闇と現実の狭間
仮に、意識があれば彼ならばおとなしくしているとは思えない。
なにかしら足掻くだろう。
しかし、意識が戻ったことを確認するよりも先に訊ねることがあることに気づく。
「少佐、どうしてここに? あの状態から、どうやってここまで? ハンクは? 協力をしてくれている吸血鬼の人たちは?」
質問責め状態であねことは自覚していたが、どれかひとつでも彼が答えてくれたなら、目の前の少佐が実物であると信じられるだろう。
目の前の少佐が本物であるか否かを疑問に思うのは、これまでの経緯がそうさせていた。
とうてい、現実とは思えないことばかりの連続を経験したため、鵜呑みができなくなっている。
いや、情報部に所属しているのなら、自分の目で見、耳で聞いたこと以外は信用に値しない、証拠がないものは信じるな、それが身にしみているいま、この状況を手放しでは喜べないのだ。
「すみません。いまのは戯れ言ですね。あなたは少佐ではない。私があなたの無事を願ったため、幻覚を見せられているのよね。だって、幻覚の中に入ってここも幻覚の中である可能性が高い。もし、ここが現実だというなら、この闇はなに? 説明がつかないわ」
そして詰め寄る少佐と距離を置く。
※※※
「まずいな」
マックス(仮名)は作り出した少佐の幻覚を通してライザの様子を見ながら呟いた。
「どうまずいのだ、説明を!」
ジェラルドには隣にいるマックス(仮名)以外の存在を感じられない。
「彼女、少佐の存在を幻覚だと見抜いてしまったよ」
「……ライザ少尉ほどの軍人であれば、賢明な判断では? そもそも、易々と騙されるようでは……あ、いや、少佐がそうでしたな」
「ま、しょうがないでしょ、少佐の場合は。ケインに対する思いが尋常ではない。理性ぶっ飛んで追っかけてしまっても責められない、あなただってそう思っている。違いますか?」
「たしかに。少尉ほどの疑心がわずかでもあれば……」
「たぶん、あったと思いますよ? でも、あの状況の中で平常心でいろというのが無理かと。あ、そうなると少尉とシャールちゃんはすごい精神の持ち主ってことになりますね」
「意外と、こういう時は女性の方がしっかりしているのでしょう。それで? 少佐で誘導できないとなるとどうするのです?」
「そうだな……少佐にもう少し頑張ってもらおうかな」
※※※
幻覚の少佐との距離をとるライザは、彼に背を向けることなく、一歩ずつ後退をする。
攻撃をしてくるような様子はない。
むしろ、なにかを言い足そうな表情なのが気になる。
ここで聞けばいいのだという気持ちと、耳を傾けてはいけないと歯止めをする感情が交差をする。
そのとき。
「ライザ少尉……」
クロードが声を発した。
「少佐? 嘘、幻覚たけなく幻聴も? いえ、待って。シャールと幻覚の中にいた時も会話は成立していた……でも……」
シャールとともにマックス(仮名)が作り出した幻覚の中に入り込んだとき、会話は成立していた。
自分の意志で行動もできていた。
もしかしたら……
「少佐……私が見ているのは幻覚なのですよね。わかっています。でも、私が心配で気になっているシャールではなくあなたが見えるってことは、彼女に危険が迫っているということ?」
「シャール? 彼女が、どうかしたのか?」
「……え? 違うの? 私の意識が幻覚を見せているなら、シャールのことも危険が迫っているとか最悪な展開になるかと思ったけど。もしかして、私が勝手に幻覚を見ているんじゃない? だとしたら、誰かが意図的に少佐の姿でそこにいるってこと? 誰? こんなことできるの……ピエロくんか、キツネくん……まさかと思うけど、マックス(仮名)? まあ、誰でもいいわ。ここから出たい。どうしたらいい?」
目の前の少佐は幻覚だが、少佐の姿を借りた誰かであると思うと、敬意もへったくれもない。
態度に気を遣い、見失うものがあってはならない。
仮に、幻覚ではなく正真正銘、少佐本人であれば、適当に理由をつけて謝ればいいだろう。
ライザは気持ちと考えを切り替えた。
「相変わらずだな、少尉は。ついて来い」
少佐がライザに背を向け、距離が離れていく。
ライザは見失わないよう、少佐の背中を追いかけた。
※※※
ハンクとシャールの視界の中に、四人がいる。
横たわっているオーレン(仮名)を覗き、三人は腰を落とした姿勢で固まったままだ。
いち早く覚醒したのはピエロくんだった。
「モドッテ、クル」
「どこからだ?」とハンク。
「ツタ。ボクラガ、デイリグチニ、シタ」
ピエロくんの言葉に、シャールが動く。
「私が行きます!」
「気をつけろ!」
「はい……!」
シャールが蔦の茎、自分たちがつくった入り口へと駆け寄ると、ピエロくんが声をかける。
「シャールサン。ライザサン、アナタノコト、シンパイ、シテタ」
呼びかけてあげてほしいと言う。
シャールは言われた通り、ライザの名を呼ぶ。
すると、草に空けた入り口から手がニョキッとでる。
シャールはライザの手と確信して、握り返し、そして引っ張った。
すると!
