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病の光学

ジャンル: ロー・ファンタジー 作者: strojam11
目次

光学の、殺人

ヘンリエタリーピッド
病の光学




異世界×ゲテ喰♀チート!
ヘンリエタリーピッド
病の光学
「魔王……まだく
「ぇぇぇぇ? わたし、バージn
「そっちじゃねぇ。上の口
「ま、まおうを ですか?」
「何度も言わせるな」
「んくぅ ちゅぷって? ひああああ」
「ちげーったらちげーよ
「よく噛むんだ」
「ち、ちそちそをですかぁ? い、いたい
「もういい」
「わけがわからないよ
「黙れ、喰っちまうぞ」

「はい、もう 食べるなんてやだ! い、いたい、いたい、きききききききききききききききききききききききききききききききききききききききききききにきききききききききききききききききわか! い、いたいいいてる!
「食べねぇの?」
「ちげーた いっとくしぃ!!」
「そんなに慌てれ。 食べねぇのか?」
「食べるぅ、たぁたぁ たべるぅ!!」
「俺、これで手を切るなんて信じられないんだが、一応腹に何か入れれば治る状態だったんだし治す方法教えていいか?」
「あ、ほ、本当ですか!? ほ、ほんとうですかぁ??」
「ほーじ、ほんとうだよ??」
「そ、それで、ですけど」
「ああ……俺は別に信じないからな。 ほ、ほっとけ ほっとけ!」
「ほ?」
「ほだ?」
「ほだよ!」
「そういえば、ほなの言葉の意味とかはわかるか?」
「ほ? ほ、ほだよ」
「ほな?」
「ほで、ほで、ほが、ほで、と
「ほな!、ほで、ほで、ほで、と」
「ほ、ほじゃないの言ってること。 ほで、ほで、ほじゃない、ほで、ほで……」
「ほです!! ほです!!!」
「ほーさです!!」
「ほで、ほーで、ほでって!」
「わ、はわわ……と、言いたかった」
「ほで、ほで、ほでって!」
「あ、ほじゃない! ほで、ほで、ほでって!」
「ほーでです!! ほで、ほでって!」
「そ、そ、その……」
「ほーでです!! ほで……ほでってのはそういう意味で言ったんじゃないのっ!! ど、どこで間違えたの!」
「へ?」
「ほで、ほでって……ほでって?」
「ほで、ほで、ほでって……。ほで、ほでって……」
「…………」
「ほですよ。 ほで、ほでって……」
「でも、ほら、言わないとやっぱり怒るんじゃない??」
「言えないけど……って! 何でよ!!」
「な? ほでって、ほでってまだ怒ったままでしょ!?」
「も、もういいから!! 聞こえないからっ!!」
「聞こえてないっ!!」
「ほでってこと言ったのに!!」
「もぅ! もういい!! わかったからもういいから!!」
――……本当…わかった?
俺が急いでここのマンションに帰るのを何とか聞き出そうと近づくと、何だか妙な様子だった。
「あ、あの……今何て言われた」
「お、おそらくそれはこういった内容なんですけど……」
「本当なの!?」
「ほでって……聞こえてねえし、ほでって言ったよな、と私は思いまして……」
「そ、そう」
「それに……さっきのは何だったんでしょうか…」
「あ、あーあのさ、どうも」
「…え…どうも……」
「…あのさ…」
「どうも」
「…ん……」
「……もしかして……」
「あ、あ。もしかして」
それからすぐに部屋の場所と、それと、これから何かあった時の為に一応携帯を持って来て、俺は帰った。
今日はお疲れ! 元気でやっててよかったよ! って感じの声を聞きながら俺は家に帰った。
そして、部屋には誰もいないのが当たり前だと思っていたけど、何故かそう言われてしまったのだ。
……別に帰ってからすぐに俺を見て来るかと思いきや――
「お疲れ! どうだった?」って声を掛けてきた。
「…あぁ、うん。まあ、結構大変だったけど。それなりに…」
「…そう…」
「…でもこれから少しは話すことあるもんだから」
「…え」
「…うん、うん……」
……って、どうしたらいいんだろうか…。
俺はそう思って首を傾げながら「あの、話って?」と聞くと…。
「…いや、何でもないよ。それよりさ…」
「…ん…?」
「…なんか、その…」
「…へ?」
聞かれて、俺は慌てて首を動かして先輩の顔を見る。
俺はしばらくの間言葉が出なかった。
「いや、…なんか、先輩ってさ、ここ数日間、死にそうな顔してたでしょ? 俺ら徹夜勤務が続いているし、殆ど家と会社を往復するだけの毎日だし、ひょっとして」
自殺という言葉はあえて使わなかった。俺と先輩は都内のIT会社に勤務している。今、流行のテレワークとは無縁の会社だ。個人情報保護やハッキング対策などセキュリティーリスクの関係で在宅ワークが禁止されている。政府の要望でコロナ給付金やら感染予防などスマホアプリを開発しているからだ。給料はいい方だ。固定給で25万円貰える。ただワークライフバランスが悪い。残業だらけでほぼ会社に住んでいるような状態だ」
「私が過労死自殺すると思った?」
やばい、先輩は俺の予測を見抜いている。

状況は刻々と悪化している。
こういう時はどうすればいいか俺はわかっている。鬱病の原因は色々あるが、まず休養と栄養をたっぷり本人に取らせる事が回復につながる。
だから俺はこうして食材を差し入れに来た。さっきの「ほて」というのは先輩の大好物であるホタテ貝の事だ。
そして新刊のライトノベルもある。先輩が前から楽しみにしていた牛道マシンガン先生の最新作だ。
しかし、異世界転生という発想は自殺願望を持っている人には読ませない方がいいと思った。だから先輩が元気を取り戻してから読ませようと思う。
「先輩、美味いもんでも食って、元気を出しましょう」
「そうだわね。天上三千世界を平らげる。往くぜ、料理は愛情!」
「嬉し恥ずかし異世界転生ー」
「そうそう、逝くわよ、後輩君、まるっと華麗に異世界デビュー」
「食べた後は、食べさせてくれますよね。先輩」
「後輩君は賞味期限切れじゃないの」
「黙れ、喰っちまうぞ」

そういいながら、きゃあきゃあとOL二人組が扉の向こうへ消えていった。


万能脚立と折り畳み椅子とビニールシートを使って天井に張り付くと、そのまま静かに部屋に侵入した。
