何度でも、ハッピーバースデーを。
「誠司さんのハンバーグが食べたいです!」
それは、握野英雄がグループチャットで主役へ送った「誕生日、何が欲しい?」への返事だった。その願いを叶えるべく、5月5日、信玄誠司の家にFRAME3人が揃った。
主役の願い通り、テーブルの上にはハンバーグ、大盛り大サービスのご飯、汁物、サラダが並べられ、それらを主役――木村龍は目を輝かせながら見つめていた。
「しかし龍、本当に良かったのか?折角の誕生日だというのに、自分のハンバーグだなんて……」
「そうだぜ、龍。もっと欲しい物とか遠慮せずに言ってくれて良かったんだぞ?」
「良いんです! 俺、今日誠司さんのハンバーグを皆で食べられるって思いながら仕事頑張ってきたんですから!」
龍は両手をぱん、と合わせ「いただきます!」と叫んだ。
そして箸で大きく切ったハンバーグを大きな口で頬張り、数回咀嚼した後、「美味しい!」とまた叫んだ。龍は再び口を開く。
「最近、皆仕事が忙しくって、仕事終わりに一緒にご飯、っていうのもなかったじゃないですか。打ち上げでお店に行く、っていう事はありますけど」
一度言葉を区切って龍は白米を口に含んだ。そんな龍を2人は口を挟む事なくじっと見つめている。
「こうやって、久しぶりに誠司さんの家に3人で集まってご飯食べたり仕事の話したりって事がしたくって。誠司さんのハンバーグ、本当にご無沙汰でしたし。だから英雄さんが俺に誕生日のこと聞いてくれた時、もうこれしかない!って思って。今日はそれが叶ってすごく嬉しいです!」
「これは、最高の誉め言葉を貰ってしまったな」
「おかわりもあるぞ」「やったー!!」と無邪気に喋る2人の声を聞きながら、英雄は羨望するようにため息をついた。
視線の先には、自分用のハンバーグが置いてある。誠司が気を利かせてくれたので龍のよりは少し小ぶりだが、しっかりと厚みがあり、肉汁で作られたソースが光に反射してキラキラと輝いている。
これまで何度も食べてきた信玄誠司特製ハンバーグだ。食べなくても美味しいことは十分知っていた。
ハンバーグに添えられた野菜に目を向ける。人参、かぼちゃ、じゃがいも、カリフラワーにさやいんげん。
「あまねと一緒に使っていたのがあるんだ」と誠司が持ち出してきたクッキー型のおかげで、人参は花の形をしていた。
「確かに、信玄のハンバーグは絶品だよな。俺もパンケーキ以外にも得意料理が欲しいぜ」
「何言ってるんですか英雄さん!」
龍の声に振り向くと、彼は箸でかぼちゃを摘まんでいた。それを英雄の前に差し出す。
「ど、どうしたんだ」
英雄の声が少し震える。
「この付け合わせ、英雄さんが作ったんでしょう?」
図星だった。
何を用意したら良いか分からなくて、けれど龍の事だから全て食べてくれるだろうと、『ハンバーグ 野菜 つけあわせ』で検索して出てきた野菜を軒並み購入してきた。
英雄は開けっ放しだった口をぎゅっとつむり、龍とかぼちゃから目を逸らす。その態度で正解だと分かった龍は、満足そうにかぼちゃを口の中に放り込んだ。
「これもすっごく美味しいです!」
ハンバーグと同じように何度か咀嚼し、龍の目が見開く。
「かぼちゃの甘みの中に……これはにんにくがアクセントになってるんですね。おつまみとしても最高だと思います!」
「な、何で分かったんだ……? いや、にんにくじゃなくて、俺が作ったって事」
「だって英雄さん、自分の皿と俺の皿ちらちら交互に見てましたもん」
口元を隠して笑う龍に英雄は面映ゆくなり、黙ってしまった。
そんな2人を見て誠司もはははと笑う。
「これは一本取られたな、英雄。でも本当にこのかぼちゃは美味しいぞ」
「……うるさい」
英雄が顔を真っ赤にさせるのをよそに、龍は茶碗から勢いよく米をかきこみ、空になった茶碗を誠司に突き出した。
「誠司さん、ご飯おかわり!」
思わず誠司と英雄は顔を見合わせる。
予想以上のペースだった。
漫画のようにきれいに山なりに盛られた白米は全て龍の胃の中に消えてしまっていた。
龍の事だから白米は多めに炊いておいていた方が良いだろうと双方の意見は最初から合致していたが、ここまで早いとは思わなかった。
「ハンバーグと付け合わせの野菜が美味しすぎて、箸が止まりません!」
龍はそう言いながらかぼちゃの隣に添えられた人参をぱくりと口に放り込んだ。
「これも美味しい!」
「そんなに美味いのか?」
「はい!」
人参を飲み込んで龍は声をかけてきた誠司を見る。
龍の笑顔を見て、誠司は満足そうに微笑んだ。
「分かった、準備しよう」
龍の茶碗を持って誠司が立ち上がる。
手伝おうと英雄も立ち上がり、誠司の後に続いた。
「俺、今めちゃくちゃ幸せだあ……」
ハンバーグを噛みしめながら、龍は一人呟く。
自然と出た言葉なのだろう。そんな龍を見て、英雄と誠司はくすりとまた顔を見合わせ、そしてにやりと意地悪く笑った。
主役はまだ知らない。冷蔵庫の中に、2人が元パティシエから教わって作った特製二段ケーキがある事を。
龍は気づいていない。これから送られる2人の愛と幸せで、お腹がいっぱいになり、動けなくなる事を。
