ACT063 『代役の娘』
ミシェル・ルオは、言いつけ通りに振る舞うアミのことを大いに気に入っている。昔のジュナはこんなに素直じゃないけれど、それは別に構わない。アミはジュナの代わりを、がんばって務めてくれたらいいの。
じゃないと。
そうじゃないと。
ジュナに再会したら、嬉しくて無理やりにでも迫りそうだもの。周りは、私の部下しかいないんだもの。
強化人間みたいな力があったとしても、いくらでも力尽くで想いを遂げることは出来るのよね……。
そんなことすると、嫌われるってことぐらい、私には分かっているんだもの。だから、アミでその欲求をいくらか発散しておくのよ。
「……っ」
ミシェルの欲望を感じ取ったのか、アミは一歩だけ後ずさりするが、逃げるのはそれまでだった。ミシェルは、その逃避を許す。だって、ジュナによく似ているのだから。
「痛くしないからね」
「は、はい……さ、最愛なるミシェルさま……っ」
「私はとても上手だから、すぐに楽しんでもらえるはずだから。安心しなさい、私の可愛いアミ……」
「た、たのしむ……っ?」
「ええ。それぐらい、私は上手なの。だから、安心して身を委ねなさい。わかったわね、アミ?ほら。わかったんだから、笑顔で、返事をしてごらんなさいな」
震えて、涙を流しながらも、アミはうなずき、ぎこちなく笑顔を浮かべていた。顔も変えられた。体型も、好みに合うようにダイエットをさせられた。
全てを、ミシェル・ルオのために準備させられたのだ。アミは、自分が吸血鬼の花嫁にでもなったような気持ちになる……。
「可愛いわよ。まずは、仲良くなるために、キスから教えてあげるからね!」
「き、キス……っ?」
「したことないのね?」
「……は、はい……したこと、ありません、最愛なるミシェルさま……っ」
「なら。お姉さんが、やさしく教えてあげるから、そのまま瞳を閉じていなさい」
「……はい……」
とっくの昔に抵抗はムダだと思い知らされているアミは、ミシェル・ルオの命令に従い瞳を閉じた。閉じられた瞳から涙がしずくとなってあふれて落ちる。
まるでダイヤモンドみたいにキレイだとミシェルは感じていた。
ミシェルは従順なアミが差し出した唇を見て、自分の唇を舌舐めずりしたあとで、やさしく吸い付き、彼女のファースト・キスを奪っていた。
「……っ」
……抵抗をしないアミのことを、ミシェルは愛おしく思う。可愛くて、素直な子は好き。ジュナみたいに、好きに出来ない子もたまらないけれど……。
長くねっとりとした時間が過ぎた後で、アミは解放された。そのまま腰砕けになるように、床へとへたりとしゃがみ込む。
「……あら。そんなに驚いちゃったのかしら。可愛いのね、私のアミ……?」
「……は、はい……っ」
同性愛者でもないアミは、その行為に少なくない嫌悪を抱いていた。だが、ミシェルに奪われたと思うと……ミシェルの顔を見ると、恥じらいで赤くなってしまう。
「ウフフ。照れているのね。初めてのキスを、ご主人さまに捧げることが出来て?」
「……は、はい……きっと、そうだと思います、最愛なる……ミシェル、さま……」
ミシェルは必死に従順であろうとするアミを、いたく気に入る。床に座る彼女に手を差し出して、そのまま引き起こすと、両腕でやさしく抱擁する。
アミはその抱擁に嫌悪ではなく、安心感を覚えてしまっていた。
「いい子ね。これから、全部、教えていってあげるから。素直に私のレクチャーを受け入れるのよ?……いいわね?それが、いちばん、アミが痛くなくて、苦しくない方法なんですからね?」
「は、はい。わかりました、最愛なるミシェルさま……」
その言葉しか口にすることは許されないのだと、前もって教育係である女から教えられていた。
ルオ商会は、マフィアの顔も持っている。逆らえば、アミもその両親も、どんな残酷な目に遭わされるのか。従順であることでしか、アミが安全である保障はありはしいのであった。
「……アミの赤い髪は、とてもいい香りがするわね。私が好きな香りよ。もう。お風呂に入っているみたいだけど……私も一緒に入って、アミのことを洗ってあげるわね」
「は、はい……お、お願いいたします、最愛なるミシェルさま……」
「その後で、お化粧を教えてあげるわ。アミは可愛いから、その新しい顔に合うお化粧を覚えたら、もっともっと可愛くなるし、少し大人びたカンジにしてあげるからね。ねえ、うれいしかしら、私のアミ?」
「は、はい。と、とても、う、うれしい、です……っ」
「怖がらないでね。痛くするのは、ちょっとだけだから。あとは、全部、アミが考えたこともないぐらい、とっても気持ちいいことしかないんだからね?……夜が明ける頃には、アミは本心から、私のことを愛するようになっているのが、私には分かるもの」
「……っ」
そんなこと、あるわけないよ……っ。
アミは無言のなかに、そんな言葉を隠していた。だが、ミシェル・ルオは、彼女のその本心の抵抗を嗅ぎ取り、一種の狩猟的な悦びを見出していた。
屈服させてやりたくなっているのだ。真の快楽の深みを知らぬこの小娘に、肉体なんてものが、快楽に対して、一体どれだけ弱いのかを教え込んでやろうとしていた。
―――結果だけ言えば、アミはミシェル・ルオという魔女のような魅力をもつ美女に敗北をすることになる。
純情な少女は、様々なものをミシェルに捧げることを強いられるが、やがてはその屈辱の瞬間の数々を己の誇りと認識するようになった……。
ミシェル・ルオは、穢れ無き乙女を堕落させることに対しては、罪悪感など抱くことはない。
アミに対しても、全く、そんなものを抱くことはないまま、今回も全ての儀式を完璧に完了させることになった―――。
※会員登録するとコメントが書き込める様になります。