ACT134 『零距離戦闘』
ゼリータ・アッカネン大尉のサイコミュ入りの右目が、狂気の光を放つ。
シナンジュ・スタインはビーム・サーベルの二刀流を選び、『フェネクス』目掛けて、その剣の技巧を見せつける!!
光の斬撃は、速く、精確であり……そして、容赦はなかった。ビーム・サーベルの刃のラッシュは、守りに徹しようとする『フェネクス』を攻め立てていく……。
「良家の出なんでねえッ!!父上からは、剣術なんて古くさいモノもしっかりと仕込まれている!!私に、剣で勝てたヤツは、もう何年もいないんだよねえッ!!」
ビーム・サーベルの刃は、『フェネクス』の対ビーム装甲を一瞬で斬り裂くことは出来ない。
それでも、打ち込まれたエネルギーの全てを無効化することは、『フェネクス』の装甲をもってしても不可能な行為である。
熱量として『フェネクス』に蓄積していくのだ。それが、ゼリータの右目には分かる。シナンジュ・スタインが演算し、伝えてくれるのだから。不死鳥には、確実に熱が貯まりつつあり、その動きを制限しようとしている。
「今なら、瞬間移動も、出せやしないだろうッ!!私はなァ、名誉のためには……かなりムチャをする女だと思い知らせてやるッ!!命令だ、全機、ビーム・ライフルを不死鳥に撃ち込め!!シナンジュ・スタインごと、ヤツを燃やすんだッ!!」
『……そんな!?ゼリータ、死ぬわよ!?』
「死ぬほど痛いだろうが、死にはしない。接近戦に、コイツは弱い。慣れていない、怖がっているのが分かる!!私に集中して、気を取られている今なら、もっと熱を蓄積させられるんだよ!!やれ!!シナンジュ・スタインも、ガンダリウム合金だ、少々では、死なん!!やらなければ、私が後でお前らを全員、殺すぞッ!!」
『りょ、了解!!』
『ゼリータに、直撃させないように、撃てえええええええええええッッ!!』
ギラ・ズールたちが、ビームの嵐を撃ち放つ。
シナンジュ・スタインの猛攻に晒されて、動きを殺されていた『フェネクス』に、それを避けるための余力はありはしなかった。無防備のまま、エネルギーの奔流を浴びていく。
しかし、装甲は機能し、ビームを拡散してしまうのだ。『フェネクス』の懐に潜り込んで、接近戦を仕掛けている最中のシナンジュ・スタインにも、そのエネルギーの一部は降り注いでしまう……。
ガンダリウム合金のおかげで、一瞬で装甲が溶解してしまうことさえ無かったが。設計された強度をはるかに超える高熱を浴び続けているのは事実である……シナンジュ・スタインの装甲にも、熱が貯まり……鋼をも蒸発させる領域にまで高まっていく。
コクピットも、そんな熱量に燃やされるのだ。ノーマル・スーツを着ていなければ、数秒持たずに焼け死んだだろう。それに、強化人間でなければ、この熱の中でも動けはしまい。
「だが、私はジオンのために在る戦士ッ!!選ばれた、エリートだッ!!私を、赤い彗星もどきのフルフロンタルや、男好きのハマーン・カーンなどと、一緒にするなッ!!私は、ヤツらよりも、もっと、激しい獣だあああああああッ!!」
装甲を燃やしながらも、シナンジュ・スタインの猛攻は続く。ビーム・サーベルが『フェネクス』の装甲に傷をつけ始める。いい徴候だった。このまま、その金色の派手な鎧を剥いで……中身を取り出す。
「お前、女だろ?……怯え方で分かった!!女だ!!強化人間じゃなく、本物のニュータイプの女か!!私が、求められていた存在か!!だったら、どんなヤツなのか、見せてもらおうじゃないか……ベルナル少尉ッ!!」
資料にあった名前を呼ぶ。名前は削除されていたが、ファミリーネームと階級は残されていた。
ゼリータ・アッカネン大尉がそれを叫んだ瞬間、『フェネクス』は、その名前に反応したように、ビクリと体を震わせていた。
思い出したのかもしれない。自分が、かつて、どこの誰であったのかを……そして。リタ・ベルナルは思い出したのだろう。
それと同時に、自分が果たすべき『使命』についても……。
―――まだ、まけられないの。
「……ッ!?」
ゼリータ・アッカネン大尉は、感応波として浴びせられた女の声に驚く。こうまでハッキリと相手の感応波が伝わって来たのは、初めてのことだった。
幼いが、強い意志を持つ声だ。揺るぎない覚悟に支えられた声……。
強化人間として育てられてしまった彼女の心にある、好奇心が……力への欲求が、その感覚を身につけようと何度も思い出そうと必死になる。
……これが、本物のニュータイプの力だというのなら、この感覚を学ぶことが出来たなら……私は、より強くなれる―――。
『―――ゼリータ!!止まらないで!!そいつ、何か企んでいるわよ!!』
「……くっ!!」
エリク・ユーゴ中尉の言葉で、ゼリータは気がついていた。『フェネクス』が両腕を広げていた。イヤな予感しかしなかったが、シナンジュ・スタインにはどうすることも出来なかった。
熱で動きがやられていたのは、こちらも同じと言うことか。舌打ちしたが、愛機のことは貶さない。
しょうがないさ。悪くはない。収穫はあったぞ。次に繋がるな―――。
ガシイインンッ!!
『フェネクス』の腕が、シナンジュ・スタインに絡みついていた。そのまま、『フェネクス』は加速するのだ。
やはり、推進剤に頼らない、謎の斥力か。空間が曲がって、吸い込まれて落ちていくような感覚を、ゼリータは体感していた。
「……浮遊感を持つ、高速だ。燃料が燃える、雑味のある振動がない……スムーズで、すべるような飛翔……ズルいぜぇ……こんな楽しい感覚を、お前は、独り占めしていやがったのかよ?」
欲しくなる。この超加速……宇宙の法則を支配しているような感覚。これを、政治的なカードにしか使えないモナハン・バハロは俗物だな……ヤツごときには、分からんか。
この感覚が、どれだけ素晴らしいものなのかを。
『ゼリータあああああああッ!!』
エリク・ユーゴ中尉が絶叫を無線に乗せるなか……もつれて加速していた『フェネクス』とシナンジュ・スタインは、小惑星にこびりついていた、採掘用ステーションの残骸に、流れ星のスピードで衝突していた。
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