カーテンが閉まったままの部屋は薄暗く、空気はひんやりとしている。
部屋の隅にあるベッドの上では、男が横向きになって眠っていた。
この男の寝息が聞こえる。男は深く眠っているようだが、万が一にも起きないように気をつけなければならない。
男は布団から足を出して、裸のまま仰向けになっていた。
私は男の様子をじっと観察しながら、そろりそろりと匍匐前進をした。
「……」
慎重に、ゆっくりと、少しずつ近づいていく。
やがて手が男の肌に触れた。指先が触れるか触れないかくらいの距離を保ちつつ手を近づける。手の平全体で感じる肌の温度はぬるかった。
(よし、成功)
私はほくそ笑んだ。作戦通りだ。このまま一気に全身まで侵入するつもりだ。
しかしここで油断したのがいけなかった。私の左手に突然衝撃を感じたのだ。同時に鋭い痛みを感じる。驚いて振り返るとそこに一匹の黒光りする虫がいたのだ! 一瞬にして血が凍る思いをしたが、冷静に考えるとこれは奴のトラップだと気づいた。おそらくわざと私に触れさせたのだ、私に気付かせる為に。そうか、こいつは擬態する昆虫だったのか。迂闊であった。まさかこんなに狡猾で知能の高い罠を仕掛けてくるとは思っていなかった。私はまんまと騙されてしまったのだ。なんたる不覚! しかし今は悔しがったり自分を責めたりする暇はない。時間がないのだ。急がねば、また同じ失敗を繰り返してしまうかもしれないのだ。早くしないとタイムオーバーになってしまう。もうすぐ日付が変わってしまう。
幸いな事に右手はまだ動く。私は痛む左手を握りしめたまま、さらに這って進んだ。そして遂に身体が男に触れた。体温もはっきり感じられる距離だ。
ここまでくればこっちのものである。手を伸ばして、まず男の口を覆ったマスクを剥ぎ取った。それから次は両手を背中側に回したベルトを解いて、最後に両足首に付けられた鎖を外すと、ようやく自由になったその手足をぐっしょりと濡れているタオルで縛り上げた。これでもう動けないだろう。念の為、手首の辺りもきつく縛っておいた。これで身動き一つできない筈だ。
よし、もう完璧だろう。ミッション・インポッシブル。さあ今のうちに急いで逃げなければ。
「ん……?」
背後から聞こえた声を聞いて心臓が跳ね上がったのも束の間、次の瞬間には絶望のどん底に落ちていた。
振り向いた先に見たものは瞼を開いたまま虚空を見る眼だった。
(あ……!しまった……!!)
私は思わず目を閉じた。だが時既に遅し。その隙に逃げようとしたところを、逆に捕らえられてしまい羽交い締めにされてしまったのだった。
(なんていうことだ!!こんな馬鹿な!!)
必死に抵抗するものの相手の力は思った以上に強くびくともしない。しかも驚いた事に男は私の胸ぐらを掴むなり、自分の方へと引き寄せたのだった。そして信じられない事が起きた。
「お前は誰だ」
と一言呟くとあろうことかいきなり唇を重ねてきたのだ。
あまりに突然の出来事だったので、思考が完全にフリーズしてしまい抵抗する事も忘れて受け入れてしまった。数秒の後、やっと我に返ったが後の祭りだ。完全に取り押さえられてしまってもう為す術はなかった。
それでもなおも激しく暴れていると、突然頬に鋭い痛みを感じ、目の前に火花が飛び散った。そして再び強烈な打撃が顎にきたところで私の意識は暗転してしまったのだった。
(畜生め……)
「それで」
と僕は言った。ここは会社の喫煙室である。煙草を口にくわえたままライターを探しながら続ける。
「で?」
「で?」と聞き返す女は今、僕と一緒に仕事をしている同僚だ。彼女もまた煙草を片手に持ちながら、ぼんやりと宙を眺めていたがすぐに視線を僕の方に向けてきた。どうやら先程の話を聞きたがっているようである。なので仕方なく話し出した。
「えーとですね」
あれは昨日のことだったと思う。そう、仕事帰りの事だったはずだ。時刻は既に23時半を過ぎていたが、帰宅するサラリーマン達や酔っぱらいが大勢往来する駅の近くだった事は覚えている。その時も今日と同じ、残業で疲れ果てて死にそうな気分でフラつきながら帰路についていたのだ。
「今日は疲れたなぁ……」
などと愚痴をこぼしながら駅前の広場を歩いていると突然、「おい!」と声を掛けられたのだ。反射的にそちらを向くと黒い服を着た男が三人立っていた。何だろうかと思い立ち止まってみると彼らはこう言ってきたのである。
「金を貸してくれ!!」
「……」
最初は無視しようとしたが相手の一人がポケットからナイフのようなものを取り出すとこちらに向けたので慌てて答えた。
「い、いいよ」「ありがたい!」
そう言うと男は僕の手に札束を押しつけてきて、代わりに名刺をくれたのである。
「これを持って○○金融へ行け。そこに行けば借金は帳消しになる」と言う。どうやらヤバめの金を借りちまったらしく、逃げる所がなくて困っていたらしい。
「○○は俺が借りてる所だ。大丈夫。心配するな。金さえ渡せば何とかしてくれる」と自信満々に断言していたので半信半疑ではあったが従うことにしたのである。
渡された名刺を頼りにその場所へ向かう途中、何度も不安に襲われた。
本当に金は帰ってくるのだろうか。そんなうまい話があるわけがない。騙されたんじゃないのか?しかし今更後悔しても遅いし……。等々。
「結局」
「?」
「その金の取り立てに来たんですか?」
「そうよ」
「どうやって?」
彼女は溜息をつくと言ったのだ。
「ちょっとお金貸して下さい、っていうだけで簡単に借りれるのよ」
「嘘でしょ?」
「本当よ」
信じ難いことだったが確かにそうみたいだ。考えてみれば当たり前の話で、あんなに沢山人が居るのだから闇金業者にとっては格好のカモなのだそうだ。実際僕以外にも何人かに頼んでいたが全員ダメだったそうである。そこでついに痺れを切らせたというわけか。
「でもさあ、それならもっと早い段階で来てくれればいいのにね」彼女が煙を吐き出して言うのを見て「うん」と答えると続けて口を開いた。
「どうせだったらせめてあの男を殴る前に来て欲しかったです」
そう、あの男である。実はその後が大変な事になったのだが、とにかく殴られた頬と顎がまだズキズキと痛む。
(一体どうしてこんなことになったんだ?)
