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若様の優雅なインペルダウン生活

原作: ONE PIECE 作者: 茶木代とら
目次

看守たちの長期休暇(準備編)その5

ハンニャバルは、看守達がこんなことを考えているとは知らなかったが、長期休暇制度の内容に関して担当者1と話し合った日の夕方、散々迷った末、ハンニャバルにとっての苦渋の決断をした。

なんと、あっぱれにも看守達に対して囚人の同行の禁止を言い渡したのである。制度では良しとされていることを、署長判断で禁止したのだ。

看守達はブツブツと文句を言ったが、すぐに気を取り直した。同行させてはいけないということは、自分達が不在の間はハンニャバル署長が責任を持ってドフラミンゴを監視してくれるということなのだろう。それならそれで自分達は思いっきり休暇を満喫することができる。

マゼランは、ハンニャバルのこの決断を、三つの点で理解できた。
一つめは、囚人を正当な理由なく監獄の外に出すという法律的な問題。
二つめは、(元)天竜人に同行させるという非人道的な問題(奴隷扱いされる可能性がある)。
そして、三つめは、長期休暇制度の最後の一文だ。

“ただし、同行させた者が全ての責任を負うこととする”

(…つまりこれは、そういうことか?なるほど、ハンニャバルが独自の判断で囚人の同行を禁止したのも無理はない…)

看守達が退室した後も、マゼランとハンニャバルの話し合いは続いていた。
「あいつらの不在は我々にも負担が大きいな」
「ええ、署長の私にとって頭の痛い問題です」

マゼランに答えるハンニャバルの眉間にはシワがあったが、“署長”と言う単語を発する時、ちょっと嬉しそうだったのは気のせいだろうか。

(こいつの署長という肩書に対する執着は病的かもしれん)
マゼランは心の中で呟いた。長期休暇制度の最後の一文の不条理さを考えると、自分なら笑ってなどいられない。

「休暇は一人ずつ取らせるのか?」
「そのつもりです。しかし、特別室の担当が二人だけでは業務をこなすのに支障がありますので、他の人員を入れる必要がありマッシュ」
「そうだろうな」
「マゼラン副署長、看守が休暇を取っている間、特別室の看守のシフトに入っていただけますよね?」
“マゼラン副署長”と言う単語を発する時も、ハンニャバルの顔がわずかにほころんだ。

マゼランは、ハンニャバルの態度が気に障らない訳ではなかった。
しかし、今のような状況でも、署長という肩書に誇りとやりがいを感じているらしいハンニャバルの精神的な強さには感嘆せざるを得なかった。

(この執着心がエネルギーの源になっているのかもしれん。このおれでさえも署長の立場を退いていて良かったと思うというのに…。この理不尽さに打ち勝つには、よほどの精神力が必要だ)

しかし、協力するのはいいが、自分のドクドクの実の能力は囚人を殺してしまう可能性がある。
「シフトに入るのは構わんが、食事中や長時間の監視はできんぞ。囚人が死んでしまう」

「マゼラン“副”署長が囚人に近寄らなくてもいいように、他の看守をもう一人付けマッシュ。
それに、あの囚人はかなり頑丈なようです。ちょっとやそっとでは死にません。どのくらいやれば死ぬか、試してみようとは思いマッシェンが」

ハンニャバルのこの“副”を強調する話し方はやはり癇に障る。だが、今はそんなことよりも重要なことがある。
「…。奴の監視は本当に厄介だな…」

自分の担当の看守が休暇に出ているせいで不機嫌になっているドフラミンゴがいつ爆発するか、ビクビクしながら過ごす期間は…、例の看守のうち2人が20日、1人が30日別々に休む予定だから、合計で約2か月半か。
自分やハンニャバルはともかく、下っ端の看守がそんなに長い期間を耐えられるだろうか。レベル6には他のフロアよりも腕が立つ者を多く揃えてはいるが…。

「海楼石を増やして、状況に応じて寝室とダイニングルームの使用を一時中止します。監獄からそれらの部屋に移動する際のリスクが軽減されますので」
「しかし、やり過ぎると、かえってうっぷんを溜めることになるのではないか?」

ドフラミンゴが暴れ出したとして、奴を生かしたまま捕らえることは、不可能ではないだろう。おそらくだが。問題は、そこに行き着くまでにどのくらいの犠牲を払わなければいけないかだ。
しかも、それは一度だけで済むとは限らない。

マゼランの心は危機感で暗く沈んだ。
「いっそのこと、看守達に連れられてどこかに行ってしまえばどんなに気が楽だろう…」
不意に、思っていることが口からこぼれ出た。言ってしまってから、自分でも驚いた。

マゼランは恥じ入り、必死で言い訳した。
「ハ、ハンニャバル…、今のは失言だ。許してくれ。こんなことを口に出すなんて、おれは……」
ハンニャバルは目を丸くしてマゼランの顔を凝視している。
(よほどショックだったに違いない…。ああ、おれはなんということを…)

ハンニャバルがおずおずと話し出した。
「マゼラン“副”署長もそう思いますか?」
やはりこいつの話し方は気に入らない。

しかし、マゼランは真剣にこう言った。
「お前は自分の判断を曲げるべきではない。あまりにもリスクが大きすぎる」

「いえ…、実は自分も同じように思っていました。同行を許すことで軽くなる問題も、実際にありマッシュ…」ハンニャバルはうつむいた。

ハンニャバルは全ての責任を自分で負うことを受け入れるつもりなのだろうか?それはあまりにも自己犠牲が過ぎないだろうか?マゼランはおののいた。


“特例として、囚人の同行を許可する。ただし、同行させた者が全ての責任を負うこととする”
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