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飼っていたイルカ

ジャンル: ロー・ファンタジー 作者: strojam11
目次

飼っていたイルカ

飼っていたイルカが死んだので総合感冒薬で治そうと思った。
だが、どうにも上手くいかない。それどころかどんどん悪くなる。
どうすれば良い? →どうもしない 諦める 医者に行く(救急)
→イルカのことは忘れて小説執筆に励む 諦める→医者へ。
ロキソニン三錠を処方してもらった。………………。………………。……。……あれっ!?
「なんともない」
効いた! まさかの一発解決。ロキソニン最強伝説の始まりだった。
いやあ、凄いよロキソニンは。流石だ。
何だか眠くなってきた。すると枕元にイルカが立った。「この野郎!俺を見殺しにしやがって!酷い飼い主だ」
と言っているような気がした。イルカには申し訳ないと思う。でも、仕方なかったんだ。僕は小説家になりたかった。イルカなんて構ってられなかったんだ……
目が覚めた。時刻はまだ朝の五時だった。夢オチである。寝汗が凄かった。でね、聞いてくれる?この前、流れ星を見たの。
この町で見る初めての流れ星。
そのときね、これを誰かに伝えたいなぁと思って…。
そこで、ぱっと浮かんだのが、玲、あなたの顔だったのよ。
いつか一緒に見てみたいね            沙世子」

潮田玲は夢見るような表情で窓の外に視線を上げた。
「ほんと、一緒に見られるといいよね」と、一度両手で顔を拭った後、一転して夢から覚めたように、「って一体どういうつもり?こっちから返事のメール出しても梨のつぶてだしさ」と急にひとりで毒づきはじめた。

「ねぇ、きいてるの?
この間、ほうき星をみたの。
この太陽系で初めて見るほうき星。
そのときにね、この気持ちを誰かとで、ぱっと思い浮かんだのが、ソニア、あなたの顔だったのよ。
いつか一緒にみようね。
・・・ねぇーーー・・・・・」
サンダーソニアは夢見る表情で、窓の外を見つめた。
「えぇ……そうですね……」と、一度両手で顔を拭った後、一転夢から覚めたように、「って一体どういうつもりですか?」と急に声を荒げた。
「だって、こういうことって、もう二度とないかもしれないじゃないですか! だから、どうしても、誰かに伝えたくて!」
彼女は夢から覚めたような顔で、私を睨むと、「わかりました。
では、こうしましょう。
私が今から言うことに、必ず答えてください。
いいですね?」と言った。
「まず一つ目です。
私のフルネームを教えます。
いいですね?」私は黙ってうなずいた。
「二つ目は、その人に告白して振られたら、その時はその時に考えましょう。
どうせ、こんなことを言ったところで何も変わりませんから。
それじゃあ、行きますよ」
彼女の口元が小さく動く。
「私の名前は、花野井玲奈。
そして、あなたの名前は、水無月沙世子。
さぁ、これで満足でしょう?」
彼女がそう言い終わったとき、ふいに部屋の扉が開いた。
「何やってんのあんたら?」
入ってきたのは、眼鏡をかけたショートヘアの少女だった。
少女の名は花野井杏子。
私たちと同じ文芸部の部員である。
「なんでもありません」
「そっか」と言いながら、彼女は鞄を床に置くと、そのままベッドに飛び込んだ。
「ちょっと、ここで寝ないでください」
「大丈夫だよ。
いつものことじゃん」
確かにそうだけれども……。
「それよりさ、なんか面白い話ないの?」
「ありますけど……」
「あるのかよ!?︎」
思わず突っ込んでしまった。
「でも、なんでそんなに食いつくんですか?」
「別にそういうわけじゃないんだけど、ちょっと気になって……」
サンダーソニアが首を傾げる。
「サンダーソニアさん、知らない人がいるときは喋らないんじゃなかったでしたっけ?」
「いいのいいの、こいつは」
サンダーソニアは少し考えた後、「まぁいいでしょう。
それで、どんな内容なんです?」と尋ねた。
「それは……」とそこまで言って言葉が止まる。
「それは?」
「いや、やっぱりダメですよ。
これは誰にも言っちゃいけないことなのです」
サンダーソニアが眉間にシワを寄せてため息をつく。
「あのねぇ、もう十分遅いんですよ? それに私の名前を知ってる時点でアウトです」
私は観念して話すことにした。
「わかったわよ。
話すわよ」
サンダーソニアは腕を組んでこちらを見る。
「実はね、うちの家って結構お金があるのよ」
「知っています」と即座に返される。
「だからね、昔から色々なところに旅行に行ったりしていたのだけど、ある時、お父さんの仕事の都合で海外に行くことになったの。
そこがどこの国かは覚えていないのだけれど、とにかく凄く暑かったことはよく覚えているわ。
……それで、飛行機に乗っている間ずっと暇だったから本を読んでいたの。
確かタイトルは『氷菓』っていうミステリー小説だったと思うわ。
内容は、とある高校の古典部という部活に所属する二人の男子生徒が、謎に挑むというものだったはずよ。
……で、この二人がまた変わっていてね。
主人公の方は、普通の男の子なのに何故か女装しているのよ。
しかも、かなり可愛い感じで。
だから最初は驚いたものよ。
……あとはそうねぇ、その主人公には好きな人が居たみたいなんだけど、その人のことがとても嫌いらしいのよね。
その理由がわからないから、色々と考えちゃって、結局最後は二人とも死んじゃうのよ。
……えっと、ごめんなさい。
話が脱線しすぎてしまったみたいだわ。
つまり、言いたいのは、その本の内容が面白かったということだけなのだけど……。
どうかしら?」
サンダーソニアは大きく深呼吸すると、ゆっくりと口を開いた。
「あなたは一体何を言っているんですか?」…………。
沈黙が流れる。
