ここではない
電波塔のほかにも、駅とビルが一体化していて、その中に会社が入っているビル。
地下鉄が通っている近くにある住宅地など可能な限り調べてもらい、地図を転送、それを参考に各箇所をまわる朱たち。
なにかひとつでも縢くんの口から「同じ」と出ればきっかけになる、それを期待してのことだったが、すべて空振りだった。
夕方、公安局に戻った朱たちはその足で分析室へと向かう。
そこには精魂尽き果てたような顔をした六合塚と唐之杜、そして朱の召集に応じた須郷の姿があった。
霜月の姿がないのは想定内のこと。
とくに今は休み返上で動いてもらっているので強く言えないところがある。
「それで、どうでしたか?」
朱が口火をきる。
「どうもこうも……」
と朱の問いかけに反応した唐之杜だが、彼女の様子からあまりいい結果は得られなかったことが伺える。
「とにかく、一気に結果報告だけさせてちょうだい。まず、縢くんの系図なんだけど、これは血縁者から潜在犯が出たことで結構神経質になってしまっていることがあって、協力は得られませんでした。なので、シビュラのデータ頼りなところがあるので、表面的なものになるわね。行方不明者はあの縢秀星だけでデータ的には存命であったり死亡確認がとれていたり。電波塔、これはシビュラシステム導入の際に作り替えられているケースが多く、また昔あった場所の上に作り替えたわけでもないので、昔と今ではある場所が違う。地下鉄に関しては再開発候補からはずされた路線はそのまま放置になっているのはみんな知っているでしょう。その子の記憶にある地下鉄が再開発外の廃墟の方だっていうなら、これはもう過去からやってきたってことじゃないの? というか、それで片づけた方がすっきりしていいかもね。となると、じゃあどうやって過去から未来にいけるのかって問題が出て、そっちの方が厄介だけど」
結局、なにひとつ解決への手だてが掴めなかったということだ。
「で、どうするの朱ちゃんとしては。このまま進むのか、それとも別の方向に舵を切るのか。実は興味深いデータを見つけちゃったのよね……」
といってモニターに出したのは、タイムマシーンという言葉だった。
「唐之杜、ふざけているのか? 創作物じゃあるまいし、タイムマシーンなんか」
疲れているところに笑えない冗談を持ち込むなと宜野座が半切れな態度をとる。
「怒らないでよ。私だって冗談言えるほど余裕はないから。話は最後まで聞いて。実は、その昔、本気でこのタイムマシーンを研究して開発しようとしていた技術者がいたのよ。ちょうど、その子がいたと思われる時代にも研究者はいたっていうことになっている。つまり、タイムスリップ説もあながち夢物語でもないんじゃない? てこと。朱ちゃんがこっちに舵をきるっていうなら、もっと調べてみるけど、どう?」
「調べる手だてはあるんですか?」
「ん~、ないともいえないし、あるとも言えないのよね。でも、こういうのってあるところにはあるし」
「どういうことでしょう?」
「つまりね、政府が関知しないサーバは今も存在しているし、そういうところにはいるってこと。ほかには隔離施設の方にも、そういう思想を持った人もいるんじゃない? そういうのは監視官権限でどうにかなめでしょう?」
「……なるほど」
と朱もまんざらではない方へと考えが動き出す。
わずかでも可能性があるのなら賭けてみたい。
しかし、宜野座は違う。
「やめろ、常守。危険すぎる」
「宜野座さん。でも、可能性には賭けてみたいです。だって、この縢くんは親元に帰る権利があります。せめて親に居所だけでも知らせる手だてがあるのなら、そのタイムマシーンに賭けてみたいです」
「ばかなことをいうな。もっと落ち着いて考えみろ。百年前にもタイムマシーンの研究がされていたとしてだ、今の時代に存在がないのなら研究成果が出ていないか、シビュラによって危険思想と判断されたんだろう。唐之杜も言っていた隔離施設にそういった思想の人がいるかも……って、それはもうシビュラにとってそう判断されたっことだ」
「だとしたら、この子がここにいるのは危険です。早く元の時代に戻してあげないと」
「常守、その考えはもう過去からやってきたということが前提で話をしていないか? ほかの可能性はないのか?」
「ほかの可能性も考えます。とりあえず唐之杜さんにはタイムマシーンに関する情報の収集をお願いします。縢くんから情報を聞きだし確認する作業も引き続き続行します。情報の照らし合わせは六合塚さんにお願いします。いろんな視点で情報を聞きだしてほしいので、宜野座さんや須郷さんは縢くんの方をお願いします。私はほかの方法を考えつつ、タイムスリップ思想など独自に調べたいと思います。それと、適度に休んでください。その、私がいっても説得力ないと思いますが」
確かに……と場が和む。
すると小さい縢くんも釣られて笑う。
初めて見る笑みに、彼らのやる気が漲る。
誰だって、子供は親元に帰してあげたいと思うもの。
わずかな可能性に賭けるしかないのだと、確信した瞬間でもあった。
