ドフラミンゴの日記 その9
×月×日
朝食が終わってから、独房にマゼランが来た。マゼランはカスターに席を外すように言うと、おれにダイニングルームの改修工事のことを訊いてきた。
「看守の3人の意見がまとまらなくて、工事が止まっているそうだが…」
「何でおれにそんなことを訊くんだ」
自分の部下なんだから自分で訊きゃあいいじゃねえかと思いながらも、マゼランに3人から聞いたことを話した。
マゼラン自身は、3人から何も聞いてねえようだった。
「自分の部下だろう。本来なら自分で本人達から聞かなきゃいけねえことだよな」
マゼランはムッとした顔でおれを睨んだが、おれは引かなかった。これに関してはおれのほうが正しい。海楼石を強力なのに変えるんなら、変えてみやがれ。
おれも早く改修工事が終わって、今使ってる窮屈なテーブルから脱出できたらいいとは思う。
だが、マゼラン(または署長のハンニャバル)は、3人の意見を上手くまとめることができるのだろうか。
×月×日
なんとダイニングルームの改修は、だいたいではあるが、3人全員の希望が通ったらしい。朝食の時にカスターが話した。
おれにはどうでもいいことだが、昨日の今日でいきなりこういう結果になったことに、少し違和感を覚える。やはりあのダイニングルームに関しては理解不能だ。
それに、こんなにあっさり全員の希望が通るなら、なんでさっさと通さなかったんだとも言いたい。
カスターは上機嫌でいろいろしゃべった。
「ただ、ペラムの案は、時間も費用も莫大にかかるという理由で認められませんでした。壁全体に風景が描かれているというものでしたので…。その代わり、ペラムが自分で選んだ風景画を壁に掛けて良いということになりました」
「確かに、壁全体となるとかなりの広さだからな」
「はい。どんなに腕の良い画家でも、数日で描き上げられるものではないだろうと」
なるほど、これに関しては的確な判断だ。ペラムはがっかりしているかもしれないが。
バーティから聞いた、カスターと壁のことで意見が対立していたことについて、からかい半分でカスターに訊ねてみた。
「お前の漆喰の壁と、バーティのピアノの防音設備の折り合いは付いたのか?血を見るような激しい争いだったそうじゃねえか」
「いえ、さすがにそこまででは…」
カスターは吹き出しながら答えた。ムッとされるかと思いきや、機嫌が良いせいか全然怒らねえ。
「壁は現在、漆喰を下塗りしただけの状態なのですが、予算をいただけたので、この上に防音材を張って、その上にもう一度漆喰を上塗りすることになりました。前よりも壁が厚くなりますが、これはしょうがないでしょう」
(※実際の防音対策でこういう工法があるかどうかは不明です)
「ふうん、良かったな」
「ドアも防音用のものに変えて、ドアと壁に付いている監視用の小窓にもガラスを二重に貼ることになりました。床にも防音材を入れます。そうそう、床材や絨毯に関しては、二人が私の希望通りでいいと言ってくれました」
カスターの話しはなかなか止まらなかった。
しかし、よく3人全員の希望を取り入れられるだけの予算がおりたもんだ。おれの飯代が削られていないことを願う。
10時からはバーティに交代した。
「ピアノを入れてもらえることになったんだってな」と声をかけると、奴は嬉しそうにニコニコ笑いやがった。
「はい。ダイニングルームができ上ったら、得意のピアノソナタ10382番をご披露いたします」
いつもは無骨で無口な四角顔のオヤジのくせに、今日はあまりに機嫌が良いので、ちょっと意地の悪いことを言いたくなった。
「夢中でピアノを弾いてる時に、おれが襲ってきたらどうするつもりだ?」
「…その時は、あなたを倒します」
「んあ?! 」
子供のようなニコニコ顔のままで奴にこう言われて、その瞬間は呆れて脱力したが、この次の言葉を言った時の奴の目を見たらそんな呑気な気分は吹っ飛んだ。
「私が苦手なのはネズミだけですので…。自分の命に代えても止めてみせます」
この時の奴の目は、おれと奴を襲ってきたネズミよりも鋭く光っていた。
普段はおっとりしているが、やはりインペルダウンのレベル6の看守だけのことはあるのかもしれない。
やべえと思って「冗談だ」と言うと、ニコニコ顔で「分かっています」と返ってきやがった。
カスターの時も思ったが、看守を挑発するのはあんまり良くねえ。くわばらくわばら、だ。
×月×日
今日の10時からの看守はペラムだった。こいつもかなりの上機嫌だった。
嬉しい知らせから既に一日経っているし、それにこいつが希望していた壁全体の風景画の案は認められなかったのだが、代わりに提示された自分で選んだ風景画を壁に掛けていいという妥協案がいたく気に入ったようだ。
「どの絵にしようか、見れば見るほど迷ってしまって、なかなか決められそうにありません」
ペラムは複数の画廊から、映像電伝虫を使っていろんな絵を見せてもらっているらしい。
楽しそうにしている奴に対して、水を差すのはもう止めておく。
さっさと改修工事が終わりやがれ。
