なぜ私がハビラント・バンパイア?
ふと気が付いたら見覚えのない天井だった。
ちょっと仕事中に疲れていてうたた寝をしてしまっていた。少しのつもりがいつの間にかぐっすり眠り込んでしまったみたいだ。
「どこよ、ここ」
誘拐された人の定型句だなと皮肉な突込みを自分で入れてから二度寝を試みて、しばらくしても見える天井は変わらない。
やけに豪華な中世的な造りの天井だ。
天井に絵を描くなんて、どんな苦行をすることになったのか途中経過が知りたい。
「いやいや、待て」
飛び上がって起き上がると、乙女の夢が詰まった部屋が目の前にあった。
パステルの色合いの家具、猫足のタンスに凝った意匠のレースのカーテン。童話や物語が詰まった本棚は乙女らしい趣味が過分に反映されている。
寝そべっていたベッドだって、ベッドの足は猫になっている上に天蓋のカーテン付きだ。
「すごい乙女趣味。それに手足も細くて肌もツヤツヤ、うんうん、よくわからないけどお金と手間をかけられてるようね」
自らの手足、といっても覚えのある骨ばっているのに筋肉が過分についていた身体ではなく明らかに他人のものを確認する。
夢だとしたら感触まで再現するなんて、いいできと褒めるしかない。たまにはこんな夢を見てもいい、そう思うぐらいの美脚だ。
少し上機嫌になって白い塗装のされたクローゼットを勢いよく開けた。この身体ならミニスカートだって履き放題だ。
部屋が豪華な中世風だからドレスがたくさんかと思いきや、そこにはちんまりと制服がかかっていた。履いてみたかった足の線が出るような服はない。
ついでに可愛い服もない。
ただ一つ掛かっているのは制服だ。
真っ白な制服に赤のリボン、かわいらしいワンピースのような作りの制服は画面の向こう側としてみたことがある。
「頼む、気のせいであって…。私はただのしがない会社員でしかないのよ」
この制服が出てくる乙女ゲームは乙女ゲームなのに、かなり戦闘が多いゲームだ。
しかも白い制服ということは、守られる側ではない。
この制服がでてくる乙女ゲームは白制服の魔族と黒制服の人族が出てきて、平和を目指す学園の中で、各種族の王子様とイチャコラする異種族間交流の話だ。
もちろん戦闘も政治的もありで、何やら色々出てきて泥沼してくれるのが、人気のゲームだ。
人族の主人公は「きゃあ、助けて、強い異種族の王子様!」でもちろんなんとかなる。
なぜならこの学園で人死には厳禁。
国交上問題になるとなれば、王子たちは見て見ぬふりをするわけにもいかず”仕方なく”助けてくれる。
そしてそのうち手のかかる可愛いヒロインに惚れて、嫁にする。
王子によってトラウマとかささる言葉が少しずつ異なるが概ね全員その流れだ。ヒロインが世話をするほど弱いのはいない。
人族が最弱なのにヒロインが戦闘で役に立つわけがない。
さて、これだけイイ身体の出来栄えだとたぶんモブではないだろう。
広い部屋を横断して、花の彫刻がされた鏡を見下ろす。
「わあ、美人。ハビラント・バンパイアか」
猫目のような形をした翡翠の目が死んでいる。
この美形顔でこんな残念な顔をキメることになるなんて、とことんついてない。
バンパイア一族の双子の王子王女の片割れだ。
ゲーム的な役どころとしては、想像ついているかもしれないが、人族の庶民であるヒロインをいじめる悪役ポジのキャラだ。
順当に行ったら放逐されたり、殺されたり、ろくな末路がなかったはず。
「そっちがその気なら、私も容赦しない。がっつりやってやるわよ…」
机の上にあるゲーム中盤のイベント、ヒロイン2年次、バンパイア兄妹1年次の夜会イベントのご案内をにらみつけた。
「まあその前にせっかく美人なんだから、可愛くめかしてもいいわよね。まあ、理由は人族との交流のためとかなんとか言っておけば…」
せっかく美人で可愛くて、それもお姫様になったのにわざわざ嫌われるようにならなくたって、むしろこの条件なら好かれる方が絶対楽。
ネット通販がないのは不便だが、庶民ヒロインだとゲーム終盤でしか買えない装備も王女なら買えるはず。
それにハビラントは悪役としてヒーロー側と直に戦闘もしていたから身体能力も低くない、そもそも種族的に吸血鬼は人に遅れをとることはまずない。
「よし!街に買い物に行こう!とりあえずはそれから」
ハイスペックな王子がたくさんいる中で、優位にたつにはやはり可愛いのが一番。他になんと言われようと媚びる作戦がいい。
兄王子は妹は頼ってくれなかったからか弱くてすぐに「きゃー助けて!」になるヒロインが可愛くて仕方なくなってしまうというとてもダメ女に引っかかる典型例だった。
陥落させるなら身内から。
吸血鬼は近親婚が一般的、男女の双子は前世からの恋人とも言われる。まずは兄であり、婚約者のジル、ジュリアン・バンパイアから口説き落とさないと、ヒロインがどのルートを辿ってようと中盤からルートが発生するジルにはまだ手を出していないはずだ。
明日からめかしこむために、呼び出し用の紐を引いた。