しばらく経って、ようやく理解することが出来た。
サンダーソニアはわぁわぁ泣き出した。
「話がつまらなくてごめんなさい。
帰国子女なので日本の笑いのツボがわからなくて。
えーん」
と、まるで子供のように泣いていた。
「もういいですから、泣かないでください」
「ほんとうに?本当に許してくれる?絶対?約束できる?」
「はい」と答えると、サンダーソニアは急に真顔になった。
「じゃあ、私もあなたに一つ質問をしてもいいかしら?」
「はい」と答えたものの、一体どんな質問をされるのかと不安になる。
「あなたは今、幸せですか?」
「へっ?」と素っ頓狂な声が出た。
「あなたにとって、今の生活はとても幸せなことだと思いますか?」
「どうしたの?急に?」
「いえ、ただ聞いてみたくなっただけです」
「まぁ、そうね。
少なくとも不幸ではないかな?普通に学校に通えてるわけだし」
「そうですか。
なら良かった」「何?心配してくれてたの?」
「さぁ?どうでしょうかね?」
彼女は窓の外を見つめながら微笑んだ。
「それより、そろそろ帰った方がいいのではないですか?」
言われて時計を見ると、時刻は19時30分を回っていた。
「あら、もうこんな時間?」
「えぇ、あまり遅くなると親御さんも心配しますよ?」
「そうね。
それじゃあ、お先に失礼するわ」
「えぇ、また明日」
「えぇ、またね」と小さく手を振った後、私は文芸部の扉を閉めた。
廊下に出ると、むあっとした空気に包まれた。
今日は特に暑い。
教室に鞄を取りに戻り、そのまま昇降口へと向かう。
外靴に履き替えた所で、スマホを取り出し、RAINを開く。
サンダーソニアとのトーク画面を開き、「了解」の文字を打つと、送信ボタンを押した。
既読はすぐについたが、返事が来ることはなかった。
校門を出ると、強い日差しが全身に降り注いだ。
手で影を作りながら空を見上げると、雲ひとつない快晴だった。
蝉の声が辺り一面から聞こえてくる。
「もうすぐ夏休みか……」
私は歩き出した。
私の家は学校の近くにあるため、自転車を使う必要はない。
それに、今は歩く方が好きだから。
少し汗ばむくらいの暑さの中、私はゆっくり歩いている。
ふと空を見上げれば、そこには大きな入道雲があった。
あぁ、もう夏なんだなぁと思いながら視線を前に向ける。
道端では、小さな子供が二人、楽しそうに砂遊びをしていた。
私はそれを横目で見つつ、目的地に向かって歩いていた。
今日の天気は晴れ。
雲ひとつなく、太陽が容赦なく照りつけていた。
額にじんわりと汗が滲み出てくる。
私はハンカチを取り出すと、額の汗を拭いた。
こんなに暑いと、嫌でも思い出してしまう。
あの夏の日のことを……。
あれはまだ私が小学二年生の時だった。
家族で海に行った帰り、高速道路で事故が起きた。
渋滞に巻き込まれた車の中で、両親は必死に私達を守ろうとしていた。
その時の両親の顔を今でも覚えている。
恐怖で引きつった顔をしながら、それでも笑おうとしていて……。
でも、そんな努力は虚しく、結局は最悪の結末を迎えた。
「どうしてこうなったのだろう?」
そんなことばかり考えてしまう。
私は後部座席に座ると、目を閉じた。
瞼の裏には、ついさっき見たばかりの光景が映っている。
車がガードレールを突き破って転落していく瞬間が、脳裏に焼き付いて離れない。
「これからどうすればいいの?」
答えてくれる人などいないとわかっていても、問わずにはいられなかった。
誰も頼りにならないのなら自力で人生を終えようと思った。
車のドアを開けて道路に落ちた。
まだ昼前だというのにアスファルトは焼けるように暑かった。
目の前に広がる真っ青な海に、私は吸い込まれていった。
海の中は心地よかった。
何もかも忘れることができた。
このままずっとここにいられればいいのに……。
そう思った矢先、海面は近づいてくる。
「地震です。
地震です。
高台へ逃げてください。
地震です…」
避難勧告か風に乗って聞こえてくる。
もう、どうでもよかった。
立ち上がる気力も元気もなかった。
………………だから、揺れが収まるまで、そこでじっとしていることにした。
しばらくして、波の音が遠くから聞こえてきた。
……もう大丈夫かな?
「……ねぇ?あなたは津波って信じる?」
背後から声がした。
振り返ると、黒い服を着た女性が立っていた。
「えっと、誰ですか?」
女性は悲しげに微笑むと、私の隣に腰掛けた。
「私はね、信じてるの。
もし、この世界が終わるというのならば、最後にもう一度だけ会いたい人が居るの」
「……はぁ」としか言えなかった。
「ねぇ、あなたは一体何を信じているの?」
そう聞かれても、咄嵯には答えることが出来なかった。
「そうですね。
私は……、この世界の美しさですかね」
「そう」と一言呟くと、彼女は立ち上がった。
「あなたは美しいわ。
とても綺麗よ」そう言い残すと、彼女は去っていった。
……一体なんだったんだろう。
まるで夢のような出来事だった。
「……あー、ちょっといいか?」と担任の花山先生に声をかけられたのは、それから一週間後のことだった。
「……えっとだな、お前の両親について聞きたいことがあるんだ」
「……はい?」と思わず間抜けな声が出た。
「……えっと、どういう意味でしょうか?」
「言葉通りの意味だ。
……えっと、まずはだな、先週提出した進路調査票だが、あれは白紙で出したのか?」
「いえ?ちゃんと書きましたけど」
「ん?でも提出されてなかったぞ?」
「え?おかしいなぁ」と首を傾げる。
確かに鞄の中に入れたはずなのに……。
「それで、お前は何て書いたんだ?」と尋ねられる。
「私は、『小説家』と書いて出しました」「ほぉ、それはまたどうして?」
「まぁ、いろいろありまして……」と言葉を濁す。
……まさか、自分が小説を書いているなんて言えるわけがないじゃないですか!