僕が思い返していると、
「あんまり人の事を恨んじゃいけないわ」
と女が慰めるように言った。
(わかってるけどさ)
そう、別にこの女が悪いわけではないのだ。ただタイミングが悪かっただけ。
そういえば昔読んだ漫画にこんな台詞があったような気がした。
(確か)
【悪いのは世の中だ。しかし良いのは自分でしかない】……ああ、思い出した。この作者の名前は何といったっけ。まあいいか。
僕は二本目の煙草を取り出しながら彼女に聞いた。
「ところで、名前は何ていうんですか?」
そうすると彼女はふっと笑って答えたのだった。
「名前なんて無いわよ」と。
終電間際まで残って、家路を辿っていた時のことである。いつもと違う駅で降りて帰ろうと思いついた。普段は利用することの無い路線で、初めて降りた駅だった。ホームに上がると駅名を確認した。『西成区』とある。あまり聞いたことのない土地だが、どんな街なんだろう、と考えたのは当然だった。
改札を出る前にもう一度時刻表を確認しようとして見上げる。次の電車が来るのは何分後かな。時計は持っていないから正確な時間は分からない。携帯は……、家に忘れて来た。どうしよう、間に合うかどうか微妙だけど、やっぱり乗ってみようか―――などと考えていたときだ、背後から「もしよかったらお兄さん、時間あるかしら?」という女の人の声が聞こえた。
声の主を探して振り返るとそこには一人の少女の姿があり、目が合った瞬間に、しまった! と思った。
咄嵯に逃げ出そうとしたけれど遅かった。彼女は私と腕を組むと、私の手を引いて改札口の外へと歩き始めたのだ。私は焦った。
(マズイ、逃げなきゃ……!)
「待ってくれ」と彼女の肩を掴む。すると今度は「私を騙したんでしょう!?」と言われてしまう始末だ。どうやら私のことをずっと探していたようだ。
「ごめんなさい!お願い許して!私にできることだったら何でもします!」
そう必死で懇願するが聞く耳を持ってくれない。むしろ逆効果で、「今さら何を言ってんの!アンタのせいで私、散々な目にあったのよ!絶対に復讐するつもりだったのに、アンタが何処かに雲隠れしてから今日まで会えなかったせいで余計酷い目に遭っちゃったの!」と泣き喚いている。
こうなったら仕方ない、強行手段だ、と思いつく。まず相手の両腕を掴んで動きを封じたあと、力ずくで振りほどこうとする相手の顔を正面から見て、なるべく真剣な顔を作った。「頼む、聞いてくれ。俺は君を助けようと必死に考えていたんだ!」そして続ける。「君は、今、とても追い詰められているはずだ。それは君の様子を見ていれば分かる。だから少しでも助けになればと思って色々と頑張ったつもりなんだ。だがその結果がこれだというのは正直辛い。残念だ」
相手の動きが一瞬止まる。
その隙を突いて、すかさず叫んだ。
「でもまだ諦めるのは早い!!」
相手がハッとした表情を浮かべたところで、一気に畳みかける。
「きっと他にも方法があるはずなんだ!!だって考えて欲しい、そもそも君は何故こんな状況に陥ってしまったのだろうか。何かの原因がある筈だ!原因を取り除くことが出来れば全て解決できるに違いない!!そうだろ?」
言い終えてから相手をじっと見つめる。その目は虚空を見ており焦点を結んでいない。
(よし、かかった!)