朝食が終わってから、独房にマゼランが来た。マゼランはカスターに席を外すように言うと、おれにダイニングルームの改修工事のことを訊いてきた。
「看守の3人の意見がまとまらなくて、工事が止まっているそうだが…」
「何でおれにそんなことを訊くんだ」
自分の部下なんだから自分で訊きゃあいいじゃねえかと思いながらも、マゼランに3人から聞いたことを話した。
マゼラン自身は、3人から何も聞いてねえようだった。
「自分の部下だろう。本来なら自分で本人達から聞かなきゃいけねえことだよな」
マゼランはムッとした顔でおれを睨んだが、おれは引かなかった。これに関してはおれのほうが正しい。海楼石を強力なのに変えるんなら、変えてみやがれ。
おれも早く改修工事が終わって、今使ってる窮屈なテーブルから脱出できたらいいとは思う。
だが、マゼラン(または署長のハンニャバル)は、3人の意見を上手くまとめることができるのだろうか。
×月×日
なんとダイニングルームの改修は、だいたいではあるが、3人全員の希望が通ったらしい。朝食の時にカスターが話した。
おれにはどうでもいいことだが、昨日の今日でいきなりこういう結果になったことに、少し違和感を覚える。やはりあのダイニングルームに関しては理解不能だ。
それに、こんなにあっさり全員の希望が通るなら、なんでさっさと通さなかったんだとも言いたい。
カスターは上機嫌でいろいろしゃべった。
「ただ、ペラムの案は、時間も費用も莫大にかかるという理由で認められませんでした。壁全体に風景が描かれているというものでしたので…。その代わり、ペラムが自分で選んだ風景画を壁に掛けて良いということになりました」
「確かに、壁全体となるとかなりの広さだからな」
「はい。どんなに腕の良い画家でも、数日で描き上げられるものではないだろうと」
なるほど、これに関しては的確な判断だ。ペラムはがっかりしているかもしれないが。
バーティから聞いた、カスターと壁のことで意見が対立していたことについて、からかい半分でカスターに訊ねてみた。
「お前の漆喰の壁と、バーティのピアノの防音設備の折り合いは付いたのか?血を見るような激しい争いだったそうじゃねえか」
「いえ、さすがにそこまででは…」
カスターは吹き出しながら答えた。ムッとされるかと思いきや、機嫌が良いせいか全然怒らねえ。
「壁は現在、漆喰を下塗りしただけの状態なのですが、予算をいただけたので、この上に防音材を張って、その上にもう一度漆喰を上塗りすることになりました。前よりも壁が厚くなりますが、これはしょうがないでしょう」
(※実際の防音対策でこういう工法があるかどうかは不明です)
「ふうん、良かったな」
「ドアも防音用のものに変えて、ドアと壁に付いている監視用の小窓にもガラスを二重に貼ることになりました。床にも防音材を入れます。そうそう、床材や絨毯に関しては、二人が私の希望通りでいいと言ってくれました」
カスターの話しはなかなか止まらなかった。
しかし、よく3人全員の希望を取り入れられるだけの予算がおりたもんだ。おれの飯代が削られていないことを願う。
10時からはバーティに交代した。
「ピアノを入れてもらえることになったんだってな」と声をかけると、奴は嬉しそうにニコニコ笑いやがった。
「はい。ダイニングルームができ上ったら、得意のピアノソナタ10382番をご披露いたします」
いつもは無骨で無口な四角顔のオヤジのくせに、今日はあまりに機嫌が良いので、ちょっと意地の悪いことを言いたくなった。
「夢中でピアノを弾いてる時に、おれが襲ってきたらどうするつもりだ?」
「…その時は、あなたを倒します」
「んあ?! 」
子供のようなニコニコ顔のままで奴にこう言われて、その瞬間は呆れて脱力したが、この次の言葉を言った時の奴の目を見たらそんな呑気な気分は吹っ飛んだ。
「私が苦手なのはネズミだけですので…。自分の命に代えても止めてみせます」
この時の奴の目は、おれと奴を襲ってきたネズミよりも鋭く光っていた。
普段はおっとりしているが、やはりインペルダウンのレベル6の看守だけのことはあるのかもしれない。
やべえと思って「冗談だ」と言うと、ニコニコ顔で「分かっています」と返ってきやがった。
カスターの時も思ったが、看守を挑発するのはあんまり良くねえ。くわばらくわばら、だ。
×月×日
今日の10時からの看守はペラムだった。こいつもかなりの上機嫌だった。
嬉しい知らせから既に一日経っているし、それにこいつが希望していた壁全体の風景画の案は認められなかったのだが、代わりに提示された自分で選んだ風景画を壁に掛けていいという妥協案がいたく気に入ったようだ。
「どの絵にしようか、見れば見るほど迷ってしまって、なかなか決められそうにありません」
ペラムは複数の画廊から、映像電伝虫を使っていろんな絵を見せてもらっているらしい。
楽しそうにしている奴に対して、水を差すのはもう止めておく。
さっさと改修工事が終わりやがれ。
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