さだめ
「たぶん、ここが一番安全だろう」
張り込んでいた警察の目をくぐり抜け、征陸は朱、須郷、チェ・グソンに加え、槙島と狡噛慎也を自分のアパートに連れ帰った。
「当面、警察は逃亡中の東金美沙子の追跡で手一杯になる。こちらはこちらでやることをやって、あるべきところに戻り落ち着くのが最優先だ。でだ、話を聞くと、あっちに残してきたコウのことが心配だな。俺かチェ・グソンだけでも一旦あっちに行き、コウを連れ戻すか?」
と、征陸がみんなの顔を見回して聞いた。
「その場合、縢くんはどうなりますか?」
と朱。
「ああ、そうだった。東金朔夜の件もあったな」
と征陸は問題は山積みだと頭を抱える。
「まとめて考えるからややこしくなっていのだと思います。それぞれを切り離して考えてみませんか?」とチェ・グソン。
「いいですか?」
とみんなの顔を見回してから、紙を用意し、そこに書きながら説明をはじめた。
「まず、時間系列をおさらいしましょう。狡噛さんと槙島さんはここで把握してください」
ふたりは「わかった」と頷く。
「でははじめます。まず、私が情報を得て先に乗り込みました。そこで強引に飛ばされるであろう狡噛さんを待っていました。ところが強引に飛ばされたのは、この世界の縢秀星くんでした。後日、狡噛さんも飛ばされましたが、なぜか征陸さんまで。ここで私は静観することを決めます。なぜなら、三人とも公安と関わってしまっていたからです。私は槙島さんが得た情報により事前に乗り込みました。我々は互いの顔を知ることなく幾人もの調査員を各世界に飛ばしています。おそらく、それは警察も似たようなものでしょう。目的は違いますが」
その見解に征陸が頷いた。
ふたりがいうには違法な方法で別世界に行き干渉するものがおり、それを阻止するのが警察の役目、槙島たちは干渉はしないというルールのもと、情報収集をしていた。
それは槙島の人間が人間らしく生きるというテーマで、いろんな世界に存在する人というものをサーチしたかったからだという。
「まあ、それはさておき。こうして無理矢理飛ばされた三人を常守監視官は禾生局長に掛け合い、内々の捜査、そして一係以外には知らせずに捜査することを口約しました。が、それに伴い、狡噛慎也の確保が義務づけられました。局長の言い分は別世界の人がいるということは他言できないから、表向きとして狡噛慎也の確保だということでした。筋は通っていますが、そこで我々は疑うべきだったのです。そもそも、縢が飛ばされ、こちらの狡噛さん、そして刑事の征陸さんが飛ばされたことで、何者かが縢を守るために飛ばし、その護衛としてふたりを飛ばしたのでは……と考えました。なぜなら、我々の世界では縢家は複雑な立場であると教えたからです」
「ああ、それは俺だな」
「はい、征陸さんです。でも、あなたでなくてもあの状況にいればそう説明してしまうでしょう。そこに思いこみが発生してしまいました。縢くんの件と、征陸さんたちの件は別物なのです。別の目的なのに、同じものと錯覚させるのも黒幕の目的でした。つまり、槙島さんの得た情報そのものから操作されていたものなのです」
「別……そうか、僕はまんまとはめられたということだね、チェ・グソン」
「はい」
「それならば説明がつく。そうか、ほしい狡噛慎也の行方がわからなかった。禾生局長でさえ。となればシビュラの管轄外に出てしまっていることになる。そもそも狡噛は日本を離れシビュラの監視下からはずれる以外、生きていく場所はない状態だった。理由もなく捜査員を送り込むことはできない。だから……か」
「つまり、あなたがたを元の世界に戻す方法を探す内々の捜査に、狡噛さんの件を持ち出し、それを表向きとしたことで堂々と他国への捜査ができるようになった。逃亡者としながら追跡もしなかったのに、突然追跡しろというのは不自然すぎます。事情を知らない刑事課の人たちは必死に狡噛さんを追います。そして追いついてしまったのですね、私たちがこちらの世界に来たことで」
と朱も推理した。
「その通りです。時間差はあまりありませんが、常守さんがいないことで動かしやすくなった者がいるということです」
チェ・グソンのそのひと言で、朱は黒幕の協力者が誰なのかがはっきりした。
疑念でしかなかったことが明確になっていく。
「だとすれば、あの縢くんは……」
そしてもうひとつの疑念が確信へと繋がっていく。
「はい。私も同じ考えです」
朱が最後まで言わず濁したことを、チェ・グソンは読みとり同意した。
さすがにここまでたどり着けたのはふたりだけだったようだが、槙島もなにか思うところがあるようで、興味深くふたりの推理に耳を傾ける。
征陸は「ネックは縢のぼっちゃんかね」とボヤいた。
疑念まではなくとも、なにかひっかかるものがあったようだ。
そして須郷と狡噛は、
「まったくではないが、追いつけていない。なんとかならないか」
と、詳細を求めた。
確信に迫りつつある朱たち、一方、シビュラの世界で宜野座たちは……