私はさらに続けた。
「それに、もしかしたら気付いていないかもしれないが、今の状況から抜け出すためのきっかけがすでに存在している可能性もあるんじゃないかな?例えば、そうだな、誰かに相談する、とか」
「相談……?」
「そう、一人で抱え込むよりも、他人に打ち明けた方が案外うまくいくものだよ。特にこういう特殊な問題に関してはね。俺もそうやって乗り越えてきたんだ。そうだ、試しに一度、自分の身の回りの人に話をしてみるといい。もしかすると、意外な人物がヒントをくれるかもしれないぞ」「……」
相手はしばらく沈黙したあと、ゆっくりと口を開いた。
「そういえば、最近知り合った女の子がいるんだけど、その子も私と同じ境遇にあるみたいなの。もしかして、彼女もあなたに救われたの?」
「いいや」
首を横に振って答える。
「俺は何もしていないし、何も出来なかった。ただ話を聞いてあげただけだ」「……」
相手はまた黙り込んでしまう。
そしてやがてポツリと呟いたのだった。
「そっか。そうなんだ」「うん」「わかった」「ありがとう」「どういたしまして」「じゃあ」「うん」「バイバイ」
そう言うと、私の手を離して立ち去ろうとしたので慌てて呼び止めた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「?」
「もう少しゆっくりしていかないか?」
「え?」
「もう夜だし、せっかくここまで来たんだから、少しくらい遊んでいってもバチは当たらないと思うよ」
「でも、もうすぐ終電なんじゃ……」
「大丈夫、タクシーで帰るよ」
「えーと……」
「ほら行こう!」
そう言うと半ば強引に彼女を駅の外へ連れ出した。
それから十分程で目的地に到着する。
そこは、ネオンで照らされた歓楽街だった。
「ここへは初めて来たけど、随分と賑やかな場所なんだな」
「ええ、そうね」
彼女は興味深げにあたりをキョロキョロ見回しながら答えた。
「ところで、これからどこに行けばいいのかしら」
「ああ、それなら――」
そうして私たちは、夜の街へ消えていった。その後の顛末だが、私が彼女と過ごした数日間の出来事はどうやら悪夢ではなかったらしく、翌朝目を覚ますと私はベッドの上にいて、ちゃんと服も着ていたのだ。どうやら彼女が家まで送ってくれたらしい。おかげで無事に帰ってこれたわけだが、問題はその後である。あれ以来、彼女のことが頭から離れないのだ。そればかりか、毎晩のように夢に出てくる。それだけならまだしも、朝起きた時には下着が濡れている始末だ。どうしたものか。
ああ、こんな時、どんなに優秀な精神科医であっても治療することはできないだろう。そう、たとえ世界最高峰の頭脳の持ち主であったとしても……
終業を告げるチャイムが鳴った。
(やっと今日の仕事が終わったか……)
私は椅子の背にもたれかかり、ぐっと身体を伸ばす。
窓の外を見ると既に夕暮れ時となっていた。
(そろそろ帰ろうかな……)
そんなことを考えていると、 コン、コココーン。
扉をノックする音が聞こえた。
誰だろう?
(……まさか……ね……)
嫌な予感を覚えつつ恐る恐る返事をする。
ガチャ。ギィイイ……。
開いた扉の向こうにいたのは、予想通りの人物だった。
私は大きなため息をついた。
彼女の名前は、エマ・ヴェルデ。
この世界の人間ではない。
彼女は、私の幼馴染であり恋人でもあった女性だ。
そう……、あの日までは……。
今からちょうど十年前、 私と彼女は、 共に十六歳を迎えようとしていた春先の頃、交通事故に遭ってしまい、そのまま亡くなってしまったのだ。
享年、十五歳の冬のことだった。
その時のことを詳しく説明すると、 私たち二人は買い物帰りに信号無視の車に跳ね飛ばされてしまい、病院に搬送されたものの一時間と経たずに死亡してしまったのだ。即死だったという。そしてその後、どういうわけか気がつけば見知らぬ街の雑踏の中に突っ立っていたのだ。
私自身、何が起こったのかさっぱり分からなかった。
(どうしてこんなところにいるの……?)
隣にいる彼女も同様に戸惑っている様子だったが、しばらくしてようやく状況を理解できたようで、ホッとした表情で胸を撫で下ろしている。
(良かった。これで少なくともいきなり死んでしまうという最悪の展開だけは避けられたわ)
私もその意見には同感だった。何しろ死というのは一度経験しているのだから、できればもう一度死ぬなんてことは避けたい。
(ここは……?)
改めて周りをぐるっと見渡してみる。
街は全体的に灰色で、まるで映画で見たような近未来的な街並みが広がっている。建物はどれもこれもが四角く細長い形をしており、ガラス張りのものも多く見受けられる。街ゆく人々は、みなどこか慌ただしくせかせかと歩いている。中には奇妙な格好をした人もおり、全身真っ白な人もいた。どうやら、そういった人は決まって、忙しなく走り回っているように思える。
ふと思い出して彼女に尋ねてみた。
どうしたの、という風に首を傾げる彼女に向かって私は言った。ここは一体どこなんだい? 彼女は首を捻るとしばらく考えたあとにこう告げたのだ。(分からない)と。私は困惑した。彼女もまた不安げな表情を浮かべているように見える。
(とりあえず外に出てみようか)
そう思いついて提案した。彼女はすぐに賛成してくれた。こうして私と彼女は、初めて外の世界へと踏み出したのである。
* 外に出ると、やはりそこは異様な光景が広がっていた。道行く人々のほとんどが妙な恰好をしているし、建物自体も無機質で無骨な造りのものが多い。それに、なんだか空気が悪い。どう表現すればいいのだろうか。なんとも言えない不快さが漂っている。私は思わず鼻をつまんだ。
(とにかく早くここを離れよう)
そう思ったときだった。不意に彼女が立ち止まった。見ると前方の広場の中央に何かが建っているのが見える。近づいてみると、それは金属製の大きな球体だった。よく観察してみれば球体の中心から二本の腕のようなものが生えているではないか!これは明らかに人間のものではない。それにしてはあまりにも巨大だ。それに胴体部分も見当たらないのはどういうことだろうか?謎は尽きないのだが、いつまでもここで棒立ちになっているわけにもいかないと思い、その球体に近づいたそのとき、突然それが目を開き、その巨大な目玉でこちらを見つめたかと思うと「侵入者発見」と言い放った!と同時に周囲の建物が轟音と共に崩壊を始めた!!
