元第七師団所属、花魁主
暗い地下の世界には、冷たい鉄の空が私達を見下し、月を隠す。
「やっと見つけた、先輩。」
「…随分大きくなったね、神威。」
その夜、男は窓辺に静かに立っていた。
花魁と言われながら、客を一切取らずに此処まで伸し上がった私のこの部屋に足を踏み入れた男は、彼で二人目。
「アンタだって、花魁とは随分と大きくなったじゃないか。
あれ?花魁って美人じゃないとなれないんじゃなかった?
いつから吉原の美人のランクはこんなに下がったのかな?」
「そんなことを言う為にわざわざ地球まで来たんじゃ無いでしょうね。」
「地球にはビジネスに来たんだよ。」
まぁ、阿伏兎に任せたけど。なんてケラケラ笑いながら私の元へ近寄る神威。
…阿伏兎、か。
また懐かしい名前を聞いたものだ。
同じ船で生活していたものの、団員では無い私は二人とは上司と部下という関係では無く、目の前に立つ神威は昔の職場の後輩で、阿伏兎は先輩だった。
見た目も普通で客も取ってもいない私が花魁としてここにいるには裏があった。
そもそも私は本来の意味での花魁ではない。
表ではそういうことにして動きやすくしているだけで、裏で鳳仙団長と春雨…いや、元老のパイプとして暗躍していた。
なんてことない話だ。
元々、人身売買時に私を連れていた阿伏兎に噛み付いて逃げたのをきっかけに、なんやかんやで第七師団で雑用として働き、鳳仙団長を親代わりに慕っていた私自ら隠居時に連いて行っただけのこと。
鳳仙団長にとって私は気の知れた使い勝手のいい側近であり、元老や春雨にとっても大金を握らせて鳳仙団長の様子を逐一報告させる丁度いい見張りだった。
互いの顔色を伺いながら仲を取り持つ、そんな役が私。
最も元老、春雨側にはあまりにも鳳仙団長が不利になる話はしない。
あくまでも私は鳳仙団長の部下なのだから。
「ジジイ共に言われて吉原(ここ)をとりに来たんだ。
邪魔みたいだよ、旦那や吉原が。」
「……それで、鳳仙団長を殺しに来たって?
見ない間にそんなに強くなっちゃったの神威は。」
「そうだよ。」
一切の迷い無くそう言ってのけた様子から、彼が本当に鳳仙団長を上回る自信があるのだと知り、おかしくなって手を添えて笑う。
笑い方まで随分と大人しくなったんだね、と呟いた神威はするりと私の袂(たもと)からカラクリを取り出し、バキンと片手で破壊した。
「あらら。後で鳳仙団長に怒られちゃう。」
「二人きりで話そうと思ってさ。
なぁ、神威団長についておいでよ。
アンタにこんな豪華な姿は似合わない。」
「…お気に入りなんだけどな。」
「本当にそう思ってる?」
くい、と私の顎を掴んで神威の顔に向けられる。
久しぶりに見た少年の顔立ちは随分とまぁ男らしくなっていたけれど、その目は相も変わらず血に餓えた獣のような目をしていた。
男に静かに重ねられた唇を割って、ぬるりと舌を差しこむ。
たどたどしい舌を絡めれば、ぴくんと微かに反応する神威の指先。
あれからも喧嘩ばかりしていて殆ど女を知らないのだと分かれば、ここから先は私が主導権を握れる。
口だけは達者なのに、
本当は子供の頃から変わらない神威はあまりにも純粋で。
そんな神威がとても愛しく思えた。
「…はぁ……っ。」
「ねぇ…花魁である私の揚げ代と身請け金はうんと高いよ?
どうしちゃうの、神威…。」
「ん…っ」
「神威の人生くらい貰わないと割に合わないかも…。」
どうする…?と吐息を交えて神威の耳に舌を這わせながら、私にしがみつく神威の下腹部に手を滑り込ませた。
ガチガチに硬くなっていることを確認して、服の上から擦り上げる。
あんなに可愛かったのに、こっちも随分と立派になっちゃって…。
「…いいよ、あげる。」
「ふーん、いいんだ?」
「だから…他の女に御執心な老いぼれの介護なんか辞めて、俺に毎日美味しいご飯作ってよ。」
きっとそれは神威なりの精一杯の告白なのだと思えた。
本当に不器用な男だ。
鳳仙団長も、この男も。
万が一にも鳳仙団長が元老達に消されれば、私は用済みになり、内部を知り過ぎていることもあって生きて逃げることは不可能だ。
神威がわざわざ私を探し出したのは、私の命を救う為。
それがloveであろうとlikeであろうと、神威が少なからず私に好意を持っているからで。
戦闘も出来ないし特殊能力も無いただの人間である私を救おうとする理由なんて、傍に置こうとするなんて、他に考えられなかった。
「可愛いお嫁さんにしてね。」
「…可愛いのは生まれつき無理なんじゃないかな。」
「へえ?」
「…嘘。」
「嘘付きな後輩には、先輩がたっぷり指導してあげなきゃね。」
にこっと口角を上げ、神威の手を引いて初めて座敷に男を上げる。
最初で最後の座敷にて、しゅるり、と帯を解く音に静かに耳を傾けた。
end
「やっと見つけた、先輩。」
「…随分大きくなったね、神威。」
その夜、男は窓辺に静かに立っていた。
花魁と言われながら、客を一切取らずに此処まで伸し上がった私のこの部屋に足を踏み入れた男は、彼で二人目。
「アンタだって、花魁とは随分と大きくなったじゃないか。
あれ?花魁って美人じゃないとなれないんじゃなかった?