「まぁ、深くは聞かないが、あまり目立つことはするなよ?」
「はい」と素直に返事をする。
「それじゃあ、もう帰ってもいいぞ」
「はい、失礼しました」
職員室を出て階段を降りていく。
すると、一階の廊下に佇んでいる人物がいた。
彼女はこちらに気づくと、小さく手を振りながら駆け寄ってきた。
「やっほう!」
「こんにちは」と挨拶を交わす。
「今日は部活はお休みですか?」
「うん、そうだよ」と沙世子は言った。
「えっと、何か用事でもあった?」
「いえ、そういうわけではないのですが……」と口ごもる。
「何?もしかしてデートのお誘いとか?」
「ちっ、違いますよ」と慌てて否定する。
「あんたの進路調査票。
白紙とすり替えたって子がいてさ」「はぁ?」「かなり、おイタが酷いんでちょいと〆ておいてやったよ!」「……そ、それはありがとうございます」
「うむ、礼には及ばん」と偉そうに胸を張る。
「ところで、どうしてそんなことを?」
「決まってるじゃないか。
うちの部員に手を出した罰だよ」
「別に私は……」と言いかけた時、「あなた、小説家志望なんですって?!」女子がキラキラした目で大勢寄ってきた。
「へぇ~、そうなんだぁ」「私も実は目指してるの!」「私も私も!」と次々話しかけてくる。
「え?えっと、あの、私は別にそこまで考えてなくて……」と慌てふためく私を見て、沙世子が呆れたように溜息をついた。
「あのさぁ、みんなも言ってるでしょ?こいつはただの文豪マニアだって」
「誰がオタクよ!!」と一斉に抗議の声が上がる。
「……でも、凄いね。
憧れてるだけじゃなく、本当になろうとしているなんて」と女子の一人が言う。
「いやぁ、それほどでも……」
「でも、やっぱり大変なの?」と質問される。
「そりゃあもう大変ですよ。
毎日のように締め切りがあるし、締切に間に合わないと編集者さんから鬼電がかかってくるし……」と愚痴を言う。
「でも、楽しいんですよね?」
「え?……まぁ、そうですね。
やりがいはあります」
「ふぅん、そっか」と少し寂しげに笑う。
「でも、あなたは凄いわよね。
自分のやりたいことがはっきりわかっているんだから」
「そんなことないです。
それに、私はあなたの方がすごいと思いますよ」と言うと、彼女は照れくさそうに笑った。
「えへへ、そんなことないって」
「そんなことないですって。
私はあなたのようになりたいと思っています」
「……私みたいに?」
「はい」
「……無理だよ。
私は私であって、他の誰でもないんだもの」と言って彼女は立ち去った。
放課後、私は図書室でチョモランマ星人と出会った。
外国人教師で日本にチョモランマ拳法を教えに来ている。
「おっす。
どしたい?」
「あっ、エベレスト先生」「どうしたの?なんかあったの?」
「実はですね、昨日の夜、見た夢なんですけど」
「ほうほう」
「私、夢の中でエベレスト先生に会ったんです」
「へー」
「それで、夢の中の私は先生のこと知ってて、でも私は自分自身を見失ってて。
先生に言われた一言一言が胸に突き刺さってきて……」
「……それで?」
「……はい、そこで目が覚めました」
「なるほどねぇ」とエベレスト先生は腕を組んだ。
「つまり、君はまだ自分というものを見つけられていないんだろうねぇ」
「……そうかもしれません。
先生はどうして拳法を始めたんですか?」「んー、まぁ色々あってねぇ」と頬を掻く。
「君はさ、誰かに憧れたことはあるかい?」
「え?……そうですね。
よく言われるのは沙世子ですかね」
「ふむ、いいねぇ。
他には?」
「他ですか?玲奈さんと、あと、小説のキャラクターかなあ」
「ほぉ、それはまたどうして?」
「う~ん、なんででしょうね」と首を傾げる。
「私はねぇ、自分に自信がなかったのよ。
だから、他人になろうとしたの」「それで、チョモランマかぁ」「そうねぇ、結構苦労したわぁ」と、しみじみと語りながら、女はまた一口酒を飲んだ。
その言葉を聞き流しながら、僕はジョッキをテーブルに置いた。
氷がぶつかる音が、やけに大きく響いた気がした。
今年に入ってすぐに、この店の常連客の一人が失踪したらしい。
この店で知り合った男だった。
男は酒が好きで、毎晩のように通っていたそうだ。
失踪の前日も、いつもと同じようにカウンター席で飲んでいたという。
しかし、翌日になっても彼は帰ってこなかった。
警察も捜索に乗り出したが、未だに見つかっていないという。
それを聞いて、いても立ってもいられなくなった僕たちは、早速聞き込みを開始した。
その結果わかったことは、彼が行方不明になる直前、ここに来ていた常連客が他にも数名いたことだった。
そのうちの何人かは、彼のことを覚えていたのだ。
彼らの話によると、失踪する一週間前から様子がおかしかったのだという。
仕事も手につかないような状態で、何かに取り憑かれたようにブツブツ呟いていたそうだ。
そして、ある日突然荷物をまとめて店を飛び出していったのだと。
それからしばらくすると、今度は店の女の子が一人、行方知れずになった。
こちらも同じように、急にいなくなってしまったのだと。
「それで、あなたは何て書いたんだ?」と尋ねられる。
「私は、『小説家』と書いて出しました」「ほぉ、それはまたどうして?」「まぁ、いろいろありまして……」と言葉を濁す。
……まさか、自分が小説家志望だなんて言えるわけがないじゃないですか!……………… 放課後、私は図書室でチョモランマ星人と出会った。
外国人教師で日本にチョモランマ拳法を教えに来ている。
私が本を読んでいると、彼女が声をかけてきた。
エベレスト先生は、チョモランマ拳法の使い手なのだそうだ。
チョモランマ拳法というのは、中国に伝わる武術の一つで、老若男女問わず習得することができるそうだ。
先生は私に拳法を教えるために、わざわざ日本まで来てくれたらしい。
エベレスト先生は、とても優しい人だった。
私の話を親身になって聞いてくれたし、分からないところがあれば丁寧に教えてくれるし、一緒に修行もしてくれた。
先生と一緒にいると、まるで昔の自分を見ているようだった。
先生と過ごす時間は楽しくて、つい時間を忘れてしまうほどだった。
そんな日々が続いたある日、先生は急にいなくなった。
私はショックで、何もする気が起きなくなった。
そんなある日、私は不思議な夢を見た。
それは、エベレスト先生が私に語りかけてくるというものだった。
先生は私に、自分のようになりたいのかと聞いた。
私は迷わず、はいと答えた。
私はエベレスト先生のようになりたかった。
エベレスト先生のような強さが欲しかった。
エベレスト先生のようになりたいと思ったからこそ、私は強くなれる気がしたから。
私はエベレスト先生のようになりたくて、毎日鍛錬に励んだ。
先生は私にとっての目標であり、道標でもあった。
先生がいなくなってからも、私は鍛錬を続けた。
いつか先生に追いつけると信じて。