それは、握野英雄がグループチャットで主役へ送った「誕生日、何が欲しい?」への返事だった。その願いを叶えるべく、5月5日、信玄誠司の家にFRAME3人が揃った。
主役の願い通り、テーブルの上にはハンバーグ、大盛り大サービスのご飯、汁物、サラダが並べられ、それらを主役――木村龍は目を輝かせながら見つめていた。
「しかし龍、本当に良かったのか?折角の誕生日だというのに、自分のハンバーグだなんて……」
「そうだぜ、龍。もっと欲しい物とか遠慮せずに言ってくれて良かったんだぞ?」
「良いんです! 俺、今日誠司さんのハンバーグを皆で食べられるって思いながら仕事頑張ってきたんですから!」
龍は両手をぱん、と合わせ「いただきます!」と叫んだ。
そして箸で大きく切ったハンバーグを大きな口で頬張り、数回咀嚼した後、「美味しい!」とまた叫んだ。龍は再び口を開く。
「最近、皆仕事が忙しくって、仕事終わりに一緒にご飯、っていうのもなかったじゃないですか。打ち上げでお店に行く、っていう事はありますけど」
一度言葉を区切って龍は白米を口に含んだ。そんな龍を2人は口を挟む事なくじっと見つめている。
「こうやって、久しぶりに誠司さんの家に3人で集まってご飯食べたり仕事の話したりって事がしたくって。誠司さんのハンバーグ、本当にご無沙汰でしたし。だから英雄さんが俺に誕生日のこと聞いてくれた時、もうこれしかない!って思って。今日はそれが叶ってすごく嬉しいです!」
「これは、最高の誉め言葉を貰ってしまったな」
「おかわりもあるぞ」「やったー!!」と無邪気に喋る2人の声を聞きながら、英雄は羨望するようにため息をついた。
視線の先には、自分用のハンバーグが置いてある。誠司が気を利かせてくれたので龍のよりは少し小ぶりだが、しっかりと厚みがあり、肉汁で作られたソースが光に反射してキラキラと輝いている。
これまで何度も食べてきた信玄誠司特製ハンバーグだ。食べなくても美味しいことは十分知っていた。
ハンバーグに添えられた野菜に目を向ける。人参、かぼちゃ、じゃがいも、カリフラワーにさやいんげん。
「あまねと一緒に使っていたのがあるんだ」と誠司が持ち出してきたクッキー型のおかげで、人参は花の形をしていた。
「確かに、信玄のハンバーグは絶品だよな。俺もパンケーキ以外にも得意料理が欲しいぜ」
「何言ってるんですか英雄さん!」
龍の声に振り向くと、彼は箸でかぼちゃを摘まんでいた。それを英雄の前に差し出す。
「ど、どうしたんだ」
英雄の声が少し震える。
「この付け合わせ、英雄さんが作ったんでしょう?」
図星だった。
何を用意したら良いか分からなくて、けれど龍の事だから全て食べてくれるだろうと、『ハンバーグ 野菜 つけあわせ』で検索して出てきた野菜を軒並み購入してきた。
英雄は開けっ放しだった口をぎゅっとつむり、龍とかぼちゃから目を逸らす。その態度で正解だと分かった龍は、満足そうにかぼちゃを口の中に放り込んだ。
「これもすっごく美味しいです!」
ハンバーグと同じように何度か咀嚼し、龍の目が見開く。
「かぼちゃの甘みの中に……これはにんにくがアクセントになってるんですね。おつまみとしても最高だと思います!」
「な、何で分かったんだ……? いや、にんにくじゃなくて、俺が作ったって事」
「だって英雄さん、自分の皿と俺の皿ちらちら交互に見てましたもん」
口元を隠して笑う龍に英雄は面映ゆくなり、黙ってしまった。
そんな2人を見て誠司もはははと笑う。
「これは一本取られたな、英雄。でも本当にこのかぼちゃは美味しいぞ」
「……うるさい」
英雄が顔を真っ赤にさせるのをよそに、龍は茶碗から勢いよく米をかきこみ、空になった茶碗を誠司に突き出した。
「誠司さん、ご飯おかわり!」
思わず誠司と英雄は顔を見合わせる。
予想以上のペースだった。
漫画のようにきれいに山なりに盛られた白米は全て龍の胃の中に消えてしまっていた。
龍の事だから白米は多めに炊いておいていた方が良いだろうと双方の意見は最初から合致していたが、ここまで早いとは思わなかった。
「ハンバーグと付け合わせの野菜が美味しすぎて、箸が止まりません!」
龍はそう言いながらかぼちゃの隣に添えられた人参をぱくりと口に放り込んだ。
「これも美味しい!」
「そんなに美味いのか?」
「はい!」
人参を飲み込んで龍は声をかけてきた誠司を見る。
龍の笑顔を見て、誠司は満足そうに微笑んだ。
「分かった、準備しよう」
龍の茶碗を持って誠司が立ち上がる。
手伝おうと英雄も立ち上がり、誠司の後に続いた。
「俺、今めちゃくちゃ幸せだあ……」
ハンバーグを噛みしめながら、龍は一人呟く。
自然と出た言葉なのだろう。そんな龍を見て、英雄と誠司はくすりとまた顔を見合わせ、そしてにやりと意地悪く笑った。
主役はまだ知らない。冷蔵庫の中に、2人が元パティシエから教わって作った特製二段ケーキがある事を。
龍は気づいていない。これから送られる2人の愛と幸せで、お腹がいっぱいになり、動けなくなる事を。
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