第十九話 ホームルーム
やがて生徒たちが帰って来る。組み替えられたばかりのクラスだから、まだつるむヤツが決まっていないのか、やけに社交的になっているな。モナは机の中からクラスの様子を観察しながら、そんな印象を受ける。
皆が孤独になるのはイヤだから、早くクラスのなかに親しい者を見つけようと行動しているのだ。蓮にも、そういう癖があればいいのに……あいかわらず、我らが怪盗団のリーダー、ジョーカーは孤独を好む。
……いや。城ヶ崎に取り憑かれているか。蓮の隣の席を手に入れているな。他の子と自分の席を交換したわけか。ふむ……城ヶ崎は、蓮を親しい者に選んだのだな。同性同士の方が良い気もしなくもないが……春だしな。
しかし、城ヶ崎は蓮によく話しかけてくれる。もしかして、惚れているのだろうか?……いや、出会って3時間も経っていないし……でも、違うとも限らないか。蓮は、この一年間で見違えるほどいい男にはなっているしな。
……怪盗団の女子たちが、怒るかもしれんな。蓮は、何だかんだでモテるんだよなぁ。
「さあ。席に着きなさい。ホームルームを始めるわよ」
3年B組の担任である神代がやって来た。生徒たちは、すぐにそれぞれ自分の席へと着席していく。反抗的なヤツはいないようだ。私立だし、あまり荒れたヤツもいそうにないな。蓮にケンカ売ってくるヤツも、この雰囲気ならいなさそうだ。
シュージン学園での日々は、学生生活と呼ぶには、あまりにも暗い日々だった。陰口と無視とあらぬレッテルを貼られて、低評価の日々……心が弱い者ならば、自殺だって考えたかもしれない過酷な環境だったが―――蓮はあまり気にすることなく暮らしていた。
考えれば、それはスゴいことなのかもしれない……やはり、我らが怪盗団のジョーカーは、傑物なのだろう。
でも……学生らしい学園生活を送るというのも、蓮には幸せな日々になるのかもしれない。ろくでもない大人たちとの戦いを繰り広げる必要も、しばらくはないだろう……しばらくは。
「……さて。皆も最終学年に入りました。一年後には、進学と就職と、それぞれに異なる道を歩むことになります。この30人が同じ場所に存在していることは、二度とない時間です。勉学だけでなく、友情も深めなさい。高校時代の仲間は、一生の仲間になります。今後60年近く、連絡を取り合う仲間も出来るでしょう。そういう仲間が多ければ多いほど、人生は豊かになります。それを、心に刻んで下さい」
……ああ、シスター・神代は、本当にマジメで、素敵な女性だー……我が輩の、心のオアシスー……っ。いや、我が輩には、杏殿という心に決めた女性が…………。
でも、蓮だって城ヶ崎がいるんだから、我が輩だって、シスター・神代に……。
猫好きかなー。
猫好きだといいなー、シスター・神代……。
モルガナにも春が来ているようだと、机のなかでモゾモゾと動いている相棒を見ながら、蓮はそんなことを考えていた。
「さてと。とりあえず、話しておきたいことは話しました。委員は週明けにでも決めることにしましょう。我が校の伝統は、自発的な委員会活動。それぞれ、なりたい委員があるのであれば、私に申告してくるように。基本的には、早く来た者の順で、それぞれの委員に割り振っていきます。委員会活動に所属していれば、大学への推薦入試を受けやすくもなりますから、自分で判断して行動するように」
……自主性を重んじる校風というわけらしい。委員か。入っていた方が、校内での評価が良くなるかもしれない。進学の面でも、有利になるか……色々と、考えておくべきだな。
「では、今日はこんなところですね。今日は1年生のオリエンテーリングが行われます。用が無い者は、すみやかに帰宅するように。各委員会に既に所属していたり、学校側から手伝いを頼まれている者以外は、30分以内に学校から出ること。部活も、今日は禁止のはずですからね。さあ、用が無い者は帰宅するように!以上です」
神代は長い話を終わらせると、そのまま教壇を降りて、3のBの教室から出て行った。生徒たちも、ゾロゾロと教室から離れ始める―――荷物を持っていかなかった者たちもいることから、彼らの委員会の仕事でもあるのだろう……。
「さてと。新入生に、ミカエルのことを教えてあげましょー」
「一年生のところに行くのか?」
「分かってて、言っているよね?……君のことですよー」
「……オレのことか」
「そうゆうこと。どの委員がオススメなのかとか、耳よりも情報も教えてあげるからね」
「助かるよ」
「うん。じゃあ。私たちも行こう。まずは、食堂からご案内だね。ちょっとお腹も空いているし……あそこなら、持参したお弁当も食べていいようになっているんだ」
「お腹が空いているのか?」
「うん。だから、行きましょう、レンレン!神代先生のお手伝いをするまでに、腹ごしらえをしておくんだよ」
「了解だ。案内してくれ、城ヶ崎」
「おっけー。任されたから、一緒に行くよ、レンレン!迷子にならないように、私にちゃんとついてくるんだよ?じゃないと、七不思議にも遭遇するかもしれないし」
「……『七不思議』って?」
「この学校に伝わっている怪談だよ。七つあるらしいけど、有名なのは三つだけ。ボーッとしていると、これに巻き込まれて、酷い目に遭っちゃうらしいの。だから、そうならないように、私が守ってあげるね、レンレンのことを」
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