先生がいなくなっても私は鍛錬を欠かさなかった。
先生が私に与えてくれたものは大きかったから。
でも、いくら頑張っても先生には追いつけない気がした。
私は焦り始めていたのかもしれない。
そんなある日のことだった。
私は奇妙な夢を見た。
夢の中で出会ったのは、見知らぬ女性と、幼い男の子だった。
二人は私にこう言った。
お前は強い人間になりたいかと。
私は迷いなくはいと答えると、女性は微笑みながら去っていき、少年はじっとこちらを見つめているだけだった。
私はその時、初めてこの人は誰だろうと考えた。
でも、不思議と嫌な感じはしなかった。
目が覚めると、私は泣いていた。
あの夢のせいだろうか? それとも……。
放課後、私はエベレスト先生に出会った。
エベレスト先生は、チョモランマ拳法の達人だという。
私はエベレスト先生に弟子入りして、拳法を習うことにした。
先生と過ごす毎日はとても楽しかった。
でも、楽しい時間ほど早く過ぎていくもので、私はもうすぐ卒業を迎えようとしていた。
そんな時、私は夢の中にいるもう一人の私と出会った。
私は私ではない私に問い詰められた。
どうして強くなりたいと願ったの? あなたは弱いままでよかったのに。
あなたは幸せでいるべきなのに。
あなたはエベレスト先生を不幸にしたのに。
それでもあなたはエベレスト先生の弟子でい続けたかったの? 本当に? エベレスト先生はあなたのことを愛していたのに? あなたはエベレスト先生のことが大好きだったのに? エベレスト先生はあなたのことを大切に思っていたのに? エベレスト先生はあなたに何を求めていたの?エベレスト先生はあなたに何を望んでいたの? エベレスト先生はあなたに何を与えてくれたの? エベレスト先生はあなたにどんな影響を与えたの? エベレスト先生がいなくなった後、私は必死に努力した。
エベレスト先生が与えてくれたものを無駄にしたくないと思ったからだ。
でも、どれだけ頑張ろうとエベレスト先生には追いつけなかった。
そして、とうとう卒業式の日に、エベレスト先生は姿を消した。
最後に一言だけ残して。
ごめんなさい。
それが、最後の言葉だった。
あれから十年経った今も、俺は彼女を失った悲しみから抜け出せていない。
今でも時々思うんだ。
もし、俺がもっと素直になれていたら、俺たちの関係は変わっていたんじゃないかって。
だけど、今更後悔しても遅いんだよな。
だって、沙世子は死んでしまったんだから。
だから、もう一度やり直すよ。
今度は絶対に間違えたりしない。
沙世子が死ぬ前の世界に戻れたなら、きっとまた、沙世子と出会えるはずだ。
今度は絶対に失敗しない。
今度は絶対に死なせない。
今度は絶対に守ってみせるよ。
だから、どうか待っていてくれ。
沙世子……! プロローグ それは、いつのことだったか。
確か、私が小学校に入ったばかりの頃だったような気がする。
当時、私の家は母子家庭だったが、母はいつも忙しく働いていたため、私はよく近所の公園で遊ぶことが多かった。
その日も、いつものように一人でブランコを漕いでいた。
しばらくすると、どこからかボールが転がってきた。
私はそれを拾い上げ、近くのベンチに座っていた女の子に声をかける。
それが、私と彼女との最初の出会いだった。
それから私たちは毎日のように会うようになっていった。
私も、彼女も、お互いに初めての相手だった。
お互いのことを話し合ううちに、私は彼女が他の人とは違う存在だということを理解し始めた。
ただ、それだけのことでしかなかったのだが、当時の私にとっては大きなことだったのだ。
そうして、私と彼女の交際が始まった。
しかし、そんな幸せな日々は長くは続かなかった。
彼女が失踪してしまったのだ。
警察も捜索に乗り出したが、彼女は見つからなかった。
しかし、私は諦めきれなかった。
どうしても、彼女にもう一度会いたかったのだ。
それから、私は何度も彼女を探そうとしたが、結局一度も見つけられなかった。
そして、私は今日も一人、本を読み続けている。
私の青春は、灰色のまま終わってしまうのだろうか?私は、小説家になるのを諦めるべきなのだろうか……? 私はある日、不思議な夢を見た。
そこには、見知らぬ女性と幼い男の子がいた。
二人は私に語りかけてきた。
お前は強い人間になりたいのかと。
私は迷わずはいと答えた。
すると、女性は微笑みながら去っていった。
私はその時、初めてこの人は誰だろうと考えた。
でも、不思議と嫌な感じはしなかった。
目が覚めると、私は泣いていた。
あの夢のせいだろうか? それとも……。
放課後、私はエベレスト先生に出会った。
エベレスト先生はチョモランマ拳法の達人だという。
私はエベレスト先生に弟子入りして、拳法を習うことにした。
先生と過ごす毎日はとても楽しかった。
でも、楽しい時間ほど早く過ぎていくもので、私はもうすぐ卒業を迎えようとしていた。
そんな時、私は夢の中にいるもう一人の私と出会った。
私は私ではない私に問い詰められた。
どうして強くなりたいと願ったの? あなたは弱いままでよかったのに。
あなたは幸せでいるべきなのに。
あなたはエベレスト先生を不幸にしたのに。
それでもあなたはエベレスト先生の弟子でい続けたかったの? 本当に? エベレスト先生はあなたのことを愛していたのに? あなたはエベレスト先生に何を求めていたの?エベレスト先生はあなたに何を望んでいたの? エベレスト先生がいなくなった後、私は必死に努力した。
エベレスト先生が与えてくれたものを無駄にしたくないと思ったからだ。
でも、どれだけ頑張ってもエベレスト先生には追いつけなかった。
そして、とうとう卒業式の日に、エベレスト先生は姿を消した。
最後に一言だけ残して。
ごめんなさい。
それが、最後の言葉だった。
あれから十年経った今も、私は彼女を失った悲しみから抜け出せていない。
今でも時々思うんだ。
もし、私に勇気があったなら、私たちの関係は変わっていたんじゃないかって。
でも、今更後悔しても遅いんだよな。
だって、沙世子はもういないんだから。
だから、もう一度やり直すよ。
今度は絶対に間違えたりしない。
沙世子が死ぬ前の世界に戻れたなら、きっとまた、彼女と出会えるはずだ。
今度は絶対に失敗しない。
沙世子が死ぬ前の世界に戻れたなら、私は絶対に守るよ。
沙世子が幸せになるために、私ができる全てを尽くすつもりだ。
そのためならば、どんな代償を支払ってもいいとさえ思っている。
沙世子に何かあればすぐに助けに向かうつもりでいるけれど、正直あまり期待はしていない。
何故なら、あの時の状況を考えれば、おそらく沙世子が助かる見込みはほとんどなかっただろうから。
あの子は優しい子だったから、もし仮に私と同じ立場になっていれば、同じように身を投げ出してあの子を助けたはずなのだから。
つまり、沙世子には生きなければならない義務などなかったということだ。