なにかしら足掻くだろう。
しかし、意識が戻ったことを確認するよりも先に訊ねることがあることに気づく。
「少佐、どうしてここに? あの状態から、どうやってここまで? ハンクは? 協力をしてくれている吸血鬼の人たちは?」
質問責め状態であねことは自覚していたが、どれかひとつでも彼が答えてくれたなら、目の前の少佐が実物であると信じられるだろう。
目の前の少佐が本物であるか否かを疑問に思うのは、これまでの経緯がそうさせていた。
とうてい、現実とは思えないことばかりの連続を経験したため、鵜呑みができなくなっている。
いや、情報部に所属しているのなら、自分の目で見、耳で聞いたこと以外は信用に値しない、証拠がないものは信じるな、それが身にしみているいま、この状況を手放しでは喜べないのだ。
「すみません。いまのは戯れ言ですね。あなたは少佐ではない。私があなたの無事を願ったため、幻覚を見せられているのよね。だって、幻覚の中に入ってここも幻覚の中である可能性が高い。もし、ここが現実だというなら、この闇はなに? 説明がつかないわ」
そして詰め寄る少佐と距離を置く。
※※※
「まずいな」
マックス(仮名)は作り出した少佐の幻覚を通してライザの様子を見ながら呟いた。
「どうまずいのだ、説明を!」
ジェラルドには隣にいるマックス(仮名)以外の存在を感じられない。
「彼女、少佐の存在を幻覚だと見抜いてしまったよ」
「……ライザ少尉ほどの軍人であれば、賢明な判断では? そもそも、易々と騙されるようでは……あ、いや、少佐がそうでしたな」
「ま、しょうがないでしょ、少佐の場合は。ケインに対する思いが尋常ではない。理性ぶっ飛んで追っかけてしまっても責められない、あなただってそう思っている。違いますか?」
「たしかに。少尉ほどの疑心がわずかでもあれば……」
「たぶん、あったと思いますよ? でも、あの状況の中で平常心でいろというのが無理かと。あ、そうなると少尉とシャールちゃんはすごい精神の持ち主ってことになりますね」
「意外と、こういう時は女性の方がしっかりしているのでしょう。それで? 少佐で誘導できないとなるとどうするのです?」
「そうだな……少佐にもう少し頑張ってもらおうかな」
※※※
幻覚の少佐との距離をとるライザは、彼に背を向けることなく、一歩ずつ後退をする。
攻撃をしてくるような様子はない。
むしろ、なにかを言い足そうな表情なのが気になる。
ここで聞けばいいのだという気持ちと、耳を傾けてはいけないと歯止めをする感情が交差をする。
そのとき。
「ライザ少尉……」
クロードが声を発した。
「少佐? 嘘、幻覚たけなく幻聴も? いえ、待って。シャールと幻覚の中にいた時も会話は成立していた……でも……」
シャールとともにマックス(仮名)が作り出した幻覚の中に入り込んだとき、会話は成立していた。
自分の意志で行動もできていた。
もしかしたら……
「少佐……私が見ているのは幻覚なのですよね。わかっています。でも、私が心配で気になっているシャールではなくあなたが見えるってことは、彼女に危険が迫っているということ?」
「シャール? 彼女が、どうかしたのか?」
「……え? 違うの? 私の意識が幻覚を見せているなら、シャールのことも危険が迫っているとか最悪な展開になるかと思ったけど。もしかして、私が勝手に幻覚を見ているんじゃない? だとしたら、誰かが意図的に少佐の姿でそこにいるってこと? 誰? こんなことできるの……ピエロくんか、キツネくん……まさかと思うけど、マックス(仮名)? まあ、誰でもいいわ。ここから出たい。どうしたらいい?」
目の前の少佐は幻覚だが、少佐の姿を借りた誰かであると思うと、敬意もへったくれもない。
態度に気を遣い、見失うものがあってはならない。
仮に、幻覚ではなく正真正銘、少佐本人であれば、適当に理由をつけて謝ればいいだろう。
ライザは気持ちと考えを切り替えた。
「相変わらずだな、少尉は。ついて来い」
少佐がライザに背を向け、距離が離れていく。
ライザは見失わないよう、少佐の背中を追いかけた。
※※※
ハンクとシャールの視界の中に、四人がいる。
横たわっているオーレン(仮名)を覗き、三人は腰を落とした姿勢で固まったままだ。
いち早く覚醒したのはピエロくんだった。
「モドッテ、クル」
「どこからだ?」とハンク。
「ツタ。ボクラガ、デイリグチニ、シタ」
ピエロくんの言葉に、シャールが動く。
「私が行きます!」
「気をつけろ!」
「はい……!」
シャールが蔦の茎、自分たちがつくった入り口へと駆け寄ると、ピエロくんが声をかける。
「シャールサン。ライザサン、アナタノコト、シンパイ、シテタ」
呼びかけてあげてほしいと言う。
シャールは言われた通り、ライザの名を呼ぶ。
すると、草に空けた入り口から手がニョキッとでる。
シャールはライザの手と確信して、握り返し、そして引っ張った。
すると!
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