26話
「…何をしているのです?近藤さん」
「いやァ!花子ちゃん奇遇だなァ!こんなところで会うなんて、がはは!」
「ここ、うちのお店です」
お茶屋さんと提携して、薬草茶を売り始めその試飲用においていたカゴに、商品に埋もれるようにして入っている近藤さんはいつか捕まらないのだろうか。ああ、この人が警察のトップなんだっけ。なんて思いながら現実逃避をし始める。見ず知らずの不審者ならカゴをひっくり返してでも追い出すけれど、知った人間ならばそんな乱暴すら出来ない。いや、知り合いがそんな不審な行動に出るとどうすべきかと考えているようで、この現状を理解したくなくて別の事に思考が向いていく。
「こんにちは、サラ子ちゃん」
土方さんに電話かな、なんて思っていると後ろから声を掛けられ振り向くと先日お会いしたお妙さんが立っていた。
そう言えば近藤さんはこの人のストーカーなんだっけ、と先日万事屋さんと世間話をしていた時に聞かされた衝撃的な話題を思い出す。考えてもらいたい。
普段温厚で頼りがいのありそうな、人畜無害を表したような人が「ああアイツストーカーなんだよ」なんて「あそこのスーパーセール中なんだよ」みたいなテンションで言われた時の衝撃を。そう言えばあの時は万事屋さんしか見えていなかったけれど、一緒にいた人は近藤さんに見えなくもなかった。
「こんにちは、お妙さん。お買い物ですか?」
「今日はサラ子ちゃんに会いに来たの。新ちゃんからこの辺だって聞いてね」
お妙さんは最初の印象があれだったから、ちょっと怖かったけれど、関わってみるとそうでもないことがわかった。
ただ何故かスイッチが入ると男女関係なく厳しい人だなとは思うけれど、普段は本当に優しいお姉さんと言った感じ。
「あら、これ新商品なの?」
「はい、薬草をもっと手近なものに出来ないかと近くのお茶屋さんと提携しまして、薬草茶を売り出したんです。」
「色々あるのねぇ…ちょうど職場においてあったお茶がなくなっていたし、買って行こうかしら」
「ありがとうございます。効能別に色々種類があるので、見ていって…」
くださいね、と言おうとした私にお妙さんは商品を1つ手に取った後にそれをカゴの方へと叩きつけた。
叩きつけたなんて生易しいものじゃない。カゴに陳列されていた商品が宙を舞い、「たっぷぁ!」と情けない声を出しながら近藤さんが宙を舞う。唖然とその様子を見ながら私は先程考えていたことを訂正した。
やっぱり怖いかもしれない。
「ごめんなさいね、お茶の間からなんかゴリラが見えた気がして。」
「いえ、大丈夫です。ハイ」
見えた気がした、というより居たので。
商品はビニール包装されていた上に、一旦宙を舞っていた気がするけれど、結果的には全部カゴの中に戻っていったから地面に落ちて破棄なんて心配はなかった。けれど流石に種類別に並べてあった中がごちゃ混ぜになってしまい、一旦外にあったカゴを店内に運び込むとお妙さんが「手伝うわ」と申し訳なさそうに歩み寄ってきた。
「並べるだけなので大丈夫ですよ。」
「いいえ、私がしちゃったことだもの。ちゃんと綺麗にしてから帰るわよ」
「でも、お客さんにそんなことさせるわけにはいきませんし」
「綺 麗 に し て か ら、帰るわね」
「はい…お願いします…」
逆らってはいけない、本能的にそう感じて頷くと、お妙さんはにこりと笑って商品の方に向き直った。
それに、私も商品を手に取り元の場所へと戻していると、「それに」とお妙さんが寂し気に呟いたのが耳に入る。
「それに、もう私たちお友達でしょう?お客さんだなんて寂しいこと言わないで」
隣にいるお妙さんの震える声に商品に伸ばした手を引っ込めた。