ただの自己満足にすぎないと分かっているのだけれども、沙世子のためだと言い聞かせることで私は自分を誤魔化している。
でも、それも今日までだ。
明日は卒業式が控えているからな。
私がすべきことはもう終わった。
私は今まで以上に努力をした。
沙世子がいなくなった後でも、一人でエベレスト先生を師と仰ぎ続けたのだ。
全ては沙世子と出会う前の自分に還るためだ。
私はエベレスト先生からチョモランマ拳法の手解きを受けることにした。
その道程は決して平坦ではなかったが、私は諦めずに励み続けた結果、遂にエベレスト先生からお墨付きを頂けるレベルまで到達した。
今なら、エベレスト先生にも勝てる気がする。
いやいや、調子に乗るんじゃないよと自分自身を戒めつつ私は決意を新たにした。
必ずやり遂げてみせるよと私は胸に誓いながら眠りについた。
卒業式当日になった。
今日という日を迎えるまでに色んなことがあったが、とにかく無事終わってくれればいいと私は思った。
いよいよ最後の授業となるHRが終わり次第、教室は騒がしくなっていた。
みんな思い残すことがないように会話しているようだった。
沙世子のところにも何人か人が来ていたが、どうも沙世子が素っ気ない態度を取っているようで、みんな諦めたように去っていくのを繰り返していた。
そういえば、沙世子のお母さんの姿も見かけなかったが、もしかしたら卒業式自体に出席していないのかもしれないと思った。
私は自分の席に腰掛けてぼんやりと窓の外の景色を見つめるばかりだった。
私は結局最後まで沙世子を助けることができなかったなと思い、唇を強く噛み締めるのだった。
するとそこに沙世子が現れて、私の方へと歩み寄ってきた。
私と二人きりになりたいということだった。
そうして沙世子に促されるがままに私たちは体育館の裏手へと向かった。
「話ってなんだよ」
と私は聞いたが、なんとなく内容は分かっていた。
恐らく告白か何かだろうと思っていた。
だが、そんな私を裏切るかのように彼女は衝撃的な言葉を告げてきたのだ
「私は、死ぬ」と唐突に切り出されて私の思考は停止したまるで夢の中にいるような気分だった。
「え?」と私の口を突いて出たのはたったこれだけの言葉だけだった。
でも仕方ないだろう。
だって突然死ぬなんて言われても納得できないのだから。
それでも私は彼女に尋ねた「冗談はやめてくれよ。
そんな笑えないジョー……クス……」私は彼女の顔をじっと見ながら言おうとした。
でもできなかったんだ。
彼女の顔を見て、言葉を失ったのだ。
彼女があまりに美しくて息が止まってしまったのだった。
彼女が私を見つめる目は真剣そのものでとても嘘をついているようには見えなかったんだ。
彼女は続ける。
「私はもうすぐ死ぬの」私は彼女の言葉を理解するのに時間がかかった。
彼女が死ぬ?もうすぐ?私は頭の中が真っ白になりそうになった。
そして、少し落ち着いてきた私はようやく声を発することができたのだったが、それでも私は彼女に聞き返すことしかできなかったんだ。
すると、「うん。
だからね……お願いがあるの。
聞いてくれる?」と聞かれてしまったのだ。
「お願いって何だよ?聞くだけはタダだし言ってみてくれないかな」と私は答えたのだが、本当は何となくだが何となくだけど予想がついていた。
そして、それは見事に的中してしまったのだった。
「あのね、あなたに生きていてほしいの。
でもね、私は死んでしまうから。
私にはもう時間が残されていないの。
でも大丈夫、私がいなくなってもちゃんと私が生きているから。
だからあなたは安心して幸せになっていいのよ」「ちょっと待ってくれ。
何の話をしているんだ。
君は死ぬって言い出すし、私が生きるだのなんだのわけが分からないぞ。
そもそも君が私なんかを好きだと言う時点でおかしなことになっているんだよ。
君のことは嫌いじゃないけど、でもそういう問題じゃあなくてだな……。
ああもう一体どういうつもりなんだ。
全く何が起きているっていうんだよ。
私に理解できる言葉で話してほしいんだけど」私はもう自分でも自分が何を言っているのか理解していなかった。
ただ混乱していることだけが確かだった。
私の様子を眺めながらしばらく黙っていた彼女だったが、何かを決意したかのようにこう口にしたのだった。
あなたがエベレスト先生を殺したせいなのよ、あなたのせいで私が死んでしまったのよと。
そこでようやく合点がいったのだった やっぱり沙世子は死んでいたんだ 沙世子が自殺した理由は、私が沙世子のお母さんに対して余計なお節介を焼いてしまったせいだということに。
でも、あの時はそうするのが最善だと思ったのだから私は悪くないとずっと思っていた。
それに、沙世子は自殺ではなく他殺だったという話を聞かなかっただろうか?沙世子が亡くなったというニュースは流れていたけれど犯人の手がかりが見つからなかったため自殺と断定されたという内容のニュースが、一時期テレビで流れなかっただろうか?それなのに何故私が殺したなどという話が浮上することになったのだろうか。
エベレスト先生からチョモランマ拳法を習った後くらいからだったと思うのだけれども、何故か私を変な噂が駆け巡るようになったのだ。
その発端は、やはりエベレスト先生が原因であることは間違いなさそうだ。
私は沙世子の死を知って以来、自分の力だけで沙世子を救える方法を模索することにした。
そのために必要な知識を得るため、私は独学でエベレスト先生に教えてもらった拳法を磨くことに日々を費やし続けた。
それから半年ほど経ったある日のことだった。
たまたま廊下を歩いている時に、すれ違った生徒の一人に呼び止められ、話しかけられた。
その時私は、いつものように無視しようと思ったが思い直して、相手の方へと振り返ることにしたのだ。
何故なら私はその相手に見覚えがなかったからだ。
その相手が女子だったために、尚更面識のない人物であると判断したのだ。
相手から発せられた第一声を聞くまでは、そうだったのだ 。
そうだったのだ そう、その相手というのが、同じクラスの女の子で、沙世子の親友であるはずの、花野井杏子さんだったのですよ 花森紗英が文芸部の部長に就任したのは昨年の冬頃だった。
その頃になると文芸部員たちはそれぞれの人間関係を構築しており、自然と部活動内でも友人同士で集まることが多くなっていた。
だが、その中でもとりわけ親密そうな関係を築いている二人がいた。
一人は沙世子で、もう一人が玲だった。
花野井はその二人から一歩引いた距離感を維持し続けていた。
沙世子と仲が良すぎるのも沙世子が気まずくなるかもしれないと思い距離を取ろうとしたのだろうが、傍から見れば、それは沙世子を遠ざけているようにしか見えなかっただろう。
また玲にしてもそうである。
二人の関係はただのクラスメイトの域を超えていたが、それを察することができるほどの洞察力を持つ人間はいなかっただろう。
沙世子は玲のことを親友だと言っていた。
