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君主な彼女と軍師公明

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: 山科
目次

第37話

第五幕

 翌日。
 放課後の体育館に集まるは、全校生徒百九十六人、そして教職員。
「はぅ……き、ききき、緊張します……だめです、もうだめですぅ……」
 ステージ裏で演説の準備をしていた仲山は、泣きそうな顔で震えていた。
「大丈夫だ龍華ちゃん。アタイがそばにいる」
「うぅ……美羽ちゃん……」
 手を握り合う美少女二人。若干百合臭がするよね。ゆりゆららららゆるゆり♪
「そろそろ始めたいんだけど、仲山さんは大丈夫かい?」
 司会進行を務める喜多村が、ひょこっとステージの方から顔だけ出して聞いてくる。
「……はい! 大丈夫です! ……た、多分」
「多分って……落ち着いてやれば大丈夫さ。じゃ、始めるよ」
 そう言って、喜多村は顔を引っ込める。当然、司会進行の役を務めるためにステージ脇に設置した机のところに行ったのだろう。
「ともかく、俺が仲山の演説の前にできるだけ場を温めておくから、気楽にいきなよ」
「は、はい。頑張りまひゅ!」
 あー、こりゃだめかもしれない。
 いや、仲山を信じよう。
『ただいまより、臨時全校集会を行います』
 喜多村の凛とした声が館内に響き渡る。
「冠、仲山のこと、頼んだ」
「……テメエに言われなくても、そのつもりだ」
「ん。そっか」
『まず最初に、臨時生徒会副会長からお話があります。臨時生徒会副会長の竹中孔明君、お願いします』
「……おい、俺っていつから副会長になったんだよ」
「昨日からだ。戦争時の指揮権だとか、軍師に任命した以上、龍華ちゃんの次に偉いってことになるからな。癪だけど」
「……さいですか」
「わかったらさっさと行って来い」
「が、頑張ってくださいねっ! 竹中くん!」
「おう、行ってくるよ」
 サムズアップしながら告げて、俺は一歩ステージへと踏み出した。
 演台の前に立ち館内を見渡す。四百を超える数の瞳が、俺に視線を注ぐ。
『どうも、ご紹介に預かりました、竹中孔明です』
 そこでいったん言葉を止め、息を整える。
 大丈夫。緊張はしてるけど、大したものじゃない。緊張はむしろ楽しめと教わった通り、今はこの状況を楽しむことにしよう。
『まず、今校内にはある噂が流れていると思います。山中高校に寝返ることは、不可能だという噂が』
 館内がかすかにざわめきだす。多分、今騒いでいるのは噂を知らない人たちだろう。好都合だ。
『知らない人もいるみたいなので、説明しておきます。ま、口で言うよりこれを聞いてもらった方が早いでしょう。司馬、流してくれ』
 館内放送室にいる司馬に伝える。司馬の声は聞こえないけど、こちらの声は聞こえているはずだ。聞こえてないようだったら、直接行かないとだけど。そこを確認する時間はなかったんだよね。

『は、話が違うじゃないか! 寝返りは受け入れるって!』

 音声が流れ始める。司馬に指示は届いていたようだ。

『受け入れるか! あれは織館の連中を簡単につぶすための計略だ! だいたい、織館の生徒なぞ、貴様のようなクズばかりなのだろう? もし受け入れても、せいぜい奴隷か死に兵の扱いしかするつもりはないわ!』
『ひ、ひどい!』
『ひどい? 黙れクズが! ほら、さっさと豚小屋に帰れ。貴様らなど、戦争によって叩き潰してくれるわ! 聞いているぞ、貴様らの学校は、兵が一人もいないのだろう? 生徒会長すら、臨時だとか』
『な、なぜそれを?』
『貴様らクズの仲間が、我が校に寝返る為にと教えてくれたのよ。ま、そいつも受け入れるつもりはないがな。簡単に人を裏切るやつなど、信用できねえからな』
『最低だな』
『なんとでも言え。ほら、さっさと帰れ』

 そこで音声は途切れる。と同時に、再び体育館内がざわめきだした。今度は、先ほどの比ではない。
 噂は知っていたけど、この音声を聞いたのは初めてって人が多いのかな?
 それもまた、好都合だ。
「……ふぅ」
 一度深呼吸。落ち着いたところで、俺はマイクに口を近づけた。

『えー、今聞いてもらった通りです。山中高校に寝返ろうとした人は、こういった扱いを受ける。だから寝返るな、とは言いいません。
 だけど、悔しくないですか?
 生徒全員クズと言われ、俺たちの校舎は豚小屋扱い。
 一年の俺でさえ、クズや豚小屋と呼ばれてムカついてるんです。二、三年の先輩たちはどうなんですか? 自分たちが過ごしてきた場所が、豚小屋扱いされてるんですよ?
 ……まあ、この話はここまでにしておきましょう。
 問題は、織館高校の生徒が山中高校に移動したら、奴隷のように扱われるってことです。
 ってことは、負ければ終わりなんですよ。
 今、負けても山中高校に入らなければいいと思った人もいるかもしれませんが、『有能人材育成システム』の説明に、こうあります。『戦争に敗れ、校舎を占領された学校に所属する生徒は、原則として占領した学校の生徒となる』と。
 俺が負ければ終わりって言った意味がわかったでしょうか?』

 しん、と皆が押し黙る。この沈黙が、無関心によるものではなく、思案によるものだと信じたい。
『だけど、言ってしまえば勝てばいいんですよ。勝てば奴隷扱いされることもない。勝てばクズ呼ばわりされることもない。違いますか?』
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