逆
「ああ、そうだな」
と征陸は頭をかきながら槙島を見た。
槙島は、そんな征陸に対し、
「そうだね……」
と言葉を濁す。
だけど考えをまとめられたらしく、
「常守監視官の意見もあとで聞かせてほしいな」
と交換したいことを願い出た。
「もちろんです」
「じゃあ、僕から話すね。結論からいうと、僕たちのたてた推理、これは逆なんじゃないかな」
槙島がそういうと、征陸の表情が明るくなる。
「そうか、それだと説明がつく。そういうことか」
「征陸さん?」
「な~に、簡単なことだよ、嬢ちゃん。俺たちは縢家の隠し子を表に出すために、隠したいイカレた精神面を隠したがっていたと考えた。そこで別人格を入れた。だが、その考えが違っていたんだ。東金朔夜の体内に縢の嫡男の脳の半分を移植。体は大人だが脳が真っ白な朔夜に、データとして保管していた記憶をインプットした。いますぐ日常生活をするのに困らない程度の日常記憶を追加し、何かあった時のためのそれらしい記憶も入れる。そうして造ったのが、あの東金朔夜だ。あれは、つい最近造られたものだってことだ」
「さすが征陸刑事。わかりやすい説明だね。とまあ、そういうことだよ、常守監視官」
「……なるほど。それで、どれくらい前に造られたものだと思いますか?」
「そうだね。たぶん、ここ数日じゃないかな? こっちの世界で造られたってことかな」
「そうですか……」
「で、常守監視官の見解は?」
「私は、東金朔夜がいつ造られたか、よりも、やはりなぜ縢秀星のクローンがこの世界に来たのかが気になります。クローンがバレかけていたとして、警察上層部が見逃してくれるほどの力を持った縢家です。その気になれば世論もだませたのではないでしょうか。なにより、この世界に逃げ込むことの危険さは、世界を行き来できていた縢・東金両家にとってもわかっていたことだと思います。仮に、公安上層部がすべてを知っていたとしても、縢秀星のクローンを受け入れるメリットが思いつきません」
「ああ、ようするに、常守監視官の関心はそっちってことだね。たしかに、謎だらけではあるよね。それに、不可解な行動もしているようだし。だけど、もし、あの縢秀星がただのクローンではなかったら?」
「……? どういうことですか?」
「たとえばの話として聞いてくれればいいんだけど。こっちの世界で逃亡中の縢本人とは考えられないかな。ああ、もちろん、クローンなのかほぼ確実だから、逃亡中の縢のクローンってことで、記憶もそっくり移植したと仮定しての話だけどね」
「それはありえないと思います」
「どうしてかな? 逃亡中なんだよね?」
「それは……」
もう縢くんはいない、そう言えたらどれだけこの説明が簡単にできるだろうか。
「それはない、俺も断言する」
「宜野座執行官? キミも断言するのかい?」
「理由は簡単だ。痕跡がない。不可解な消え方をしている。そもそも街頭スキャンにひっかからずに逃走は無理だ。たとえ、シビュラが正常に稼働していなかったとしても。それらから、俺は消されたと思っている。消されたと仮定すれば、不可解なことへの説明ができるからな」
「そう……その不可解な消え方を、別の世界に逃げたとは考えないのかな?」
「バラレルワールドが存在していると知っていれば、その可能性も考えただろうが、そうだとしたら、縢の意思ではなく別の意思が働いて動いたことと考えるだろうな。縢という男を知っていれば、バカな考えは起こさないと断言できるからだ」
「……ずいぶんと信用していたんだね」
「そういうことになるな」
「じゃあ、これはもう本人に聞くしかないね。そう思うよね、常守監視官」
「ええ、槙島聖護、あなたの言うとおりだわ」
※※※
朱は六合塚に、秀ちゃんを連れてくるように頼む。
分析室で、みながいる中で、直接聞くことを決定した。
「僕に、おはなしってなに?」
秀ちゃんはくりっとした瞳を見開き、興味深そうに朱を見た。
「あのね、そろそろ本当のことを話してほしいと思って。私たちは、秀ちゃんの味方だから。パパと家に帰りたいよね?」
秀ちゃんはニコリと笑う。
朱は、それが彼の答えだと感じた。
信じて話してくれる、そう思った矢先、秀ちゃんは俯き、肩を震わせはじめる。
「秀ちゃん?」
「……クッ!」
喉を慣らすような笑いがしたかと思うと、秀ちゃんは体を揺らして笑い声をあげた。
「あ~、もう無理。人っていうのは見た目で騙せるってことがよくわかったよ。あのおばさんの言っていたことを半信半疑で承諾したけど、結果的にはしてよかったよ。そもそも、潜在犯だったらしいこっちの俺がいた世界に行くのはイヤだったんだよね。シビュラなんて面倒な支配が浸透していてさ。けど、おばさんが言うんだ。縢秀星の姿で一係の者に助けを求めたら、かならず守ってくれるって。にわかに信じられなかったけど、本当だったな。まあ、そこの六合塚って執行官には怪しまれはじめたんで、そろそろ頃合いかなとは思ってたんだ」
悪意に満ちた形相の彼、その彼が語る言葉に耳を疑う。
しかし、
「そっちが本性か……」
と、冷静でいる者もいる。
征陸が銃口を向け、そして朱もドミネーターを構える。
槙島とチェ・グソンは興味深そうに静観していた。
と征陸は頭をかきながら槙島を見た。