張り込んでいた警察の目をくぐり抜け、征陸は朱、須郷、チェ・グソンに加え、槙島と狡噛慎也を自分のアパートに連れ帰った。
「当面、警察は逃亡中の東金美沙子の追跡で手一杯になる。こちらはこちらでやることをやって、あるべきところに戻り落ち着くのが最優先だ。でだ、話を聞くと、あっちに残してきたコウのことが心配だな。俺かチェ・グソンだけでも一旦あっちに行き、コウを連れ戻すか?」
と、征陸がみんなの顔を見回して聞いた。
「その場合、縢くんはどうなりますか?」
と朱。
「ああ、そうだった。東金朔夜の件もあったな」
と征陸は問題は山積みだと頭を抱える。
「まとめて考えるからややこしくなっていのだと思います。それぞれを切り離して考えてみませんか?」とチェ・グソン。
「いいですか?」
とみんなの顔を見回してから、紙を用意し、そこに書きながら説明をはじめた。
「まず、時間系列をおさらいしましょう。狡噛さんと槙島さんはここで把握してください」
ふたりは「わかった」と頷く。
「でははじめます。まず、私が情報を得て先に乗り込みました。そこで強引に飛ばされるであろう狡噛さんを待っていました。ところが強引に飛ばされたのは、この世界の縢秀星くんでした。後日、狡噛さんも飛ばされましたが、なぜか征陸さんまで。ここで私は静観することを決めます。なぜなら、三人とも公安と関わってしまっていたからです。私は槙島さんが得た情報により事前に乗り込みました。我々は互いの顔を知ることなく幾人もの調査員を各世界に飛ばしています。おそらく、それは警察も似たようなものでしょう。目的は違いますが」
その見解に征陸が頷いた。
ふたりがいうには違法な方法で別世界に行き干渉するものがおり、それを阻止するのが警察の役目、槙島たちは干渉はしないというルールのもと、情報収集をしていた。
それは槙島の人間が人間らしく生きるというテーマで、いろんな世界に存在する人というものをサーチしたかったからだという。
「まあ、それはさておき。こうして無理矢理飛ばされた三人を常守監視官は禾生局長に掛け合い、内々の捜査、そして一係以外には知らせずに捜査することを口約しました。が、それに伴い、狡噛慎也の確保が義務づけられました。局長の言い分は別世界の人がいるということは他言できないから、表向きとして狡噛慎也の確保だということでした。筋は通っていますが、そこで我々は疑うべきだったのです。そもそも、縢が飛ばされ、こちらの狡噛さん、そして刑事の征陸さんが飛ばされたことで、何者かが縢を守るために飛ばし、その護衛としてふたりを飛ばしたのでは……と考えました。なぜなら、我々の世界では縢家は複雑な立場であると教えたからです」
「ああ、それは俺だな」
「はい、征陸さんです。でも、あなたでなくてもあの状況にいればそう説明してしまうでしょう。そこに思いこみが発生してしまいました。縢くんの件と、征陸さんたちの件は別物なのです。別の目的なのに、同じものと錯覚させるのも黒幕の目的でした。つまり、槙島さんの得た情報そのものから操作されていたものなのです」
「別……そうか、僕はまんまとはめられたということだね、チェ・グソン」
「はい」
「それならば説明がつく。そうか、ほしい狡噛慎也の行方がわからなかった。禾生局長でさえ。となればシビュラの管轄外に出てしまっていることになる。そもそも狡噛は日本を離れシビュラの監視下からはずれる以外、生きていく場所はない状態だった。理由もなく捜査員を送り込むことはできない。だから……か」
「つまり、あなたがたを元の世界に戻す方法を探す内々の捜査に、狡噛さんの件を持ち出し、それを表向きとしたことで堂々と他国への捜査ができるようになった。逃亡者としながら追跡もしなかったのに、突然追跡しろというのは不自然すぎます。事情を知らない刑事課の人たちは必死に狡噛さんを追います。そして追いついてしまったのですね、私たちがこちらの世界に来たことで」
と朱も推理した。
「その通りです。時間差はあまりありませんが、常守さんがいないことで動かしやすくなった者がいるということです」
チェ・グソンのそのひと言で、朱は黒幕の協力者が誰なのかがはっきりした。
疑念でしかなかったことが明確になっていく。
「だとすれば、あの縢くんは……」
そしてもうひとつの疑念が確信へと繋がっていく。
「はい。私も同じ考えです」
朱が最後まで言わず濁したことを、チェ・グソンは読みとり同意した。
さすがにここまでたどり着けたのはふたりだけだったようだが、槙島もなにか思うところがあるようで、興味深くふたりの推理に耳を傾ける。
征陸は「ネックは縢のぼっちゃんかね」とボヤいた。
疑念まではなくとも、なにかひっかかるものがあったようだ。
そして須郷と狡噛は、
「まったくではないが、追いつけていない。なんとかならないか」
と、詳細を求めた。
確信に迫りつつある朱たち、一方、シビュラの世界で宜野座たちは……
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