いつから吉原の美人のランクはこんなに下がったのかな?」
「そんなことを言う為にわざわざ地球まで来たんじゃ無いでしょうね。」
「地球にはビジネスに来たんだよ。」
まぁ、阿伏兎に任せたけど。なんてケラケラ笑いながら私の元へ近寄る神威。
…阿伏兎、か。
また懐かしい名前を聞いたものだ。
同じ船で生活していたものの、団員では無い私は二人とは上司と部下という関係では無く、目の前に立つ神威は昔の職場の後輩で、阿伏兎は先輩だった。
見た目も普通で客も取ってもいない私が花魁としてここにいるには裏があった。
そもそも私は本来の意味での花魁ではない。
表ではそういうことにして動きやすくしているだけで、裏で鳳仙団長と春雨…いや、元老のパイプとして暗躍していた。
なんてことない話だ。
元々、人身売買時に私を連れていた阿伏兎に噛み付いて逃げたのをきっかけに、なんやかんやで第七師団で雑用として働き、鳳仙団長を親代わりに慕っていた私自ら隠居時に連いて行っただけのこと。
鳳仙団長にとって私は気の知れた使い勝手のいい側近であり、元老や春雨にとっても大金を握らせて鳳仙団長の様子を逐一報告させる丁度いい見張りだった。
互いの顔色を伺いながら仲を取り持つ、そんな役が私。
最も元老、春雨側にはあまりにも鳳仙団長が不利になる話はしない。
あくまでも私は鳳仙団長の部下なのだから。
「ジジイ共に言われて吉原(ここ)をとりに来たんだ。
邪魔みたいだよ、旦那や吉原が。」
「……それで、鳳仙団長を殺しに来たって?
見ない間にそんなに強くなっちゃったの神威は。」
「そうだよ。」
一切の迷い無くそう言ってのけた様子から、彼が本当に鳳仙団長を上回る自信があるのだと知り、おかしくなって手を添えて笑う。
笑い方まで随分と大人しくなったんだね、と呟いた神威はするりと私の袂(たもと)からカラクリを取り出し、バキンと片手で破壊した。
「あらら。後で鳳仙団長に怒られちゃう。」
「二人きりで話そうと思ってさ。
なぁ、神威団長についておいでよ。
アンタにこんな豪華な姿は似合わない。」
「…お気に入りなんだけどな。」
「本当にそう思ってる?」
くい、と私の顎を掴んで神威の顔に向けられる。
久しぶりに見た少年の顔立ちは随分とまぁ男らしくなっていたけれど、その目は相も変わらず血に餓えた獣のような目をしていた。
男に静かに重ねられた唇を割って、ぬるりと舌を差しこむ。
たどたどしい舌を絡めれば、ぴくんと微かに反応する神威の指先。
あれからも喧嘩ばかりしていて殆ど女を知らないのだと分かれば、ここから先は私が主導権を握れる。
口だけは達者なのに、
本当は子供の頃から変わらない神威はあまりにも純粋で。
そんな神威がとても愛しく思えた。
「…はぁ……っ。」
「ねぇ…花魁である私の揚げ代と身請け金はうんと高いよ?
どうしちゃうの、神威…。」
「ん…っ」
「神威の人生くらい貰わないと割に合わないかも…。」
どうする…?と吐息を交えて神威の耳に舌を這わせながら、私にしがみつく神威の下腹部に手を滑り込ませた。
ガチガチに硬くなっていることを確認して、服の上から擦り上げる。
あんなに可愛かったのに、こっちも随分と立派になっちゃって…。
「…いいよ、あげる。」
「ふーん、いいんだ?」
「だから…他の女に御執心な老いぼれの介護なんか辞めて、俺に毎日美味しいご飯作ってよ。」
きっとそれは神威なりの精一杯の告白なのだと思えた。
本当に不器用な男だ。
鳳仙団長も、この男も。
万が一にも鳳仙団長が元老達に消されれば、私は用済みになり、内部を知り過ぎていることもあって生きて逃げることは不可能だ。
神威がわざわざ私を探し出したのは、私の命を救う為。
それがloveであろうとlikeであろうと、神威が少なからず私に好意を持っているからで。
戦闘も出来ないし特殊能力も無いただの人間である私を救おうとする理由なんて、傍に置こうとするなんて、他に考えられなかった。
「可愛いお嫁さんにしてね。」
「…可愛いのは生まれつき無理なんじゃないかな。」
「へえ?」
「…嘘。」
「嘘付きな後輩には、先輩がたっぷり指導してあげなきゃね。」
にこっと口角を上げ、神威の手を引いて初めて座敷に男を上げる。
最初で最後の座敷にて、しゅるり、と帯を解く音に静かに耳を傾けた。
end
※会員登録するとコメントが書き込める様になります。