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千花様は遊びたい

原作: その他 (原作:かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜) 作者: 神崎つう
目次

プロローグ

私立秀知院学院。かつて貴族や士族を教育する機関として創立された由緒正しい名門校である。

そんな伝統ある名門校の生徒会室で今、一人の女子生徒の声が響いていた。

「わーん!聞いてくださいよ、かぐやさーん!」

「はいはい…わかりました、わかりましたから顔を押し付けるのをやめてください。紅茶がこぼれてしまいます…」

泣き喚きながら抱きつくように顔を少女の腹部に押し付けているのは藤原千花。

やや面倒そうな顔をしながらも、なすがままにされているのは四宮かぐや。

一見何の変哲もない女子高生の会話に聞こえなくもないが、方や政治家一族の娘、方や日本を代表する大財閥の娘である。

そんな血筋の女子高生の会話ともなると、

「少し前に、かなり大雨な日があったじゃないですか」
「…えぇ、ありましたね。それが何か?」
「実はその日の帰りに、学校のすぐ近くで悪い人に拐われかけちゃいまして…」
「あら、それは災難でしたね」

なんて会話もさほど珍しくもないのだ。

「まぁ幸い、学校の警備員の人とうちのSPたちがすぐに犯人を取り抑えてくれたので大事にはいたらなかったんですけど」

「それはよかったです、本当に」

しかしこの場にはおよそ高校生がするには、いや高校生でなくとも異常過ぎる会話内容を聞き捨てならない者もいる。

「いやいやいや!よかったじゃねーよ!え、何?藤原誘拐されかけたの!?大丈夫か!?」

「はい、何ともありませんでしたよ。というか私やかぐやさんってこの手のケースは初めてじゃありませんし」

焦りの色を強く見せながら勢いよく席を立ったのはこの学園の生徒会長、白銀御行である。

「…そう、なのか?」

戸惑いつつも少し落ち着きを取り戻して今度はかぐやに問いかける。

「そうですね。私や藤原さんだけでなく、この学園に通っている生徒なら多かれ少なかれ似たような経験があるのではないでしょうか」

「慣れっ子ってほどじゃないですけど、いい加減勘弁してほしいですよねー」

「…まぁ、そういう家柄の生徒が多いから仕方がない…のか?」

未だ戸惑いは残っているようだが、とりあえずお金持ちにはよくあること、で納得することにしたらしい。
相応の家柄と実力が求められるこの学園で、勉学一本で学園の頂点にまで上り詰めた白銀にとっては未だ理解の外であるようだが。

「…って問題はそこじゃないんですよ!」

「誘拐以上に厄介な問題があるってのか…?」

先ほどよりやや疲れた表情を見せる白銀。一般的な男子高校生の常識しか持ち合わせていない彼にとって、先の話をすんなり飲み込めという方が無茶な話である。

「まぁこれだけの家柄の生徒が通う学園のそばでそんなことがあったとなれば確かに問題ですね…」

「そうかもしれませんけど!そういうことでもなくてですね!」

「ならいったい何だってんだ…」

書き物に集中できなくなったのか、ペンを置いて続きを促す白銀。

「…タ」

「た?」

「タクミくんが、転校してくるんですよ!」

まるで厳罰を言いつけられた子供のように「うぁー!」などと言いながら頭を抱えてその場にうずくまってしまう。

「タクミ…あぁ、以前藤原さんのおうちにお邪魔した時にお会いしたあの使用人の方ですか?」

「はい…。おじいさまが今の警備じゃ安心できんと言って手続きを進めたんです…」

うずくまったまま返事を返す藤原。
まるで駄々をこねている子供の姿そのものである。

「それで、その使用人が転校してくるといったい何が問題なんだ?」

その質問を受けて勢いよく顔を上げる藤原。

あまりの迫力に白銀は気圧されて少しのけぞる。

「何が問題!?何が問題って、全部問題ですよ!タクミくんは私のやりたいこと全部邪魔してくるんですから!」

なんてことを言うんだこいつは信じられんと、非常識なやつを見るかのような目でにらみつける藤原。
白銀からしてみれば理不尽もいいところである。

「邪魔って…。でも使用人…なんだろ?」

事情を知っているらしいかぐやに向けて質問する。
誘拐されかけたから警備が付くという当然の流れではないのかと白銀は思っているのだが…。

「私もあまり存じていないのですが、彼は使用人というか付き人のような感じではなかったかと思います。そういう存在は、アレをするなとかコレをやれとかそういうお小言をいうのもお仕事の一環なんですよ…。もっとも私が彼にお会いしたのは随分前の話なので今がどうなのかは知りませんが」

「そ、そうか」

ややため息混じりに話すかぐや。
使用人という話に何か思うところがあるのかもしれない。

「まぁそれは置いておいてだな」

話が変な方向に向かおうとしている。
藤原がタクミくんとやらを嫌がる理由はわかったが、正直それは彼女自身の問題だ。
こちらにとっては何の関係もない。
むしろ重要なのは新たな生徒が転校してくるという点だろう。
脱線しかけた話を戻すためにも白銀はうずくまったままの藤原に話を向ける。

「うちの編入試験となるとかなりの難易度だったと思うんだが、そこは大丈夫だったのか?」

「はい。編入試験はどうとでもなったみたいです」

「あ、そう…」

本来転校のハードルとなる編入試験なんて大した問題でもないと言われたことは、前述のように勉学一本でのし上がってきた白銀にとって世の無常さを感じさせるのに十分な発言であった。

「そ、それでですね…」

起き上がったかと思えば、今度は言いにくそうに体をモジモジさせる藤原。

「なんだ、そのタクミくんとやらについてまだ何かあるのか」

「はい、その…タクミくんなんですけど…」

そのまま指を突っつきながら藤原は続けた。

「これからここに、来ます」
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