買い与えし尽くし屈し得た愛か
揚げ物を毎食おいしく味わえた頃の話。
心身ともにハツラツで、脚もそれはそれはおもしろいくらい動いて、吸い込む空気はいつも清涼。瞬間瞬間がやたらきらきらまぶしくて、その光の中を俺たちは野生動物みたいに群れながら過ごした。
群れの中をぐるぐるめぐっているうちに、俺のそばにはいつの間にかあいつが立つようになった。それはただ単に順番だったのかもしれないし、運命だったのかもしれない。もしくは相性や呼吸のようなものがぴったり合わさったとか。
わからない。
とにかく、この気持ちに気づいたのは、あの頃だった。
あいつと食べる飯はなんだかすごくうまかった。唐揚げや天ぷらとか、今思えば胃から変なエキスが染み出しそうなメニューを、俺たちは好んで食べた。
どんなに口に入れても物足りなくて、結局決まってデザート2品を追加。こりゃ甘いな、ちょっと甘いよねとか当たり前のことを言って、腹さすりながらペロリと平らげたものだ。
振り返れば振り返るほど胃がムカムカする。
会計は、毎度あいつが財布を開いた。年上だからという見栄で。
たまに俺が支払ったけれど、そうすると、あいつはなぜかしょんぼりがっかりしているようだった。
その理由をこの前知った。
あいつは俺の目を見て、気持ちよさげにうっとり言った。
「お前を守りたいんだよ達海」と。
そのあとはあまり覚えていない。
でも、右のこぶしの皮がめくれていてヒリヒリした。
だからきっと、俺はあいつをぶん殴ったんだと思う。
それとも自分を痛めつけてしまったのか。
揚げ物を毎食おいしく味わえた頃の話。
あいつの財布はヌメ皮で、使えば使うほど風合いが出て、俺は少しうらやましかった。
俺のはデカデカとゴリラのマークが縫いつけられたボロボロのやつ。
いいね、それ。
俺もそーゆーの買おうかな。
何の気なしに言ったのに、あいつは数日後に色違いを買ってきたのだ。
「お前が欲しいって言うからさ達海」と。
礼を述べながらも、俺は戸惑ってしまった。
だってそれはお前の彼女が選んで買ったんだろ?その色違いを俺に与えるなんて。
あいつはホントどうかしてた。
この間買ったパンツは派手。あいつが絶対に選らばなそうな色柄にした。
タグを切ってにぎりしめ、ロッカールームに移動して、ブラシの柄にパンツをひっかけて天井につるした。
さらに落し物入れのカゴの中からスプレー缶を取り出し、床の真ん中に置き、探す時間をわずかでも引き延ばす仕掛けを施した。
そして騒いだ。あいつが戻ってくる時間を見計らって。
ないないない。子どもみたいに騒いでみせた。
理不尽なのは分かっている。
有里にも悪いことした。有里はひとつも悪くない。
悪いのは全部あいつ。
俺のことだけを考えないあいつが悪い。
俺のことちゃんと見ないあいつが悪い。
ずっと俺だけで頭がいっぱいに埋まればいい。
揚げ物を毎食おいしく味わえた頃の話。
俺はあいつと寝た。
実家から送られてきた物が食べきれない量なんだ。うちに寄ってくれないか。寮のみんなで分けろよ。
うんわかった。何送られてきたの?
ごく普通の会話を交わしながら、あいつの部屋の玄関が開いたと同時に、ごつい背中にしがみついた。
はじめは驚いていたようだったけれど、慣れていたのかなんなのか、あいつはとても自然な流れで俺にキスして、Tシャツを脱がせて、楽しそうに笑った。
4つも上なんだから、ここは俺が支払うぞ。そろそろいい財布を持ったほうがいいぞ。この酒飲んでみろようまいぞ。彼女と結婚するかもしれないんだ。今度ご両親に会うんだ。俺京都に移籍するんだ。
何かにつけて、あいつは俺の先を行きたがる。
セックスもそう。
たった一度きりだけど、年齢とか経験とか立場とか体格差とか、あいつはいろいろごちゃごちゃかこつけながら俺の上にのしかかった。
与えることを愛情だと勘違いするあいつを、俺は受け入れてしまった。
あいつは彼女がいた。いっぱいいた。
だから俺は、ただ黙って抱かせた。
俺はあいつの彼女たちの中に埋もれたくなかったし、何よりあいつにとって特別で在りたかった。
だから俺は、ただ黙って抱かせたのだ。
あいつも言わせてはくれなかった。
さわやかな笑顔で俺を制止する。
ずっとずっとそう。
揚げ物なんてもう、毎食おいしく味わえない。
なのに、あいつは相変わらず俺に与えようとする。
1日をデザートでしめていたあの頃を引きずり、しこたま買い物して俺の元に来る。
俺はもう我慢しなかった。
今回の報告係は俺。
あいつより先に言ってやった。
俺は今日も機嫌が悪いことになっている。
ついさっき、あいつは俺の顔色を盗み見るようにして出かけて行った。
それでもあいつはあやまらない。
自分が正しいと思い込んでいるから。
「守りたい」の言葉に絶対的な自信を持っているから。
言われた方の身になれ。
愛してるじゃなく、守りたいと言われた俺の身になれ。
強情なのはあいつ。または俺。
とにかく。俺はしばらくこの不機嫌ごっこを続けるつもり。
俺だけを考えて、俺だけをちゃんと見て、俺だけであの頭がいっぱいに埋まって、あいつは悩み苦しめばいい。
もし唐揚げとか食いたくなったなら、あいつのケータイを鳴らしてやってもいいかなと思っている。