沙世子の交友関係は広く、どの人とも一定の信頼関係があるように見えた。
しかし一方で、特定の人物に対しては深い付き合いをしないように思えた。
そのためか花森紗英は少し疎外されているように感じたことはあったが特にこれといって気にすることはなかっただろう 文芸部は今年度の活動を終了し三年生は自由登校になっていたが、花森紗英は受験勉強の傍ら部長の仕事を全うしようとしていた その日は二学期の終業式だった。
文芸部には既に引退済みの三年生が何人かおり放課後になると部室に集まっていたが会話をする者は誰一人いなかった 花森は本を読み耽り、時々溜息をつくばかりで会話に加わることもなく過ごしていた すると不意に扉が開かれたかと思うと玲が入室してくるのが見えた 。
玲はそのまま一直線に窓際まで向かうとカーテンレールに手をかけて、その場で大きく深呼吸を繰り返し始めたのだった。
その玲の様子を見ながら花森は思った。
玲はどうやら沙世子のことが好きだったようだと、しかも沙世子の方も玲のことを好きだったのではないかと。
だが、玲の様子がどうにもおかしかった。
玲の目は明らかに普通ではないような印象を受け取れた。
そして次の瞬間、玲は大きく頭を振り下ろすと床に崩れ落ちるのが見えた その後すぐ花畑沙世子も姿を見せたのだが、どうも玲の姿を見つけて慌てて駆けつけて来た様子であった。
「玲!!どうして?何があったの?」と、沙世子は大きな声で叫びながらその場にへたり込んでしまう。
沙世子の様子を見かねたのか、部長の花森紗英は立ち上がって「とりあえず、保健室の先生呼んでくるね」と言って教室から出て行く
「私に任せておいて!」と部長に続いて声を上げたのはサンダーソニアだった。
花鳥は、文芸部に出入りする唯一の三年生であったが玲は彼女の存在には気が付いていないようだった。
玲にとって彼女は他の生徒と同じように認識できない異質の存在として捉えていたようである。
一方、
「ありがとう」
沙世子の声からは動揺が消え失せており冷静な口調へと戻っていた そして玲に向かって手を伸ばし始める
「大丈夫、大丈夫だから落ち着いて。
私はここにいるから」
沙世子は優しく玲に呼びかけていた だが玲は返事をしない
「ごめんね、辛い思いをさせて。
でも大丈夫だから」
「うぅ……ぁあああ……沙世子……」玲の表情には苦悶の感情が強く表れ始めていたのだが沙世子には見えていないようで、ひたすら大丈夫だと繰り返して玲の頭を撫で続けていた のだけれども次第にそれも無意味なものだと悟り始めるとそのまま玲を強く抱きしめてしまう そしてしばらくそうしていたのだがやがて我に返ると、ゆっくりと身体を離す すると玲の顔には再び笑みが戻っていて、安心しきったかのような表情を浮かべながら眠りに落ちてしまったようだったのだけれどもそれは一時のことであったらしく再び顔つきが変わると沙世子の首に両手をかけるようにして強く握りしめたのだった。
そして、さらに力を強めようとしたその時だった 沙世子は首を絞められるのを予測してあらかじめ覚悟を決めていたので意識を失うことはなかったが、それでも窒息しそうになるほど強い力だったのだけれど何とか耐え続けることができている状態が続いていたのだけれども、ついに力尽きそうになってしまう その時である 誰かの叫び声のようなものを聞き取ったのか、それとも何か別の気配を感じ取ってしまったのかは分からないけれど急に玲の手から力が抜けたかと思うとそれとほぼ同時に今度はまるで魂が抜け出たように脱力したように沙世子の肩に倒れ込んだ 沙世子はすぐに首に回されていた手を解こうとする だがその時に玲は突然、声にならない叫び声を上げるのだった そして次の瞬間沙世子の耳には聞こえてきたのは玲の言葉だった のである 玲は必死に謝っているような素振りを見せるが、それが謝罪の意を伝えているわけではないということをすぐに察することができたのだけれどその理由を知る前に沙世子は意識を失ったのだ 次に目が覚めるとそこは保健室だった そこで紗英から沙世子が何をしたのかという説明を受けた
「実はあなた達が抱き合っているところを見た後しばらくしてからなんだけど、急に玲が倒れたと思ったらその時にはもうあんな状態でいたみたいなのよ」
「私がもっと早く気づいていればこんなことにはなってないのに、ごめんなさい。
玲を助けられなくて本当にごめんなさい」と沙世子は泣き出してしまったのだが、その姿を見て玲も自分のしたことを知ったようだ。
そして自分が沙世子にしたことも理解しているように思えた。
「沙世子のせいじゃないってば。
そんな風に思い詰めないで。
それに玲は私を恨んだりなんてしていないはずだから。
むしろ感謝してくれてるはず」と、そう慰めることに努めた
「うん、そうだよね、きっと玲ならそう言ってくれるよね。
沙世子が私を信じてくれているみたいに」と言いながらも未だに完全に立ち直れてはいないように見えたがそれでも少しずつ落ち着いてきたような気がしたので、そろそろこの場を去るべきかと考えていると、玲はおもむろにポケットの中からスマホを取り出して操作し始めたのを見て思わず、あっ!!っと叫んだ。
それは、玲が初めて自らの意志を持って行動しようとしたからであり、そして同時に沙世子との繋がりを自ら断とうとしたように見えたからだ。
「待って、玲。
お願い!それだけは止めて!」と言ったものの玲が聞き入れてくれるようなことはなくそのまま連絡先を削除してしまったようである。
それから間もなく玲が再び沙世子の方を見ると何かを話しかけ始めた。
何を話しているのか分からなかったのだが少なくとも沙世子の表情を見ている限り、あまり愉快な内容ではないことは間違いなかったようだ がそれでも懸命に説得しようと試みていてくれたようである
「ねぇ、玲、これからも私と一緒に居てくれない?私にできることなら何でもするから」と言うと玲は嬉しそうな反応を見せたのである。
どうやら、沙世子の提案を受け入れてもらえたらしい ということだけは分かった そしてしばらくの間、沙世子に対して玲は微笑みかけながら頭を撫でていた その後でようやく満足したのか沙世子に寄り掛かるようにしてまた眠りに落ちたのだったが、その顔は幸せそのものと言ってもいいような笑顔だったのだった。
(あれ?)玲は自分の部屋の中で目を覚ましたのだった。
いつ眠ってしまったのかは全く記憶がなかったのだがとにかく起き上がって鏡で自分の姿を確認したのだが特に異変が起きているようには感じられなかった
「夢?」だったのだろうか?いやでもそんなはずはない 昨夜の出来事は夢だったなどと到底考えられるようなものではなかったからだ
「とりあえず支度しなくちゃ」と言ってベッドから出て着替えを始める いつも通り朝ごはんを食べて家を出る いつも通りに電車に乗り込んでいつもと同じように座席に座っていると、やはりいつも通りのことが起こる そういえば昨日のことはまだみんなには話してないことを思い出す。
