分離
「ナニヲ、ヤッイル? オマエラシクナイ」
ピエロくんは動揺して動けなかったマックス(仮名)を責める。
「やめておけ。今はそれをしている場合ではない。申し訳ないが、ふたりの行方を知りたい。協力関係の中に組み込まれていないことだが」
ハンクは捕らえたオーレン(仮名)をどうしようと、それは吸血鬼一族に任せることに異論はなかった。
クロードさえ連れ帰り、そして事件の真相さえジェラルド軍曹に報告できればいいのだ。
それはライザも同じだろう。
「アア、ソウダッタナ。キツネ、ナニカ、シッテイルカ?」
ピエロくんに聞かれたキツネは「しらない」と首を横に振った。
「打つ手なし……か」
ハンクは手で顔を覆い俯く。
なんてことだ……シャールを守ると言っておきながら……
ハンクは自分自身が許せなくなっていく。
発端はオーレン(仮名)の横やりが引き起こした今回の惨事なのだが。
「アキラメルノカ?」
「いや。そのつもりはない。ここに止まっていても埒があかないと思うが、どうだ?」
「サンセイダ。イッタン、モドル」
「どこに?」
「シュッパツチテン。ココカラ、イチゾクノバショニハ、モドレナイ」
「わかった」
ハンクがピエロくんの意見に賛同すると、キツネくんとジェラルドのお面くんが、オーレン(仮名)の両サイドにつく。
オーレン(仮名)を強引に引きずりながら歩き出した。
ハンクは意識のないクロードを肩に担ぐ。
マックス(仮名)は……。
「悪い。俺、まったくの役立たずだった……」
こんなにも使えないヤツだったんだと、自己嫌悪に陥っていく。
情報収集をするのが目的のはずであったマックス(仮名)が、こういったことに対応できる、もしくは優れていると先入観は持たない。
むしろ、なにかに特化しているからこその任務であることが多い。
そういった点からも、彼がこのようなことになったのは自然の流れだと、ハンクは思った。
気にするな……というのは簡単。
しかし、その言葉が今の彼の励みになるかといえば、おそらく逆効果だろう。
ハンクは黙って、マックス(仮名)の言葉を聞き流した。
※※※
ハンクたちがなんとかクロード救出に成功した頃、ライザは……。
ひとり、霧が立ちこめる闇の中にいた。
正しくは濃霧のため、視界が悪いだけなのだが、闇の空間にいるような静けさ。
とにかく無音、なにも気配も感じない空間の中にいた。
濃霧に包まれ周りがわからない状況になるのは、ついこの間も経験済みである。
ただ、ひとりで放り出されているか、誰かがいるかの違いはある。
ひとりがこんなにも心細いとは……
なにより、離れてしまったシャールが心配だった。
自分だけならどうとでもなる。
もしかしたらピエロくん辺りが気づいてくれるかもしれない。
しかし、シャールはどうだろうか。
基本、情報部は単独行動が多い。
ひとりでいる心細さなどの緩和方法も心得ているが、シャールはどうだろうか。
なぜ、咄嗟に手を握らなかったのか。
服の端、髪の一房でもいい、掴めなかったのかと、自分を責め、悔いた。
だが、いつまでもそうはしていられない。
このまま待つという選択肢を選んだとしても、凹んだりしていていいわけではない。
なにかの時、こうなってしまった時の説明をする為にも、状況はしっかりと記憶に刻んでおきたい。
この失態を繰り返さないためにも……
と、気持ちが少しずつ浮上していくと、今まで無音と思っていたことが間違いであることに気づく。
ボソボソと、確かに人が話している時の音に似ているものが耳に届く。
誰かがいる!
だが、味方とは限らない。
さて、どうしたものか……
闇雲に行動するのは返って事態を悪化させてしまうだろう。
かといって、慎重になりすぎてタイミングを逃してしまうのも、また事態を悪化させてしまうことに繋がる。
しばらく様子を見る、きっとそれが正しい選択なのだ。
なれば、声のする方に動いてみよう。
ライザはどこが上で下で、どちらが左で右か、それすらもわからない空間を、わずかに聞こえる声をだけを頼りに足を動かした。
※※※
同時刻、シャールは……事件現場の汽車の中にいた。
「私だけ、戻ってきてしまった……ということ?」
シャールは誰に問うわけでもなく、どちらかといえば自分自身に問いかけるように呟いた。
「どうして、私だけ?」
ライザに言われ、オーレン(仮名)の幻覚操作から逃れようと、自我を保つために視界を閉じ、聴覚を拒絶した。
ライザと同じ行動をしただけなのに、なぜ自分だけ?