ちらりとお妙さんを見ると、泣きそうな顔で、それをごまかすように笑うものだから、何だかバツが悪くなって自身の目が泳ぐ。先程まで強気だった人がこうも弱さを見せてくると人間戸惑いを感じるというか、何だか物凄く悪いことをしたんだと罪悪感が押し寄せてくる。
「はい…すみません」
商品を並べ直し、改めてお妙さんはいくつかお茶を手に取ると「じゃあこれ、お願いできる?」と私に手渡した。
ビニール袋にそれを入れて手渡すと財布を手にお会計を待っていたお妙さんがきょとんとした。何だか、普段はとても大人びて見えるというのに、その表情は年相応というか、すごく幼く見えた。
「お手伝いしてもらったお礼です。」
「でも、そもそも私がひっくり返しちゃったわけだし、ちゃんと払うわよ?」
先程お妙さんが「お友達でしょう?」と言ったのは、裏表がない言葉だとはわかっている。
現にお財布からお金を出して支払おうとしているお妙さんの手を、手のひらで制するように止めて、首を横に振った。「家族」とも仲良くやっていけない自分が、お友達なんて作ったところで上手くいかないと思い込んで友達どころか、人間関係を作ることを拒絶してきたけれど。何だか色々と吹っ切れた気がする。
上手くいかないかもしれない、と殻に閉じこもってばかりいたら何も変化なんてしない。
それに嬉しかったんだ、「友達」と言ってくれたことが、素直に嬉しいと感じることが出来た。
そのきっかけをくれた人として、何かお礼がしたかった。
「また来るわね」と去っていくお妙さんを見送り、去っていく後ろ姿をぼんやりと見つめていると、その視線に気づいたからかは分からないけれど、一度こちらを振り向いたお妙さんが手をひらひらと振った。
今度、神楽さん達に会ったら、お友達になりたいと言ってみようか。そんな事を考えながら、自然と頬が緩むのを感じた。
「いやァ!花子ちゃん奇遇だなァ!こんなところで会うなんて、がはは!」
「ここ、うちのお店です」
お茶屋さんと提携して、薬草茶を売り始めその試飲用においていたカゴに、商品に埋もれるようにして入っている近藤さんはいつか捕まらないのだろうか。ああ、この人が警察のトップなんだっけ。なんて思いながら現実逃避をし始める。見ず知らずの不審者ならカゴをひっくり返してでも追い出すけれど、知った人間ならばそんな乱暴すら出来ない。いや、知り合いがそんな不審な行動に出るとどうすべきかと考えているようで、この現状を理解したくなくて別の事に思考が向いていく。
「こんにちは、サラ子ちゃん」
土方さんに電話かな、なんて思っていると後ろから声を掛けられ振り向くと先日お会いしたお妙さんが立っていた。
そう言えば近藤さんはこの人のストーカーなんだっけ、と先日万事屋さんと世間話をしていた時に聞かされた衝撃的な話題を思い出す。考えてもらいたい。
普段温厚で頼りがいのありそうな、人畜無害を表したような人が「ああアイツストーカーなんだよ」なんて「あそこのスーパーセール中なんだよ」みたいなテンションで言われた時の衝撃を。そう言えばあの時は万事屋さんしか見えていなかったけれど、一緒にいた人は近藤さんに見えなくもなかった。
「こんにちは、お妙さん。お買い物ですか?」
「今日はサラ子ちゃんに会いに来たの。新ちゃんからこの辺だって聞いてね」
お妙さんは最初の印象があれだったから、ちょっと怖かったけれど、関わってみるとそうでもないことがわかった。
ただ何故かスイッチが入ると男女関係なく厳しい人だなとは思うけれど、普段は本当に優しいお姉さんと言った感じ。
「あら、これ新商品なの?」
「はい、薬草をもっと手近なものに出来ないかと近くのお茶屋さんと提携しまして、薬草茶を売り出したんです。」
