第三十六話 ルブラン・カレー
近所のスーパーに足を運び、カレーの材料を買う。牛肉に、玉ねぎ、ニンジンにジャガイモ……カレー用のスパイスは惣治郎に餞別として大量にもらっているから、カレー粉を買う必要はなかった。
買い物袋にそれらを詰め込み、蓮は自宅へと帰る……その頃には、すっかりと暗くなり始めていた。
『……蓮。やっぱり、自転車はあった方がいいかもしれないぞ。もしくは、原付とかバイクとか。そういうのがあれば、活動範囲が広がる。原付なら、すぐに免許が取れるみたいだし……バイトして貯めた貯金がまだあっただろ?そういうのを取るのもいいんじゃないか?』
「そうだな」
『まあ、ミカエルはそういうの厳しいかもしれないが……別に学校に乗って行かなきゃ文句は言われない。バレなきゃいいんだしな』
モルガナも本質的には怪盗だな、と蓮は思った。
『だが……とりあえず、家に帰ったら手分けしよう。我が輩が、とりあえず自転車を動かせるようにするから、蓮はカレーを作れ』
「わかった」
『何にせよ、ちょっとした買い物に行きたい時に自転車があると便利だからな。動けるようにしておきたい』
「カゴが気に入ったのか?」
『……少しはな。あ。怪盗団の女子に、さっき城ヶ崎が撮ってくれた可愛い我が輩の写メを送っておいてくれよな?』
「……竜司とかには?」
『竜司はからかってくるからいい。女子に受けたいのだ、我が輩は』
素直な言葉を聞いたような気がする―――ついさっき、美少女は好きだという発言をたしなめられたような記憶があるのだが……。
『さあ、仕事に取りかかるぜ!!』
やる気を燃やしているモルガナは、ガレージに向かって走って行く。水を差すのは悪いか。蓮はそう判断した。
とりあえず……杏と双葉と真と春に……手を振っていて可愛いモルガナを送信しておくとしよう。
蓮はスマホを操作して、その作業を完了すると―――カレー作りに取りかかることにした。
ジャガイモの皮を剥いで、ニンジンの皮を削り、玉ねぎを切り、牛肉を切った。ルブラン特製ブレンドのカレー・スパイスを、油で炒めていく……カレーの香ばしいにおいが、すぐに漂い始める。
あとはそのカレースパイスにトマトジュースと牛乳を入れて、カレーのスープは準備完了だった。
これに具材を入れて行くのだ……そして、隠し味にはコーヒーとチョコレート。後はしっかりと煮込むだけだ。
……今夜は、オリジナルを目指す。惣治郎の味をだ。
アレンジを試すことはない。
ルブランの味を忘れないために、今日はレシピ通りの味に仕上げて行くのだ。煮込みながら、さまざまな微調整をしていく。ソースも入れるし、とろみをつけるために小麦粉も入れる。
カレーは少しバランスを弄くることで、大きく味が変わるのだ。チャレンジのし甲斐がある料理であるが……今日はルブラン流のレシピに忠実に従った。
何度かの微調整を施した後で、カレーの味は完成に至る。その味は、ルブランのそれに酷似している……完全にではないが、ほとんど同じ味であった。
「……完成だな」
『ん。そっちも完成したのか……?』
「ああ。モルガナもか……?」
『そうだぞ。あちこちの錆を落として来てやった。あれで明日からでも乗り回せるはずだぞ……そのおかげで、あちこちがホコリっぽいがな』
「そうか……晩飯にする前に、シャワーでも浴びるか」
『ああ。それもいいかもな。我が輩から浴びてくるぞ』
「そうしてくれ。洗いものを済ませておく」
『では、ひとっ風呂浴びるとしようか!!』
モルガナがそう言いながら浴室へと出かける。シャワーを浴びる猫……動画投稿サイトに投稿してみたくなるが、飼い主がやらしているとか言われそうで、イヤな予感がするな……。
ブブブ。
スマホが鳴る。
「……女子ウケは、どうだったのかな……」
スマホには怪盗団の女子たちから、手を振るモルガナの画像に対してのジャッジが下されていた。
杏は、可愛いけど、ちょっとあざとい。という評価をしていた。双葉は、いいカンジ!!……真は、良いと思う。春は、モナちゃん可愛い……おおむね、好評ではあるようだ。
風呂から出て来たら、モルガナに良い報告をしてやることが出来そうだと納得しながら、蓮はまな板と包丁を洗っておいた。
カレーは、弱火でコトコトと煮込み続けている。具材とスパイスが完全に融け合うまで煮込めば、最高に美味いルブラン特製カレーの完成になる……そのカレーに、具材を入れることで、二日目のカレーは完成するのだが……。
自分とモルガナの分しか作っていないのだ。あまり煮込みすぎては、鍋が焦げついてしまいそうだ。
業務用の調理器具が無いことに、蓮は少しばかりのストレスを抱きもしたが、自宅でできる限りのことはしたと納得することを選んでいた。
しばらくすると、モルガナが風呂から上がってきた。びしょ濡れだから、タオルで拭いてやる。
タオルにくるんだまま、モルガナを放置して、蓮は自分も風呂へと向かうのだ。シャワーで済ますことにする。バスタブに湯を張るのは、面倒だったから。
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