(危ない!!逃げろ!!)
慌ててその場を離れるも既に遅かったようだ。次の瞬間、私たちは激しい衝撃を受けて宙を舞っていたのだから。
(うっ、なにが、あったんだ……)
激痛が襲ってくる中、私はどうにか目を開けて状況を確認すると、驚くべきことに球体の一部が口を開いていたのだ!!そして私たちはその口腔内に飲み込まれてしまったのだった。
(このままじゃまずい!)
私は必死になって出口を探したが無駄だった。口内の壁は硬く閉じられておりビクともしない。しかも次第に口内の温度が上がってきており呼吸が困難になりつつある。
(もうだめなのか……)
そう諦めかけた時だった。突如目の前の壁が割れて眩しい光が差し込んできたのである。私は最後の力を振り絞って光の射す方へ駆け抜けた。そして気がついたときには地面に倒れ込んでいたのだった。
(助かった……のか……)
しかしまだ安心はできない。周囲には得体の知れない機械が立ち並んでいる。それらは絶えず何かをブツブツと呟いている。おそらくは自動音声であろう。だが私に理解できる言語ではない。すると今度は私の背後の床に穴が開いて誰かが現れた。その人物は白いフード付きのローブを身につけていた。手には先端に小さな水晶球が付いた杖を持っている。私は警戒しつつ立ち上がり身構えた。しかし相手の行動は意外なものだった。私にゆっくりと近づき、そしておもむろに私の手を握りしめたのだ。そして一言だけ言葉を発したのだった。
『汝の力は借りぬ』
すると、ピカーッ!!! まばゆい光に包まれたのだった。
そして、 次に私が目を開けたときは見知らぬ部屋のベッドの上にいたのだった。
* あれから一週間が経過したが、未だにあの日のことを夢に見ることが多く、あまり眠れない日々が続いている。どうしたものか……。そう思案しているうちに、コン、ココーン。扉がノックされる音が聞こえた。私は反射的にベッドから飛び起き、そして枕元にある拳銃に手を伸ばしかけてから思い出した。そういえばここは自宅ではなく職場であったことを。
(そうか……もう出勤の時間になったのか……)
私はベッドから立ち上がるとドアのロックを解除してから、大きく深呼吸をして心を落ち着かせると「おはようございます」と言って入室する。
そこには見慣れた顔があった。
そう、同僚で同僚の女性、つまりは彼女の姿だ。彼女は私を見ると笑顔で手を振ってきた。私もつられて微笑むと「おはよう」と返す。それからいつも通り、朝の打ち合わせが始まった。今日の予定は――
「そうそう。例の企画書なんだけどさあ」
「ええ」
「あれの進捗だけど、やっぱり無理そう」
「そうなんですか……」
「ごめんねー、いろいろやってはいるみたいなんだけど、まだ時間がかかりそうみたい」
「仕方がないですよね……」
私がこの世界に来てから三か月が経過していた。その間に分かったことは幾つかある。
一つ目は、ここが異世界であるということ。二つ目は、この世界では科学技術が地球よりかなり発達していること。
そして三つ目が、この世界には魔法が存在するということである。
そして四つ目として、この世界には私以外にも地球人が何人か存在しているらしいということだ。それも日本だけでなく世界中の至る所に。ただ、お互いに面識はなく、お互いの存在を認識している人は殆どいないようである。
そんな私だが、今、まさにピンチに陥っていた。
ある日のこと、私は買い物の為に外に出掛けることにした。というのも、この世界での生活にもようやく余裕が出てきたので、そろそろ街に出てみようと思ったからだ。なので、外出の準備を整え、いざ外へ出ようとしたときに悲劇が起こった。
扉を開けようとすると、扉は開かなかったのだ。何度も試してみたが結果は同じだった。
私は途方に暮れた。
(どうしよう……)
そのとき、ふと思い立って窓の外を眺めてみると、そこに信じられないものが見えた。それは、私の家の隣に住む老夫婦の姿だった。
私は迷わず窓を開けると隣の窓に向かって大声で叫んだ。
「助けて!!」
しかし返事はなかった。聞こえなかったのだろうか?私は窓を乗り越えて隣家の庭に入ると、再び大きな声を出した。
「助けて下さい!」
しかしやはり返事はない。
私は少し苛立った。
もう一度、大きな声で叫ぶ。
「お婆さん、聞こえますか!?」
すると、ようやく返事が返ってきた。
『……ん、なんだい?』
「実はですね、家に入れないんですよ。鍵を忘れちゃったみたいで……。それで、悪いんですけど開けてもらえませんか?」
『ああ、そういうことかい。ちょっと待ってな。今、開けるよ』
カチャリ、という音と共に玄関の扉が開かれた。私は急いで部屋に戻ると財布を手に取った。「ありがとうございます。それじゃ、行ってきますね」
私はそう言って家を後にした。
街は今日も賑わっている。
大通りは大勢の人で溢れかえり、まるでお祭りのような賑わいを見せている。
そんな中を一人寂しく歩いていると、ふと、視線を感じたような気がして振り返ってみたが、そこには誰もいなかった。
(気のせいか……)
そう思って歩き出そうとしたときだった。
「おい、お前、ちょっと待ちな」突然、背後から声を掛けられた。振り向くと、そこにはガラの悪そうな男が三人立っていた。彼らは私を囲むようにして歩いてくると「ちょっと金を貸してくれねえか」と言い出した。私は「どうしてです?お金なんて持っていない」と素直に言った。正直、こういうことはよくあるのだ。何しろ私は仕事柄、人と接することが多い。
だから、こう見えても意外と人脈がある。例えば先程の男達にしてもそうだ。私は、彼らと仲が良いわけではない。しかし、たまにこうして絡まれることがあった。
(面倒なことになったな……)私は内心、そう思った。しかし相手もプロだ。下手な抵抗をすれば命に関わるかもしれないし、そう思うと断ることができなかった。
「いいから、黙ってついてこいや」
リーダー格の男は、それだけ言うと私の腕を掴んできた。
(これは……逃げられない……)
そう悟った私は大人しく従うことにした。男たちに連れて行かれたのは裏路地にある酒場だった。店内の客はまばらで、どうやらガラの悪い連中の溜まり場になっているようだ。
店の一番奥のテーブルに着くなり、私は早速、金を出せと言われて渋々、鞄の中から金貨の入った小袋を取り出した。しかし当然、それは偽物だった。私はそれを机の上に広げると、「これが全部だ」と言った。すると男は舌打ちをして、すぐに懐から拳銃を取り出すと私に向けてきた。他の二人も同様に銃を構えている。
(まさかこんなことになるとは……)
後悔したが後の祭りだ。こうなった以上、やるしかない。幸いな事に拳銃には弾が入っていないようだ。つまり発砲はできない。
私は右手をポケットの中に忍ばせると、素早く取り出して男の足元に放り投げた。
そして、それと同時に椅子を蹴り飛ばす! 男は見事に転倒してくれた。
(いまだ!!)
