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バックステージで踊れ

原作: その他 (原作:刀剣乱舞) 作者: シュワシュワ炭酸
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バックステージで踊れ

「今回はお手柄でしたよ、山姥切長義」
 政府に帰り、今回の件を報告をした長義は審神者に呼ばれていた。相変わらず政府直属の審神者は御簾の中におり、表情はうかがえない。しかし長義を労う声色はいつもより優し気である。
「貴方たち二振りがもたらした情報は、今後の戦局の上でおおいに役立つことでしょう。本当によくやりました」
 長義と肥前が持ち帰った歴史修正主義者の情報は政府にとって有力な情報になったという。敵である歴史修正主義者は謎が多い。だからこそ今回二人が持ち帰った情報は貴重である、
「それは誉め言葉として受け取っておこうか」
「言語を獲得している歴修正主義者は今回が初めての観測になります。今まで、我々が考える歴史修正主義者は知性はあるがどちらかというと本質は獣であるとされてきました。しかし今回の貴方たちの報告や映像を見る限り、その説は覆りました」
 ここまで喋ると審神者は一息をつく。
「しかし喜んでばかりはいられませんね。敵の兵力はこちらより上に加え、特殊な幻覚をもつ個体や戦略に長けた個体がいることが判明しました。つまりこの戦はこちら側がますます不利であるということが証明されました」
 一振りの刀剣男士が無数の時間遡行軍より力が上であろうと、敵は無限近く湧くようにでてくるのだ。圧倒的な物量で攻められると負けるであろう。
「あと、件の本丸はシロだと上は判断したそうですよ。逆に密告した審神者が裏切りものだったとか。どうやらその審神者も過去に家族を亡くしたみたいでそれを材料に敵にゆさぶりをかけられたらしいですよ」
 「その審神者もお気の毒」と大した感情がこもっていない音色で審神者は言う。
 白状をした審神者の話によると、歴史修正主義者の言う通りに政府に申告すれば家族の死をなかったことにすると取引を持ち掛けられたのだという。そしてその誘惑に審神者は負けたのだ。
「密告した審神者は身分剥奪、および本丸を解体。ちなみに良かったですね、あなたが山姥切国広に干渉したことはこれらの功績を前にしたことで不問になりますよ」
「バレていたのかな」
 言葉とは裏腹に長義は笑みを浮かべ肩をすくめた。相方だった肥前は密告するタイプではないだろう。恐らく何等かの方法を使って政府は任務を監視していたことに長義も薄々気づいていた。
「やはり、自分の写しが気になりますか?」
「肥前にも言ったがそれは想像にお任せするよ」
「では勝手に想像しておきますね」
 互いに声をたてて笑った。
「ああ、そうだ。ここだけの話ですが、あなた方が持ち帰った情報によって政府は前々から構想していた『極システム』を解禁することに決定しました」
 興味深々に長義は「へえ」と相槌をうった。
 『極システム』とは政府が審神者との絆を深めた刀剣男士の霊力を最大限に開放するための儀式である。これにより、刀剣男士は更なる力を得ると共に現主である審神者の本当の刀になることとなる。
「まずは短刀、その次は脇差、そのまた次は打刀から順番に実装することとなります。貴方の気になる山姥切国広も実装する刀として今のところは該当します」
「いくら偽物くんが強くなろうと俺が本科であることには変わりはないよ」
「『極』は『修行』に行き、刀剣たちが自身を見つめなおす目的もあります。恐らく彼も大きな成長を果たすことでしょう。果たして、貴方は成長した写しを前にしても同じことを堂々と言えるのかしら?」
 まるで試すように言う審神者に長義は立ち上がった。

「愚問だね」

「俺こそが山姥を斬った山姥切長義。写しより劣るはずがない」

 アイスブルーの瞳に誰にも消すことができない闘志を燃やし、彼は静かに宣言する。
「いつか俺は本丸に行く。そして俺は堂々と名乗りをあげる。俺こそが本科、山姥切。俺が山姥を斬った霊刀なんだとね」
 いつまでも政府の裏方に甘んじる長義ではなかった。彼には目標というのには執念深く、野望というのには純粋な願いがあった。それはいつの日にか本丸に行き、自分の名を取り戻すことである。それまで彼は舞台裏で踊るのだ。
「そんな貴方に朗報というべきものかしら?……まだ、正式には決まっていないことですが近い将来、閉鎖された歴史空間である『聚楽第』が解放されます」
 その言葉を聞き、長義はごくりと唾を飲み込む。
 『聚楽第』
 政府が放棄した歴史改変された世界であり、長義と所縁のある北条氏政が生きている世界。
「政府は実績のある本丸に貴方を派遣させ、特命調査(1)で評定をつけさせる予定です。そして評価が高い本丸に貴方は刀剣男士として配属することが可能となります」
「つまり、俺が刀剣男士として本丸に行けるってことかな」
「その通りです」
 ニヤリと長義は笑う。そして歓喜した。ああ、ようやく自身も戦える。刀剣男士としての本能が疼いた。
 
 これはまだ舞台裏にいた山姥切長義の話。
 彼があの成長した山姥切国広と共に戦場に立つのはもう少し先の未来での話である。
 

注釈
(1)特命調査……刀剣乱舞のゲーム内イベントの一つであり、山姥切長義が実装されたイベント。ストーリーとしては各本丸に監査官である山姥切長義を派遣させ、政府が封鎖した歴史改変世界である聚楽第をプレイヤーは調査するという内容。なお、続編のイベントである文久土佐藩では、肥前忠広と南海太郎朝尊が実装された。
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