嘘
都合の悪いところにたどりつけば、シビュラはそれを隠そうと動くだろう。
そうさせないためにも、証拠が必要になる。
シビュラが別世界の存在を知りながらも黙認していたという証拠。
それができるのは朱だけになる。
「私に嘘の報告をしろというんですか、先輩は」
「そうよ。絶対にバレないようにしてほしいの」
「あとでバレて責任問題はイヤです」
「あなたのせいにはしないわ。すべて、私が負うから」
「先輩がそういうなら」
「ありがとう。ではそれでお願い。こちらに残る者は、東金財団を調べること、また縢くんの危険が回避されたわけじゃないから、続けて護衛を。また、狡噛さんのこともお願いします。雛河くん、狡噛さん用の男性ホロを作ってあげて。征陸さんが一度戻るわけだし、家族設定には無理があるから。そうね、見た目だけでも須郷さんにしておけば、今より堂々と捜査に参加できるはず。それでいいでしょうか?」
朱が狡噛をみた。
「十分だ。そこの須郷のホロでいいなら、彼の交友関係や経歴を見せてほしい。バレないよう、最善は尽くす」
朱の指示で着実に前へと動き始める。
「先輩!」
「なに、霜月さん」
「先輩だけが拉致されるんですね? 須郷が後を追って捜査中ではなく」
「それだと、須郷さんは監視官抜き出単独捜査をしていることになるから、彼は犯人の説得に失敗をしたということにして。それでは立場が悪くなるから、監視官がいないため、追跡を断念したといえばいいわ。それは私の指示であると付け加えれば問題視されないはず」
※※※
「それでチェ・グソン。どうやって三人を連れて行く気だ?」
残る者への指示を朱が終えると、黙っていた狡噛が口を開く。
「もともとはあなたを連れて帰るために、先にきていたわけですから、誰かを連れて戻ることは想定内です。まあ、人数は想定外でしたが……」
とやや困り顔をしてみせたが、声色からは困っているようには感じられない。
スチャッ! とジャケットの内ポケットからなにかを取り出す。
見た目、ペンにしか見えないそれが秘策らしい。
「狡噛さんも、何度か使ったことがあるんじゃないですか。近頃、さらに軽量化など進化されたんですよ」
まあ、その実験も含めなんですけどね……と付け足す。
「軽量化しすぎじゃないのか? たしか俺が最期に使ったのは手のひらサイズの手帳くらいだったぞ」
「ああ、それはずいぶんと前のモノですね」
ふたりにしかわからない会話が進む中、征陸は意味を理解しているらしい。
ボソリと「ペン型……」と呟いたことで、近くにいた朱、須郷、宜野座は征陸をみて、目で訴えた。
どういう意味? と。
「ああ、そんな目でみないでほしいね。なあに、至って明快なモノだよ。あんたたちがこっちでホロを使いみる側に別物と思わせるように、あれを持たせると、入り口を通ってもいい人物だと錯覚させることができる。途中の歪みで見失っても見つけることができる。あっちに出たとき、捕まるリスクが極限までさがる。というのも、だいたい入り口には見送ったモノが常に監視していることの方がおおい。塞がれちゃ、時間の歪みをさまようことになるからな」
「ちょっと、待った!」
突然、宜野座が声をあげる。
「とても危険なことじゃないか」
「ああ、危険だ。その危険な行為を意思無視して強引に別世界に送り込む。どれだけのリスクがわかっただろう? 狡噛はチェ・グソンが危険を感知していて先に来て待っていた。俺の方も、別世界に飛ばされた可能性に気づけば、警察組織は組織あげて創作に乗り出す。まあ、宛がなければ虱潰しだろうから、時間はかかる。だがな、子供を飛ばすってのは……」
征陸はその行為に対する嫌悪がありすぎて言葉では表現できず、口を閉じた。
その行為からどれだけの怒りがあるのかが伝わってくる。
「心配はいりませんよ。あちらの出口は組織のビルの中です。ちょうど、こちらでいう公安局の地下駐車場にあたる場所でしてね」
チェ・グソンのその言葉に、狡噛が「は?」とすごみをきかせた。
「ふざけるな。入り口なんて感知しなかったぞ」
「いやですね、狡噛さん。そんなヘマするわけないじゃないですか。少しだけ、こちらの世界の特権を使わせていただきました。ホロですよ、ホロ画像。いつも使っている場所なのに、気づかれないものですね」
と、しれっと答えた。
「バカをいうな。それでもわからないはずはない」