そう思った私は慌てて立ち上がると一目散に出口へと向かった。だが、出口の前で待ち構えていたもう一人の男に捕まってしまった。彼は私を押し倒すと馬乗りになって首を絞めてきたのだった。
(苦しい……)そう思っているうちに意識が薄れていくのを感じると同時に全身の力が抜けていった。(ここで終わるのか……)そう思った瞬間、何かが私の身体の中へと入ってくるのが感じられた。
(一体、なんだろう……)
その答えはすぐに分かった。そう、私の体内に侵入したものが、私の魂と同化したのだ。そして私は新たな力を手に入れたのだった。
* 私は目の前で起きようとしている事態に対して為す術がなかった。そう、私を殺そうとしている人物に、逆に殺されそうになっていたのである。
私は恐怖のあまり動けずにいた。そして無慈悲にも私の心臓は貫かれたのだった。
(ああ……もう駄目か……)
そう諦めたときのことだった。突然、目の前の男が吹っ飛んだのだ。
私は驚いて後ろを振り返ると、そこには信じられない光景が広がっていた。
一人の青年が佇んでいたのである。
その手には刀が握られていた。おそらく彼が、あの化け物を斬ったのであろう。そして、そのまま歩み寄ってくる。私は反射的に逃げ出した。しかし足が思うように動かない。そう、私は完全に怯えていたのだった。だが、私の願いとは裏腹に青年は近づいてきて、私の手首を掴む。
そして言った。
「大丈夫か?」
そして私の目を見つめてくる。
だが、その瞳はどこか悲しげだった。そして、私の顔をじっと見据えたまま何も言わなくなった。
私は、しばらく見つめ合う格好になったが、そこでハッとした。
(私はこの人に助けてもらったのに……)
そして申し訳ない気持ちになった私は、なんとかして謝ろうとした。でも、言葉が上手く出てこない……、すると……
ふいに抱き寄せられた。
え……? そして耳元で囁かれる言葉……
─ 怖かったね……
今は、ゆっくり休んで ─ (……あぁ……温かい……..)
(私……どうなって……?)
(ここは……)
(……確か……変な怪物に襲われて……)
(……そうか……死んじゃったんだ……)
(じゃあ……ここは天国なのかしら……)
(そうか……そうよね……)
(……うん……だって……ほら……空には太陽が見えるもの……)
(あれは……)
(あの……お日様みたいなのは……)
(月なの……かな……)
(それに……夜だし……)
(あれ……私……生きてる……の……)
(……夢……だったの……)
(そっか……そう……)
(……そっか……よかった……)
ほっと一安心。だが―――
(あれ……)
私は辺りをキョロキョロ見回した。
(ここ……どこ……)
そこは真っ暗な空間だった。
上下左右、全てが闇に包まれている――――
私は自分の体を見た。
透けてはいない。
実体はあるみたいだ。だが、どうなっているのかが分からない。
私は恐ろしくなった。
とにかく必死で歩いた。
しかし、どこまで行っても暗闇が広がっているばかりである。
やがて私は疲れ果てて倒れ込んだ。
そのとき――
声が聞こえた。
それは女の声であった。
だが、それが誰のものなのかが分からなかった。
そして、声の主が誰かを考える間もなく、私の意識は再び深い闇の中へ沈んでいった。
**
***
目が覚めると知らない天井があった。
(えっと……ここは?病院じゃないみたいだけど……)
ベッドの上で上半身を起こすと、すぐ隣には見知らぬ女性が座っていた。
年齢は二十代後半くらいだろうか。綺麗な女性だった。
彼女は私の顔を見ると嬉しそうに微笑みを浮かべた。
私は彼女に聞いた。
あなたは……と。
すると女性は、 私の担当医だと教えてくれた。
私はホッとして胸を撫で下ろした。
どうやら私は助かったらしい。
しかし、私は気になることがあった。
それは私の家族のことである。
私が目覚めたとき、そこには彼女しかいなかったからだ。
すると、私の考えを察したかのように彼女が説明を始めた。
それによると、私は二日間ほど眠っていたということだった。
なんでも、私は街の外れで倒れていたところを発見されたらしく、その時の記憶が曖昧だったので、なぜ自分があんな場所に居たのかが分からなかった。
しかし、医師の話によると特に目立った外傷はなく、ただ眠っているだけのように見えたため、大事を取って入院させることにしたのだという。
私は納得した。
確かに、そう言われてみれば体に痛みはなかったし、記憶も曖昧なままだったからである。
私はお礼を言うと退院することにした。
家に帰ると、いつものように玄関の鍵を開けて部屋に入った。
部屋に入ると私は着替えて、それからすぐに食事の準備に取り掛かった。
料理は得意ではないけれど、それでも簡単な物なら作る事ができる。
私は冷蔵庫から食材を取り出すと、それらを切って鍋に入れて煮込む。味付けはシンプルに塩だけ。
出来上がったスープを皿によそう。
そしてパンをオーブントースターで焼いて、テーブルの上に並べた。
最後にグラスに水を注ぐと、準備完了だ。
私は椅子に座って手を合わせると、いただきますと言って食べ始めた。しかし、なかなか喉を通っていかない。
その理由は分かっていた。
