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バックステージで踊れ

原作: その他 (原作:刀剣乱舞) 作者: シュワシュワ炭酸
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とある本丸の山姥切国広

 西暦1575年の空は今にも雨が降りそうなどんよりとした雲が広がっていた。
 曇天の空は珍しくない。しかしいつもとは違い何か不吉なものを暗示しているようで、山姥切国広ははやる鼓動を抑え、息をはく。
 山姥切国広はとある本丸の部隊の隊長だった。ボロボロの古い布を被り、わざと身形をみすぼらしくしているが、目深く被った布からは美しい翡翠の瞳や整った顔立ちが隠しきれない。
 彼の最近の悩みは自分を顕現させた主のことだった。近頃、主である審神者は仲の良い友を事故で亡くし、意気消沈しているのだ。無理やり自分たちの前では笑顔でいるが、そのショックから夜も眠れず隈をつくっているのを知っている。
 国広は本丸の古参である。審神者が最初に選び目覚めさせた刀だ。山姥切国広は政府が最初に審神者に支給する五本の刀の一振りだった。だからこそ、主との信頼関係が一番強い。今回の友を亡くした審神者を一番心配したのも国広だった。
「山姥切さん、どうしたんですか?」
 脇差(1)の鯰尾藤四郎が心配そうに尋ねてきた。愛嬌がある大きな瞳は心配そうにこちらを見ている。
「いや、何でもない」
 目深く布を被る。こうするといつも国広は落ち着く。
「そういえば、最近の敵は変だよな」
 赤い髪の活発そうな少年の姿をした短刀(2)の愛染国俊は頭の後ろで手を組む。確かに最近の敵の動きはおかしかった。いざ、遭遇をすると何故かこちらに攻撃をしかけてこないことが多く、この前は刀を抜くことをしなかったのだ。その時は特に話をせず、(そもそも彼らはコミュニケーションがとれるのか不明である)何かの罠であるかもしれないので、すぐに倒してしまった。しかし敵が何を思ってそのような行動をするのか国広たちには見当もつかない。
「敵さんの思惑なんてこっちは知ったこっちゃねえぜ。俺たちは武器なんだから斬ればいいだけだろう」
「でも用心するのに越したことはないよ。山姥切くんもそう思うだろう?」
 勇ましい若武者の如く黒い防具を身にまとった同田貫正国が鼻で笑う。彼は量産された刀の集合体のためか『武器』らしい考えを持っている。それに対して黒服を着た伊達男の燭台切光忠は穏やかに言った。
「ああ、そうだな。敵が何を考えているかわからない以上、用心はした方がいい」
 国広は頷く。
 その突如、まがまがしい気配がその場を包み込む。何度も感じてきたその気配は時間遡行軍だろうと嫌でも皆は理解した。
「おっと敵の気配がするな。これは待ち伏せでもして驚かせようとしてるのか」
 服から髪まで何もかも白い優男の風貌をした太刀(3)の鶴丸国永が口笛をふく。顔に似合わないおどけた台詞を言うと、すっと脇にさしている刀を抜いた。
「ああ、敵だ。さっさと片づけるぞ」
 国広はその場にいる隊員に言うと腰を落とし、刀に手をかける。
 禍々しい黒い気配と共に、刀剣男士たちの前に時間遡行軍の兵士たちがその場に顕現した。ある物は仮面をかぶり、ある物は骨と刀でできている姿をしている。それはどれも異形である。
「山姥切国広、参る」
 その言葉と共に国広は抜刀すると敵の前へと躍り出る。刹那、一体の敵の首がごろりと落ちる。それが合図だった。他の隊員たちも先手必勝と敵へと切りかかる。やがて数十分後、敵の屍が次々と積み上げられていった。
 敵を一体、一体切り伏せていく事に国広の中で疑問が沸き上がってきた。

――おかしい敵があまりにも弱すぎる

 敵はこちらに向かって攻撃してくるものの、手ごたえがあまりにもないのだ。まるで何かに踊らされている感覚がする。
 ふと国広は周りの仲間たちを見た。皆、誰もが疑問に満ちた目をしている。深追いはせずに撤退するべきか、そう考えた時だった。
 じゃりと、後ろの小石が遥か下に落下する音が聞こえた。はっと国広は背後を見ると、すでに向こうから地面はない。いつの間にか崖の淵に自分たちは誘導されたことに気づいた。
 しかし先ほどまで森の中で戦闘していて、崖などどこにもなかったのだ。このことに誰もが疑問に思い、戸惑った。
 敵は煙のようにすうといなくなる。すると消えた敵に代わり、今度は角の生えた巨漢の兵士たちが無数に自分たちを取り囲むように存在していた。
「おいおい、そんなのありかよ」
 隣にいた同田貫が肩をすくめた。
「これは笑えない驚きだな」
 鶴丸は自身の本体を軽く振るう。
「……やるしかない、いくぞ」
 唇をかみ、国広は言うと隊員は勇ましく崖に追い詰められてもなお、刀を振るった。
「……っ!」
 敵の一振りを仕留めたのと同時に鯰尾が短刀と太刀に追い詰められ、崖のぎりぎりに追いやられているのを国広は見た。鯰尾は必死に応戦するが、右手に怪我を負っていてまともに戦うことができない。このままでは鯰尾が下に落ちてしまう。
 そう思った国広の行動は早かった。打刀(4)の俊敏な機動を生かし、すぐさま駆け寄ると短刀を斬りつけ、その次に刃を振りかざした太刀の攻撃をするりとかわすと首元に狙いをつけ斬りかかった。
 よろけた巨体はそのまま崖の下へと倒れるはずだったが、このままでは終わるまいといわんばかりに太刀はその手で国広の腕を掴むと一緒に下へと落ちる。
「しまっ……」
 一瞬の浮遊感が国広の身体を支配する。眼下は激しい勢いで流れる濁流。落ちればただじゃすまないだろう。
「隊長!!」
 愛染の悲痛な叫びが聞こえた。
 全ての出来事がスローモーションで流れる。初めて自分を顕現した日のこと、仲間ができ賑やかにご飯を食べたこと、演練で負け悔しい思いをしたこと、国広の頭の中で様々な記憶がよみがえる。人間でいう走馬灯というやつかと国広は笑う。落ちる感覚と共に意識がブラックアウトした。

注釈
(1)短刀……作中では短刀が元になっている刀剣男士のことをいう。小柄な少年の姿が多く、俊敏に優れクリティカルダメージを与えることが多い。
(2)脇差……脇差が元になっている刀剣男士のことをいう。少年から青年期の中間の年齢が多く、偵察が優れる。
(3)太刀……太刀が元になっている刀剣男士のことをいう。青年の姿が多い。全体的に安定したステータスをもつ。
(4)打刀……打刀が元になっている刀剣男士のことをいう。10代後半の青年の姿をしているものが多い。ゲームでは太刀より火力は少ないが、全体的に安定したステータスをもつ。チュートリアルで選ぶ刀はこの刀種。
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