「狡噛さんほど、勘がよければそうかもしれませんね。ですから、保険をかけました。いわゆる、結界というものです」
「は? おまえ、それを聞いたとき、槙島は乗り気ではなかったと。だから、復活はないと」
「嘘は言ってませんよ? 槙島さんは本当に乗り気ではなかったですが、私はなにかの時に使えると思いまして、用意してもらいました」
「用意?」
「はい。術など簡単に取得できるわけないじゃないですか。ですから、御札をね。半信半疑でしたけど、迷信とかに無関係なこちらの世界の人には、結界が張られているなんて思いもしないでしょう? そもそも、その可能性に気づいたのは征陸さんでしたし」
「チェ・グソン……!」
「ですから、そんな怖い顔をしないでください。敵を欺くにはまず味方からと言うじゃないですか。なんにせよ、私が使った入り口で戻ります。その先には組織のものが待っています。私が事情説明をしますので、なにを言われてもされても耐えてください」
そういってから、宜野座に一枚の紙を手渡す。
「これが例の御札です。あの男が使った入り口に貼ってください。ホロ画像とダブルで目くらましをすることをおすすめします。常に張っているわけにもいかないでしょう? 人の出入りが多い場所ですから」
宜野座にとっては半信半疑である。
信仰心などもともともっていないし、術者などという職業はこちらの世界には存在しない。
もしやっている人がいれば、よからぬことを考えていると色相が濁り、またたくまに潜在犯確定だろう。
「にわかに信じられないが、それをすることであんたたちが納得できるなら、設置しておく」
「ぜひ、そうしてください」
こうして、二手に分かれて捜査をすることになった。
実施は深夜、日付が変わった直後に実行することになる。
その少し前に簡易版の須郷ホロをまとった狡噛と霜月が外にでる。
朱が拉致されたことの報告に信憑性を持たせるため、この場にふたりはいない方がいいだろうということになった。
朱は狡噛のために用意したホロを使い、別の女性の姿で時間まで待つ。
もともと家族のふりをするという設定だったので、征陸と秀ちゃんといれば疑われることはなかった。
そうさせないためにも、証拠が必要になる。
シビュラが別世界の存在を知りながらも黙認していたという証拠。
それができるのは朱だけになる。
「私に嘘の報告をしろというんですか、先輩は」
「そうよ。絶対にバレないようにしてほしいの」
「あとでバレて責任問題はイヤです」
「あなたのせいにはしないわ。すべて、私が負うから」
「先輩がそういうなら」
「ありがとう。ではそれでお願い。こちらに残る者は、東金財団を調べること、また縢くんの危険が回避されたわけじゃないから、続けて護衛を。また、狡噛さんのこともお願いします。雛河くん、狡噛さん用の男性ホロを作ってあげて。征陸さんが一度戻るわけだし、家族設定には無理があるから。そうね、見た目だけでも須郷さんにしておけば、今より堂々と捜査に参加できるはず。それでいいでしょうか?」
朱が狡噛をみた。
「十分だ。そこの須郷のホロでいいなら、彼の交友関係や経歴を見せてほしい。バレないよう、最善は尽くす」
朱の指示で着実に前へと動き始める。
「先輩!」
「なに、霜月さん」
「先輩だけが拉致されるんですね? 須郷が後を追って捜査中ではなく」
「それだと、須郷さんは監視官抜き出単独捜査をしていることになるから、彼は犯人の説得に失敗をしたということにして。それでは立場が悪くなるから、監視官がいないため、追跡を断念したといえばいいわ。それは私の指示であると付け加えれば問題視されないはず」
※※※
「それでチェ・グソン。どうやって三人を連れて行く気だ?」
残る者への指示を朱が終えると、黙っていた狡噛が口を開く。
「もともとはあなたを連れて帰るために、先にきていたわけですから、誰かを連れて戻ることは想定内です。まあ、人数は想定外でしたが……」
とやや困り顔をしてみせたが、声色からは困っているようには感じられない。
スチャッ! とジャケットの内ポケットからなにかを取り出す。
見た目、ペンにしか見えないそれが秘策らしい。
「狡噛さんも、何度か使ったことがあるんじゃないですか。近頃、さらに軽量化など進化されたんですよ」
まあ、その実験も含めなんですけどね……と付け足す。