何があったかちゃんと説明しないといけないだろう。
だがそんな時であるふとある違和感を覚えたのだった。
(なんだっけこれ?確か今日が七十五回目の誕生日だからかなぁ)と思うもそれはおかしいことに気づいたのである 。
なぜなら今日の自分は確かに十六歳になっているのだが今までの記憶が全くないというわけではなかったのだ しかもなぜか今の自分にはこの状況を全く不思議だとは思えていないどころかむしろ懐かしく感じているのだった そしてそんな気持ちを抱きつつもとりあえず何かを考える前にまずはこの現状を確認しようと、手を動かしてみることにしたのだが、すると、右手も左手と同じで、同じくらいの感覚があり動かせそうであることを認識するのだった それで、試すことにしたのだ そうすることによってこの両手に付いている物がいったい何なのかが分かると思ったからである だが、それは無駄なことに終わった 。
いくら指先に力を込めるつもりでもその動きに応じて動くだけで何もつかむことができないからだった ただそれだけのことであるのだがそれなのに何故だかすこぶる安心感を覚えることができたのである そして今度は、足を使ってみようと試みたのだ だがそれも上手くいかない。
というかそもそも体全体が思うように動かない それでも何度も試みているうちにだんだん体が覚えてきたような気になってきてついにその感覚が確信に変わるのだった そう思った次の瞬間だった 突然頭の中に映像が流れ込みそれがどういうものかが理解できるようになっていたのだ。
そして、それと同時にこれまで疑問だった様々なことを理解するのだった そうだったのだ、これはあの時の出来事だったのだ、いや正確にはあの頃の思い出の一部なのだったと そしてこの時すでに死んだ人間になっていたのだなと思い出すのだった。
(そうだ、私はもう死んでいたんだった、それにしてもまさかまたこの場所に来るなんて思ってもなかったなぁ。
まぁそう思うのは当然だよねぇ)と沙世子は独り言のように呟いたのだった。
そうなのだ 実は彼女が死んだのは既に十七年前のことであるのだ。
つまり、現在の年齢から数えれば約三十年前になるのだった ちなみになぜ今更こんなことを考えるようになったかというと目の前にある机の上に置かれてあった物を見つけたからに他ならない その机の上には白いチョークが置かれておりそこに黒い文字でこう書かれていた 【本日より授業は五時間目から始まります。
一限目は英語ですので準備をしてください。
あと教室はC棟1階の303号室になりますので間違えないように注意してください】
と書いてありそれを読んだことで沙世子はそのことに気がついたのである その文章の下に視線を移して更にその下に書いてあったことを沙世子は読み取ったのだ 【2-Bは先日から生徒指導のため、AとBに分かれて別々の場所にいます。
よって、今日よりクラス分けも変更しています。
詳しくは配布されている冊子を読んでください】
という文が記されていた のだった
「はぁー」沙世子は盛大に溜息をついたのだったがそれは、自分が死んだという事実に対してではなかった。
自分が死んだ時のことはしっかりと沙世子は記憶していたしその時に何をやったのかもはっきり覚えている からだ。
ではなぜ沙世子がここまで溜息をついてしまったのか?と言うと沙世子が死んだ後のことだからである というのも、玲と沙世子の死は表向きは単なる食中毒ということで処理されてしまったのだが実際はそうではなかったからであり 沙世子の死に不審を抱く人間が二人いたのだった。
一人はもちろん、玲の母親であり潮田家を取り仕切っている人物である潮田玲子である。
そしてもうひとりは沙世子の父にして会社を経営している人物でありこの会社の実質的な経営責任者である海渡啓一郎その人だった 沙世子の父親は元々は海を渡って日本にやってきた移民だったのだが仕事を通じて知り合ったのをきっかけに意気投合したことで、それまでは別々に暮らしていたのだが沙世子が生まれた後は共に暮らし始めていたのだがそんな折に玲が沙世子の家に泊まりに行った時に、玲に一目ぼれしてしまう のだが、その時の玲は十歳だったがそんな沙世子の思いを察した玲子は二人の仲を引き裂くために玲の母親が亡くなって沙世子が一人で暮らすことになった途端に自分の家に連れて帰ってきてしまうのだがそれでも二人は互いに好意を持ち続けたのだったが結局は結ばれることなくこの世を去ってしまうことにはなったのだがそれは、玲にとっては幸せなことだったようで特に不満を言うこともなく、玲は母親とともに沙世子の葬儀に参加するために再び日本へやってきたのだったが、そこで事件は起こる。
葬儀が終わった直後、突然会場が爆発に巻き込まれてしまったのだ。
しかも爆発を起こした人間は玲の父親の秘書で副社長を務めている人物で玲には恨みを抱いていたのだがそのことを知っていた秘書が犯人であったのだ。
しかもその爆弾は彼の体内に埋め込まれていて自爆覚悟のものだった。
そのためその場から逃げることができず爆死してしまったのだった 。
だが玲にとって幸運だったのは爆発が起きる前だったら、玲だけは助けられるはずだったのだが秘書の彼は、自分の体でそれを成し遂げることはできたのだろうか 。
ともかくこれによってこの事件は一応の解決を見たが世間的には未解決のままである。
沙世子も事件の当事者だったこともあって事情聴取のために警察の所を何度か訪れたりしたが、その事件が起こったのは十六年前ということもあって、警察でも既に時効扱いになっているためこれ以上の捜査が行われることはないのだが、この事件に関してだけは非常に謎が多かったので、警察は独自に調査を行い始めた そしてその中で沙世子の両親が真相にたどり着くのはさほど時間が掛からなかった。
そもそも今回の事件については秘書はあくまでも容疑者の一人としてリストアップされていたにすぎなかったのだが、秘書の行動について改めて洗い直すことで秘書自身が実行犯であることがほぼ確定されただけでなく秘書の実家の倉庫を調べたところ、玲の自宅にあったのと同タイプの起爆装置が発見されたことにより完全に犯人であることが分かった のだがしかしそれはあくまでも推測に過ぎなかったためになかなか警察に逮捕させることができなかったのだ それにしても沙世子があのタイミングで殺されたのはあまりにも偶然が過ぎたのだった なぜなら沙世子は十七年前には死んでいるのだから 当然あの場にいてはならなかったのだが、沙世子自身はあの場所で死ぬことがわかっていた。
だからこそ沙世子が死を選んだのだったがそれは結果的に言えば失敗だったのだ だが沙世子はあの状況ならば、自分が死んだ後に何が起こってしまうのかを予測することができて、しかもそれが沙世子の死後に起きた出来事だということは間違いないのであの行動は正解であると言わざるを得ないのだがそれでも死んでしまったことに関しては後悔せざるを得ないだろうが 沙世子としては別に死にたくなどはなかったのだから