ちょっと仕事中に疲れていてうたた寝をしてしまっていた。少しのつもりがいつの間にかぐっすり眠り込んでしまったみたいだ。
「どこよ、ここ」
誘拐された人の定型句だなと皮肉な突込みを自分で入れてから二度寝を試みて、しばらくしても見える天井は変わらない。
やけに豪華な中世的な造りの天井だ。
天井に絵を描くなんて、どんな苦行をすることになったのか途中経過が知りたい。
「いやいや、待て」
飛び上がって起き上がると、乙女の夢が詰まった部屋が目の前にあった。
パステルの色合いの家具、猫足のタンスに凝った意匠のレースのカーテン。童話や物語が詰まった本棚は乙女らしい趣味が過分に反映されている。
寝そべっていたベッドだって、ベッドの足は猫になっている上に天蓋のカーテン付きだ。
「すごい乙女趣味。それに手足も細くて肌もツヤツヤ、うんうん、よくわからないけどお金と手間をかけられてるようね」
自らの手足、といっても覚えのある骨ばっているのに筋肉が過分についていた身体ではなく明らかに他人のものを確認する。
夢だとしたら感触まで再現するなんて、いいできと褒めるしかない。たまにはこんな夢を見てもいい、そう思うぐらいの美脚だ。
少し上機嫌になって白い塗装のされたクローゼットを勢いよく開けた。この身体ならミニスカートだって履き放題だ。
部屋が豪華な中世風だからドレスがたくさんかと思いきや、そこにはちんまりと制服がかかっていた。履いてみたかった足の線が出るような服はない。
ついでに可愛い服もない。
ただ一つ掛かっているのは制服だ。
真っ白な制服に赤のリボン、かわいらしいワンピースのような作りの制服は画面の向こう側としてみたことがある。
「頼む、気のせいであって…。私はただのしがない会社員でしかないのよ」
この制服が出てくる乙女ゲームは乙女ゲームなのに、かなり戦闘が多いゲームだ。
しかも白い制服ということは、守られる側ではない。
この制服がでてくる乙女ゲームは白制服の魔族と黒制服の人族が出てきて、平和を目指す学園の中で、各種族の王子様とイチャコラする異種族間交流の話だ。
もちろん戦闘も政治的もありで、何やら色々出てきて泥沼してくれるのが、人気のゲームだ。
人族の主人公は「きゃあ、助けて、強い異種族の王子様!」でもちろんなんとかなる。
なぜならこの学園で人死には厳禁。
国交上問題になるとなれば、王子たちは見て見ぬふりをするわけにもいかず”仕方なく”助けてくれる。
そしてそのうち手のかかる可愛いヒロインに惚れて、嫁にする。
王子によってトラウマとかささる言葉が少しずつ異なるが概ね全員その流れだ。ヒロインが世話をするほど弱いのはいない。
人族が最弱なのにヒロインが戦闘で役に立つわけがない。
さて、これだけイイ身体の出来栄えだとたぶんモブではないだろう。
広い部屋を横断して、花の彫刻がされた鏡を見下ろす。
「わあ、美人。ハビラント・バンパイアか」
猫目のような形をした翡翠の目が死んでいる。
この美形顔でこんな残念な顔をキメることになるなんて、とことんついてない。
バンパイア一族の双子の王子王女の片割れだ。
ゲーム的な役どころとしては、想像ついているかもしれないが、人族の庶民であるヒロインをいじめる悪役ポジのキャラだ。
順当に行ったら放逐されたり、殺されたり、ろくな末路がなかったはず。
「そっちがその気なら、私も容赦しない。がっつりやってやるわよ…」
机の上にあるゲーム中盤のイベント、ヒロイン2年次、バンパイア兄妹1年次の夜会イベントのご案内をにらみつけた。
「まあその前にせっかく美人なんだから、可愛くめかしてもいいわよね。まあ、理由は人族との交流のためとかなんとか言っておけば…」
せっかく美人で可愛くて、それもお姫様になったのにわざわざ嫌われるようにならなくたって、むしろこの条件なら好かれる方が絶対楽。
ネット通販がないのは不便だが、庶民ヒロインだとゲーム終盤でしか買えない装備も王女なら買えるはず。
それにハビラントは悪役としてヒーロー側と直に戦闘もしていたから身体能力も低くない、そもそも種族的に吸血鬼は人に遅れをとることはまずない。
「よし!街に買い物に行こう!とりあえずはそれから」
ハイスペックな王子がたくさんいる中で、優位にたつにはやはり可愛いのが一番。他になんと言われようと媚びる作戦がいい。
兄王子は妹は頼ってくれなかったからか弱くてすぐに「きゃー助けて!」になるヒロインが可愛くて仕方なくなってしまうというとてもダメ女に引っかかる典型例だった。
陥落させるなら身内から。
吸血鬼は近親婚が一般的、男女の双子は前世からの恋人とも言われる。まずは兄であり、婚約者のジル、ジュリアン・バンパイアから口説き落とさないと、ヒロインがどのルートを辿ってようと中盤からルートが発生するジルにはまだ手を出していないはずだ。
明日からめかしこむために、呼び出し用の紐を引いた。
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