「軽量化しすぎじゃないのか? たしか俺が最期に使ったのは手のひらサイズの手帳くらいだったぞ」
「ああ、それはずいぶんと前のモノですね」
ふたりにしかわからない会話が進む中、征陸は意味を理解しているらしい。
ボソリと「ペン型……」と呟いたことで、近くにいた朱、須郷、宜野座は征陸をみて、目で訴えた。
どういう意味? と。
「ああ、そんな目でみないでほしいね。なあに、至って明快なモノだよ。あんたたちがこっちでホロを使いみる側に別物と思わせるように、あれを持たせると、入り口を通ってもいい人物だと錯覚させることができる。途中の歪みで見失っても見つけることができる。あっちに出たとき、捕まるリスクが極限までさがる。というのも、だいたい入り口には見送ったモノが常に監視していることの方がおおい。塞がれちゃ、時間の歪みをさまようことになるからな」
「ちょっと、待った!」
突然、宜野座が声をあげる。
「とても危険なことじゃないか」
「ああ、危険だ。その危険な行為を意思無視して強引に別世界に送り込む。どれだけのリスクがわかっただろう? 狡噛はチェ・グソンが危険を感知していて先に来て待っていた。俺の方も、別世界に飛ばされた可能性に気づけば、警察組織は組織あげて創作に乗り出す。まあ、宛がなければ虱潰しだろうから、時間はかかる。だがな、子供を飛ばすってのは……」
征陸はその行為に対する嫌悪がありすぎて言葉では表現できず、口を閉じた。
その行為からどれだけの怒りがあるのかが伝わってくる。
「心配はいりませんよ。あちらの出口は組織のビルの中です。ちょうど、こちらでいう公安局の地下駐車場にあたる場所でしてね」
チェ・グソンのその言葉に、狡噛が「は?」とすごみをきかせた。
「ふざけるな。入り口なんて感知しなかったぞ」
「いやですね、狡噛さん。そんなヘマするわけないじゃないですか。少しだけ、こちらの世界の特権を使わせていただきました。ホロですよ、ホロ画像。いつも使っている場所なのに、気づかれないものですね」
と、しれっと答えた。
「バカをいうな。それでもわからないはずはない」
「狡噛さんほど、勘がよければそうかもしれませんね。ですから、保険をかけました。いわゆる、結界というものです」
「は? おまえ、それを聞いたとき、槙島は乗り気ではなかったと。だから、復活はないと」
「嘘は言ってませんよ? 槙島さんは本当に乗り気ではなかったですが、私はなにかの時に使えると思いまして、用意してもらいました」
「用意?」
「はい。術など簡単に取得できるわけないじゃないですか。ですから、御札をね。半信半疑でしたけど、迷信とかに無関係なこちらの世界の人には、結界が張られているなんて思いもしないでしょう? そもそも、その可能性に気づいたのは征陸さんでしたし」
「チェ・グソン……!」
「ですから、そんな怖い顔をしないでください。敵を欺くにはまず味方からと言うじゃないですか。なんにせよ、私が使った入り口で戻ります。その先には組織のものが待っています。私が事情説明をしますので、なにを言われてもされても耐えてください」
そういってから、宜野座に一枚の紙を手渡す。
「これが例の御札です。あの男が使った入り口に貼ってください。ホロ画像とダブルで目くらましをすることをおすすめします。常に張っているわけにもいかないでしょう? 人の出入りが多い場所ですから」
宜野座にとっては半信半疑である。
信仰心などもともともっていないし、術者などという職業はこちらの世界には存在しない。
もしやっている人がいれば、よからぬことを考えていると色相が濁り、またたくまに潜在犯確定だろう。
「にわかに信じられないが、それをすることであんたたちが納得できるなら、設置しておく」
「ぜひ、そうしてください」
こうして、二手に分かれて捜査をすることになった。
実施は深夜、日付が変わった直後に実行することになる。
その少し前に簡易版の須郷ホロをまとった狡噛と霜月が外にでる。
朱が拉致されたことの報告に信憑性を持たせるため、この場にふたりはいない方がいいだろうということになった。
朱は狡噛のために用意したホロを使い、別の女性の姿で時間まで待つ。
もともと家族のふりをするという設定だったので、征陸と秀ちゃんといれば疑われることはなかった。
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