とはいえ、戻ってしまっているのだ、自分ではどうにもできない。
みなが戻ってくるまで待つしかないだろう。
また、軍曹たちに掛けた幻覚もまだ効力が持続していると思われる。
勝手になにかをして、彼らの人体に危害を加えるようなことはしたくない。
「ここで待つしかないわね」
余計なことをせずに待つ。
自分に言い聞かせた。
「……にしても、入ってからどれくらい経つのかしら?」
幻覚中は実際の時間経過と異なることは実体験済みである。
ピエロくんは動揺して動けなかったマックス(仮名)を責める。
「やめておけ。今はそれをしている場合ではない。申し訳ないが、ふたりの行方を知りたい。協力関係の中に組み込まれていないことだが」
ハンクは捕らえたオーレン(仮名)をどうしようと、それは吸血鬼一族に任せることに異論はなかった。
クロードさえ連れ帰り、そして事件の真相さえジェラルド軍曹に報告できればいいのだ。
それはライザも同じだろう。
「アア、ソウダッタナ。キツネ、ナニカ、シッテイルカ?」
ピエロくんに聞かれたキツネは「しらない」と首を横に振った。
「打つ手なし……か」
ハンクは手で顔を覆い俯く。
なんてことだ……シャールを守ると言っておきながら……
ハンクは自分自身が許せなくなっていく。
発端はオーレン(仮名)の横やりが引き起こした今回の惨事なのだが。
「アキラメルノカ?」
「いや。そのつもりはない。ここに止まっていても埒があかないと思うが、どうだ?」
「サンセイダ。イッタン、モドル」
「どこに?」
「シュッパツチテン。ココカラ、イチゾクノバショニハ、モドレナイ」
「わかった」
ハンクがピエロくんの意見に賛同すると、キツネくんとジェラルドのお面くんが、オーレン(仮名)の両サイドにつく。
オーレン(仮名)を強引に引きずりながら歩き出した。
ハンクは意識のないクロードを肩に担ぐ。
マックス(仮名)は……。
「悪い。俺、まったくの役立たずだった……」
こんなにも使えないヤツだったんだと、自己嫌悪に陥っていく。
情報収集をするのが目的のはずであったマックス(仮名)が、こういったことに対応できる、もしくは優れていると先入観は持たない。
むしろ、なにかに特化しているからこその任務であることが多い。
そういった点からも、彼がこのようなことになったのは自然の流れだと、ハンクは思った。
気にするな……というのは簡単。
しかし、その言葉が今の彼の励みになるかといえば、おそらく逆効果だろう。
ハンクは黙って、マックス(仮名)の言葉を聞き流した。
※※※
ハンクたちがなんとかクロード救出に成功した頃、ライザは……。
ひとり、霧が立ちこめる闇の中にいた。
正しくは濃霧のため、視界が悪いだけなのだが、闇の空間にいるような静けさ。
とにかく無音、なにも気配も感じない空間の中にいた。
濃霧に包まれ周りがわからない状況になるのは、ついこの間も経験済みである。
ただ、ひとりで放り出されているか、誰かがいるかの違いはある。
ひとりがこんなにも心細いとは……
なにより、離れてしまったシャールが心配だった。
自分だけならどうとでもなる。
もしかしたらピエロくん辺りが気づいてくれるかもしれない。
しかし、シャールはどうだろうか。
基本、情報部は単独行動が多い。
ひとりでいる心細さなどの緩和方法も心得ているが、シャールはどうだろうか。
なぜ、咄嗟に手を握らなかったのか。
服の端、髪の一房でもいい、掴めなかったのかと、自分を責め、悔いた。
だが、いつまでもそうはしていられない。
このまま待つという選択肢を選んだとしても、凹んだりしていていいわけではない。
なにかの時、こうなってしまった時の説明をする為にも、状況はしっかりと記憶に刻んでおきたい。
この失態を繰り返さないためにも……
と、気持ちが少しずつ浮上していくと、今まで無音と思っていたことが間違いであることに気づく。
ボソボソと、確かに人が話している時の音に似ているものが耳に届く。
誰かがいる!
だが、味方とは限らない。
さて、どうしたものか……
闇雲に行動するのは返って事態を悪化させてしまうだろう。
かといって、慎重になりすぎてタイミングを逃してしまうのも、また事態を悪化させてしまうことに繋がる。
しばらく様子を見る、きっとそれが正しい選択なのだ。
なれば、声のする方に動いてみよう。
ライザはどこが上で下で、どちらが左で右か、それすらもわからない空間を、わずかに聞こえる声をだけを頼りに足を動かした。
※※※
同時刻、シャールは……事件現場の汽車の中にいた。
「私だけ、戻ってきてしまった……ということ?」
シャールは誰に問うわけでもなく、どちらかといえば自分自身に問いかけるように呟いた。
「どうして、私だけ?」
ライザに言われ、オーレン(仮名)の幻覚操作から逃れようと、自我を保つために視界を閉じ、聴覚を拒絶した。
ライザと同じ行動をしただけなのに、なぜ自分だけ?
とはいえ、戻ってしまっているのだ、自分ではどうにもできない。
みなが戻ってくるまで待つしかないだろう。
また、軍曹たちに掛けた幻覚もまだ効力が持続していると思われる。
勝手になにかをして、彼らの人体に危害を加えるようなことはしたくない。
「ここで待つしかないわね」
余計なことをせずに待つ。
自分に言い聞かせた。
「……にしても、入ってからどれくらい経つのかしら?」
幻覚中は実際の時間経過と異なることは実体験済みである。
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