地下鉄が通っている近くにある住宅地など可能な限り調べてもらい、地図を転送、それを参考に各箇所をまわる朱たち。
なにかひとつでも縢くんの口から「同じ」と出ればきっかけになる、それを期待してのことだったが、すべて空振りだった。
夕方、公安局に戻った朱たちはその足で分析室へと向かう。
そこには精魂尽き果てたような顔をした六合塚と唐之杜、そして朱の召集に応じた須郷の姿があった。
霜月の姿がないのは想定内のこと。
とくに今は休み返上で動いてもらっているので強く言えないところがある。
「それで、どうでしたか?」
朱が口火をきる。
「どうもこうも……」
と朱の問いかけに反応した唐之杜だが、彼女の様子からあまりいい結果は得られなかったことが伺える。
「とにかく、一気に結果報告だけさせてちょうだい。まず、縢くんの系図なんだけど、これは血縁者から潜在犯が出たことで結構神経質になってしまっていることがあって、協力は得られませんでした。なので、シビュラのデータ頼りなところがあるので、表面的なものになるわね。行方不明者はあの縢秀星だけでデータ的には存命であったり死亡確認がとれていたり。電波塔、これはシビュラシステム導入の際に作り替えられているケースが多く、また昔あった場所の上に作り替えたわけでもないので、昔と今ではある場所が違う。地下鉄に関しては再開発候補からはずされた路線はそのまま放置になっているのはみんな知っているでしょう。その子の記憶にある地下鉄が再開発外の廃墟の方だっていうなら、これはもう過去からやってきたってことじゃないの? というか、それで片づけた方がすっきりしていいかもね。となると、じゃあどうやって過去から未来にいけるのかって問題が出て、そっちの方が厄介だけど」
結局、なにひとつ解決への手だてが掴めなかったということだ。
「で、どうするの朱ちゃんとしては。このまま進むのか、それとも別の方向に舵を切るのか。実は興味深いデータを見つけちゃったのよね……」
といってモニターに出したのは、タイムマシーンという言葉だった。
「唐之杜、ふざけているのか? 創作物じゃあるまいし、タイムマシーンなんか」
疲れているところに笑えない冗談を持ち込むなと宜野座が半切れな態度をとる。
「怒らないでよ。私だって冗談言えるほど余裕はないから。話は最後まで聞いて。実は、その昔、本気でこのタイムマシーンを研究して開発しようとしていた技術者がいたのよ。ちょうど、その子がいたと思われる時代にも研究者はいたっていうことになっている。つまり、タイムスリップ説もあながち夢物語でもないんじゃない? てこと。朱ちゃんがこっちに舵をきるっていうなら、もっと調べてみるけど、どう?」
「調べる手だてはあるんですか?」
「ん~、ないともいえないし、あるとも言えないのよね。でも、こういうのってあるところにはあるし」
「どういうことでしょう?」
「つまりね、政府が関知しないサーバは今も存在しているし、そういうところにはいるってこと。ほかには隔離施設の方にも、そういう思想を持った人もいるんじゃない? そういうのは監視官権限でどうにかなめでしょう?」
「……なるほど」
と朱もまんざらではない方へと考えが動き出す。
わずかでも可能性があるのなら賭けてみたい。
しかし、宜野座は違う。
「やめろ、常守。危険すぎる」
「宜野座さん。でも、可能性には賭けてみたいです。だって、この縢くんは親元に帰る権利があります。せめて親に居所だけでも知らせる手だてがあるのなら、そのタイムマシーンに賭けてみたいです」
「ばかなことをいうな。もっと落ち着いて考えみろ。百年前にもタイムマシーンの研究がされていたとしてだ、今の時代に存在がないのなら研究成果が出ていないか、シビュラによって危険思想と判断されたんだろう。唐之杜も言っていた隔離施設にそういった思想の人がいるかも……って、それはもうシビュラにとってそう判断されたっことだ」
「だとしたら、この子がここにいるのは危険です。早く元の時代に戻してあげないと」
「常守、その考えはもう過去からやってきたということが前提で話をしていないか? ほかの可能性はないのか?」
「ほかの可能性も考えます。とりあえず唐之杜さんにはタイムマシーンに関する情報の収集をお願いします。縢くんから情報を聞きだし確認する作業も引き続き続行します。情報の照らし合わせは六合塚さんにお願いします。いろんな視点で情報を聞きだしてほしいので、宜野座さんや須郷さんは縢くんの方をお願いします。私はほかの方法を考えつつ、タイムスリップ思想など独自に調べたいと思います。それと、適度に休んでください。その、私がいっても説得力ないと思いますが」
確かに……と場が和む。
すると小さい縢くんも釣られて笑う。
初めて見る笑みに、彼らのやる気が漲る。
誰だって、子供は親元に帰してあげたいと思うもの。
わずかな可能性に賭けるしかないのだと、確信した瞬間でもあった。
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