(まぁ仕方ないよね。
あの時の私がどれだけのことをしてもきっと結果は変えられなかったはずだから 、だからもう考えないようにしよう。
それでいいのかな?)沙世子は自分にそう言い聞かせて、気持ちの整理を付けることにしたのだ それからしばらくして、担任の先生が入ってきた どうやら、これから五時間目の授業が始まるらしく、そのために教室に集まるようにとの伝達事項を言われた後ホームルームを終えた。
そしてすぐに五時間目が始まることになり その最初の時間は英語だったため準備をするということだったので その時間の間に各自席に着いた状態で配布されたプリントを読んでおくことの指示があったので早速沙世子も読んでみることにした その内容はこうだった 【今日の5時限目の授業ですが クラスメートが変わったようです】
ということから始まっているのだった 沙世子はその文章を読むと
(はぁーやっぱりそうなんだ。
まぁ予想していたことだけどね)と思いつつ更に続きを読んだ するとその次には 【新しいクラスになったので、クラスごとに分かれてもらい、授業を受けます。
1-Bは2階で授業を受けることにします。
2-Bは引き続き3階の教室を使います。
詳しくは冊子をご覧ください】と書かれている文章を見つけることができたのだ
なので今度は2-Bの生徒全員が2階に移動して1-Aの生徒が3階の教室を使うことになったことで教室を分けることになった 沙世子はその指示に従って1組に移動するとまずは自分の座席を確認したところそこには『水無月』と書かれてあるプレートがありそれを確認すると、沙世子の机の上にある机の上には何冊かの冊子が置かれているのを発見したのだ そしてその中には表紙に『C組案内パンフレット 配布用』と書かれていたので沙世子はそれを取りだした後中をパラ見したところ中には、2組の生徒全員の名前が載っていた それによると、沙世子のクラスはC組という名前らしい 沙世子はその名前を見て(C組か、なんだかちょっと嬉しいな)と思った ちなみにCというのはCeriseの略でいわゆるお嬢様という意味になる のだが沙世子がどうしてそう思ったのかと言えば沙世子は玲の母親である玲美のことをCeriseと呼ぶことを密かに気に入っていたからである。
それはともかくとして沙世子は小冊子の内容を確認すると沙世子達のクラスで使う教科書は基本的には全部同じもののようだ ただ、教科ごとのページ数だけが違っているみたいだった またその中身については特に変わりはないようなので沙世子は特に心配することもなかったのだが とりあえず冊子に目を通すことにして沙世子は内容を確認し始めるのだった そして冊子を半分ほど読んだところでちょうど英語の先生と思われる女性が入ってきて、その人は「今日からあなたたちの担当の山下洋子と言います。
よろしくお願いします」と丁寧に自己紹介をしてくれたのだった。
それに対して生徒達は、「「よ、よろしくお願いいたしまーす」」とおそるおそるという感じではあったが、返事をしたのだった。
そしてそのまま「では今からテキストを開いてください」と言ったので、沙世子もその指示に従い指定された場所を開いたあと、先生が「今日はまず初めに前回やった内容の復習をしてからテストをするのでしっかり頑張ってください」と言ったので沙世子は(あれ?なんか前回のテストって言ってなかったけ うーん?そうだとしたらおかしいよね。
だってまだ一回目のはずだよね?なんなら沙世子はまだ一学期が始まってから一度も出席していなかったんだから)と思ったのだ
(まさかこの学校、サボりには厳しいとかじゃないよね)と思ってしまうくらいだった 沙世子がそんなことを考えていると先生が、「では前回と同じようにグループに分かれてそれぞれ答え合わせを行っていってもらうので 自分の番が回ってきたら席を立って前の黒板に向かって行ってください」と言ってきた なので沙世子がその指示通りに前に出て行ったのだがその時、沙世子の視界の片隅にある人影を捉えるとその方向に視線を向けた
(えっ!?︎あの子も呼ばれたんだ)
その人物はどう見ても十代前半の少女に見える見た目だったのだが、沙世子と同様にテストを受けるような雰囲気をまとっていた そして、その後沙世子は、順番が巡ってくると、先程見つけた謎の女の子の前に立つと問題を解き始めたのだが沙世子の解答に対して、謎は少しも悩むことなくスラスラと答えたのだ それを見ていた周りの人達の反応はとても不思議な物を見てしまっているかのように唖然としているようであり、沙世子もまた、何が起こったのか全くわからず混乱した様子を見せるのであった だがそんな状況の中で、沙世子はあることを思い出すと慌ててそのことを確認するため口を開くのだった。
そんなある日、玲子が通り魔に刺されて死んだ。
享年16歳。
犯人は不明。
葬儀は家族だけで行われ沙世子は参列できなかった。
一人、校庭で泣いた。

涙はいつまでも止まらなかった。
テストの結果はさんさんたるものだった。
三者会談で親や担任からこってり絞られた。
どうして学業に身が入らないのか正直に答えろと責められた。
しかたなく、玲子の死がショックだったというと烈火のごとく叱られた。
死んだ人のせいにするな、と。
玲子の母親も激怒し「死んだうちの娘に何の恨みがあるのか。
これは虐めを通り越して犯罪です」と警察に訴えた。
被害届は受理されて沙世子に有罪判決が下った。
佐世子は今、拘置所の独房にいる。
窓の向こうは満天の星空で、それがまた沙世子の胸を締めつける。
面会に来ないでと頼んだ。
沙世子に言い渡された刑は3ヶ月という短い期間の奉仕活動。
でも、それでよかった。
たった3ヶ月の懲役でいいのか、もっと長く反省しろと言われた。
3ヶ月以上もあそこにいると頭が変になりそう。
沙世子が奉仕活動を希望して、そう決定した。
そして、それは今日からだ。
もう後戻りはできない。
沙世子の足は震えていた 。
刑務所に入ると聞いた時から覚悟していたはずなのに、現実は想像を超えていた。
でも行かなければ私は本当に壊れてしまう。
それだけは絶対にいやだった。
玲に会いたかった。
会って話をしたいことがいっぱいあったけど仕方がないね。
私がいけないのだから。
翌日から奉仕活動が始まる。
それは受刑者への慰問や清掃といった作業ではなく、いわゆる労働というものでその内容は刑務所内で雑務を行うというものであるが、その内容を聞いた時に沙世子は心底嫌だなと感じたのだ というのもそれはいわゆる囚人の食事の準備だったのだ しかもただの料理じゃない その献立を沙世子は見てみたのだがとても食べられたものじゃなか
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