それは味気ないせいだ。
やはり一人きりでは寂しいのだろう。
私はスプーンを置くと席を立った。
そして部屋の片隅に置いてある電話の前に立つと受話器を取った。そしてダイアルを回す。
相手が出た。
もしもし……と。
「……はい……そうです……あの……」「今日は……ちょっと用事ができて……」「……そう……なんです……すみません……ごめんなさい……失礼します」私はそれだけ言って電話を切った。そして、ふうと溜息をつくと再びイスに腰を下ろす。
それから窓の外を眺めながら考えた。
(やっぱり……駄目だわ……)
(こんな生活を続けていては……)
(いけない……)
(なんとかしなくては……)
(でも……一体、何をすればいいの……)
(このままでは……)
(ダメだ……)
(私は……)
(そうだ……)
(そうよ……)
(そうだわ!)
(私は冒険者になろう!)
(冒険者になって旅をするの!)
(それで世界を見て回るのよ!)
(きっと楽しいに違いないわ!)
(そうすれば私も元気になるかもしれないし……)
(それに何か思い出すかもしれない)
(ううん、そうするの!)
(そうと決まれば早速行動開始よ!!)私は立ち上がった。
そして、まずはギルドを探した。
幸いなことに、この街にはギルドがあった。
早速、私はその扉を開けると受付カウンターへ向かう。
しかし、そこで思わぬことが起きた。
私の前に大柄な男性が立ち塞がったのだ。
彼は、まるで熊のような容姿をしていた。
その男性は、こう言った。
お前が噂の新人か、と。
その迫力に気圧されながらも私は答えた。
はい、そうです、と。
そして、私は冒険者として登録して欲しい旨を伝えた。
すると彼は、ヘンリエタリーピッド
病の光学
「魔王……まだくたばってねぇのかよ」と舌打ちをした。
どうやら彼は勇者パーティーの一員だったようだ。
そして今は冒険者をしているのだという。
彼の話では、魔王はまだ生きているらしい。
(じゃあ……私の目的の一つが叶っちゃうのかしら……)
そんなことを考えているうちに私の番がきた。
そして私は彼に言われるまま、用紙に必要事項を書き込んでいく。
すると、その様子を見ていた彼が私に話しかけてきた。
職業は何にするんだ? 魔法使いですか?戦士ですか?僧侶ですか?それとも商人ですか?何でも良いぞ、好きなのを選んでくれ。俺のお勧めは魔法使いだがな。
私は少し考えてから答えた。
私は魔法使いを選びました。
すると、それを聞いていた周りがザワつき出した。
おい、あいつ、あのヘンリエタリーピッド 病の光学を選んだぜ。マジかよ。アイツ、バカなのか?普通、一番避けるべき職業を選ぶなんてな。と口々に囁き始める。
だが、私は気にしなかった。
(ふっ……これで私も……ついに……念願の……)
そして、私は冒険者になった。
しかし、その日以来、私は街を歩くと後ろ指を差されるようになった。
しかも、それは日を追うごとに増えていったのである。
どうやら、私の選んだ職業が皆とは違う特殊なものだったのが原因のようだった。
私は何度も転職しようと思ったが、その度に思い留まった。(せっかく……ここまで来たんだもの……今更……)
(それに……この職に就いてしまった以上、仕方ないわ……)
(だって……)
(もう後戻りはできないもの……)
(やるしかないの……)
こうして私は、さらに多くの人から白い目で見られることになった。
しかし、それは私が望んでなったことだ。
だから辛くても耐えられた。
(それに、いつかきっと……)
(私を認めてくれる人が現れるはず……)
(そう信じて頑張るんだ……)
(よし……)
(明日こそは……絶対に……魔法を覚えてみせるんだから……)
**
***
次の日の朝、私はベッドの上で目を覚ますと大きく伸びをして起き上がった。
そして顔を洗おうと洗面所に向かう。
鏡の前で髪を整えると、今度は台所に向かった。
昨日のうちに買ってきた食材を使って朝食を作るためである。メニューは目玉焼きとベーコン、それにパンだ。
それらを皿に盛り付けるとテーブルの上に置く。
すると、タイミング良く、お腹が鳴る音が聞こえた。
どうやら、私のお腹の音ではないらしい。
私は音の発生源を探すために辺りを見回した。すると、それは意外にも近くにあった。
それはテーブルの上の皿だった。
そこに盛られていたはずの食べ物は全て無くなっていたのである。
私は驚いた。
だが、同時に嬉しくもあった。
なぜなら、誰かが私の作った料理を食べてくれたということなのだから――
私は笑顔になると、急いで食事を済ませた。そして、食器を片付けて身支度を整えてから家を出た。
目的地はもちろんギルドである。
私は、さっき見た光景を思い出していた。
それは、私が家から出ると一人の男性が声を掛けてきたことだった。
そして、いきなり私の手を掴んできたのだ。何事かと思って振り返ると、そこには見覚えのある顔があった。
それは、かつて一緒に戦ったことのある男だった。
名前は確か……そう、アレクといったはずだ。
私は、どうしてここに居るの?と聞いた。
しかし、彼からの返事はなかった。
その代わりに、なぜか突然、私の身体を触り始めたのだった。そして、しばらくすると満足そうな表情を浮かべて去っていったのだった。