槙島は、そんな征陸に対し、
「そうだね……」
と言葉を濁す。
だけど考えをまとめられたらしく、
「常守監視官の意見もあとで聞かせてほしいな」
と交換したいことを願い出た。
「もちろんです」
「じゃあ、僕から話すね。結論からいうと、僕たちのたてた推理、これは逆なんじゃないかな」
槙島がそういうと、征陸の表情が明るくなる。
「そうか、それだと説明がつく。そういうことか」
「征陸さん?」
「な~に、簡単なことだよ、嬢ちゃん。俺たちは縢家の隠し子を表に出すために、隠したいイカレた精神面を隠したがっていたと考えた。そこで別人格を入れた。だが、その考えが違っていたんだ。東金朔夜の体内に縢の嫡男の脳の半分を移植。体は大人だが脳が真っ白な朔夜に、データとして保管していた記憶をインプットした。いますぐ日常生活をするのに困らない程度の日常記憶を追加し、何かあった時のためのそれらしい記憶も入れる。そうして造ったのが、あの東金朔夜だ。あれは、つい最近造られたものだってことだ」
「さすが征陸刑事。わかりやすい説明だね。とまあ、そういうことだよ、常守監視官」
「……なるほど。それで、どれくらい前に造られたものだと思いますか?」
「そうだね。たぶん、ここ数日じゃないかな? こっちの世界で造られたってことかな」
「そうですか……」
「で、常守監視官の見解は?」
「私は、東金朔夜がいつ造られたか、よりも、やはりなぜ縢秀星のクローンがこの世界に来たのかが気になります。クローンがバレかけていたとして、警察上層部が見逃してくれるほどの力を持った縢家です。その気になれば世論もだませたのではないでしょうか。なにより、この世界に逃げ込むことの危険さは、世界を行き来できていた縢・東金両家にとってもわかっていたことだと思います。仮に、公安上層部がすべてを知っていたとしても、縢秀星のクローンを受け入れるメリットが思いつきません」
「ああ、ようするに、常守監視官の関心はそっちってことだね。たしかに、謎だらけではあるよね。それに、不可解な行動もしているようだし。だけど、もし、あの縢秀星がただのクローンではなかったら?」
「……? どういうことですか?」
「たとえばの話として聞いてくれればいいんだけど。こっちの世界で逃亡中の縢本人とは考えられないかな。ああ、もちろん、クローンなのかほぼ確実だから、逃亡中の縢のクローンってことで、記憶もそっくり移植したと仮定しての話だけどね」
「それはありえないと思います」
「どうしてかな? 逃亡中なんだよね?」
「それは……」
もう縢くんはいない、そう言えたらどれだけこの説明が簡単にできるだろうか。
「それはない、俺も断言する」
「宜野座執行官? キミも断言するのかい?」
「理由は簡単だ。痕跡がない。不可解な消え方をしている。そもそも街頭スキャンにひっかからずに逃走は無理だ。たとえ、シビュラが正常に稼働していなかったとしても。それらから、俺は消されたと思っている。消されたと仮定すれば、不可解なことへの説明ができるからな」
「そう……その不可解な消え方を、別の世界に逃げたとは考えないのかな?」
「バラレルワールドが存在していると知っていれば、その可能性も考えただろうが、そうだとしたら、縢の意思ではなく別の意思が働いて動いたことと考えるだろうな。縢という男を知っていれば、バカな考えは起こさないと断言できるからだ」
「……ずいぶんと信用していたんだね」
「そういうことになるな」
「じゃあ、これはもう本人に聞くしかないね。そう思うよね、常守監視官」
「ええ、槙島聖護、あなたの言うとおりだわ」
※※※
朱は六合塚に、秀ちゃんを連れてくるように頼む。
分析室で、みながいる中で、直接聞くことを決定した。
「僕に、おはなしってなに?」
秀ちゃんはくりっとした瞳を見開き、興味深そうに朱を見た。
「あのね、そろそろ本当のことを話してほしいと思って。私たちは、秀ちゃんの味方だから。パパと家に帰りたいよね?」
秀ちゃんはニコリと笑う。
朱は、それが彼の答えだと感じた。
信じて話してくれる、そう思った矢先、秀ちゃんは俯き、肩を震わせはじめる。
「秀ちゃん?」
「……クッ!」
喉を慣らすような笑いがしたかと思うと、秀ちゃんは体を揺らして笑い声をあげた。
「あ~、もう無理。人っていうのは見た目で騙せるってことがよくわかったよ。あのおばさんの言っていたことを半信半疑で承諾したけど、結果的にはしてよかったよ。そもそも、潜在犯だったらしいこっちの俺がいた世界に行くのはイヤだったんだよね。シビュラなんて面倒な支配が浸透していてさ。けど、おばさんが言うんだ。縢秀星の姿で一係の者に助けを求めたら、かならず守ってくれるって。にわかに信じられなかったけど、本当だったな。まあ、そこの六合塚って執行官には怪しまれはじめたんで、そろそろ頃合いかなとは思ってたんだ」
悪意に満ちた形相の彼、その彼が語る言葉に耳を疑う。
しかし、
「そっちが本性か……」
と、冷静でいる者もいる。
征陸が銃口を向け、そして朱もドミネーターを構える。
槙島とチェ・グソンは興味深そうに静観していた。
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