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ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
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この世界

「いいだろう。ところで、狡噛慎也のことだがね」
「それも、私は譲る気はないわ」
「ああ、構わないよ。消えた地点からやり直すのだったね。人員の件だがね、早急にどうこうできないという結論になってね、狡噛が我々に牙をむかない限りは傍観することにしたよ」
「……そう」
「ということだから、別世界の者たちの帰還が滞りなく済むよう、人力したまえ」
「ありがとうございます」
「……下がっていい」

※※※

 休憩所でひと息ついたのち、朱は分析室へと向かった。
 ほかの刑事には知られないように動かなくてはならず、次第に分析室での相談事が増えていた。
「おかえり、朱ちゃん」
 唐之杜が迎えの言葉を発しながらも視線はモニターから動いていない。
「ただいま。その後、どうですか?」
「東金朔夜のことなら、おとなしいものよ。そっちは?」
「一連の事件は起きていないということで処理してもらえそうよ」
「へえ、頑張ったじゃない」
「そうでもない。上としても別の世界から人が来ているなんて知られたくないだろうし、パラレルワールドの存在は隠しておきたいことだと思う」
「まあ、そうよね。ところでさ、朱ちゃん。解決したあとの私たちってどうなるのかな?」
「どうとは?」
「たとえば、消されちゃうとか?」
「……まさか! 公安全体で人手不足だから、それはないと思います」
「ま、そうよね。一係全員一気に行方不明なんて、怪しいものね。それを聞いて安心したわ。こっちは大丈夫だから、少し休んだら?」
「ありがとうございます。そうさせてもらいます」
 そういって分析室を出た朱は、縢秀星がいる部屋へと向かった。

「縢くん、今、いい?」
 無表情で護衛監視をしていた須郷のうしろにいる縢に声をかけた。
「いいよ。そこの執行官、ぜんぜん楽しくなくてさ」
「彼は勤務中だから……ええっと、あなたの要求、聞き入れてもらえたわ。といっても、確認のしようが私にはないのだけど」
「ああ、行き来できないようにってやつね。確かに、朱ちゃんたちには無理だね。でもさ、そうなっていると信じることも大事なんじゃないの? なんか不思議なんだよね」
「なにが?」
「この体になって数年経つけどさ、こっちに来てからは別の何かを感じるっていうか。シビュラなんてクソだって思うけど、懐かしいって思うこともあってさ。執行官と行動していると、自分もドミネーター握って動いていたような錯覚になる。これってさ、元の持ち主の意思みたいなのが残っているからなのかな。移植するとさ、その人の記憶が入り込んだり、癖が出たりするって言うじゃん……って、こっちの世界では移植とかってあまりないんだっけ?」
「……そうね。死者の肉体、または臓器の移植例がないわけじゃないけど、誰かの命を引き継ぐよりは機械の臓器を入れた方がいいと考える人が多いかな。そもそも、移植が必要になるようなことがないように管理されているんだけど」
「……だよね」
「でもね。そう感じてくれているって教えてもらえて私は嬉しい。過程は許せないけど、もう一度会えたから。それに、今度はちゃんとさよならを言って別れられそうだから」
「……朱ちゃん……」
 朱はまたあとでね……と言い残し、部屋を出る。
 次に向かったのは征陸たちがいる場所だった。

※※※

「こんにちは。今、いい?」
 朱の姿を見たチェ・グソンが「どうぞ」といい、槙島が空いている席を指さした。
「上とはどうだった」と聞いてきたのは征陸。
「おおむね、聞き入れてもらったわ」
「おおむね?」
「聞き入れてもらったあとに、疑問が出ちゃって」
「疑問とは?」
「この世界に行き来できないように……縢くんの条件は聞き入れてもらえたけど、確かめる術は私にはないな~って」
 するとチェ・グソンと槙島の笑いがこぼれる。
「それは褒貶ってやつですよ」とチェ・グソン。
「行き来できないようにする術はない、といってもいいかな。どうですかね、征陸刑事。民間でそれをしようなんて考えたところでいろいろ問題がありますよね。国家、もしくは世界全体の意思が一緒でないと難しい。でも、警察なら、なにか手だてがあるとか?」
「ないこともない」
「本当ですか、征陸さん!」
「あ、いや。そう喜んでもらったところ申し訳ないが、嬢ちゃんには受け入れ難いことだと思うぞ? その世界から、バラレルワールドが存在するという意識、記憶、考えを消した上で、それらを新たに考えた者を隔離し危険人物として扱う。まさにシビュラの世界さまさまって感じだろう? 俺たちの世界みたいに、警察に特殊部署を設置して管理するという手もある。別世界に飛ぶとき、どうしても歪みが発生するからわかっちまうんだよ。誰にでもわかるってわけじゃないが」
 征陸の話を聞いていくうちに、朱の表情が沈んでいく。
 それを見ていた槙島は、見方を変えれば方法もなくはないと言い出す。
「その世界の常識ではありえないことが起きたら、別世界の介入を疑う。だけど、民間個人でできることは限られるから、そういう時は組織的かつこの世界に協力者がいると思ってまず間違いない」
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