心身ともにハツラツで、脚もそれはそれはおもしろいくらい動いて、吸い込む空気はいつも清涼。瞬間瞬間がやたらきらきらまぶしくて、その光の中を俺たちは野生動物みたいに群れながら過ごした。
群れの中をぐるぐるめぐっているうちに、俺のそばにはいつの間にかあいつが立つようになった。それはただ単に順番だったのかもしれないし、運命だったのかもしれない。もしくは相性や呼吸のようなものがぴったり合わさったとか。
わからない。
とにかく、この気持ちに気づいたのは、あの頃だった。
あいつと食べる飯はなんだかすごくうまかった。唐揚げや天ぷらとか、今思えば胃から変なエキスが染み出しそうなメニューを、俺たちは好んで食べた。
どんなに口に入れても物足りなくて、結局決まってデザート2品を追加。こりゃ甘いな、ちょっと甘いよねとか当たり前のことを言って、腹さすりながらペロリと平らげたものだ。
振り返れば振り返るほど胃がムカムカする。
会計は、毎度あいつが財布を開いた。年上だからという見栄で。
たまに俺が支払ったけれど、そうすると、あいつはなぜかしょんぼりがっかりしているようだった。
その理由をこの前知った。
あいつは俺の目を見て、気持ちよさげにうっとり言った。
「お前を守りたいんだよ達海」と。
そのあとはあまり覚えていない。
でも、右のこぶしの皮がめくれていてヒリヒリした。
だからきっと、俺はあいつをぶん殴ったんだと思う。
それとも自分を痛めつけてしまったのか。
揚げ物を毎食おいしく味わえた頃の話。
あいつの財布はヌメ皮で、使えば使うほど風合いが出て、俺は少しうらやましかった。
俺のはデカデカとゴリラのマークが縫いつけられたボロボロのやつ。
いいね、それ。
俺もそーゆーの買おうかな。
何の気なしに言ったのに、あいつは数日後に色違いを買ってきたのだ。
「お前が欲しいって言うからさ達海」と。
礼を述べながらも、俺は戸惑ってしまった。
だってそれはお前の彼女が選んで買ったんだろ?その色違いを俺に与えるなんて。
あいつはホントどうかしてた。
この間買ったパンツは派手。あいつが絶対に選らばなそうな色柄にした。
タグを切ってにぎりしめ、ロッカールームに移動して、ブラシの柄にパンツをひっかけて天井につるした。
さらに落し物入れのカゴの中からスプレー缶を取り出し、床の真ん中に置き、探す時間をわずかでも引き延ばす仕掛けを施した。
そして騒いだ。あいつが戻ってくる時間を見計らって。
ないないない。子どもみたいに騒いでみせた。
理不尽なのは分かっている。
有里にも悪いことした。有里はひとつも悪くない。
悪いのは全部あいつ。
俺のことだけを考えないあいつが悪い。
俺のことちゃんと見ないあいつが悪い。
ずっと俺だけで頭がいっぱいに埋まればいい。
揚げ物を毎食おいしく味わえた頃の話。
俺はあいつと寝た。
実家から送られてきた物が食べきれない量なんだ。うちに寄ってくれないか。寮のみんなで分けろよ。
うんわかった。何送られてきたの?
ごく普通の会話を交わしながら、あいつの部屋の玄関が開いたと同時に、ごつい背中にしがみついた。
はじめは驚いていたようだったけれど、慣れていたのかなんなのか、あいつはとても自然な流れで俺にキスして、Tシャツを脱がせて、楽しそうに笑った。
4つも上なんだから、ここは俺が支払うぞ。そろそろいい財布を持ったほうがいいぞ。この酒飲んでみろようまいぞ。彼女と結婚するかもしれないんだ。今度ご両親に会うんだ。俺京都に移籍するんだ。
何かにつけて、あいつは俺の先を行きたがる。
セックスもそう。
たった一度きりだけど、年齢とか経験とか立場とか体格差とか、あいつはいろいろごちゃごちゃかこつけながら俺の上にのしかかった。
与えることを愛情だと勘違いするあいつを、俺は受け入れてしまった。
あいつは彼女がいた。いっぱいいた。
だから俺は、ただ黙って抱かせた。
俺はあいつの彼女たちの中に埋もれたくなかったし、何よりあいつにとって特別で在りたかった。
だから俺は、ただ黙って抱かせたのだ。
あいつも言わせてはくれなかった。
さわやかな笑顔で俺を制止する。
ずっとずっとそう。
揚げ物なんてもう、毎食おいしく味わえない。
なのに、あいつは相変わらず俺に与えようとする。
1日をデザートでしめていたあの頃を引きずり、しこたま買い物して俺の元に来る。
俺はもう我慢しなかった。
今回の報告係は俺。
あいつより先に言ってやった。
俺は今日も機嫌が悪いことになっている。
ついさっき、あいつは俺の顔色を盗み見るようにして出かけて行った。
それでもあいつはあやまらない。
自分が正しいと思い込んでいるから。
「守りたい」の言葉に絶対的な自信を持っているから。
言われた方の身になれ。
愛してるじゃなく、守りたいと言われた俺の身になれ。
強情なのはあいつ。または俺。
とにかく。俺はしばらくこの不機嫌ごっこを続けるつもり。
俺だけを考えて、俺だけをちゃんと見て、俺だけであの頭がいっぱいに埋まって、あいつは悩み苦しめばいい。
もし唐揚げとか食いたくなったなら、あいつのケータイを鳴らしてやってもいいかなと思っている。
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