そして、私は理解した。
おそらく彼は、私のお尻に興奮したのだろう。
どうやら、私のお尻は異性の興味を惹くらしい。つまり、それが分かっただけでも収穫があったというものだ。
しかし、それと同時に不安にもなった。
それは、いつどこで襲われるか分からないという恐怖だ。
もし、また同じことがあったらと思うとゾッとする。
私は冒険者を引退するべきだろうか。
そうすれば、少なくとも命の危険はなくなるだろう。
しかし、私は、それは嫌だった。
冒険者をやめることは、すなわち私が私でなくなってしまうような気がしたからだ。
ならば、せめて自分の身を守れるようにならなければならない。
そう思った私は、ある決意を固めた。
私は、まず最初に攻撃魔法の習得を目指した。
というのも、もしも敵に襲われた場合、反撃できないと危ないからである。
もちろん、他にも防御魔法を覚えることは可能だ。だが、私が真っ先に選んだのは、やはり攻撃力の高い魔法だった。
何故なら、回復魔法と違って、こちらの方が確実に敵を倒せるからであった。
ちなみに、攻撃魔法には様々な種類があった。
その中で、私が選んだのは火炎球の呪文だ。
これは、火を球体にして飛ばすことができるので使い勝手が良いと考えたからである。
そして、次に選んだのは結界の呪文だ。これは、一定範囲内にいる対象の周囲に見えない壁を作り出すことで敵の攻撃を防ぐものである。
どちらも初級の攻撃魔法で、比較的簡単に覚えることができるため、初心者にオススメだと言われている。
だが私は、敢えて上級の治癒の呪文を習得することにした。
その理由は簡単だ。それは怪我をしても治せばいいという考えが根底にあるからである。
そして私は、これらの二つの呪文を覚えたところで練習を始めた。
最初は上手くいかなかったが徐々に上達していった。しかし、それでもまだ足りないと感じていたので中級の回復の呪文を会得することにしたのだ。
ただ、これには問題があった。
それは魔力を消耗してしまうという点だ。
もしも、これがゲームのようにMPを数値化して確認することができたのであれば、私は途中で挫折していたかもしれない。
しかし、現実は違った。
私の場合、それは数字ではなく感覚的な問題だったのだ。なので、どのくらい消費しているのかが分からなかったのである。
結局、私は諦めることにした。
だが、それで良かったのかもしれない。
もしも中途半端な状態で上級の呪文を覚えていたら、きっと途中で投げ出していたことだろう。
しかし、そうはならなかった。
なぜなら、私は毎日、朝早くから夜遅くまで練習を続けたからだ。
おかげで、かなりの時間を費やすことができた。
その結果、ようやく中級の治癒の呪文を習得したのである。
だが、これで終わりではなかった。
むしろ本番はここからなのである。
なぜならば、これから先、冒険者を続けるためには、どうしても必要なことがあるのだ。
それは、仲間を見つけることである。
そこで私は考えた。
どうすれば良いのだろうかと。
だが、いくら考えても答えは見つからなかった。
そこで私は行動を起こすことにした。
つまり、街に出て募集してみたのである。
そこで私は一人の冒険者と知り合った。その人は私と同じパーティーに入ることになったのだが、その日以来、何故か私を避けるようになったのだ。
そして今日も私を避けている。
どうやら彼は、私のことを苦手としているらしい。
「おいおい……マジかよ……あいつ……まさか……あれを使うつもりか?」と勇者が言った直後、「止めろ!!絶対に駄目だ!!そんな事をしたら……」勇者が慌てて声を上げたが「もう遅い」と言って賢者が詠唱を開始した。「お前だけは死なせない!!俺の大切な……」勇者の言葉が終わらないうちに私は死んだ――
――はずだった。
しかし、いつになっても衝撃が訪れなかったので不思議に思って恐る恐る目を開けると、そこには驚くべき光景が広がっていた。それは、まさにファンタジーの世界でしかあり得ない出来事だった。
「えっ!?ここは何処なの……それに……どうして……私は生き返ったの?い……一体……何が起きたの……それに、あの男は誰なの……って、うわっ……なんか、もの凄く格好良い人……って、私、今、何を考えてたの……まるで……その……恋をしてたみたいじゃない……ま……まさか……ね……そんなこと……あるわけないし……あはは……うん……そうだよね……でも……本当に素敵だなぁ……どうしよう……好きになっちゃいそうかも……」
そして、私は彼の顔をジッと見つめた。
すると、彼は私の視線に気付いたらしく、こっちを見て微笑んだ。
それを見た瞬間、私の心臓の鼓動が激しくなった。「異世界×ゲテ喰♀チート!」
の書籍化が決定しました。詳細は近況ノートでご報告しておりますので、ぜひ一度お読みくださいませ。
また、このお話に関するイラストのリクエストも受け付けております。ただし、あまり過激な描写は避けてください。例えば、ヌードとか裸エプロンなどです。
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