「色々あるのねぇ…ちょうど職場においてあったお茶がなくなっていたし、買って行こうかしら」
「ありがとうございます。効能別に色々種類があるので、見ていって…」
くださいね、と言おうとした私にお妙さんは商品を1つ手に取った後にそれをカゴの方へと叩きつけた。
叩きつけたなんて生易しいものじゃない。カゴに陳列されていた商品が宙を舞い、「たっぷぁ!」と情けない声を出しながら近藤さんが宙を舞う。唖然とその様子を見ながら私は先程考えていたことを訂正した。
やっぱり怖いかもしれない。
「ごめんなさいね、お茶の間からなんかゴリラが見えた気がして。」
「いえ、大丈夫です。ハイ」
見えた気がした、というより居たので。
商品はビニール包装されていた上に、一旦宙を舞っていた気がするけれど、結果的には全部カゴの中に戻っていったから地面に落ちて破棄なんて心配はなかった。けれど流石に種類別に並べてあった中がごちゃ混ぜになってしまい、一旦外にあったカゴを店内に運び込むとお妙さんが「手伝うわ」と申し訳なさそうに歩み寄ってきた。
「並べるだけなので大丈夫ですよ。」
「いいえ、私がしちゃったことだもの。ちゃんと綺麗にしてから帰るわよ」
「でも、お客さんにそんなことさせるわけにはいきませんし」
「綺 麗 に し て か ら、帰るわね」
「はい…お願いします…」
逆らってはいけない、本能的にそう感じて頷くと、お妙さんはにこりと笑って商品の方に向き直った。
それに、私も商品を手に取り元の場所へと戻していると、「それに」とお妙さんが寂し気に呟いたのが耳に入る。
「それに、もう私たちお友達でしょう?お客さんだなんて寂しいこと言わないで」
隣にいるお妙さんの震える声に商品に伸ばした手を引っ込めた。
ちらりとお妙さんを見ると、泣きそうな顔で、それをごまかすように笑うものだから、何だかバツが悪くなって自身の目が泳ぐ。先程まで強気だった人がこうも弱さを見せてくると人間戸惑いを感じるというか、何だか物凄く悪いことをしたんだと罪悪感が押し寄せてくる。
「はい…すみません」
商品を並べ直し、改めてお妙さんはいくつかお茶を手に取ると「じゃあこれ、お願いできる?」と私に手渡した。
ビニール袋にそれを入れて手渡すと財布を手にお会計を待っていたお妙さんがきょとんとした。何だか、普段はとても大人びて見えるというのに、その表情は年相応というか、すごく幼く見えた。
「お手伝いしてもらったお礼です。」
「でも、そもそも私がひっくり返しちゃったわけだし、ちゃんと払うわよ?」
先程お妙さんが「お友達でしょう?」と言ったのは、裏表がない言葉だとはわかっている。
現にお財布からお金を出して支払おうとしているお妙さんの手を、手のひらで制するように止めて、首を横に振った。「家族」とも仲良くやっていけない自分が、お友達なんて作ったところで上手くいかないと思い込んで友達どころか、人間関係を作ることを拒絶してきたけれど。何だか色々と吹っ切れた気がする。
上手くいかないかもしれない、と殻に閉じこもってばかりいたら何も変化なんてしない。
それに嬉しかったんだ、「友達」と言ってくれたことが、素直に嬉しいと感じることが出来た。
そのきっかけをくれた人として、何かお礼がしたかった。
「また来るわね」と去っていくお妙さんを見送り、去っていく後ろ姿をぼんやりと見つめていると、その視線に気づいたからかは分からないけれど、一度こちらを振り向いたお妙さんが手をひらひらと振った。
今度、神楽さん達に会ったら、お友達になりたいと言ってみようか。そんな事を考えながら、自然と頬が緩むのを感じた。
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