもないぞ、城ヶ崎』
「は、恥ずかしいから、スルーしてよう……っ」
耳まで真っ赤にしている城ヶ崎シャーロットを見るのは、蓮にとってもそれなりに楽しい行いである。通学バッグを抱きしめている彼女は、やはり、まごう事なき美少女であったから。
美少女を見ているのは眼福である……そんな当たり前のことを考えながらうなずいていると、蓮のスマホが振動した。
スマホを取り出して、調べてみる―――双葉からだ。
「……双葉からだ」
『なに?……さすがは双葉だな、もう調べがついたのか?』
「……読んでみよう」
『グッモーニングだな、蓮!……さてと、初めての電車通学は地獄だな!サラリーマンってスゲーぜ!……まあ、それは良いとしてだ。例の七不思議について情報を集めてみたぞ!……と、威張りたいところだが、やはりネット上には情報が少ないのだ』
『……ネット上には情報が少ないのか……じゃあ、ウワサはネットが普及するよりも昔からあるのか……?』
「ネットが普及するより前って……どれぐらい昔?」
『30年以上前から七不思議のウワサが伝わっていたとしても、おかしくはないんじゃないか……?』
「うーん。そうだねえ。怪談って、どれぐらい前からあるか分からないよね……」
『だが、分かったこともある。七不思議の一つ、無いはずの鐘の音を聞くと自殺モードになっちまうってヤツだが……実際に、自殺者が出ている。これは事件を元にしているウワサだな。完全なフィクションじゃない……自殺者が出たのは、過去3回』
『3回?』
「え?そ、そんなに飛び降り自殺があったの……?」
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